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「お正月の儀式と饗宴」・「お正月のお菓子」 (1921.1)

2020年12月31日 | 趣味 2 絵葉書、鉄道、料理、関東大震災他

お正月の儀式と饗宴  

             秋穂益實 
  祝席の設備と順序
  正月儀式飲食物の由來

一、屠蘇  の由來は昔支那から傳つたもので正月初め三日間屠蘇又は白散抔 など を酒に加へて飲むのである。之を飲めば、精神が爽快にして疫病に罹 かゝ らぬとしてある、最初我邦 わがくに で之を用ひたのは奈良朝時代で、平安朝時代には尤も盛に行はれてゐた樣である。
二、餅   の由來は、精神粘力強く忍耐力を養ひ、又膽力を增して、四肢溫かくなり、如何なる嚴寒も平氣でゐる事が出來るといふことを意味し、我邦中古における在陣中の糧として用ひられたものである。故に「餈 やどり 」と書いて餅と讀むのが普通餅と云ふ本字であるといふことである。斯くの如き意味のものであるから、寒氣に向つて祝ひ事に餅を多く用ふるのである。
三、鏡餅  の由來は、これは中古以來のこと三種の神器の御神鏡に形どり、天照大神の御前に供へたものである、又武家にては武運長久を祈る爲めに軍神を祭るべく神前に鏡餅を供へたものである。
四、雜煮餅 は支那語で「ほうぞう煮」と云うたもので、之を食すれば身體を溫め、胃の中を調 とゝの ひて元氣を增すと云ひ傳へられて居る。即ち内臓を保養すると云ふ意味で「保臓煮」と云ったもので、貴重なる食物として正月の嘉禮に用ひたものであつて、正月三日の間毎日々々其の餅の數を增してゆき、喰ひ上げて稱する如き緣起を祝ふものである。 
五、田作り を用ふるのは、我が瑞穂の國の誇りである、米田 こめた を作るに大切な肥料の小鰯 こいわし であり、又營養分にも富んで居る食品であるから、芽出度 めでたき 正月及其他の儀式等に用ふるのである。
六、煮豆  を用ふるのは、年中人體を健康 まめ にして暮すことの出來る、滋養分を含み、又味噌、醤油の如き原料及豆腐、麩 ふ 等の如き加工食品の原料として五穀類中最も有益な品であるから正月用儀式食品として用ひられたのである。
七、數の子 は之を食すれば、其れの如く多くの子孫繁榮を祈る意味に於て、芽出度きものとして用ひられたのである。

  正月料理献立及料理法

一、雜煮餅膳部

 ▲橙盛
 ▲舟盛蝦
 ▲雜煮餅

イ、九州雜煮

材料  生鹽 なまじほ 鯛切身、椎茸、里芋、燒豆腐、昆布、壽留女 するめ 、京菜、餅、大根輪切。
調理法 生 いき のよき鯛を三四日位前より鹽を振りて擂鉢 すりばち の如きものに漬け置きて使用する時、適宜の大賽 おほさい の目形に切りて團子串に刺す、里芋は皮の儘 まま 十二分間茹でて皮をむき適宜に切りて鯛の刺しある串に刺す。椎茸は中位のものを水に浸して足を取り里芋の側 そば に刺す。燒豆腐も大賽の目に切り串に刺す。昆布及壽留女は短冊に切り之れも串に刺す京菜は熱湯に鹽少量を加へたる中にてザッと茹で、水に浸し一寸位に切る。大根は皮をむき二三分の輪切りとす。餅は燒かずに湯の中に入れて煮る、かうしてから鍋に水一升を入れ味の素二匁 もんめ を入れて沸騰したる時、串に刺したる材料を敷き笊 ざる 又は目笊に入れて鍋の中に靜に入れ、十分程經て靜に笊の儘出し、残りの汁に醤油三分、鹽 しほ 七分の割合に味をつけ、初めに大根の輪切りを生のまゝ椀の底に敷き其上に餅を入れたる上に串刺の材料を一つ宛 づつ 串より抜きて入れ、汁を注ぎ入れる。

ロ、京阪雑煮

材料  大根、燒豆腐、里芋、水菜、子餅。
調理法 大根は皮を剥きて縱四つ割として、小口よりニ三分位に切る、燒豆腐は大賽の目の形に切る、里芋は皮の儘十二分間茹でて適宜に切る、水菜は茹でて一寸位に切る、餅は燒かずに湯の中にて煮る。かうしてから鍋に水二升 しょう を入れ白味噌百五十匁を擂 す りて混ぜ入れ、味の素二匁を入れ大根を加へて軟かくなりたる時、燒豆腐、里芋を入れて三度沸騰せし時味をつけ椀に餅を入れたる上より材料汁共かける。

