蔵書目録

明治・大正・昭和:音楽、演劇、舞踊、軍事、医学、教習、中共、文化大革命、目録:蓄音器、風琴、煙火、音譜、絵葉書

『出版物を通じて見たる 五・一五事件』 警保局図書課 (1936.3)

2021年02月01日 | 二・二六事件 1 内務省他

     

  出版警察資料第七輯
  出版物を通じて見たる 五・一五事件
               警保局圖書課

    凡例

 一、本書は所謂五・一五事件に關する論告、判決等の記錄及び各種出版物に現はれたる論調を蒐集輯錄せるものである。
 一、本書に摘錄せる参考資料は大體昭和七年五月より昭和九年九月迄の發行のものに限つた。
 
        昭和十一年三月     警保局圖書課

 第一章 五・一五事件の發端及び其の全貌

  第一節 概説

 昭和七年五月十五日午後五時三十分頃陸海軍の制服を着用したる數名の少壯軍人が犬養首相官邸にピストルを擬しつゝ侵入し、「話をすればわかる」と言った犬養首相の面上目懸けて轟然一發、遂に首相は暗殺せられた。突如として白晝帝都に起ったこの暗殺を中心とした所謂五・一五事件は其の政治的背景乃至思想の故に、日本の隅にまで波紋を及ぼし、全日本を震駭せしめ、益々非常時日本の姿を強化せしむるに至った。或る者は周章狼狽發するに言葉なく、評するに文字なく、或る者はその必然性を説き、昭和維新間近にありと叫んだ。斯くして政黨たると財閥たるとを問はず、全國民は今更の如く非常時日本の認識を深めると共にそこに反省の機會が惠まれた。憲政常道の名の下に華やかなりし政黨政治は再吟味せられ、經濟機構には鋭い批判のメスが向けられ、政治、經濟、外交、社會等全般にわたり再檢討の刄は向けられるに至った。斯くして五・一五事件の轟然と響き渡った一發のピストルを契機として、非常時日本打開、國難日本突破の努力が全國民の双肩の上に負はされるに至った。五・一五事件こそは實に非常時日本の再認識を求める烽火であり、國難日本の内部爆發であったのである。

  第四節 公判記錄

   第一款 海軍側公判記録

   (二)檢察官の論告と求刑 

     事件發生の原因

      第三、本件に先立ち發生したる某事件の影響ありたること

 凡そ事の成るは成るの日に成るに非ず由って來る處でありであります、本件も亦その由って來る處久しく一朝一夕に起ったものではないのであります、被告人古賀淸志の當公廷における陳述に依りますれば古賀は某事件に参加したる經緯に依りまして、今囘被告人等の企圖しましたる戒嚴にして宣告せらるゝの狀況に立倒れるときは當然之を収拾してくれる相當の大勢力の存するものであることを知り遂に本件實行計圖を策する決心を為したものであると申して居ります、右の認識は素より古賀の獨斷に基くものでありまして所謂大勢力なるものとは何等連絡は無いのでありますが少なくとも古賀をして斯の如き計畫を索せしむるに至りました事に就ては某事件は最大直接原因を為して居ると斷定することが出來るのであります。
 なほこの機會に於て一言して置きたいことは部下指導に關する上司の態度についてゞあります、この點に關し本件發生當時某官憲が上司に提出したる意見書中に所見があります、曰く「上司中往々彼等の所見に對し極て曖昧模糊たる態度を採り彼等をして上司はその行動を認容し居たるものゝ如く誤信せしめたるやの形跡無きに非ず」といふのであります、之本件原因と申す程の事ではありませぬが上司たるもの下級者を指導するに際し明かに是は是とし非は非としその方向を誤らざらしむる如く努むることは極めて必要ではないかと存じます。 

 第二章 五・一五事件の思想的根據

  第一節 概説 

『社会の人心は輕佻浮薄に流れ、富者は黄金を死藏し歌舞淫楽に耽り、私利私慾のためには國家國民をも毒し政黨は黨利黨略を計り眼中殆ど國家なく、政黨財閥の結託は國利民福を犠牲に供し、社會人心は政治に興味を失ひ信賴をなげ捨て、國民精神又頽廢を來し斯かる腐敗せる社會の反面に於いて農民は餓死線上に彷徨し乍らも一大活路を見出さんと焦躁すと雖も、目標を失ひ、歐化的に陷れるこの社會の現狀を以ってしては如何ともそのすべなし』との慨嘆の念を五・一五事件當事者の腦裡深く懐かしめたる時本件の萌芽は既に生じて居った。然も今日の狀勢一日の放置をも許さずと憂國の情、殉國の至誠よりやむにやまれず國法の重きを犠牲とし、國家の一大改造を目論んで、非常手段を採って立ち上った彼等の心臓の中にこそ、實に軍隊生活、軍隊教育等に依って鍛へ上げられた確乎たる國體に對する信念、明治維新烈士に對する崇慕の念等が宿り、更に大西郷遺訓、北一輝、權藤成郷、橘孝三郎、大川周明等の思想的影響が根深くも潜んで居ることを見のがすことは出來ない。
 斯くの如き諸種の思想的背景の下に現下の内外の情勢を認識し、今にして國民の覺醒を促がし、國家の革新を計るにあらざれば遂に日本は、滅亡するに至るべしとの殉國憂國の至情を根據として奮起した處にその是非の評は別として五・一五事件の特色があり、五・一五事件が國民に深い反省の機會を與へた所が存するのである。

