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民芸の素朴な魅力に驚きの連続 ~駒場・日本民藝館

2018年11月07日 | 美術館・展覧会

ずっと訪問したかったのですが中々機会が作れなかった日本民藝館にようやく訪れることができました。東京・駒場の閑静な住宅街にある館は期待を裏切らず、素朴な民芸品の魅力を見事に展示していました。

民芸品とは、名もない職人たちが庶民の生活のために造ってきた様々な道具のことです。その道具に芸術的文化的価値を見出すために、館の創設者である宗教哲学家の柳宗悦(やなぎむねよし)が、大正から昭和初期にかけて率先して世に広めた用語です。

いにしえの人々の生活や文化への関心が温かく伝わってくることが魅力です。芸術品ではなく道具として造られたものなので、それを使っていた人々の息吹が聞こえてくるようでもあります。素晴らしい美術館であることが明言できます。


本館は古い蔵を思わせるデザイン

柳宗悦は1889(明治22)年、東京で海軍少将を父に生を受けました。1961(昭和36)年にこの世を去るまで、あまり見向きをされていなかった民芸に光をあてるために情熱を注ぎ続けました。日本民藝館はその情熱の大きな成果でもあります。大原美術館創設者の大原孫三郎らの支援を得て、1936(昭和11)年に現在地に開設されました。

柳は1910(明治43)年に創刊された文芸誌「白樺」の創刊に参加します。武者小路実篤ら当時の知識人階級との親交を深め、様々な芸術への関心を深めていきます。同じ頃、朝鮮陶磁器に詳しい浅川伯教(あさかわのりたか)から李氏朝鮮時代の白磁を紹介され、たちまち魅了されます。この朝鮮白磁との出会いが、柳を民芸への道に大きく進ませることになります。

私が訪れた際は、ちょうど朝鮮白磁の特別展が行われており、青磁と並ぶ朝鮮陶磁器の魅力を充分に堪能することができました。生涯21度も朝鮮半島を訪れて柳が蒐集した白磁は、日本最大のコレクションになっています。朝鮮陶磁器のコレクションでは世界的に有名な大阪の東洋陶磁美術館の所蔵品にも引けを取らないような魅力的な作品に、たくさん触れ合うことができました。



【公式サイト】 ご紹介した作品の画像の一部が掲載されています

朝鮮(李朝)白磁は、李氏朝鮮王朝時代の15c後半、日本では応仁の乱の頃に、首都漢陽(現:ソウル)近郊の窯で制作が始まりました。秀吉による文禄慶長の役で一旦疲弊しますが、18cになって再び息を吹き返します。

高麗王朝時代に造られた青磁は主に貴族階級向けであり、高い芸術性が造形に見られます。中国の陶磁器のように歪みもなく幾何学的な美しさがあります。

一方李朝白磁は庶民が使っていたものが多く、まさに民芸品としての素朴な魅力を感じることができます。白地に無地、もしくは単色のシンプルな文様が描かれているだけで、日本の有田焼のような鮮やかな彩色は見られません。また庶民向けだったこともあるかもしれませんが、日本の茶碗のようにゆがみが見られる作品もあり、温かみがあります。

日本民藝館はテーマに応じた年4回の特別展と並行して、コレクション展も行っています。1~2週間程度の展示替え時期は休館となりますが、常に館の持つ幅広い民芸品を鑑賞することができます。

【公式サイト】 白磁展の併設コレクション展

江戸時代に全国を行脚して庶民向けの簡易な仏像を多数制作した円空(えんくう)や木喰(もくじき)の木彫りの仏像にも、柳の深い愛着が見て取れます。柳は庶民が愛したものを何より愛したのです。

他にも李氏朝鮮時代の工芸品、日本の陶磁器、日本の絞り染めの着物など、とても感慨深い展示を楽しむことができました。素朴さがこんなに美しく見えるのは本当に驚きでした。

【公式サイト】 ミュージアムショップ

最後にミュージアムショップもぜひのぞいてください。食器を中心に、実際に使うにも、インテリアとして楽しむにも、いずれも魅力的な品がたくさんそろっています。柳の著作や過去の展覧会の図録も素晴らしいものが揃っています。民芸の魅力をさらに高めてくれるショップです。


東大の駒場キャンパス

渋谷から井の頭線でわずか二駅ですが、駒場は実に静かで落ち着いた町並でした。旧前田侯爵邸も近くにあり、機会を作ってリピートしてみたいと思う美術館でした。

こんなところがあります。
ここにしかない「美」があります。



朝鮮半島の陶磁器は日本の陶磁器の原点

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日本民藝館
特別展 白磁
【美術館による展覧会公式サイト】

会期:2018年9月11日(火)~11月23日(金)
原則休館日:月曜日
入館(拝観)受付時間:10:00~16:30(金曜~18:30)

※この展覧会は、今後他会場への巡回はありません。
※この美術館は、常時公開している常設展示はありません。企画展開催時のみ開館しています。



◆おすすめ交通機関◆

京王井の頭線「駒場東大前」駅下車、西口から徒歩7分
小田急線「東北沢」駅下車、東口から徒歩15分
JR東京駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:00~00分
東京駅→東京メトロ丸の内線→赤坂見附駅→東京メトロ銀座線→渋谷駅→京王井の頭線→駒場東大前駅

【公式サイト】 アクセス案内

※この施設には駐車場があります。
※駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。


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