ハ、東京雜煮

材料  鷄肉、蒲鉾、人參、牛蒡、芹、海苔、熨斗 のし 餅。
調理法 鷄肉は薄く小口切とす、蒲鉾は小口より二分位に位に切る、人參は短冊切として茹でる、芹は茹でて水に洒 さら し一寸位に切る。海苔は燒きて長さ二寸巾六七分位に切る。熨斗餅は兩面とも色付く位まで燒きて熱湯の中に浸す。そこで鍋に水二升を入れて鷄肉を入れ暫時煮て掬 すく ひ出し、残りの煮汁 だし に醤油二分鹽七分の割合に味をつけ、椀に餅を入れたる側 わき に他の材料を入れ汁を注ぎ入れ、其上に海苔を浮し入れるのである。

 この三ケ日雜煮は、緣起を悦ぶもの故に、九州より始めて東京に登り來る意味にて、九州京阪の雜煮餅は子餅故にあつさり食べると云ふ譯には行かぬ、東京のは、燒きたる餅を用ふる故三日の朝はあつさりと食べさせる意にて東京の雜煮を用ひたのである。
 ▲照田豆 てりごまめ

材料  田作 ごまめ 一升、酒一合、砂糖大匙二杯、醤油一合、水飴十匁、芥子 けし 少量。   
調理法 田作の頭と芥塵 ごみ を去りて、水にてザツと洗ひ水氣を去り焙烙 ほうろく にて煎 い り、次に酒、砂糖、醤油、水飴を鍋に入れ火に掛け少しく煮つめたる中に前の田作を入れて能く混合 まぜ て器に盛り入れ、芥子少量を振りかける。

 ▲煮豆

材料  黑大豆 だいこくまめ 一升、栗一合、砂糖百五十匁、醤油一合。
調理法 豆を水洗ひして鍋に入れ、栗を加へ水一升二合位を入れて火にかけ、鍋蓋を去りて水氣の詰 つま るまで煮て砂糖、醤油を入れ更に煮詰めて鹽を入れ適度迄の味をつけるを冷 さま して器に入れ「チヨーロキ」を撒 ふ りて色取の配合を爲す。

 ▲數の子 

材料  數の子一升、花麴三合、砂糖大匙一杯半、酒一合五勺、醤油一合。
調理法 數の子を米の荒い汁に浸し置き、鹽にて能 よ く揉み水にて洗ふ。次に麴、砂糖、酒、醤油を能く混ぜ合せたる中に割 さ きたる數の子を漬け、一晝夜半位漬込みて麴共に器に盛り入れる。

  吸物及重詰献立
  年始客の献立及料理法

お正月のお菓子   山田節

 普通の家庭でお正月のお祝ひのためにと言つて、特に奥樣方の御自慢のお手製菓子を年始客にお勸めなさる程の方は幾人ありませうか。追々西洋風を學んで、奥樣方がお客樣と話し乍 なが らお手製のお菓子をお勸めになるやうにしたいものです。左に手輕で美味しいものを二ッ三ッ御紹介致しませう。

 一、パンケーキ

 燒き立てのスモーキング、スヰートとして誰にでも珍重されること請合ひです。先づ水半合に白砂糖半合を攪拌 かきまぜ 、煮つめて蜜を作つておきます。それから牛乳二合、メリケン粉一合、パン粉半合、食鹽小匙半分、バタ中匙一杯、鷄卵一個を一緒に鉢で混ぜ合 あは せそれをフライ鍋にオリーブ油を落した上で小判形に燒き勸 すゝめ る時先に作つた蜜をかけます。

 二、クイツクケーキ

 之はおいと言つて直 す ぐ拵 こしら へ出せるお菓子です。バタ一合の三分の一、白砂糖一合と二分の一、鷄卵二個、牛乳半合、メリケン粉一合半、燒粉 ベーングパウダ 小匙三杯、肉桂の粉小匙半分、ニクヅク小匙半分、干葡萄一合を一緒に二三分間に手早く混ぜ合はせ、三十五分乃至 ないし 四十分テンピで燒きます。それを勸める時手頃に切つて出します。

 三、ロール、ケーキ

 之はカステーラに似て居るが、一層風味あつて、誰にでも好まれる菓子です。
 (イ)材料は白砂糖一合の四分の三、鷄卵三個、メリケン粉一合、燒粉 ベーングパウダ 小匙一杯半、白湯 しろゆ 一合、食鹽一掴み。
 (ロ)製法、白砂糖と鷄卵とをよく混ぜ、次に食鹽とメリケン粉と燒粉 やきこ とを一緒に篩 ふる ひて先 さ きのに一緒に混ぜて、白湯一合を加へてよく混ぜ合はせます。それを十分間乃至十五分テンピで燒き、出してから上にヂヤムを薄く敷いて卷きます、冷 ひ えてから手頃に截 き つて勸めます。(賞)

 上の文は、大正十年一月一日発行の雑誌 『婦人倶楽部』 第二卷 第一號 新年號 に掲載されたものの一部である。  



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