goo blog サービス終了のお知らせ 

美の五色 bino_gosiki ~ 美しい空間,モノ,コトをリスペクト

展覧会,美術,お寺,行事,遺産,観光スポット 美しい理由を背景,歴史,人間模様からブログします

茅ヶ崎展と異なる小原古邨の魅力を東京で_太田記念美術館 3/24まで

2019年03月12日 | 美術館・展覧会

昨年2018年に茅ヶ崎市美術館で行われた展覧会で一躍人気を集めた小原古邨(おはらこそん)。木版画とは思えない美しい花鳥画を再び味わえる展覧会が、東京・原宿の太田記念美術館で開催されています。

  • 2018年の茅ヶ崎市美術館での展覧会とは出展作がかなり異なる、古邨の新たな魅力が味わえる
  • 原画→試摺→完成作と製作過程での変化をたどれる展示が面白い
  • 少数ながら風景画もあり、花鳥画とは異なる趣の表現が魅力的


茅ヶ崎市美術館での展覧会を観た人も観なかった人も、古邨ワールドに深く陶酔することは間違いありません。私が鑑賞したのは後期展示ですが、素晴らしい作品が揃っていました。


太田記念美術館

茅ヶ崎市美術館で行われた展覧会で、小原古邨を初めて知った方が多いと思われます。私もその一人で、以来すっかり古邨ワールドに陶酔しています。言われなければ水彩画にしか見えないような緻密な木版画の絵師であること、明治以降の日本の木版画では珍しい花鳥画が得意。この2点の個性が際立っていることがその魅力の源泉です。

この展覧会では、古邨作品の大半を占める版元・松木平吉(通称:大平、だいへい)以外の版元(はんもと)の作品が比較的多く出展されています。秋山武右衛門(あきやまぶえもん)が率いた滑稽堂、渡辺庄三郎(わたなべしょうざぶろう)が率いた渡辺版画店、酒井好古堂&川口商会の共同出版、の3つです。

版元とは現在の出版社のような存在で、木版画の版木を製造・所有することで出版の権利を握っていました。絵師の創作は当然、版元の意向に沿うことになり、版元が代わると作風が代わります。古邨は、昭和になってから付き合いの始まった渡辺版画店からの作品では祥邨(しょうそん)、酒井好古堂&川口商会からの作品では豊邨(ほうそん)と落款の号まで変えています。

版元の違いを確認しながら作品を鑑賞すると、版元による顧客ニーズの違いが見えてきます。より興味深く古邨ワールドの奥の深さを理解することができます。


昨年2018年の茅ヶ崎市美術館「小原古邨」展

今回の太田記念美術館の展覧会は、異なる版元それぞれの作品をある程度まとまって展示できたこともあり、時系列で作品を展示しています。古邨の画業の変化がわかりやすくなっています。一方昨年2018年の茅ヶ崎市美術館の展覧会は、作品のモチーフを四季で分類した展示でした。出展作のほとんどが古邨作品の大半を占める版元・大平からの作品だったためでしょう。

【美術館公式Twitterの画像】月に木菟

「月に木菟(みみずく)」は同名で複数の作品が展示されていますが、唯一の滑稽堂からの作品(後期のみ展示)に、獲物に向かって急降下していくような躍動感を最も感じます。版元が大平の作品は全般的に落ち着いた静かな表現が見られます。

鎌倉仏師で言うと、滑稽堂作品は運慶、大平作品は快慶でしょう。滑稽堂はグロテスクな無惨絵で知られる月岡芳年(つきおかよしとし)、大平は文明開化の明治の町並を光と影を巧みに組み合わせて表現した光線画で知られる小林清親(こばやしきよちか)を、それぞれ抱えていました。両版元が追及した顧客ニーズの違いがよくわかります。

【美術館公式Twitterの画像】雨中の小鷺(左)

「雨中の小鷺」はより一層、時代と版元による顧客ニーズの違いが顕著に表れています。背景がベージュ色の作品(後期のみ展示)は明治末、背景が黒色の作品(前期のみ展示、渡邊木版美術画舗蔵)は昭和の作品です。色彩の表現を明確にすることで、より欧米の顧客の嗜好に合わそうとしたのでしょう。

また両作品とも雨が降る様子を描いていますが、雨の線がきわめて細く1mmもありません。この細さで”しとしと降り”感を見事に表現しています。まさに木版画とは思えません。明治の超絶技巧は木版画の世界でも凄腕を見せています。

【美術館公式Twitterの画像】鷹と温め鳥

「鷹と温め鳥」というタイトルの意味が一見よくわからなかったのですが、よく見ると鷹の足元に小さい雀がいます。真冬に鷹の羽毛で暖を取っている構図です。現実に見られる光景かわかりませんが、古邨作品としては珍しくユーモアを感じます。長澤芦雪のような雀の配置です。太田記念美術館所蔵の名品です。

【美術館公式Twitterの画像】月夜の桜(左:完成品、右:原画)

古邨が描いた原画→試擦→完成品と三段階の対比展示は、渡辺版画店(現:渡邊木版美術画舗)にのこされていたことで実現しました。後期展示の「雪中南天に瑠璃鳥」は画像が掲載されていないため、参考として前期の「月夜の桜」で対比をご確認ください。

試擦までは原画にほぼ忠実ですが、完成品はポイントとなるモチーフの色使いをがらりと変えています。版元が大平だったころにはおそらくありえない変更でしょう。より顧客ニーズを意識しています。

【美術館公式Twitterの画像】柘榴に鸚鵡

「柘榴に鸚鵡(ざくろにおうむ)」は、オウムの真っ白な羽毛に凹凸がつけられており、”フワフワ感”を強く感じさせます。空摺りという技法で、版木に絵具を付けずに強くすることで紙に凹凸を付けます。背景を黒ベタにすることでオウムの羽毛のリアル感がさらに引き立っています。こちらも超絶技巧を感じさせる逸品です。

【美術館公式Twitterの画像】雪中の柳橋

古邨では数少ない風景画は見逃せません。後期展示の「品川の美人」は画像が掲載されていないため、参考として前期の「雪中の柳橋」で風景画の趣をご確認ください。古邨の風景画は、花鳥画に比べてより江戸時代の情緒が表現されているのが特徴です。「品川の美人」は茶屋の2Fでたたずむ芸者を、ほとんど黒ベタのシルエットで描いています。モダンな構図で、月夜の情景に絶妙に合っています。

【美術館公式Twitterの画像】猫と提灯(左)

「猫と提灯」は「豊邨」落款の作品では最も目に留まりました。小林清親が提灯の中に潜む鼠をのぞき込む錦絵を描いており、豊邨はその続きを絵にしたと解説されています。ネタのパクリとしてもとてもユーモアにあふれています。

とても充実した内容の展覧会でした。新版画の作家は多数名前を確認することができます。古邨のような”発見”を求めて、これからも機会を逃さず観に行きたいと思います。

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



日本語の画集では古邨作品を最も多くカバー、345点掲載

________________

太田記念美術館
小原古邨
【美術館による展覧会公式サイト】

会期:2019年2月1日(金)~3月24日(日)
原則休館日:月曜日、展示替え期間(2/25-28)
入館(拝観)受付時間:10:30~17:00

※2/24までの前期展示、3/1以降の後期展示で全展示作品/場面が入れ替えされます。
※この展覧会は、今後他会場への巡回はありません。
※この美術館は、コレクションの常設展示を行っていません。企画展開催時のみ開館しています。



◆おすすめ交通機関◆

JR山手線「原宿」駅下車、表参道口から徒歩5分
東京メトロ千代田線・副都心線「明治神宮前」駅下車、5番出口から徒歩3分

JR東京駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:30分
東京駅→東京メトロ丸の内線→国会議事堂前駅→東京メトロ千代田線→明治神宮前駅

【公式サイト】 アクセス案内

※この施設には駐車場はありません。
※道路の狭さ、渋滞と駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。


________________

→ 「美の五色」とは ~特徴と主催者について
→ 「美の五色」 サイトポリシー
→ 「美の五色」ジャンル別ページ 索引 Portal

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

奇想の絵師たちの新たな魅力が充実_都美館「奇想の系譜」展 4/7まで

2019年03月11日 | 美術館・展覧会

2019年春の東京の目玉展覧会「奇想の系譜」展は静かに幕を開けているようです。特定の人気画家にスポットをあてた構成ではないこともあり、かなりの日本画の”数寄者”が集まっているように見受けられました。

  • 現在の江戸絵画ブームの発端となった名著「奇想の系譜」が世に出て半世紀
  • すっかり評価が定着した奇想の絵師たちの新たな個性も楽しめる充実した展示構成
  • 近年発見されたばかりの初公開作品も少なからず、プライス・コレクションからも名品が続々
  • 江戸時代は日本美術の多様性が受け入れられたとても”よき時代”だった


どうやってこんな構図を思いついたのだろう?、なぜこんなリアルな描写にしたのだろう?、江戸絵画のミラクルにはまって抜け出せなくなるやもしれません。



室町~江戸時代を中心とした日本美術研究の重鎮・辻惟雄(つじのぶお)は若手研究者だった頃、雑誌「美術手帖」に傍流だった江戸時代の絵師を紹介する記事を連載していました。連載を集約し、1970(昭和45)年に出版されたのが「奇想の系譜」です。

当時の江戸絵画の見方は、狩野派や琳派と言った縦割りしやすい流派別が主流でした「流派に属さないような傍流の絵師は見向きもされなかった日本美術史界に、毒を盛ろうと執筆した」と著者は語っています。確かに奇想の絵師たちは流派に属さないか、本流からははずれています。

美術展覧会において西洋絵画よりも日本美術の集客が上回ることは珍しくない21cの現在とは、隔世の感があります。だからこそ京都の細見美術館やジョー・プライスらの名だたるコレクターが、あれだけの名品を蒐集することができたのです。

著者の盛った毒が効いてくるまでは四半世紀ほどかかりました。平成の時代になって、1993年からJR東海の「そうだ 京都、行こう。」キャンペーンが、1996年からテレビ東京系「なんでも鑑定団」が、それぞれスタートします。今では辻惟雄の後継者のような存在になった日本美術研究者・山下裕二が赤瀬川源平と「日本美術応援団」を結成し、日本美術のPRを積極的に始めたのも1996年でした。

2000年には京都国立博物館で没後200年展が行われ、若冲が爆発的ブームになります。日本美術への関心は、平成になってからとても高まりまったのです。



展覧会は、「奇想の系譜」で紹介した6人に白隠慧鶴(はくいんえかく)と鈴木其一(すずききいつ)を加え、江戸絵画の多様性を一層堪能できるようになっています。8人ごとに設けられた展示室のトップバッターは若冲、大取りは国芳です。現代人の目で見て”奇想”な印象が際立つ二人を両端に配置したのでしょう。

【公式サイトの画像】伊藤若冲 ご紹介した作品の画像の一部が掲載されています

若冲では近年発見され初公開の二作品が目を引きました。「梔子(くちなし)雄鶏図」は若冲らしい鶏の絵ですが、どこかタッチが洗練されていません。画業間もない30代の作品と考えられており、若き日の若冲の初々しさを感じることができます。

「鶏図押絵貼屏風」は逆に最晩年の作品で、12枚の襖に墨だけで様々な鶏のポーズを描いています。画業の悟りを開いたと思わせるような優美さがあります。他、MIHO MUSEUM「象と鯨図屛風」やプライス・コレクション「虎図」など、著名作品もきちんと出展リストに含まれています。

【公式サイトの画像】曾我蕭白 ご紹介した作品の画像の一部が掲載されています

続いて、曾我蕭白(そがしょうはく)です。伊勢滞在時代に描いた「雪山童子図」は展覧会チラシやポスターにも採用されており、どぎつい赤と青色の対比がまさにアバンギャルドです。重文の「唐獅子図」はどこかふざけたような荒っぽいタッチで描かれていますが、蕭白らしい迫力を強く感じます。「唐獅子図」は前期展示だけで、後期は「群仙図屏風」に展示替えとなります。

