江戸川教育文化センター

「教育」を中心に社会・政治・文化等の問題を研究実践するとともに、センター内外の人々と広く自由に交流するひろば

「茨木のり子展」 ~たおやかに 凛として~

2014-06-09 | 随想
世田谷文学館で開催されている茨木のり子展に行ってきました。
その日は、地域の催事開催の関係で、なんと入館料が無料!
豪雨にもかかわらず、多くの方々が来館していました。

展示物を食い入るように読み込む若い男性…。
鉛筆書きの原稿に目を走らせ、メモを取る女性…。
詩人の装飾品や渋い色調の食器類、おつれあいが愛用したスェーデン製の大きな椅子も置かれて、まるで詩人の家のリビングが現れたよう…。

館内は静謐な雰囲気に包まれ、私語の声も聞こえてきません。
端正な生を生き、凛とした作品を遺した茨木さんに、佇まいを正して向き合おうとする来館者の返礼のかたちのあらわれなのでしょう。

本展覧会でのいろいろなブースの中で、わたしが一番心ひかれたのは、「新たな歩みを進めるために~隣国語の森へ」でした。

隣国語とは韓国語(ハングル)のことです。
茨木さんは最愛の夫が亡くなった後、50歳からハングルを学び始めます。
なぜ、ハングルを学ぼうとしたのでしょうか?

「日本語がかつて蹴ちらそうとした隣国語(ハングル)
消そうとして決して消し去れなかった(ハングル) 
ゆるして下さい(ヨンソハシプシオ) 
汗水たらたら今度はこちらが習得する番です」

かつての日本の植民地支配によって、朝鮮民族から、言語(ハングル)を奪い、氏名を奪い、人間の尊厳を侵したことを詫び、茨木さんは、
「倭奴(ウエノム)の末裔」として、「美しい言語の森(ハングル)」に入っていこうと決意するのです。


隣国語の森   茨木のり子

森の深さ
行けば行くほど
枝さし交わし奥深く
外国語の森は鬱蒼としている
昼なお暗い小道 ひとりとぼとぼ
栗はパーム
風はパラム
お化けはトッケビ
(中略)

入口あたりでは
はしゃいでいた
なにもかも珍しく
明晰な音標文字と 清冽なひびきに
(中略)

地図の上朝鮮国にくろぐろと墨をぬりつつ秋風を聴く

啄木の明治四十三年の歌
日本語がかつて蹴ちらそうとした隣国語
ハングル
消そうとして決して消し去れなかったハングル
ヨンソハシプシオ ゆるして下さい
汗水たらたら今度はこちらが習得する番です
(中略)                      
                          詩集『寸志』所収



日本軍により、強制連行された中国人劉連仁さんを書いた長編叙事詩「りゅうりぇんれんの物語」にも繋がる、茨木のり子さんの「戦争責任」への対し方なのだと思います。
心に定めたことを積み上げていくことの清々しい勇気を、彼女はわたしたちに伝えてくれます。
たおやかに、凛として……。

(つづく)


<K>








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