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見ればスッキリするボナールの魅力 ~六本木・国立新美術館 12/17まで

2018年11月06日 | 美術館・展覧会

鮮やかな色使いながらもおぼろげな表現が魅力的な、世紀末のパリで活躍したナビ派のピエール・ボナール。オルセー美術館が誇るボナール作品100点以上から彼の生涯をたどる大規模回顧展が六本木の国立新美術館で行われています。

当時のパリで流行していた浮世絵に傾倒し「日本かぶれのナビ」と呼ばれた初期の作品は、縦長構図や平面的な表現で描いており、エキゾチックな印象を与えます。数多い裸婦の絵は、モデルの大胆なポーズに最初目が驚きますが、何気ない瞬間の女性の美しさをおぼろげなタッチで絶妙に表現しています。

彼は、絵では否定した写実性を、当時の最先端技術・写真で楽しんだようです。実に構図が面白い作品が多数あります。ポスト印象派からさらに写実表現が少なくなっていくモダンアートへの過渡期を代表するボナールの作品は、世紀末の時代に新しい芸術表現を求めたパリやフランスの空気を象徴するものと言えます。

わかりにくそうなイメージを持たれますが、鑑賞後にはそんなイメージがとてもスッキリします。ブラウザーで見られる展覧会紹介の動画もUpされています。予習・復習ともにおすすめです。

【展覧会のみどころ 公式動画】


乃木坂駅から新美へ向かう廻廊はいつも清々しい

ピエール・ボナール(Pierre Bonnard)は1867年にフランスの役人の家に生まれました。現在上野・東京都美術館で開催中の「ムンク」とほぼ同世代の、世紀末を代表する画家の一人です。パリで絵を学んでいた際にポール・セリュジエやモーリス・ドニと知り合い、ナビ派を結成します。ナビとはヘブライ語で預言者を意味します。自分たちの新しい画風が将来きっと世で評価されるとの思いを込めたのでしょうか。

ナビ派の結成は、セリュジエがゴーギャンから大胆な色使いを教えられたことがきっかけになったと言われています。ボナールの作品も色使いが大きな魅力となっており、モチーフの描写よりも画面全体の色彩の構成を重視ています。結果、おぼろげな表現が目立ち、写実性で勝負しない作品を生み出していきます。写実性は写真には勝てないと、早い段階から気付いていたような気がしてなりません。



展覧会は、浮世絵など日本美術の影響を受けた作品から始まります。彼の画家人生の初期の頃です。西洋絵画にはない、奥行きを持たず影を描かない平面的な描写が目を引きます。ボナール作品は後世でも平面的な表現が目立ちますが、若いころに自分の個性として身に着けたことがわかります。

【オルセー美術館公式サイトの画像】 庭の女性たち 格子柄の服を着た女性
【オルセー美術館公式サイトの画像】 黄昏(クロッケーの試合)

「庭の女性たち」は、西洋絵画には少ない縦長の画面に菱川師宣の見返り美人のように斜め後ろから女性を描いています。服の格子柄にボディラインに合わせた凹凸が見られないことが、西洋絵画としてはエキゾチックに見えます。「黄昏(クロッケーの試合)」は、全体的に写実性が残る表現ですが、こちらも服に凹凸はありません。モチーフ自体は西洋的ですが画面の印象は斬新です。

彼は初期にはロートレックのようなポスターも多く制作していました。人物に躍動感のあるロートレック作品に比べ、人物をデフォルメした平面的で洒脱な表現が魅力です。

【オルセー美術館公式サイトの画像】 ル・グラン=ランスの庭で煙草を吸うピエール・ボナール

ボナールは写真がとても気に入っていたようです。恋人マルトの姿や子供たちが戯れる様子の作品が多数展示されています。煙草を吸ってくつろぐ一瞬をとらえたボナール自身のスナップ・ショットも印象的です。

【オルセー美術館公式サイトの画像】 化粧台


ボナールは裸婦をとてもたくさん描いています。恋人のマルトを描いたものもありますが、複数のモデルがいたことが知られています。顔を描いていない作品がほとんどで、感情は伝わってきません。無防備で大胆な一瞬を写真のようにとらえた構図が魅力的です。

不思議なことに裸婦が目立っていません。周囲の光景に裸婦を溶け込ませるかのように、鮮やかな色彩を巧みにまとめています。その構成にボナールの腕のすごさを感じます。大胆なポーズをエロチックに見せず、女性の生命力を美しく表現しています。「絵の方を生きているようにすることだ」とボナールは語っています。裸婦作品はまさに絵の方が生きています。

【オルセー美術館公式サイトの画像】 猫と女性 あるいは餌をねだる猫

何気ない一瞬をキャンバスに表現することを、ボナールは「時間の静止」ととらえていました。室内や静物画の作品の展示会場のサブタイトルにもなっていますが、絶妙のネーミングです。「猫と女性 あるいは餌をねだる猫」は恋人マルトとお気に入りの飼い猫を描いています。ボナール特有のおぼろげな表現ながらも、本当に「時間の静止」を表現したように見えるとことがすごい作品です。

後半生の作品は風景画が多くなっています。おぼろげな表現とバランスの取れた色彩で見事にまとめるボナールの腕がさらに進化していることが分かります。


絵画体験「AIT」※この空間のみ写真撮影可

展示の最後には、ボナール作品から6点の風景画や室内画を選び、彼がキャンバスに向かっていた360度の視界をプロジェクションマッピングで表現した「AIT」を体験できます。キャンバスに描かれなかった視界を確かめることによって、ボナールがなぜその角度を採用したか、それぞれ思いを巡らせることができます。画家の感性に触れることができる新しい試みです。

【展覧会公式サイト】 Art Impression Technology



印象派でもモダンアートでもなく特徴を捉えにくいと思われがちなボナールですが、展覧会を鑑賞するとそんなイメージは見事に払しょくされます。期待を裏切ることはない画家です。

こんなところがあります。
ここにしかない「美」があります。



不思議なボナールを紐解くにはこの一冊

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国立新美術館
オルセー美術館特別企画 ピエール・ボナール展
【美術館による展覧会公式サイト】
【主催メディアによる展覧会公式サイト】

主催:国立新美術館、オルセー美術館、日本経済新聞社
会場:企画展示室1E
会期:2018年9月26日(水)~12月17日(月)
原則休館日:火曜日
入館(拝観)受付時間:10:00~17:30(金土曜~19:30)

※会期中に展示作品の入れ替えは原則ありません。
※この展覧会は、今後他会場への巡回はありません。
※この美術館は、常時公開している常設展示はありません。企画展開催時のみ開館しています。



◆おすすめ交通機関◆

東京メトロ・千代田線「乃木坂」駅下車、6番出口から徒歩2分(美術館直結)
都営・大江戸線「六本木」駅下車、7番出口から徒歩5分
東京メトロ・日比谷線「六本木」駅下車、4a番出口から徒歩8分
JR東京駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:30分
東京駅→東京メトロ丸の内線→国会議事堂前駅→東京メトロ千代田線→乃木坂駅

【公式サイト】 アクセス案内

※この施設には駐車場はありません。
※道路の狭さ、渋滞と駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。


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