【公式サイトの画像】長沢芦雪 ご紹介した作品の画像の一部が掲載されています

フロアを1Fに移動し、長沢芦雪(ながさわろせつ)を見ます。プライス・コレクション「白象黒牛図屏風」や大乗寺「群猿図襖」など著名作品が並ぶ中で、西光寺「龍図襖」に注目しました。2匹の龍を濃薄墨で対比させるよう描いており、かつ龍のボディや顔はとてもスマートです。見る者に”いかにも面白い”と思わせることにこだわった芦雪らしい龍の絵です。

初公開の「猿猴弄柿図」は、とぼけたような猿の表情がとても芦雪的です。この掛軸を見た客がバカ受けしている姿が目に浮かんできます。

【公式サイトの画像】岩佐又兵衛 ご紹介した作品の画像の一部が掲載されています

岩佐又兵衛(いわさまたべえ)では、前期の一部期間で国宝の東博「洛中洛外図・舟木本」が出ていました。又兵衛を浮世絵の祖と言わしめるきっかけとなった名品です。後期展示では福井時代の最高傑作である旧金屋屏風「官女観菊図」が展示されます。ふくよかな頬であごが長い又兵衛フェイスが洗練されています。

【公式サイトの画像】狩野山雪 ご紹介した作品の画像の一部が掲載されています

狩野山雪(かのうさんせつ)は展覧会の8人の画家の中では最もおとなしく見えるかもしれませんが、狩野派になかった構造を取り入れたことで知られます。天球院の「梅花遊禽図襖」は松の枝をコの字型に描いており、幾何学的構図の代表作です。松の枝を大きく描きますが、迫力を控えめにして優美さを強調するような効果が表れています。

「龍虎図屏風」は龍と虎を屏風の両端に配置し、中心には何も描いていません。狩野派としては空間を大胆に利用した構図に、山雪の個性を感じます。

【公式サイトの画像】白隠慧鶴 ご紹介した作品の画像の一部が掲載されています
【公式サイトの画像】鈴木其一 ご紹介した作品の画像の一部が掲載されています

アニメのような大胆な構図や幾何学記号で禅の世界を表現した白隠の手法は、それまでの日本絵画にはありえない手法として蕭白や若冲らを刺激しています。久松真一記念館「隻手」は「片手で拍手をするとどんな音がするか」という有名な禅問答を、実にユーモアのある手のひらで表現しています。

師の酒井抱一の洗練された表現に対し、あえてわかりやすい構図や明快な色彩を施した鈴木其一は、江戸琳派に新たな洒脱さを付加しています。エドソン・コレクション「百鳥百獣図」は、涅槃図のようにおびただしい数の生き物をとても精緻に色彩豊かに描いています。若冲の影響を受けたと解説されてり、其一の新たな個性を楽しむことができます。アメリカからの初の里帰りです。

【公式サイトの画像】歌川国芳 ご紹介した作品の画像の一部が掲載されています

大取りの歌川国芳(うたがわくによし)は、役者絵の歌川国貞、風景画の歌川広重とともに江戸浮世絵の黄金時代の最後を飾ったスーパースターです。ガイコツに代表されるグロテスクなモチーフの武者絵で知られています。「宮本武蔵の鯨退治」は国芳の武者絵の名品で、豊かな色彩で鯨退治の様子を大胆に描いています。鯨の肌の表現が緻密です。

名著「奇想の系譜」で辻惟雄が盛った”毒”が見事に表現された展覧会です。展示構成の充実ぶりはさすがと言えます。他の展覧会と同様、会期が近づくほど混雑してくるでしょう。お早目をおすすめします。

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



辻惟雄が江戸時代以外にも”奇想”を求め、日本人の”あそび”や”かざり”の精神を紐解く

________________________________

東京都美術館
奇想の系譜展 江戸絵画ミラクルワールド
【美術館による展覧会公式サイト】
【主催メディアによる展覧会公式サイト】

主催:東京都美術館、日本経済新聞社、NHK、NHKプロモーション
会場:B1F 企画展示室
会期:2019年2月9日(土)~4月7日(日)
原則休館日:月曜日
入館(拝観)受付時間:9:30~17:00(金曜~19:30)

※3/10までの前期展示、3/12以降の後期展示で一部展示作品/場面が入れ替えされます。
※前期・後期展示期間内でも、展示期間が限られている作品/場面があります。
※この展覧会は、今後他会場への巡回はありません。
※この美術館は、コレクションの常設展示を行っていません。企画展開催時のみ開館しています。



◆おすすめ交通機関◆

JR「上野駅」下車、公園口から徒歩7分
東京メトロ・銀座線/日比谷線「上野」駅下車、7番出口から徒歩12分
東京メトロ・千代田線「根津」駅下車、1番出口から徒歩15分
京成電鉄「京成上野」駅下車、正面口から徒歩12分
JR東京駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:25分
JR東京駅→山手・京浜東北線→上野駅

【公式サイト】 アクセス案内

※この施設には駐車場はありません。
※道路の狭さ、渋滞と駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。


________________________________

→ 「美の五色」とは ~特徴と主催者について
→ 「美の五色」 サイトポリシー
→ 「美の五色」ジャンル別ページ 索引 Portal

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

京都文化博物館「北野天満宮」展_展示内容がとても充実4/14まで

2019年03月07日 | 美術館・展覧会

京都文化博物館で、北野天満宮の歴史と所蔵美術品を大々的に紹介する展覧会「北野天満宮 信仰と名宝」が行われています。

  • 国宝の北野天神縁起絵巻が登場、ドラマチックな描写や彩色がとても美しい
  • 祭礼や踊り、参拝の図絵も数多く描かれており、一貫して人々の信奉を集めてきた歴史が見渡せる
  • 刀剣以外にも絵画や工芸品など、奉納品の質と量は神社としては最高クラスであることがわかる


北野天満宮にある宝物殿でも並行して展覧会が行われています。北野天満宮が所蔵する明治期の日本画の展示は、宝物殿での展覧会の方が充実しています。梅に続いて桜がやってきます。回遊しましょう。


北野天満宮は梅が見頃

展覧会は7+1の章で構成されており、北野天満宮の歩んできた歴史をきちんと押さえる内容になっています。

  1. 菅原道真 -人として-
  2. 天満宮創建 -北野天神縁起の広がり−
  3. 北野にみる神と仏
  4. 室町時代の北野天満宮
  5. 祭礼と神事
  6. 天満宮改造 -豊臣家と北野天満宮-
  7. 神と結ぶ -奉納品の数々-
  8. 終章 萬燈祭 -永遠の信仰-


【展覧会公式サイト】 ご紹介した作品の画像の一部が掲載されています

第2章で展示される数々の天神縁起絵巻は、この展覧会の最大の目玉でもあります。北野天満宮の至宝でもある国宝の天神縁起絵巻は、制作年代にちなんで承久本(じょうきゅうぼん)と呼ばれます。北野天満宮の縁起を表した絵巻では現存最古の作品で、縦50cm超と一般的な絵巻の2倍ほどの天地の大きさがあります。絵巻は通常、横長の紙を水平方向に連結しますが、承久本は垂直方向に連結しています。

際立つ大きさはもとより、美術的な美しさも際立っています。菅原道真の波乱の生涯を描いた描写は、報道写真の傑作を見ているようにその瞬間を見事な構図で表現しています。彩色もよく残っており、絵具の品質の高さと保存状態の良さが、この作品の扱いが別格であったことをうかがわせます。

北野天満宮の縁起絵巻はとても多数伝わっていることにも驚きます。機会あるごとに著名絵師に描かせる有力な寄進者が、北野天満宮の周囲には居続けたのです。室町時代の土佐光信、江戸時代初めの土佐光起による縁起絵巻も、土佐派らしい王朝的やまと絵的表現が秀逸です。縁起絵巻はぞれぞれ、前後期で場面を入れ替えて展示されます。

【北野天満宮公式サイト】 ご紹介した作品の画像の一部が掲載されています

第3章では、神仏習合時代の北野天満宮の信仰の様子をうかがうことができます。「北野曼荼羅図」は仏様のラインナップを表現した曼荼羅のような構図で境内の俯瞰図を描いています。”曼荼羅”というネーミングが絶妙です。

第6,7章で展示されている、近世の北野天満宮の祭礼や名所を紹介する風俗画も、展覧会の目玉展示と言えます。北野天満宮の周辺が江戸時代初期には、八坂神社の門前の四条河原と並ぶ繁華街だったことがよくわかります。ここに描かれた遊女や踊り子は、現在の門前の花街・上七軒の芸妓・舞妓の大先輩にあたります。

7章では3/19以降の後期展示で海北友松の雲龍図屏風も登場します。神社に雲竜図というのは現代の感覚ではピンと来ないですが、これも神仏習合時代の名残でしょう。



京都文化博物館にとっては地元を代表する神社だけあって、企画にはかなり熱を入れていると感じます。それだけ展示内容は充実しています。

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



菅原道真を知るには北野天満宮だけでは不充分

________________

京都文化博物館
北野天満宮 信仰と名宝 ―天神さんの源流―
【美術館による展覧会公式サイト】

主催:京都府、京都文化博物館、京都新聞、日本経済新聞社、朝日放送テレビ
会場:4F,3F展示室
会期:2019年2月23日(土)〜4月14日(日)
原則休館日:月曜日
入館(拝観)受付時間:10:00~17:30(金曜~19:00)

※3/17までの前期展示、3/19以降の後期展示で一部展示作品/場面が入れ替えされます。
※この展覧会は、今後他会場への巡回はありません。
※コレクションの常設展示も並行して行われています。



◆おすすめ交通機関◆

地下鉄烏丸線「烏丸御池」駅下車、5番出口から徒歩3分
阪急京都線「烏丸」駅下車、16番出口から徒歩7分
京阪電車「三条」駅下車、6番出口から徒歩15分

JR京都駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:15分
京都駅→地下鉄烏丸線→烏丸御池駅

【公式サイト】 アクセス案内

※この施設には駐車場はありません。
※道路の狭さ、渋滞と駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。


________________

→ 「美の五色」とは ~特徴と主催者について
→ 「美の五色」 サイトポリシー
→ 「美の五色」ジャンル別ページ 索引 Portal

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

フェルメール 大阪展もさすがの内容_天王寺 市立美術館 5/12まで

2019年02月22日 | 美術館・展覧会

上野で68万人もの観客を集めたフェルメール展が大阪にやってきました。会場の天王寺公園の大阪市立美術館では、2000年にも大規模なフェルメール展が開催されています。日本におけるフェルメール・ブームのきっかけになったような展覧会で、くしくも19年後に再び来てくれました。

  • フェルメール作品は世界中から過去最多6点が集結、「恋文」は大阪展のみの展示
  • フェルメール作品をこれだけまとまって見られる展覧会は世界的にもめったにない
  • 他の17cオランダ絵画もとても充実、フェルメール作品との対比が面白い


まだ始まったばかりの展覧会でとても多くの人が来ており、日本におけるフェルメール人気の高さが実感できます。早めに見に行かないと大変なことになるでしょう。どの館も目玉コレクションになっているフェルメール作品を、世界中の美術館がまとまって貸し出してくれる機会は本当に貴重です。



上野展は会期が4か月もありましたが、68万人という入場者数は少なめの印象を受けます。上野展はおそらく日本初ではないかと思いますが、日時指定チケット以外は販売せず入館者数を抑えたためだと思われます。

日時指定チケットは世界の美術館ではよくあります。世界的な観光ブームで観光客が殺到するため、長蛇の列や混雑による作品への悪影響が懸念されているためです。日本ではテーマパークくらいしか採用されていませんが、美術館などの観光スポットも採用を考えるべきです。

