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モリとの思い出、熊谷守一美術館 ~東京 要町で家族が伝える

2018年11月27日 | 美術館・展覧会

東京・池袋からメトロで一駅、要町にある熊谷守一(くまがいもりかず)美術館に行ってきました。今年2018年初頭に東京国立近代美術館で行われて大きな反響があった「没後40年 熊谷守一 生きるよろこび」展に行けなかったこともあり、守一が後半生を過ごした地にある美術館をどうしても訪ねてみたくなりました。

守一の次女・榧(かや)さんが館長を務めています。守一が家族から呼ばれていたあだ名「モリ」との思い出を、展示作品の解説にふんだんに登場させています。守一が温かい家族とともに過ごしていたことがよくわかります。展示作品からは守一が愛した池袋モンパルナスの自然の美しさを感じ取ることができます。

入り口のドアを開けた瞬間に、雰囲気の温かさが伝わってくる美術館です。


入口のブロンズは「いねむるモリ」

守一は1880(明治13)年に現在の岐阜県中津川市で、後に岐阜市長になった名士を父に生まれます。東京美術学校を卒業し、フォービズムのような激しいタッチの絵を二科展に出展し続けますが、当時の日本では彼の絵はなかなか理解されませんでした。

館所蔵の「某夫人像」は、1922(大正11年)に結婚した秀子夫人を描いたもので、艶めかしい表情の描写にどきりとする作品です。しばらくは芸術家気質で気が向いた時しか絵を描かないこともあり、かなりの貧しい生活が続きます。5人の子供に恵まれますが、3人の子を次々亡くす不幸も続きました。

1932(昭和7)年に美術館のある現在地に夫人の実家の援助で家を建てた頃から、少しずつ絵が売れ始めたと榧さんは回想しています。出展を続けていた二科会会員の縁が1940(昭和15)年前後から守一の運を大きく上昇させます。愛知県の資産家・木村定三と出会い、守一に積極的に絵を描かせるとともに個展も数多く開きました。

木村定三コレクションは愛知県美術館に一括して寄贈され、守一の代表作「猫」もここにあります。守一作品と共に江戸絵画や陶磁器も含め、愛知県美術館のコレクションの根幹をなすほどの名品が揃っています。

【愛知県美術館公式サイト】 木村定三コレクション

この頃から守一のイメージが強い、輪郭と平面だけで極端に単純化して描くスタイルに画風が代わっていきます。画風の変化に伴い、動物・昆虫や草花をクローズアップしたモチーフも増えていきます。絵はかなり売れるようになり、1965(昭和40)年には文化勲章の内示があるほどの評価を得るようになりました。しかし受賞を辞退しているところが守一らしいところでもあります。

【熊谷守一美術館公式サイト】 ご紹介した作品の画像の一部が掲載されています

美術館は1-2Fが常設展示で、3Fが企画展示・貸ギャラリーのスペースです。1Fは主に油絵作品と、守一の使っていたイーゼルが展示されています。「某夫人像」もここにあります。

「白猫」は守一が好んで用いた板地の黄土色の背景に、眼が描かれていない白猫がすやすや眠っているように描かれています。背景は板地を隠すほど塗り重ねていないため横方向に木目が残り、絵に暖かな印象を与えています。猫は輪郭だけに完璧に単純化されています。守一は腕利きの”切り絵師”にもきっとなれただろうと、ふと感じました。1959年、最も活躍していたころの作品です。

「桃」は「白猫」の少し前、1951年の作品です。風景画でもあり、輪郭の強調はないですが彩色によるモチーフの区分が見られます。平面な表現にも取り組んでおり、スタイルが変化する過渡期の作品なのかもしれません。桃の花びらのピンク色を強調する絵の具の置き方に、守一らしさを感じます。

「アゲ羽蝶」は1977年に97歳で大往生する前年の作品です。中心の蝶への黒色ののせ方は、ほのぼの感をのこしてはいますが、近づく死を意識しているようにも見えます。蝶が90度回転したかのように真横に描き、その横にかなり目立つ大きさで、クマガイモリカズと彫刻刀で彫ってサインしています。この変わった構図も意味深です。

守一は晩年の30年間、ほとんど自宅から出なかったといいます。自宅で目にしたはかなくも見える蝶に、残り少ないと感じた人生を重ねたのかもしれません。守一の人生を集約したような素晴らしい傑作です。

【日活公式サイト】 映画「モリのいる場所」

近年は大規模展覧会と様々な異業種がコラボする活動が活発です。今年2018年は守一夫妻の晩年のある一日を山崎努と樹木希林が演じた映画「モリのいる場所」が公開され、東京国立近代美術館の回顧展に続いて話題を呼びました。樹木希林にとっても遺作の一つ前の作品になります。

守一作品を多く収蔵するする美術館は他に、故郷の中津川市と山形県天童市にもあります。いずれも地元の名士が蒐集したものです。中津川市には画家でもある榧さんのギャラリーもあります。

また天童市美術館には、日本有数の企業コレクションである吉野石膏の日本絵画が寄託されています。中津川と天童、美術館の名前を記憶しておく価値は大いにあります。

【公式サイト】 熊谷守一つけち記念館(中津川市)

【公式サイト】 天童市美術館
【公式サイト】 熊谷榧つけちギャラリー(中津川市)


館の外壁には昆虫

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



画家自ら語るのは珍しい、猫というモチーフの魅力

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豊島区立熊谷守一美術館
【公式サイト】http://kumagai-morikazu.jp/

原則休館日:月曜日、12/25-1/7
入館(拝観)受付時間:10:30~17:00



◆おすすめ交通機関◆

東京メトロ有楽町線・副都心線「要町」駅下車、2出口から徒歩8分
西武池袋線「椎名町」駅下車、北口から徒歩15分

JR東京駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:30分
東京駅→東京メトロ丸の内線→池袋駅→東京メトロ副都心線→要町駅

【公式サイト】 アクセス案内

※この施設には駐車場はありません。


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