12月31日 大晦日
深夜、犬の遠吠えがかすかに聞こえた。地底から響く音楽のように。ワッウーと永くもの悲しく、
またあっうーと何かを訴えるように僕のベッドにまでその声は届く。なにを訴えているのだろう。
やるせないなにかが、朝になったいまでも僕のからだの奥にこだましている。あれは一体何だった
のだろう。自然の精霊たちの何かの訴えだろうか、あるいは生あるものの怨念の言葉だったのだ
ろうか。
しかし、その音楽性を日本語に翻訳するのは不可能だ。なぜならもとの言葉との音韻体系が
まったく違うのだから。うすっへらな論理で語れる世界とは根本的に異なる。つまり僕が聴いた
遠吠えは言葉ではなく、言霊そのものだった。かつては、その言霊を理解する人が身近にいた。
それは呪術師(シャーマン)だ。そして言霊はまさしく治療(ヒーリング)そのものであった。
そうした世界でこそ、人間共同体は数千年もの長い間、平和な生命を保ち続けることができた。
山も海も草も木も生き物も、つまり宇宙のありとあらゆるものが、呪術師の祈りの言霊に育ま
れて全員が豊穣に生きながらえただろう。いったい、人間にとってしあわせとはなんだろう。
僕たちはいまこそ見失った大切な精神性を取り戻さなければならない重大な歴史上の転換点に
さしかかっている。そのためにこそ新しい年はやって来る。新時代のシャーマンよ、いざ出でよ。
アーーーーーウーーーーーン!