姫路城の天守閣への入場待ちが2時間というのは、外国人観光客にとってはとても残念な思い出になってしまいます。入城したい人は高額でも入場します。行列を気にしないどころか、行列して有名な観光スポットや飲食店を体験すること自体を美化するのは日本人だけです。

日時指定チケット制度を「大阪展でも採用すべき」という声が上がってくることを期待したいものです。


展覧会の見どころ 公式 YouTube

展示はフェルメール以外の17cオランダ画家の作品をジャンル別に展示し、最後にフェルメール作品6点をまとめて展示する構成になっています。アムステルダム国立美術館を中心にフランス・ハルス美術館など、オランダの主要美術館から作品が集まっています。

【アムステルダム国立美術館公式サイトの画像】 フランス・ハルス「ルカス・デ・クレルクの肖像」

第1章の「肖像画」は、17cオランダが世界一豊かな国だった時代を最も感じ取ることができるジャンルです。一儲けすると家族の肖像画を描いてもらうことが、市民の間でとても流行していました。

オランダの肖像画と言えば、何といってもフランス・ハルスの笑顔が印象的です。「ルカス・デ・クレルクの肖像」はそんなハルスの魅力がたっぷり詰まった名品です。商売の成功に自信を持つとともに、社会に感謝するような謙虚さまでも表現しています。この作品を見てモデルは満面の笑みを浮かべたことでしょう。

【アムステルダム国立美術館公式サイトの画像】 カレル・デュジャルダン「自画像」

カレル・デュジャルダンは日本ではほとんど知られていませんが、イタリアかぶれの画家としてオランダでは知られています。イタリアの風景画や神話画をのこしています。

小品ながらこの自画像はとてもよくできています。彼はオランダ人ですが、どこかラテン系の人物のように描いています。イタリアにほれ込んだ彼自身が、そんな表現を自然と行ったように思えます。オランダの肖像画の中できらりと光っています。

【アムステルダム国立美術館公式サイトの画像】 ピーテル・サーンレダム「ユトレヒトの聖母教会の最西端」

第3章の「風景画」からもオランダの豊かさを感じました。ピーテル・サーンレダムは教会内部をモチーフにした、ちょっと珍しい画家として知られています。巨大な教会の内部空間を幾何学的な美しさで表現しています。17cオランダの絵画表現の多様性がわかる作品です。

【アイルランド・ナショナル・ギャラリー公式サイトの画像】 ハブリエル・メツー「手紙を読む女」

第5章の「風俗画」では、フェルメールに負けず劣らずオランダの日常の光景を描いた名品が並んでいます。次がフェルメールの章であるため、モチーフや表現を比較してみるのもおすすめです。

ハブリエル・メツー「手紙を読む女」は、一瞬フェルメール作品かと思ってしまうほど構図の取り方が似ています。恋文をこそこそ読む一瞬を写真のようにとらえています。その横でメイドの女性が気を利かさず、家事にいそしんでいる姿も、どこか笑えます。とても明るい作品で、客人を通す部屋に飾っていたなら、たいそうな話題になっていたことでしょう。

【展覧会公式サイト 作品紹介】 フェルメール作品全6点の画像が掲載されています

最後の第6章がフェルメールです。大阪展は以下の6作品が展示されます。

  1. スコットランド・ナショナル・ギャラリー「マルタとマリアの家のキリスト」
  2. ドレスデン国立古典絵画館「取り持ち女」日本初公開
  3. アイルランド・ナショナル・ギャラリー「手紙を書く婦人と召使い」
  4. ワシントン・ナショナル・ギャラリー「手紙を書く女」
  5. アムステルダム国立美術館「恋文」大阪展のみ展示
  6. メトロポリタン美術館「リュートを調弦する女」


私は6点の内、4点は見たことがあります。初めて見ることもあって「マルタとマリアの家のキリスト」「手紙を書く婦人と召使い」の2点が特に印象に残りました。

【スコットランド・ナショナル・ギャラリー公式サイトの画像】 フェルメール「マルタとマリアの家のキリスト」

「マルタとマリアの家のキリスト」は最初期の作品で、テーマも宗教画です。タッチは若々しく生き生きとしており、マルタとマリアをオランダの普通の女性のように描いています。室内の背景の描き方など、フェルメール・マジックを彷彿とさせるテクニックがきちんと表現されています。

【アイルランド・ナショナル・ギャラリー公式サイトの画像】 フェルメール「手紙を書く婦人と召使い」

「手紙を書く婦人と召使い」は、今回来日したフェルメール作品の中では最高傑作と感じています。1670年頃の彼の画家人生の絶頂期の作品で、光の柔らかさ、構図のバランス、メイド女性の一瞬の表情、何をとっても完成度が高い作品です。おぼろげではなく写実的に描いていることも、洗練された印象を与えます。

【アムステルダム国立美術館公式サイトの画像】 フェルメール「恋文」

「恋文」も1670年頃の作品で、表現の円熟味を感じさせます。隣の部屋からのぞき込むような構図で描かれており、人物の一瞬の表情を偶然見かけたと思わせるところが凄腕です。この作品は大阪展のみの展示です。東京展を見た方も、この1点を見るためにわざわざ大阪に足を運ぶ価値がある作品です。



会期は3カ月ありますが、美術展は会期末が近づくほど混雑します。大阪展は日時指定チケット制を採用していないため、週末を中心にひどい混雑が懸念されます。土日祝日を避ける、平日なら夕方に行く、が美術展での混雑を避ける基本です。チケット売り場も長蛇の行列ができますので、コンビニで事前にチケットを購入しておくことを強くおすすめします。

混雑を避けスムースに鑑賞する頃で、フェルメール・マジックと17cオランダ絵画の質の高さを存分に楽しめます。

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。




________________

大阪市立美術館
特別展 フェルメール展
【美術館による展覧会公式サイト】
【主催メディアによる展覧会公式サイト】

主催:大阪市立美術館、産経新聞社、関西テレビ放送、博報堂DYメディアパートナーズ
会期:2019年2月16日(土)~5月12日(日)
原則休館日:2/18,2/25,3/4,3/11,3/18 ※3/19以降は無休
入館(拝観)受付時間:10:00~16:30

※東京展で実施した「日時指定入場制」は大阪展では行われません。
※会期中に展示作品の入れ替えは原則ありません。
※この会場で展示されない作品があります。
※この展覧会は、2019年2月まで上野の森美術館、から巡回してきたものです。
※この展覧会は、今後他会場への巡回はありません。
※コレクションの常設展示も並行して行われています。



◆おすすめ交通機関◆

JR・大阪メトロ「天王寺駅」、近鉄「大阪阿部野橋」駅、阪堺電車「天王寺駅前」駅下車
各駅から天王寺公園内を通って徒歩5~10分
JR大阪駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:25分
JR大阪駅(梅田駅)→大阪メトロ御堂筋線→天王寺駅

【公式サイト】 アクセス案内

※この施設には駐車場はありません。有料の天王寺公園地下駐車場が利用できます。
※駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。


________________

→ 「美の五色」とは ~特徴と主催者について
→ 「美の五色」 サイトポリシー
→ 「美の五色」ジャンル別ページ 索引 Portal

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

奈良博「鎌倉時代の唐招提寺」3/14まで_覚盛をしのぶ美仏が勢揃い

2019年02月20日 | 美術館・展覧会

奈良国立博物館で冬の特別陳列が行われています。定番の「お水取り」に加え、今年は「鎌倉時代の唐招提寺と戒律復興」がテーマです。

  • 唐招提寺の中興の祖・覚盛(かくじょう)を中心に、鎌倉時代の戒律復興の様子を学べる
  • 普段非公開の唐招提寺・礼堂にある清凉寺式の釈迦如来立像が美しい
  • 西大寺の国宝・叡尊坐像を彷彿とさせる覚盛坐像も必見


奈良博らしい落ち着いていて、質の高い展示構成となっています。展示は西新館の一部屋だけですが、「お水取り」展やとともに仏教美術では他の追随を許さない名品展も一緒に楽しめます。



覚盛は鎌倉時代初めの1194(建久5)年生まれで、同じく戒律復興で知られる、1201(建仁元)年生まれの西大寺の叡尊(えいそん)とほぼ同世代です。二人は東大寺で揃って受戒し、平安時代にかなり軽視されていた、僧の生活規律である”戒律”の復興に生涯をささげます。

覚盛の唐招提寺は、戒律研究を主に行う宗派・律宗の総本山です。唐招提寺では、自らのアイデンティティでもある戒律を立て直した覚盛をしのぶとても有名な行事が、現在も行われています。「うちわまき”で知られる中興忌梵網会(ちゅうこうきぼんもうえ)です。

殺生戒を守って蚊も殺さなかった覚盛の徳をしのび、霊前にうちわを供えたのが始まりとされています。鼓楼より参拝者にまかれるハート形のうちわは、縁起物としてとても人気があります。

【唐招提寺】 春の行事「うちわまき」

叡尊の西大寺は、律宗と真言密教が融合した真言律宗(しんごんりっしゅう)の総本山です。西大寺の著名行事・大茶盛も叡尊にゆかりがあります。真言律宗は、海龍王寺や浄瑠璃寺など奈良周辺の寺に大きく広がっています。覚盛が戒律の本家の唐招提寺を立て直し、叡尊が戒律の教えをより拡散させたという見方もできます。二人は鎌倉時代の奈良仏教にはかけがえのないスーパースターなのです。

【展覧会公式サイトの画像】 唐招提寺「釈迦如来立像」

展示室ではまず、洗練された感のある清凉寺式の釈迦如来立像が目に入ります。正面に同心円状に広がる衣のひだととても落ち着いた細い眼の表情が、いつ見ても心を和ませます。覚盛の没後、ほどなくして摸刻されました。弟子たちが覚盛への思いを重ね合わせた仏様のような気がしてなりません。

安置されている唐招提寺の礼堂(らいどう)は普段非公開ですので、お会いできる貴重な機会になります。重要文化財です。

【展覧会公式サイトの画像】 唐招提寺「大悲菩薩(覚盛)坐像」

釈迦如来立像の隣には、どこかで見たことあるような長い眉毛の僧侶像が存在感を放っています。重要文化財の覚盛の坐像で、覚盛の死から約150年後に造られました。体格がよく堂々としています。長い眉毛は、西大寺の国宝・叡尊坐像とそっくりです。後世に造るにあたって、戒律復興の二人の立役者のシンボルのようにしようと注文主や仏師が考えていたとすれば、とても面白い試みです。


博物館裏の庭園

西新館の名品展や、東新館の「お水取り」展、なら仏像館の「珠玉の仏たち」ともに、国宝や重要文化財がまさに”ごろごろ”あります。奈良博には本当に大切な仏教美術が保管されています。

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



日本の美しさの英語表現には感銘を受ける

________________

奈良国立博物館
特別陳列
覚盛上人770年御忌 鎌倉時代の唐招提寺と戒律復興
【美術館による展覧会公式サイト】 鎌倉時代の唐招提寺と戒律復興

主催:奈良国立博物館、唐招提寺
会場:西新館
会期:2019年2月8日(金)~3月14日(木)
原則休館日:月曜日
入館(拝観)受付時間:9:30~16:30(金土曜~19:30)
※お水取り期間中にも開館時間の延長があります。

※会期中に展示作品の入れ替えは原則ありません。
※この展覧会は、今後他会場への巡回はありません。

同じ会期で特別陳列「お水取り」が東新館で行われています。
【美術館による展覧会公式サイト】 お水取り



◆おすすめ交通機関◆

近鉄奈良線「近鉄奈良」駅下車、東改札口C出口から徒歩15分

JR大阪駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:1時間15分
JR大阪駅→JR環状線→鶴橋駅→近鉄奈良線→近鉄奈良駅