  第三節 背後の思想

   第一款 背後の諸思想

 茲に掲げる背後の諸思想といふは、所謂背後の思想であつて、事件當事者の思想ではない、従つて事件當事者の思想とは多少の相異があることは勿論である。事件當事者達の背後にある社會思想、即ち彼等が影響を受けたる社會思想そのものである。
 彼等の豫審調書又は公判廷に於ける陳述等を通じて見る時、彼等の背後の思想として次の五を擧ぐることが出来る。
 一、大西郷遺訓
 二、北一輝の日本改造思想
 三、權藤成郷の自治制度學思想
 四、橘孝三郎の愛郷思想
 五、大川周明の日本思想
 勿論これ等の諸思想は必ずしも悉く一致するものではなく、相衝突する部分も無いではない、乍併、それにも拘らず復古精神である點に於て、國民歴史の上にその思想の根本を見出してゐる點に於て、東洋的精神の復興である點に於て、日本といふ特殊事情の上にものを見んとしてゐる點即ち国民的精神の自覺をもつてゐる點に於て一つの大いなる共通點を見るのである。

 第三章 五・一五事件に関する論調
 第四章 五・一五事件の出版界に及ぼしたる影響
 第五章 五・一五事件に關する出版物取締の要綱

  第二節 新聞記事差止に依る取締要綱

      日本國民に檄す
          昭和七年五月十五日 陸海軍靑年將校 農民同志

  第三節 一般檢閲標準に依る取締要綱

 殊に本事件に關聯して稍々注目に價するものと認められるものは、所謂落首的な流行歌が世上に現れたことであつて、其の内二種のものは蓄音機レコードに吹込まれ、一般に流布され樣としたのであるが、發行地所轄廳の發見が迅速であつた爲め、其の大部分のものは發賣を阻止することが出來たのであつた
 今流行歌詞の主なるもの二、三を示すと次の通りである。

  ●靑年日本の歌 (昭和八年八月三日附禁止處分)
              海軍中尉 三上卓作

 ツルレコード歌詞 (特283-B)  記念盤 (昭和八年十月六日附禁止處分)

  ●五・一五事件・昭和維新行進曲 (陸軍の歌)
                   畑中正澄作歌
   
 ツルレコード歌詞 (特283-A)  記念盤 (昭和八年十月六日附禁止處分)

  ●五・一五事件・昭和維新行進  (海軍の歌)
                   畑中正澄作歌

  ●五・一五音頭 (昭和八年十月二十日附禁止處分)

 をどりをどるなら五・一五のをどり
     をどりや日本の夜が明ける
 花はさくら木 男は三上
     昭和維新のひと柱
 男惚れする山岸中尉
     問答無用の心意氣
 昔ゆかしい葉がくれ武士の
     ながれ汲むかや古賀中尉
 同志十一正義にむすぶ
     花のつぼみの候補生
 死んだ藤井の心を繼いで
     興しませうよ大亞細亞
 仇の平和のロンドン會議
     八重の黒潮血の叫び
 をどりやをどつても非常時日本
     國のまもりは忘れまい
 
附錄

  五・一五事件に關する文献 (自昭和七年七月 至昭和九年九月)  

    單行本

     附、蓄音機レコード解説書

  題名     番號      發行所     處分年月日

 五・一五事件
 昭和維新行進曲 特二八三A   名古屋市    昭和八、一〇、六(禁止)
     (海軍の歌)       株式會社アサヒ商會
 五・一五事件
 昭和維新行進曲 特二八三B   同 右   同
     (陸軍の歌)
 五・一五事件
 血涙の法廷   特二八一A、B 同 右   同
  (海軍公判) 特二八二A,B 同 右   同
 
  二、新聞紙雑誌

   (一)普通新聞紙
   (二)普通雑誌
   (三)右翼新聞紙雑誌
   (四)左翼新聞紙雑誌

  三、宣傳印刷物

   題名 發行地 發行日附 處分年月日 摘要

五・一五事件記念發賣三枚組一圓 東京 不明 十月七日 ツルレコードの廣告 
五・一五事件血涙の法廷昭和維新行進曲到着特價三枚一組一圓 東京 不明 十月七日 ツルレコードの廣告
昭和維新五・一五事件描寫劇血涙の法廷愛國歌昭和維新行進曲 東京 不明 十月七日 ツルレコードの廣告
昭和維新行進曲の血詞 愛知 東京 不明 十月七日 ツルレコードの廣告



コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。