【公式サイト】 アクセス案内

※この施設に駐車場はありません。
※渋滞と駐車場不足により、クルマでの訪問は非現実的です。


________________

→ 「美の五色」とは ~特徴と主催者について
→ 「美の五色」 サイトポリシー
→ 「美の五色」ジャンル別ページ 索引 Portal

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

肉筆浮世絵で錦絵にはない魅力を発見_奈良県立美術館 3/17まで

2019年02月19日 | 美術館・展覧会

奈良県立美術館で、「肉筆浮世絵」を桃山時代から幕末まで俯瞰できる企画展が行われています。版画ではなく絵画として1点もので描いた肉筆浮世絵の魅力を堪能できます。

  • 奈良県美はまとまった寄贈により浮世絵を多数所蔵、展示はほぼ館蔵コレクションで構成
  • 桃山時代の風俗画から幕末まで、肉筆浮世絵とその前身である風俗画を俯瞰できる
  • 作品を通じて人々の欲望が際限なく拡大していったことが見えてくる


一般的に浮世絵とイメージされる4色刷り版画である錦絵(にしきえ)とは異なり、1点ものです。注文主である上流階級が好むモチーフや画題が多くなります。肉筆浮世絵を通じて江戸時代の風俗画をより幅広く楽しめるようになります。



奈良県立美術館は1973(昭和48)年、日本画家の吉川観方(よしかわかんぽう)から多数の寄贈を受けたことで開館しました。その後も哲学者・由良哲次(ゆらてつじ)からも寄贈を受け、コレクションを充実させていきます。今回の展覧会も、吉川/由良の両コレクションから多くが構成されています。

展示は時代の流れとともに4章で構成されていきます。

  1. 浮世絵の先駆 近世初期風俗画
  2. 姿の美、衣装の美・・・浮世絵美人画
  3. 新奇な構図 浮絵
  4. 多彩な主題


会場に入ると「導入」と称して美人画の三作品が展示されています。この一角だけで江戸時代の美人画の変化がとてもよくわかります。江戸時代初期に浮世絵を確立した菱川師宣の長男・師房(もろふさ)が描いた「見返り美人」は、父の著名作とは逆に正面から後ろを振り返るように描いています。背景を一色に塗りつぶしていて人物は無表情、17c江戸初期の風俗画の特徴を明確にのこしています。

18cの川俣常正をはさんで、19cの歌川国長「椿と花魁図」になると、発色のよさや人物の表情の豊かさが明らかに進化していることがわかります。これから肉筆浮世絵の鑑賞を深めていくにあたって、上手に3点をチョイスしています。

I章「浮世絵の先駆」は、洛中洛外図など、人々の暮らしや遊興を生き生きと描いた風俗画です。市井の生活をモチーフとしていることから浮世絵の原点になったといわれるジャンルです。都以外にも厳島など有名景勝地がモチーフになっています。錦絵で一世風靡した東海道五十三次のような名所絵の先駆は、上流階級向けの屏風に描かれていたのです。

数少ない他館所蔵作品「舞踊図」は、「彦根屏風」を思わせるような洗練された作品です。6人の舞う遊女が屏風の各曲に1人ずつ描かれている構図も印象的です。京都市蔵の重要文化財です。展示は前期2/17までです。後期は奈良県美蔵「邸内遊楽図屏風」が代わって展示されます。


第2展示室の様子

写真撮影が可能な第2,3展示室は、I章の寛文美人とII章「姿の美、衣装の美」の18c半ばまでの浮世絵発展期の作品が展示されています。寛文美人とは、無背景に一人だけ立ち姿の美人を描いたもので、江戸時代前期の寛文年間(1661-73)を中心に描かれたことから名づけられています。人物は無表情に描かれます。

第1展示室に展示されている奈良県美蔵「伝吉野太夫像」が名品です。江戸時代初期の京都のトップ太夫を、威厳をも感じさせるほどに上質に描いています。

西川照信(にしかわてるのぶ)の「吉原風俗図」は、茶屋へ向かう遊女を眺める客を描いたものです。寛文美人図と比べ、人物に表情が描かれていることがわかります。構図も庶民向けの錦絵にはないものです。

宮川長春「花下美人少女図」や勝川春水「花下三曲合奏図」は人物の背景に重要なモチーフとなる花を描いています。人物が何を楽しんでいるのかがさらによくわかるよう描いており、着物の彩色もとても美しくなっています。

第4展示室は浮世絵が最盛期を迎えた18c後半から幕末にかけての作品です。錦絵が爆発的に流行した時代に、富裕層は売れっ子絵師に1点ものの肉筆画を描かせ、にやにやしていた様子が浮かんできます。一般受けする構図の錦絵とは異なり、どの作品もとても個性のある構図ばかりです。

【奈良県立美術館の画像】 葛飾北斎「瑞亀図」

第6展示室のIV章「多彩な主題」には、これが北斎かと思えるような作品「瑞亀図」があります。老夫婦が亀に酒を飲ませており、長寿を祝った作品です。錦絵ではこんな北斎作品には出会えません。注文主に応じた実に多様な表現が、肉筆浮世絵の最大の魅力です。


完成間際のバスターミナル

奈良県美のすぐ近く、県庁東側で建設中の観光バス向けのターミナルがまもなく2019/4/13にオープンします。奈良公園の観光バス団体の乗降・休憩・買物の拠点ができ、奈良公園周辺の混雑緩和が期待されます。建設を主導した奈良県のマーケティング力が試される施設です。完成後にはぜひ見物したいものです。

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



2015年に話題を呼んだシカゴのコレクター所蔵品展覧会の図録

________________

奈良県立美術館
企画展
姿の美、衣装の美・・・肉筆浮世絵
【美術館による展覧会公式サイト】

主催:奈良県立美術館
会期:2019年1月19日(土)~3月17日(日)
原則休館日:月曜日
入館(拝観)受付時間:9:00~16:30

※2/17までの前期展示、2/19以降の後期展示で一部展示作品/場面が入れ替えされます。
※この展覧会は、非営利かつ私的使用目的でのみ、撮影禁止作品以外の会場内の写真撮影とWeb上への公開が可能です。
 ただしフラッシュ/三脚/自撮り棒/シャッター音は禁止です。
※この展覧会は、今後他会場への巡回はありません。
※この美術館は、コレクションの常設展示を行っていません。企画展開催時のみ開館しています。



◆おすすめ交通機関◆

近鉄奈良線「近鉄奈良」駅下車、東改札口1番出口から徒歩5分

JR大阪駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:1時間5分
JR大阪駅→JR環状線→鶴橋駅→近鉄奈良線→近鉄奈良駅

【公式サイト】 アクセス案内

※この施設には駐車場はありません。
※渋滞と駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。


________________

→ 「美の五色」とは ~特徴と主催者について
→ 「美の五色」 サイトポリシー
→ 「美の五色」ジャンル別ページ 索引 Portal

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

世界一の”記憶”の表現_大阪 国際美術館「ボルタンスキー」5/6まで

2019年02月16日 | 美術館・展覧会

失われたものの記憶をインスタレーションで表現するフランス現代アートの巨匠、クリスチャン・ボルタンスキー(Christian Boltanski)の大回顧展が大阪の国立国際美術館で始まりました。

  • ボルタンスキーはまだ現役、本人が会場に合わせたインスタレーションを手掛けた
  • 歴史や記憶を表現するために、写真や過去にあったモノ、光を巧みに組み合わせて利用
  • ホロコーストへの叫びを感じさせるような、深い精神性のある作品が特徴的


大阪展を皮切りに、東京・国立新美術館と長崎県美術館に巡回します。ボルタンスキーによる世界最先端の”記憶”の表現が日本を駆け巡ります。



クリスチャン・ボルタンスキーは1944年にパリに生まれ、1970年代には写真を、1980年代には光を用いたインスタレーションで注目を集めるようになります。歴史や自己と他人の記憶を、写真や昔の製品など、今は失われた姿を表現できる素材を用いて、一貫して創作を続けてきました。彼の作品が投げかける問いの深さは、その精度を増していきます。

1985年に製作が始まった「モニュメント」シリーズは、写真や光を用いて、宗教や死についての彼の精神性を表現した作品です。「プーリム祭」はナチス時代に撮影されたユダヤ人の顔写真を用いて、ホロコーストへの恐怖を表現しています。しかし歴史博物館で見られるような”記録”の展示ではなく、写真の主を尊重するような、芸術的な意匠が施されています。この芸術性の付加が彼の最大の魅力です。


保存室(カナダ)(右の壁の作品)、コート(左の奥の壁の作品)

ボルタンスキーは展示会場に合わせたインスタレーションを創作することでも知られています。「保存室(カナダ)」は1990年の水戸芸術館で開かれた個展の際に製作されたものです。おびただしい数の古着が壁一面に吊り下げられたこの作品からは、おびただしい数の人間の営みの”記憶”が伝わってくるようです。

「コート」は、青色電球が背後から後光のように差しており、キリストの磔刑のように見えます。このコートを着ていた人に祈りをささげることを暗示するようにも見え、その人への”記憶”を呼び起こすことを問いかけているような作品です。


アニミタス(右:白、左:チリ)

「アニミタス」は大自然の中に”あった”人工物をひたすら記録した動画作品です。「白」「チリ」ともに、先端に風鈴を取り付けたおびただしい数の細い棒がモチーフです。「白」は極北カナダ、「チリ」はチリの砂漠という真逆の環境で、それぞれ棒が風になびく様子を撮影しています。いずれの作品も人工物は撮影後も放置され、現在は消滅していると考えられます。ボルタンスキーならではの、今は失われた”記憶”の表現です。

ボルタンスキーは自身の”記憶”も作品にのこしています。「自画像」は7歳から60歳までの27枚、いわゆる証明写真のようなポートレイトをひたすら並べた作品です。ただし年齢順ではなく無秩序に配列されています。ごちゃまぜにすることによって、自らの”記憶”をブレンドして一つに表現しようとしたのでしょうか。

「合間に」は吊り下げられた紐のカーテンに、7歳から60歳までのポートレイトが一枚ずつ投影されていきます。観覧者はこの紐のカーテンをかき分けないと次の展示室には進めないようになっています。自らの世界観の中に観覧者を導くような仕掛けに感じられます。

現代アートはとにかく表現やテーマが多様であり、実に多様な印象も受けます。ボルタンスキーは、そんな中でも”記憶”という一貫性を感じるアーティストです。いずれも深い精神性を感じる作品ばかりで、”記憶”の大切さを実に巧みにモノを通じて表現しています。

フランスを代表する現代アーティストと呼ばれ、世界中で高い評価を受けるボルタンスキーの表現力に深い感銘を受ける展覧会です。大阪展に行けない方は、東京か長崎で観覧予定されることを強くおすすめします。

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



2016年に旧朝香宮邸で行われた個展の図録

________________

国立国際美術館
クリスチャン・ボルタンスキー − Lifetime
【美術館による展覧会公式サイト】

主催:国立国際美術館、朝日新聞社
会場:B3F
会期:2019年2月9日(土)~5月6日(月)
原則休館日:月曜日
入館(拝観)受付時間:10:00~16:30(金土曜~19:30)

※会期中に展示作品の入れ替えは原則ありません。
※この展覧会は、撮影禁止作品以外の会場内の写真撮影が可能です。ただしフラッシュ/三脚/自撮り棒は禁止です。
※この展覧会は、2019年6月から国立新美術館、2019年01月から長崎県美術館、に巡回します。
※この会場で展示されない作品があります。
※この美術館は、コレクションの常設展示を行っています。



◆おすすめ交通機関◆

京阪中之島線「渡辺橋駅」下車徒歩5分、大阪メトロ四つ橋線「肥後橋」駅下車徒歩10分、
JR環状線・阪神本線「福島駅」・JR東西線「新福島駅」下車徒歩10分
JR大阪駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:20分
JR大阪駅→大阪メトロ四つ橋線→肥後橋駅

公式サイトのアクセス案内

※この施設に駐車場はありません。


________________

→ 「美の五色」とは ~特徴と主催者について
→ 「美の五色」 サイトポリシー
→ 「美の五色」ジャンル別ページ 索引 Portal

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

平安京のパノラマ模型に釘付け_平安京創生館「京の塔」6/3まで

2019年02月15日 | 美術館・展覧会

平安時代や室町時代に京の都にあった「塔」を紹介するという、かなりトリビアな展覧会に行ってきました。京都・二条城の北にある平安京創生館で行われている「京の塔をめぐる」です。

  • 平安時代後期に京の都を取り巻くように100基以上の塔が立っていたことには驚き
  • 法勝寺や相国寺にあった現存最高の東寺・五重塔よりはるかに高い塔の復元写真は必見
  • 平安京の様子を復元した約10m四方の巨大パノラマは何より圧巻
  • 鳥羽離宮や法勝寺の復元模型もあり、歴史ファンにはたまらない


数々の復元模型は必見です。観光客を呼べること間違いなしですが、PR下手でこの施設のことを誰も知りません。


歴代の塔の高さランキング(現存最高の東寺・五重塔は3位)

平安京創生館は、京都市が運営する生涯学習センター・京都アスニーに入居する博物館施設です。平安京復元模型を目玉展示に、平安京の歴史を学べる展示が行われています。

平安京復元模型は、1994年の平安遷都1,200年祭にあわせて1/1000サイズで制作され、京都市美術館で公開されていました。1,200年祭終了後は特別展で披露される以外は非公開でしたが、常設展示をのぞむ声に応えて2004年から京都アスニーで、まずは平安京部分だけの常設展示が始まります。

2006年に平安京創生館が開設される際に、平安京周辺部も拡張されて現在の大きさになり、左京・東山の復元が行われます。2018年になって北山や右京の復元が完成し、南側を除く平安時代の京都盆地の全容を見ることができるようになりました。

三十三間堂など、現存する建物を確認できることが、観光・学習コンテンツとして何よりも魅力的です。東寺/西寺以外に平安京の中には寺が造れなかった平安時代に、周辺部に塔が林立していることがよくわかります。高い建物がなかった時代の摩天楼は、都の賑わいを示すように壮麗な光景だったでしょう。

【平安京創生館公式サイト】 常設展 復元模型の解説「平安京、法勝寺、鳥羽離宮」


法勝寺 復元模型

現存最高の東寺・五重塔56mよりはるかに高い81mの八角九重塔があった岡崎・法勝寺や、現在の城南宮付近にあった広大な鳥羽離宮の復元模型も必見です。平安時代に何もない原野だった岡崎に、巨大な塔が赤くそびえたつ姿は、造らせた白河上皇の権勢を人々に見せつけているようです。バベルの塔のように神がかり的な光景だったに違いありません。

企画展では、貴族の塔めぐりの日記を元に、確認できる65基の塔のリストが展示されています。神仏習合の時代のため、現在の神社にもたくさんの塔があったことがわかります。東山に特に塔が集中していることも興味深く確認できます。法勝寺以外にも5か寺があって六勝寺と呼ばれた岡崎エリアは特にすさまじく林立しています。


平安京を取り巻いていた塔の分布

日本の塔の高さの歴代ベスト2の復元写真も見ものです。文献をたどって新たな情報が判明するたびに少しずつ微調整をしているとのことで、とてもリアルにできています。歴代1位の相国寺・七重塔は1399(応永6)年に足利義満が建てたもので、高さは109mあったと考えられています。現存最高の東寺・五重塔56mのほぼ2倍の高さです。写真を見るだけでも威容を感じます。

室町時代にどうやって建設したのかと不思議でなりませんでした。しかもこの塔は二度焼失し再建されていますが、1470(文明2)年までの短い生涯でした。地震があった記録まではわかりませんが、建築技術が確立していたことがうかがえます。

歴代2位は法勝寺・八角九重塔81mで、こちらは平安時代末1081(永保元)年の建築です。八角形のデザインがとても神秘的です。こちらも一度焼失し再建されており、1342(暦応5)年まで250年ほど建っていました。


大内裏からまっすぐに伸びる朱雀大路

現在の平安京創生館は、京都市民向けの生涯学習施設という位置づけのため、この素晴らしい復元模型コンテンツが市外の人に広く伝わってきません。硬直的な役所のスタンスに日の目を見られなくなっています。

2020年3月頃には3年間の改修工事を終えた京都市美術館が「京都市京セラ美術館」となってリニューアルオープンします。常設展示スペースが設けられるなど、展示スペースがかなり拡張するようです。平安京復元模型を、最初に公開された京都市京セラ美術館に展示場所を移すと、はるかに多くの国内外の観光客に見てもらえるようになります。

都市のパノラマ模型は建物の形状で理解できるため、誰でも楽しく鑑賞できます。マレーシアのクアラルンプールにもあり、都市の様子がとてもよく理解でたことを記憶しています。東京も森ビルが制作した巨大パノラマがありますが、都市計画業務にも使用しているため常時公開されていません。日本も都市パノラマ模型の公開に知恵を絞ってほしいものです。


鳥羽離宮 復元模型

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



現代の宮大工が見た古建築の魅力

________________

平安京創生館
企画展 京の塔をめぐる
【美術館による展覧会公式サイト】

主催:京都市生涯学習総合センター、(公財)京都市生涯学習振興財団
会場:京都市平安京創生館(京都アスニー1F)
会期:2018年12月13日(木)~2019年6月3日(月)
原則休館日:火曜日、年末年始
入館(拝観)受付時間:10:00~16:50

※会期中に展示作品の入れ替えは原則ありません。
※この展覧会は、今後他会場への巡回はありません。
※この美術館は、コレクションの常設展示を行っています。



◆おすすめ交通機関◆

JR嵯峨野線「二条」駅下車、徒歩15分
市営地下鉄東西線「二条」駅下車、2番出口から徒歩15分

JR京都駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:25分
京都駅→JR嵯峨野線→二条駅

【公式サイト】 アクセス案内

※この施設には有料の駐車場があります。
※駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。


________________

→ 「美の五色」とは ~特徴と主催者について
→ 「美の五色」 サイトポリシー
→ 「美の五色」ジャンル別ページ 索引 Portal

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

京博で中国の巨匠・斉白石の魅力を堪能_東京展より充実 3/17まで

2019年02月09日 | 美術館・展覧会

東京国立博物館で行われていた中国近代絵画の巨匠・斉白石(せいはくせき、Qi Baishi)の展覧会が、京都国立博物館に巡回してきました。

  • 東京展より展示スペースが広く通期展示が多い、京都展だけの出品作もある
  • 東京展では出品されなかった京博所蔵の須磨コレクションの斉白石作品も展示
  • 柔らかさ/雄大さ/緻密さを兼ね備えた斉白石の名前を強く記憶させる充実の内容


江戸時代に描かれた天皇の即位式の屏風も別室で、ほぼ同時期に公開されています。新天皇が即位する年にタイムリーな展示です。2月の京博は必見です。


京博の入口

私が展覧会を訪れたのは、中国の旧正月・春節の週の平日だったこともあり、中国人観光客の姿がとても目立ちました。斉白石は中国人ならだれでも知っている著名な画家で、異国で展示されている自国の巨匠の作品を、みな真剣なまなざしで鑑賞していました。会話する時もマナーをわきまえ、ひそひそ声で行っています。美術館で普段通りの声の大きさで会話するのは日本人だけです。

東京展はほぼ全出品作が前後期で入れ替えされていましたが、京博展は通期展示も多く、一度に鑑賞できる作品数がとても多くなっています。加えて京博展のみの出品作や、須磨コレクションの斉白石もあります。東博展よりもかなり充実した内容になっています。

展覧会の様子は、京博の公式キャラクター・トラリンのブログでも紹介されています。展覧会を担当した京博の呉研究員がトラリンを案内する形で斉白石の魅力を紹介しています。とてもわかりやすいブログになっています。

【展覧会の見どころ 公式ブログ】 「中国近代絵画の巨匠 斉白石」を見に行くリン♪エピソードⅠ



【展覧会公式サイトの画像】 墨梅図

2F-1展示室は「花木」です。「墨梅図」は、墨だけで梅を力強く描いています。冬空に力強く花を咲かせる梅の生命力が伝わってきます。1917年に描かれた初期の作品ですが、幹と花をクローズアップした構図がとてもモダンです。

【展覧会公式サイトの画像】 穀穂蝗虫図

続く2F-2展示室は「鳥獣/昆虫」です。モチーフの観察と写生を徹底して行ってきた斉白石の”超絶技巧”がわかりやすいモチーフです。円山応挙や伊藤若冲の”超絶技巧”も、同じく徹底した観察と写生に基づいています。超絶技巧に王道はなく、たゆまぬ基礎の積み重ねの賜であることがわかります。

「穀穂蝗虫図」は、バッタが穀物の穂にとまっている姿を描いています。一見バッタも穂もさっと流すように簡略化して描いているように見えますが、よく見ると触覚などにとても細かい描写がみられます。精密な描写に見せない方が、絵の印象が重くならないと考えたのでしょう。バッタが今にも飛び放ちそうな躍動感もあり、斉白石の”超絶技巧”にほれ込んでしまう名品です。前期のみ展示です。

「葡萄松鼠図」はいかにもおいしそうな実を付けたブドウの下で、リスが実を取りあう姿を描いています。リスの羽毛のモフモフ感を墨だけで表現した、こちらも”超絶技巧”です。ブドウもリスも子孫繁栄の象徴で、それを現すようにとても明るい雰囲気に仕上がっています。観る者すべてをほのぼのとさせる名品です。前期のみ展示です。

【展覧会公式サイトの画像】 桃花源図

2F-3展示室は「昆虫/魚蝦/山水」です。「桃花源図」は斉白石の表現力の多様性を垣間見ることができます。旅で見た景観や古典の山水を、雄大かつモダンに表現しています。伝統的な文人画のような高尚さよりも、暖かさを重視して表現しています。雄大な山の間に、紅葉している木を控えめに配置しています。構図のバランスも素晴らしい名品です。

2F-5展示室の須磨コレクションの斉白石も、北京画院所蔵作品に負けず劣らずの名品が揃っています。須磨弥吉郎の審美眼がわかる一室です。


平成知新館からながめる夕陽

斉白石の作品が約160億円で、2017年に北京のオークションで落札されたことが話題になりました。近年の日本人アーティストの落札額では、村上隆のフィギュア作品の約16億円が最高額です。中国における斉白石の人気と、中国人の財力には度肝を抜かれます。

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



「気」を理解すると、中国絵画が楽しくなる

________________________________

京都国立博物館
日中平和友好条約締結40周年記念 特別企画
中国近代絵画の巨匠 斉白石
特別企画 斉白石 【美術館による展覧会公式サイト】

特集展示 初公開!天皇の即位図 【美術館による展覧会公式サイト】
名品ギャラリー 須磨コレクションにみる斉白石の名品 【美術館による展覧会公式サイト】

主催:京都国立博物館、北京画院、朝日新聞社
会場:平成知新館2F-1~4展示室
会期:2019年1月30日(水)~3月17日(日)
原則休館日:月曜日
入館(拝観)受付時間:9:30~16:30(金土曜~19:30)

※2/24までの前期展示、2/26以降の後期展示で一部展示作品/場面が入れ替えされます。
※この展覧会は、2018年12月まで東京国立博物館、から巡回してきたものです。
※この展覧会は、今後他会場への巡回はありません。
※コレクションの常設展示も並行して行われています。



◆おすすめ交通機関◆

京都市バス「博物館三十三間堂前」下車、徒歩0分
京阪電車「七条」駅下車、3,4番出口から徒歩7分
JR「京都」駅から徒歩20分
JR京都駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:10分
京都駅烏丸口D1/D2バスのりば→市バス86/88/100/106/110/206/208系統→博物館三十三間堂前

【公式サイト】 アクセス案内

※休日の午前中を中心に、京都駅ではバスが満員になって乗り過ごす場合があります。
※休日の夕方を中心に、渋滞と満員乗り過ごしで、バスは平常時の倍以上時間がかかる場合があります。
※この施設には有料の駐車場があります(公道に停車した入庫待ちは不可)。
※駐車場不足により、クルマでの訪問は非現実的です。


________________________________

→ 「美の五色」とは ~特徴と主催者について
→ 「美の五色」 サイトポリシー
→ 「美の五色」ジャンル別ページ 索引 Portal

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

庭園日本一の足立美術館は進化し続けている

2019年02月02日 | 美術館・展覧会

庭園と横山大観のコレクションで名高い、島根県の足立(あだち)美術館を訪れました。新年早々に公式サイト上で「アメリカの日本庭園専門誌で16年連続日本一」と紹介されていたように、欧米人観光客の姿が確かに目立ちます。

  • 庭の大きさに加え、完璧に手入れが行き届いた状態に驚かされる
  • 大観以外にも竹内栖鳳ら近代日本画コレクションの幅は広く、所蔵品だけで展覧会が回せる
  • 日本の地方にある美術館としては最も成功している一つ、来館者対応がとても上手
  • 庭が綺麗すぎて逆に風情がないという声もある、時間の経過によってどう風情が出るかが楽しみ


今や来館者数が年間60万人を超える日本でも有数の美術館になっています。決して観光客が多いとは言えない山陰という不利な立地を考えると、驚異的な数字です。


枯山水庭をのぞむ

足立美術館は1970(昭和45)年、大阪で繊維・不動産業で財を成した地元出身の実業家・足立全康(あだちぜんこう)によって創設されました。5万坪に及ぶ庭園と美術館の敷地は、足立全康の実家があったところです。

足立全康は開館から亡くなるまでの20年間、庭づくりとコレクションの充実に情熱を注ぎました。完璧なまでの庭の手入れは「庭園もまた一幅の絵画である」という足立全康の信念に基づくものです。


足立全康の銅像

美術館では来館者への情報提供としてとても面白い取り組みをしています。庭園のライブカメラ映像をYou Tubeで流しており、四季の植生の様子を確認することができます。



庭園は美術館の展示室を移動する間の随所から鑑賞することができます。3か所の喫茶室・茶室が設けられており、格別の目の保養ができる環境が整えられています。

庭は表情の異なる4通りが造られていることも人気の秘密です。庭園全体を回遊することはできませんが、建物の近くの一部は散策することができます。「生の掛軸」と名付けられた、額縁のように壁に開けられた空間は絶好の写真撮影スポットになります。京都の禅寺でもよく見かける仕掛けですが、多くは写真撮影ができません。


生の掛軸

【美術館公式サイトの画像】 橋本関雪「唐犬図」
【美術館公式サイトの画像】 上村松園「娘深雪」

本館2Fが主な展示室で、四季毎の特別展と共に、横山大観作品専用の「大観室」もあり、幅の広い近代日本がコレクションを鑑賞できます。昨年2018年に京都と東京の国立近代美術館で開催された「横山大観展」には、代表作「紅葉」をはじめとする多くの作品が足立美術館から貸し出されていました。

大展示室では、2018年12月~2019年2月は、橋本関雪のコレクションが大々的に展示されています。「唐犬図」は舶来の犬を描いた作品で、関雪らしくどこか異国情緒が漂います。赤いボタンが構図を見事に引き締めている名品です。

小展示室では複数の近代日本画家の作品が展示されています。上村松園の「娘深雪」は少女が見せた一瞬の可憐な表情をとらえています。松園の代表作の一つと言えるでしょう。

本館1Fには木彫・工芸・動画の展示もあります。入口横の陶芸館では河井寛次郎と北大路魯山人の作品が鑑賞できます。新館では現代日本画家の作品を展示しています。


借景に亀鶴の滝

【美術館公式サイト】 ミュージアムショップ

本館と新館それぞれにミュージアムショップが設けられており、所蔵品や庭のポストカードのラインナップがとても充実しています。お菓子を始め、オリジナルグッズが豊富で見ているだけでも楽しめるほどです。

5万坪もある庭をここまで完璧に維持するのは巨額の費用がかかっていると推察されます。日本人では整いすぎていて落ち着かないと感じる人もいます。一方世界的には、庭や建物、陶磁器などの立体物には幾何学的な美しさが好まれます。

京都の庭に風情があると感じるのは、歴史の長さが生み出している部分もあります。その意味で足立美術館の庭園もこれから時間を積み重ねていくことになります。どのような風情が出てくるのかが楽しみです。

2020年には北大路魯山人専用の展示館もできるようです。足立美術館は常に進化し続けていると感じます。


入口

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



ライフネット生命創業者が語る、日本の昔の大金持ちの豪放な生き方

________________________________

足立美術館
冬季特別展/2018
生誕135年 孤高の画家 橋本関雪
【美術館による展覧会公式サイト】

会期:2018年12月1日(土)~2019年2月28日(木)
原則休館日:本館なし、新館1/16(展示替え期間、年5回程度)
入館(拝観)受付時間:9:00~16:45(4-9月は~17:15)

※会期中に展示作品の入れ替えは原則ありません。
※この展覧会は、今後他会場への巡回はありません。
※この美術館は、コレクションを年4回の特別展で順次展示しています。



◆おすすめ交通機関◆

JR山陰線「安来」駅下車、駅構内バスターミナルから無料シャトルバスで20分
山陰道「安来」ICから車で10分

JR安来駅まで
JR山陰線普通で、松江から20分、米子から10分
JR伯備線特急「やくも」で、岡山から2時間20分
岡山まで
山陽新幹線「のぞみ」で、新大阪から45分、東京から3時間25分、博多から1時間45分

【公式サイト】 アクセス案内
【公式サイト】 無料シャトルバス

※鉄道やバスは本数が少ないため、事前にダイヤを確認の上、利用されることを強くおすすめします。
※この施設には無料の駐車場があります。
※現地付近のタクシー利用は事前予約をおすすめします。


________________________________

→ 「美の五色」とは ~特徴と主催者について
→ 「美の五色」 サイトポリシー
→ 「美の五色」ジャンル別ページ 索引 Portal

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ドイツ的で斬新な「世紀末ウィーンのグラフィック」_京都近美 2/24まで

2019年01月27日 | 美術館・展覧会

京都国立近代美術館で、展覧会「世紀末ウィーンのグラフィック」が行われています。19世紀末にウィーンで花を咲かせた芸術表現が、グラフィック作品として一堂に会します。

  • 印刷メディアが発達する時代、グラフィックには絵画とは異なるマスに伝わるデザインが要求された
  • 安く大量生産できる多色刷り版画にも、日本の浮世絵の刺激もあって多くの芸術家が取り組んだ
  • クリムトやシーレら著名なウィーン分離派のデッサン・グラフィック作品も多数展示


19c後半から国力の衰退が目立ち始めたオーストリア帝国にあって、世紀が変わる前後のウィーンの街はそうした現実から逃避するかの如く、あらゆる文化芸術面では繁栄を謳歌していました。第一次大戦で強国としての地位を完全に失う前夜に製作されたグラフィックアートからは、時代の荒波を文化面で切り開こうとするような強固な意志さえも感じます。



世紀末ウィーンと言うと、日本ではクリムトのエロチックな描写に代表される退廃的なイメージばかりを思い浮かべますが、実際には実に多様です。

音楽ではヨハン・シュトラウス2世やブラームスが活躍し、心理学ではフロイト、生物学では遺伝の法則を発見したメンデルと、世界中で知られるスーパースターがたくさん登場します。国立歌劇場、美術史美術館など現在も世界的に有名な建物も建設されており、ロンドン・パリ・ベルリンと並んでヨーロッパの最先端の文化都市の一つでした。

日本が初参加した1873(明治6)年の万国博覧会では、ウィーンでもジャポネスクが大いに話題となり、クリムトらが東洋の芸術表現に影響を受けています。文化面では本当に華やかな時代だったのです。

ヨーロッパ大陸は19c後半から20c初頭まで、長い歴史の下では巨大戦争に巻き込まれなかった稀有な時代でした。英仏は植民地の拡張、独伊は国家統一と着実に政治経済面での成果を上げていました。オーストリアは領内に抱えた他民族を制することはもはやできなくなっており、強国としては唯一瀬戸際に追い込まれていました。



展覧会を見ると、クリムトによって印象付けられた世紀末イメージをあまり感じません。ゲルマン系のドイツ人らしい、どこか生真面目で幾何学的なデザインが目立ちます。同時代のフランスのアール・ヌーヴォーよりもむしろ、第一次大戦後に花を咲かせたドイツのバウハウスのデザインの方との近さを感じます。

展覧会は4章構成です。

  • I ウィーン分離派とクリムト
  • II 新しいデザインの探求
  • III 版画復興とグラフィックの刷新
  • IV 新しい生活へ


I ウィーン分離派とクリムトでは、芸術とデザインの刷新のために守旧派の団体から”分離した”クリムトやシーレらが目指した表現を紹介しています。世紀末ウィーンのグラフィックを考えるにあたって、原点となるような表現です。

【国立美術館 所蔵作品総合目録検索システムの画像】 クリムト「ウィーン分離派の蔵書票」

クリムトの「ウィーン分離派の蔵書票」は、古代エジプト肖像彫刻のデザインを取り入れており、怪しげな印象も与えますが、下半の文字も目立っています。蔵書票という役割をしっかりと果すデザインになっています。

【国立美術館 所蔵作品総合目録検索システムの画像】 アンドリ「天使と二人の人物(2)」

アンドリ「天使と二人の人物(2)」は、宗教画をデフォルメして明るく描こうとしています。当時の世相を元気づけるような表現が印象的です。

【国立美術館 所蔵作品総合目録検索システムの画像】 エルンスト「湖」

III 版画復興とグラフィックの刷新では、日本の多色刷り版画の影響が強い作品が展示されています。エルンスト「湖」は、遠近法を使わず湖面に移る山の姿で立体感を表現しています。日本の版画の影響が色濃い作品ですが、究極なまでにシンプルな表現が目を引きます。

【国立美術館 所蔵作品総合目録検索システムの画像】 チェシカ他「キャバレー〈フレーダーマウス〉上演本第1号」

IV 新しい生活へでは、ポスター・カレンダーなど新たに登場した様々なメディアに合わせて制作されたグラフィック作品が展示されています。「キャバレー〈フレーダーマウス〉上演本第1号」はショーの内容を説明するパンフレットです。幾何学模様の美しさが目を引きます。夢の国へ誘うムードが漂ってくるようです。


向かい側の京都市美術館では改修工事が着々と進行中

この展覧会の作品は、アパレル会社・キャビンを創業した平明暘氏から2015年に京都国立近代美術館に一括寄贈されたものです。デザインを生業とするアパレル業にあって、世紀末ウィーンのデザインには大きな刺激を受けていたのでしょう。名品が揃っています。

ウィーンの美術は案外知られていません。新しい発見が多くある展覧会です。

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



世紀末文化を生み出したウィーン社会とは?

________________________________

京都国立近代美術館
世紀末ウィーンのグラフィック デザインそして生活の刷新にむけて
【美術館による展覧会公式サイト】

主催:京都国立近代美術館、読売新聞社
会期:2019年1月12日(土)~ 2月24日(日)
原則休館日:月曜日
入館(拝観)受付時間:9:30~16:30(金土曜~19:30)

※会期中に展示作品の入れ替えは原則ありません。
※この展覧会は、2019年4月から目黒区美術館、に巡回します。
※この美術館は、コレクションの常設展示を行っています。



◆おすすめ交通機関◆

地下鉄東西線「東山」駅下車、1番出口から徒歩10分

JR京都駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:30分
JR京都駅→地下鉄烏丸線→烏丸御池駅→地下鉄東西線→東山駅

【公式サイト】 アクセス案内

※この施設には駐車場はありません。
※渋滞と駐車場不足により、クルマでの訪問は非現実的です。


________________________________

→ 「美の五色」とは ~特徴と主催者について
→ 「美の五色」 サイトポリシー
→ 「美の五色」ジャンル別ページ 索引 Portal

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

驚きの相国寺コレクション展覧会がII期_承天閣美術館「温故礼賛」3/24まで

2019年01月16日 | 美術館・展覧会

相国寺・金閣寺・銀閣寺が所蔵する名品を一堂に公開する展覧会「温故礼賛」のII期が、京都の承天閣(じょうてんかく)美術館で始まりました。

  • 禅宗美術・茶の湯・江戸絵画では日本有数の質の高いコレクション
  • I期から大幅に展示替えされ、II期でも必見の名品が目白押し
  • 国宝・玳玻散花文天目茶碗と若冲らも江戸絵画はII期の目玉


室町時代に京都の寺で最も厚遇された相国寺には、足利将軍家の所蔵品である御物(ごもつ)も数多く伝わります。京都にのこされた有数のコレクションを鑑賞できる絶好の機会です。


美術館への”参道”

「温故礼賛」展のI期と比べ、II期では江戸時代の名品の展示に力を入れている印象を受けます。相国寺にずっと伝わる伊藤若冲の作品はもちろん、2004年に閉館した大阪の萬野美術館からの寄贈品もII期展示の主役を演じています。

展覧会の順路で最初に訪れる第一展示室では、主に室町時代の禅宗美術が展示されています。

【美術館公式サイトの画像】 夢窓疎石頂相

禅宗の高僧の肖像画である頂相(ちんそう)としては、驚くほど”美しく”描かれているのが「夢窓疎石頂相」です。頂相は、師から法灯を継いだ証として弟子に贈られるもので、威厳を強調して怖いほどにリアルに描かれるのが一般的です。

夢窓疎石は他の頂相でも、美少年のように描かれることが多く、実際に”男前”だった可能性が高いでしょう。南北朝時代の作品としては保存状態もよく、表情をさらに美しく見せています。

「縄衣文殊図」は寒山拾得図を思わせるような怪しげな表情の描写が目を引きます。文殊菩薩の聖地・中国の五台山に童子の姿で現れた文殊菩薩を描いた元時代の中国の名品です。寒山拾得のような怪しげな表情が、童子というよりも腹のすわった老婆のように見えます。観る者を惹きつけるオーラを出すような名品です。

長澤芦雪の「獅子図屏風」は、二匹の獅子が今にも互いに飛びかからんとする一瞬を描いています。獅子というよりも仙人のような顔の表情は、芦雪らしい”奇”なる表現の典型で、迫力よりもユーモアを感じます。描写はリズミカルで、生き生きとしています。見ると元気が出てくる作品です。


美術館へは庫裏横の門をくぐる

第二展示室は、江戸絵画と茶の湯の名品です。中央には常設展示となっている伊藤若冲の金閣寺書院の障壁画があります。若冲の出世作で、画家としての名声を確立するきっかけとなった作品です。

【美術館公式サイトの画像】 伊藤若冲 鹿苑寺大書院 葡萄小禽図

若冲作品では他に「亀図」が目に留まります。若冲88歳、絶筆に近い作品です。首を伸ばして見上げる亀の姿が、若冲の老境地を表しているようです。

【主催者:京都新聞サイトの画像】 佐竹本三十六歌仙絵「源公忠」、俵屋宗達「蔦の細道図屏風」

大正時代に分割された佐竹本三十六歌仙絵で相国寺が唯一所蔵する「源公忠」もII期で展示されています。黒装束が紙の上で輝くように表現されています。鎌倉時代の作品とは思えない保存状態のよさです。

三十六歌仙は岩佐又兵衛の一連の作品も展示されています。頬を豊かに描く”又兵衛フェイス”は、江戸時代の初めに流行した古典において、平安時代をしのばせる表現として人気を博しました。現代人の目で見ても、雅(みやび)でかつ、斬新です。

俵屋宗達「蔦の細道図屏風」は、宗達らしいダイナミックな構図の中で、蔦(つた)の繊細な魅力を引き出すように描いています。川のように流れる漆黒の部分が空間に緊張感を与え、屏風の置かれた部屋をとても凛とした雰囲気にします。


美術館横には京都の庭では人気の蘇鉄

【美術館公式サイトの画像】 野々村仁清「銹絵寒山拾得図茶碗」

茶碗も名品が揃っています。野々村仁清の「銹絵寒山拾得図茶碗」は、仁清のトレードマークともいえる色絵を用いずに寒山拾得を描いています。水墨画のように高尚な趣があります。

「玳玻散花文天目茶碗」は「無学祖元墨蹟」と並んで相国寺が所蔵する国宝です。II期では揃って展示されています。内面の散花文様の怪しげな輝きは、曜変や油滴とは異なる、天目茶碗としての妖艶な魅力を醸し出しています。

本阿弥光悦「赤楽茶碗 加賀」も、独特の赤みが美しい楽茶碗です。玳玻散花文天目と並んで萬野美術館の旧蔵品です。さらに古くは松平不昧(ふまい)が所蔵していました。


相国寺のアカマツ林に同志社の赤レンガが映える

京の冬の旅の特別公開や季節行事など、冬の京都もイベント満載です。ぜひお出かけください。

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



在りし日の萬野コレクションを篠山紀信が記録していた

________________________________

相国寺 承天閣美術館
温故礼讃 -百花繚乱・相国寺文化圏 II期
【美術館による展覧会公式サイト】

主催:相国寺承天閣美術館、京都新聞
会期:2019年1月13日(日)~2019年3月24日(日)
原則休館日:期間中無休
入館(拝観)受付時間:10:00~16:30

※12/24までのI期展示、1/13以降のII期展示で一部展示作品が入れ替えされます。
※この展覧会は、今後の他会場への巡回はありません。



◆おすすめ交通機関◆

地下鉄烏丸線「今出川」駅下車、3番出口から徒歩10分
JR京都駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:25分
京都駅→地下鉄烏丸線→今出川駅

【公式サイト】 アクセス案内

※この施設に駐車場はありません。


________________________________

→ 「美の五色」とは ~特徴と主催者について
→ 「美の五色」 サイトポリシー
→ 「美の五色」ジャンル別ページ 索引 Portal

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

西宮で新"南画"を味わえる福田眉仙展_大谷記念美術館 2/11まで

2019年01月12日 | 美術館・展覧会

兵庫県西宮市の大谷記念美術館で、明治期に一旦衰退した南画(文人画)に新風を吹き込んだ福田眉仙(ふくだびせん)の展覧会が始まりました。美術館に一括して寄贈された作品を初公開するもので、同時代の他の作家には見られない個性的な作風を楽しむことができます。

  • 中国でスケッチ旅行を3年に渡って続け、写実的な中国の風景表現を身に付けた
  • 想像の世界ではなく自分の経験に基づいて、南画を表現した
  • 後半生を西宮と芦屋で過ごし、中央画壇とは一線を画した制作を続けた


明治以降の南画作品は、富岡鉄斎(とみおかてっさい)や冨田溪仙(とみたけいせん)らに限られることが多く、なかなか目にすることはできません。福田眉仙の”新南画”とも呼ばれる作風は、とても斬新に感じられます。



福田眉仙は1875(明治8)年に相生で生まれ、新聞報道の挿絵画で活躍した久保田米僊(くぼたべいせん)や橋本雅邦(はしもとがほう)に師事し、腕を磨いていきます。雅邦らが創設した日本美術院に参加し、校長となった岡倉天心に深い感銘を受けます。その天心から南画復興を託されたことが、眉仙の関心を中国に向けます。

日露戦争後の1909(明治42)年から3年間滞在し、スケッチを続けます。五感で身に付けた中国の風景は、展覧会でも多くを目にすることができます。

【展覧会公式サイト】 ご紹介した作品の画像の一部が掲載されています

「興隆灘図(こうりゅうたんず)」は、中国の長江の難所の激流に逆らい、人力でロープを引いて船を上流へ引き上げる様子を描いています。眉仙は乗船してこの激流を体験しています。江戸時代の日本人南画家のように、実際の中国の風景を見ずに理想郷として描くとすると、このモチーフはまさに発想されえないものです。

明治以降の南画作品は、江戸時代と比べて水墨画であっても着色される面積が多くなる傾向があります。眉仙の画風にはそれがより顕著に感じられます。スケッチと写生を重視した考えが、着色をきちんとさせたのでしょう。

眉仙の代表作で、姫路市立美術館所蔵の「支那三十図巻」の内、塩田で塩を造る様子を巻物に延々と描いた「自流井図巻」もとても面白い作品です。新南画と呼ばれるにふさわしいモチーフを採用し、そこで働く人々の姿を生き生きと描いています。江戸時代の南画のような、深い精神性を感じさせません。



展覧会では、同時代の作家と眉仙を対比できるよう、館の所蔵作品が展示されています。菱田春草の「秋林遊鹿」は、秋の森に静かに佇む鹿を描いています。春草らしい、写実性と精神性のバランスが保たれた作品です。一方、橋本雅邦の「夏流牧童図」は、深山幽谷の中に生きる牛を描いています。余白の多い水墨画で、江戸時代の南画が重視した精神性を強く表現しています。

このような対比がとても興味深い展覧会に仕上がっています。

1Fのコレクション展の部屋では、伊東深水や北野恒富らの美人画の名作も展示されています。この美術館の所蔵作品の質の高さがわかります。この美術館の企画展を見た後は、併設されているコレクション展を見逃さないようおすすめします。

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



阪神間モダニズムはどのように今に至っているのか?

________________________________

西宮市大谷記念美術館
受贈記念 日本画家・福田眉仙とその周辺
【美術館による展覧会公式サイト】

主催:西宮市大谷記念美術館
会期:2019年1月3日(木)〜2月11日(月)
原則休館日:水曜日
入館(拝観)受付時間:10:00~16:30

※会期中に展示作品の入れ替えは原則ありません。
※この展覧会は、今後他会場への巡回はありません。
※この美術館は、コレクションの常設展示を行っていません。企画展開催時のみ開館しています。



◆おすすめ交通機関◆

阪神電車「香櫨園」駅下車、南口から徒歩8分
JR神戸線「さくら夙川」駅下車、南口から徒歩18分
阪急神戸線「夙川」駅下車、南口から徒歩20分

JR大阪駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:30分
大阪駅(梅田駅)→阪神本線・特急→西宮駅→阪神本線・普通→香櫨園駅

【公式サイト】 アクセス案内

※この施設には無料の駐車場があります。
※道路の狭さ、駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。


________________________________

→ 「美の五色」とは ~特徴と主催者について
→ 「美の五色」 サイトポリシー
→ 「美の五色」ジャンル別ページ 索引 Portal

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

韓国 国立慶州博物館_日本の文化予算の少なさに危機感を覚える

2019年01月06日 | 美術館・展覧会

慶州レポート3回シリーズ最終回は、国立慶州博物館です。韓国ではソウルの国立中央博物館と並ぶ国を代表する博物館です。日本でいう東博や京博・奈良博に該当します。

  • 韓国の歴史と美術を国家として見事にプレゼン、日本の東博の展示はとても貧弱に写るほど
  • 仏像の展示は特に秀逸、日本の飛鳥仏の原点を見て取れる
  • 瓦や鋏の工芸品を見ると、あたかも正倉院展を見ているよう


日本の古代文化の多くが朝鮮半島から伝わったことを学べる博物館です。文化は、ゼロから突然現れるわけではありません。


国立慶州博物館の外観

国立慶州博物館を訪れた最初の印象は、展示品の質の高さは言うまでもなく、展示そのものに対する意気込みを大いに感じたことです。韓英中日の4か国語の表記が完璧に整備され、国家・民族としての歴史や文化を外国人に見てほしいという意気込みが見事に表現されています。お金だけでこうした状況を論ずることはできませんが、具体的な数字としてあげてみると、その差は明らかです。

文化庁による2016年の主要国の文化予算額の調査結果によると、日本の約1,000億円に対し、韓国は約2,500億円あります。韓国より日本の方がGDPで3.5倍、人口一人当たりGDPで1.4倍、人口で2.5倍、大きいですが文化予算は2.5分の1です。人口一人当たりの文化予算ですは世界韓国の6分の1以下の水準です。

【文化庁公式サイト】 諸外国の文化政策に関する調査研究

国家を代表する国立の博物館・美術館の展示には、こうした文化予算の格差を隠すことはできません。予算がないからと行動しようとしない公務員の体質には決して賛同できませんが、公共予算はその国家・自治体としてどの分野に重点を置こうとしているかを示すバロメーターでもあります。こうした格差は、結果的に博物館・美術館の展示の印象として観覧者の記憶に残り、SNSで発散されることになります。


韓国の仏像を、日本の奈良・中宮寺の菩薩半跏像とも比較

広大な敷地に設けられた主に4つの建物と屋外で、常設展示を構成しています。敷地の中央にあり、最も大きいのが新羅歴史館です。石器時代からの新羅の歴史を紹介しています。

【国立慶州博物館公式サイトの画像】 装飾宝剣
【国立慶州博物館公式サイトの画像】 四天王像塼

「装飾宝剣」はペルシャや中央アジアからもたらされたものと考えられています。一目で見て高い身分と経済力がないと入手できないと思える一級品です。古代の新羅の繁栄ぶりが如実に伝わってきます。

「四天王像塼」は、瓦のような平板である塼(せん)に施された彫刻です。上半身が失われていますが、邪気を踏みつける姿がとても優美に彫刻されています。どこかエキゾチックな西域の香りのする造形が魅力的です。

【国立慶州博物館公式サイトの画像】 弥勒三尊仏
【国立慶州博物館公式サイトの画像】 鴟尾

新羅美術館は仏教美術に関する展示がなされています。「弥勒三尊仏」は子供のような表情から「児童仏陀」とも呼ばれて親しまれています。中尊は、日本ではほとんどない、椅子に座る倚像で、隋代に見られる中国のおおらかな様式で造られています。とても温かみのある石像です。

新羅最大の寺院だった皇龍寺に関する展示も、とても充実しています。皇龍寺は、モンゴル軍の侵入で焼き払われた後、再興されることはありませんでした。跡地から発掘された遺物からは、往時の荘厳さを充分に感じることができます。

展示室中の巨大な「鴟尾」は破片を集めて復元したものですが、日本の奈良・唐招提寺の鴟尾と同じく圧倒的な存在感があります。施された文様はとても上質で、国家を代表する寺院にふさわしい威厳も兼ね備えています。


今は亡き新羅最大の寺院・皇龍寺の復元模型

国立慶州博物館は、世界遺産にも指定されている慶州歴史地区内にあり、新羅の都の中心部だったエリアです。館に隣接する月池は、宮殿の庭園の池だったところで、周囲から発掘された遺物を「月池館」で展示しています。

【国立慶州博物館公式サイトの画像】 鋏

展示品では「鋏(はさみ)」が印象に残りました。2018年の正倉院展でも似たデザインのはさみが展示されていました.ろうそくの灯を消すために芯を切るはさみです。王朝の道具にふさわしい優雅なデザインと精緻な文様がとても印象に残ります。日本との文化交流の重みを感じさせる名品です。


新慶州駅に到着するKTX

慶州は韓国の新幹線KTXが通っているため、ソウルからも短時間で移動できます。博物館の周囲では巨大な新羅時代の宮殿や寺院の復元計画が進行中です。同じ慶州にある世界遺産・仏国寺や石窟庵も復元部分が少なくないですが、復元と言われなければ気付かないほど精巧にできています。

韓国の文化遺産の復元に架ける国家の意気込みは日本とはけた違いです。奈良の平城宮跡の復元のスピードは、韓国と比べると新幹線と人力車のような差を感じます。文化は観光産業の根幹となります。観光は世界的に有力な産業として成長を続けます。たとえ本物でなくても空間を体験できることは、かけがえのない観光の記憶として残るのです。

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



日韓共同編集の歴史遺産ガイドの決定版

________________________________

国立慶州博物館(クンニッキョンジュパンムルグァン)
【公式サイト】 http://gyeongju.museum.go.kr/jpn(日本語)
【釜山旅行情報サイト PUSAN NAVI】 国立慶州博物館(日本語)

原則休館日:1/1、旧正月、秋夕(旧暦8/15)
入館(拝観)受付時間:10:00~17:30(土日祝~18:30、毎月最終水曜・3-12月の土曜~20:30)



◆おすすめ交通機関◆

高速鉄道KTX/SRT「新慶州(シンキョンジュ)」駅下車、700番バスで所要25分「雁鴨池」バス停下車、徒歩3分
慶州高速バスターミナルから11/600/601/603/604/605/607/608/609番バスで所要5分「博物館」バス停下車、徒歩1


新慶州駅まで ソウル駅からKTXで2時間、プサン駅からKTX/SRTで30分
慶州高速バスターミナルまで 釜山総合バスターミナルから50分

※鉄道やバスは本数が少ないため、事前にダイヤを確認の上、利用されることをおすすめします。

【公式サイト】 アクセス案内


________________________________

→ 「美の五色」とは ~特徴と主催者について
→ 「美の五色」 サイトポリシー
→ 「美の五色」ジャンル別ページ 索引 Portal

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

京博のお正月は展示が濃厚|美の五色 ~雪舟の国宝も出ます

2018年12月25日 | 美術館・展覧会

京都国立博物館でお正月恒例の特集展示が始まっています。毎年の干支にちなんだ作品を中心に、並行して複数の特集展示が行われます。今年は「亥づくし」「美麗を極める中国陶磁」「京の冬景色」の3つです。

  • 平常展示料金で特別展並みの質の高い所蔵作品を鑑賞できる
  • 知名度の高い国宝が展示されるのも恒例
  • 1/2から開館、初詣の後に京博で目の保養ができるのは乙(おつ)


今回展示される国宝の目玉は、雪舟の慧可断臂図(えかだんぴず)です。琳派の渡辺始興(わたなべしこう)の障壁画もとても見応えがあります。お正月はぜひ京博に。



日本の国立博物館では東京と京都で毎年、お正月にちなんだ特集展示を行っています。両館とも最も安い平常展示(京博)・総合文化展(東博)料金で鑑賞できる上に、著名な国宝が展示されるのが恒例になっています。

【東京国立博物館公式サイト】 博物館に初もうで

京博の特集展示「亥づくし」「美麗を極める中国陶磁」「京の冬景色」と平常展示は、平成知新館の1-2Fを使って行われています。

【京都国立博物館の画像】 森狙仙「雪中三獣図襖」京都・廣誠院蔵

「亥づくし」ではイノシシの名画をたっぷり楽しむことができます。かわいいとは思われにくい風貌をしていますが、いにしえより日本の絵師はイノシシの作品もたっぷり描いています。

森狙仙の「雪中三獣図襖」は、ほとんど彩色がない水墨画ですが、猪の親子が雪の中を歩く姿を力強く描いています。体毛の繊細な表現には温かさすら感じるほどで、狙仙の腕の良さが見て取れます。森狙仙は、動き出しそうな写真のような動物画を、江戸時代後期に大阪で描いた絵師です。猿の絵がよく知られますが。このイノシシも絶品です。

【京都国立博物館の画像】 作者不詳「十二類絵巻」個人蔵

重要文化財の「十二類絵巻」は、室町時代の作品です。十二の干支の動物がそれぞれ伊達な装束に身を包んで歌合(うたあわせ)を楽しむお伽話を描いています。鳥獣戯画を思わせるような表現で、日本の古典的”マンガ”の傑作です。

【京都国立博物館公式サイト】 出展作品の画像の一部が掲載されています

「美麗を極める中国陶磁」は、清時代を中心とした中国陶磁器の特集展示です。2012年に京博に寄贈された松井コレクションの全貌を紹介するものです。清時代の陶磁器は製陶技術が高度に発展したことから、色彩は多様で、文様表現はとても緻密であることに特徴があります。中国や日本で見られる”超絶工芸”を思わせる作品も多くあります。

【京都国立博物館の画像】 塩川文麟「平等院雪景図」

「京の冬景色」も名作揃いです。幕末の京都の絵師・塩川文麟(しおかわぶんりん)による「平等院雪景図」は幻想的な作品です。京都の南にある宇治は、温かいため雪景色のイメージがないところです。そんなところを、ほとんど彩色を用いずに描いており、一度は宇治の雪景色を見てみたいと想像を膨らませます。他には国宝の法然上人絵伝も必見です。

【京都国立博物館の画像】 雪舟「慧可断臂図」

雪舟の慧可断臂図は、「亥づくし」期間中の平常展示のテーマの一つ「禅宗の人物画」で展示されています。何度見ても達磨のぎょろりとした目に圧倒的な迫力を感じます。入門を達磨に請うため腕を切り落とした慧可が姿を表した一瞬をの緊張感を、達磨の目がカメラのごとくとらえているようです。私が最も好きな雪舟の作品です。

【京都国立博物館の画像】 渡辺始興「松に百合図襖」奈良・興福院蔵

「亥づくし」期間中の平常展示のもう一つのテーマ「渡辺始興の絵画」もおすすめです。尾形光琳に学び、近衛家に仕えた渡辺始興は、琳派に属すると一般的には考えられます。狩野派のような雄大さや、やまと絵の繊細さも持ち合わせています。「松に百合図襖」は、複数の画風がブレンドしたように感じさせる名作です。構図は狩野派のように雄大ですが、表現や色彩は琳派のように艶やかです。

四季草花図屏風ほか、四季耕作図屏風も名品です。個性的な名品が多いこの一角は、時間をかける価値があります。


8年かかる耐震工事中の明治古都館

今年の京博のお正月は、”濃厚”です。京都の冬の空によく合います。

一つだけ難があるとすれば、特集展示と平常展示の違いが分かりにくいことです。これは東博でも同様です。多くの日本美術は西洋美術と異なり恒久展示はできないので、特集展示も平常展示も名称を統一して、テーマの名称だけで展示内容をPRした方がすっきりすると思います。みなさんはどうお感じになるでしょうか。

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



ハシモトマリは京博の名品をどのように語るか?

________________________________

京都国立博物館
特集展示 京の冬景色 【美術館による展覧会公式サイト】
新春特集展示 亥づくし ―干支を愛でる― 【美術館による展覧会公式サイト】
特集展示 美麗を極める中国陶磁 【美術館による展覧会公式サイト】
平常展示 【美術館による展覧会公式サイト】

会場:平成知新館1-2F
会期:2018年12月18日(火)~2019年1月27日(日)(美麗を極める中国陶磁は~2月3日(日))
原則休館日:月曜日、12/25-1/1
入館(拝観)受付時間:10:00~16:30(金土曜~19:30)

※会期中に展示作品の入れ替えは原則ありません。
※この展覧会は、今後他会場への巡回はありません。



◆おすすめ交通機関◆

京都市バス「博物館三十三間堂前」下車、徒歩0分
京阪電車「七条」駅下車、3,4番出口から徒歩7分
JR「京都」駅から徒歩20分
JR京都駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:10分
京都駅烏丸口D1/D2バスのりば→市バス86/88/100/106/110/206/208系統→博物館三十三間堂前

【公式サイト】 アクセス案内

※休日の午前中を中心に、京都駅ではバスが満員になって乗り過ごす場合があります。
※休日の夕方を中心に、渋滞と満員乗り過ごしで、バスは平常時の倍以上時間がかかる場合があります。
※この施設には有料の駐車場があります(公道に停車した入庫待ちは不可)。
※駐車場不足により、クルマでの訪問は非現実的です。


________________________________

→ 「美の五色」とは ~特徴と主催者について
→ 「美の五色」 サイトポリシー

→ 「美の五色」ジャンル別ページ 索引 Portal

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする