蔵書目録

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「美味しい茄子料理いろ〱」 村井政善 (1924.9)

2023年08月09日 | 趣味 2 絵葉書、鉄道、料理、関東大震災他

臺所重寶記
美味しい茄子料理いろ〱
             村井政善

『裏の圃畑 はたけ に、茄子 なす と南瓜 かぼちゃ の喧嘩 けんくわ が御座る。茄子は色が黑いとて、南瓜は脊 せい がひくいとて‥‥』などとあつて、茄子は夏の初めから初秋にかけて豊かに出來、色は黒くも美味なもので盛 さかん に賞用されます。茄子には中々種類が多くて大靑 おおあお 茄子、巾着茄子、佐土原茄子、千成 せんなり 茄子、中成茄子、晩成 おそなり 茄子等があり、漬物や煮物と、種々様々な用途に使用され、殊に田樂、風呂吹、或は茄子の刺身等と替 かは つた料理法もあつて、古くから食通を喜ばせた樣であります。
 多くの料理法の中から、殊に手數を要せぬ、而 そ して甘 うま く出來、どんな人々にも向く樣なものを簡單に述べて見ませう。
   
   〇茄子の衞生煮
 材料 茄子 百五十匁 もんめ (百匁は三百五十瓦 グラム) バター、五匁 牛乳、百匁(二合) 小麥粉、十匁 砂糖、五匁 煮出汁一合 鹽 しほ、醤油 
【料理法】茄子は、まるのまゝ強火の中に投じ、稍々 やゝ 焦 こ げる位に燒 や きます。而 そ して冷水に取り、ちよつと冷して手早く皮をむき、ウテナを切り去り、水を搾 しぼ つて鍋に入れ、煮出汁とバターを加へ、暫く煮て牛乳五十匁(一合)を入れ、一摘みの䀋を加味して、尚暫く煮て砂糖を加へ、残りの牛乳で小麥粉を溶いて、茄子の中に徐々に注 つ ぎ、中火にして度々 たび〲 鍋をゆすぶり乍 なが ら、鍋底に焦げつかぬ樣に暫く煮込み、汁 しる に粘りのついた頃、鹽と醬油とで色のつかぬ樣に鹽梅 あんばい して、程 ほど よく煮込みます。
 茄子に充分味がついた時分に火から下 お ろし、四五人前ぐらゐの器に盛り分け、刻み柚子或は胡椒等を香味として進めます。若 も し牛乳又はバターを好まぬ人は、煮出汁だけで煮込むもよく、或は極 ご く少量の胡麻油を使用するのも結構でございます。
   〇茄子のトマト煮
 材料 茄子、百五十匁(五百二十瓦) トマトケチャップ、五十匁、牛乳五十匁 煮出汁、五十匁(一合) バター、十匁、小麥粉、五匁 鹽、胡椒少々
【料理法】茄子は前の手順にして後 のち 皮をむき、ウデナを切り除 の けておきます。而して鍋に入れ、煮出汁と牛乳とを注 さ し、一摘みの鹽とバターを加へて十分間煮ます。次に水溶きにした小麥粉を徐々に加へ、汁に粘りがついた時分に、トマトケチャップを入れ、尚暫く煮込み、鹽と胡椒とで味加減して、一摘みの味の素を加へて火から下ろし、器に盛り分け、煮汁 だし を充分に注 つ いで進めます。
 此のお料理は、西洋料理でいふと、エッグ・トマトー・オフ・チュードと同じものでありますが、西洋料理の塲合には、煮出汁に代ふるにスープを用ひます。又チャップに代ふるに、トマトソースを使用する事もあります。
   〇燒茄子の酢のもの
 材料 茄子、百五十匁(五百三十五瓦) 玉子の黄身一個分 サラダオイル、二十匁、西洋芥子粉 からしこ 、二匁、酢、一勺 しゃく、味の素、一摘み、鹽、胡椒。    
【料理法】 茄子の酢のものは、云ひ代れば茄子のサラダであります。先づ茄子は前と同樣な手順にしてまる燒きとし、冷水に取つて皮をむき、布巾に包み、俎 まないた にのせ、輕い壓  おもし をして水氣を斷 き つて置きます。次に丼 どんぶり に黄身を入れ、芥子粉及 および 一匁の鹽、味の素、少量の胡椒とを入れ、數本の箸で、 絕えず攪拌 かきまは し乍ら、サラダオイル(油)を少しづつ加へ、充分硬くなつた時、酢を加へ、少量の穂紫蘇 ほじそ を混 ま ぜ合 あは せます。これをマヨネーズ・ソースと謂 い ひます。
 燒茄子を器に盛り分け、その上から程よくかけて進めます。
   〇燒茄子の三杯酢
 燒茄子の三杯酢は、以前の如く燒き上げて、水を斷つた茄子を、一人前宛 づつ 盛り分け、それに酢と砂糖及び醬油とを混和した三杯酢を法 つ ぎ、極く薄削 うすけづ りにした鰹節をのせて進めます。
   〇燒茄子の胡麻醬油
 前の料理に使用したものと同樣に、まる燒きにして水を斷り、器に盛つて、胡麻醬油を注 つ いで進めます。胡麻醬油を作るには、二十匁の黑胡麻を焙烙 はうろく で程よく炒 い つて、乾いた摺鉢 すりばち に取り、十分摺 す つてから、適宜の醬油及び砂糖と、一摘みの味の素とを加へて用ふればよいのであります。
 或は味淋 みりん の少量と醬油とを混和 こんわ し、削鰹節 けづりかつをぶし を適宜に加へて一ト沸騰 たぎり させて用ひるも美味であります。
   〇茄子のバター燒
        (ウォイセスター・ソース)
 中位の茄子を選びまして、ウテナを切り去り、竪 たて 二つ切りにして横串を刺し、金串で茄子に無數の穴をうがち、淸水 せいすい に一寸浸して、少量の䀋と胡椒とを撒布して、稍々兩面からこんがりと燒きます。そしてバターを兩面に塗り、再び炙 あぶ り、狐色になるを程度として、火から下し、串を抜いて器に盛り分け、ウォイセスター・ソース(壜詰 びんづめ のを食料品店で賣つてゐます)を適宜にかけて侑 すヽ めます。若しバターを好まぬ人は、バター代りに、胡麻油を使用すると宜しい。又フライ鍋にバターを煮溶 にとか せて、兩面から程よく燒くもよいのであります。
   〇茄子の胡麻酢和 あへ
 材料 茄子、百五十匁 黑胡麻、十匁(一合は約二十匁) 赤味噌、三十匁 砂糖、十五匁 酢、三勺。
 【料理法】 茄子は前のやうに、燒き茄子として用ふるもよいが、一個の茄子を八つ切位にして、程よく茹でて淸水に取り、さつと晒 さら して水を搾 しぼ つて用ふるもよいのであります。どちらにしても、水を斷 き つて置き、次に焙烙 はうろく の暖 あたヽまつた中に入れ、程よく炒 い つて乾いた摺鉢 すりばち に入れ、充分摺 す つた頃、赤味噌を加へて尚よく摺り乍ら、砂糖と酢とを加へ、一度裏漉 うらご しにかけて後 の ち、下拵 したごしら へをして置いた茄子を和 あ へ、器に盛り分けて供します。又黑胡椒に代ふるに、白胡麻を用ふるにもよく、或は落花生を使用するも結構であります。
   〇茄子の吉野揚げ、柚子擦 おろ し
 材料 茄子、百匁 片栗粉、二十匁 鶏卵、三十匁(約三個) 胡麻油、大根、柚子 ゆず 、醤油
 【料理法】 茄子は、三分厚さの輪切りにして淸水に晒 さら し、水を拭 ぬぐ うて置きます。次に、丼 どんぶり へ片栗粉を入れ、玉子を加へ、一摘みの䀋を加味してよくこね、之を衣として茄子につけ、沸騰した時、胡麻油の中に投じ、こんがりと揚げて西洋紙の上に取り油斷 き りをして器に盛り、擦 おろ し大根に擦し柚子の混合したものを採合 とりあは せ、煮出汁或は醬油を添へて進めます。
   〇旨い茄子の田樂
 材料 茄子、百五十匁 赤味噌、五十匁 味淋 みりん 、二十五匁(約五勺) 砂糖、五匁 鶏卵、十五匁 胡麻油、柚子少々。
【料理法】 田樂 を作るには、最初美味な味噌を拵 こさ へて置かねばなりません。先づ田樂味噌を拵へるには、摺鉢 すりばち で味噌を摺つて、味淋と砂糖及び鶏卵を摺りまぜて裏漉 うらご しにかけ鍋を取つて中火にかけ、御飯杓子で 絕えずかきまぜてとろりと煉 ね つて、火よりおろし、直 たゞ ちに他の器に移して置きます。若し急ぎでないときは、二重鍋 ゆせん で煮るとよいのであります。そして茄子が大きければ、五分厚さの輪切りとし、稍々少なる時は、竪二つに切りにして横に金串を刺し、茄子に無數の穴をうがち、稍々強火にて焦がさぬ樣に燒き、中途で胡麻油を脱脂綿にしめして一二度塗り、ほんのりと燒けた時、切り口に味噌を塗り付け、再び炙り味噌の上面 うへ が乾いた頃火より下し、串を抜き、擦 おろ し柚子を散らし、一人宛 まへ の器に盛り分けて侑 すヽ めます。
   〇茄子の鍋しぎ
 鍋鴫 なべしぎ を拵へますには、先づ茄子を五分厚さの輪切りにして、淸水に一寸晒 さら し、水を斷 き つてフライ鍋にて油燒をなし、若し煮出汁が溜 たま つた時は、鍋蓋を強くして汁を斷ります。而 そ して田樂味噌と同じ樣な味噌を加へ、茄子の碎 くだ けぬ樣に注意して、程よく攪 か き混ぜ乍ら、茄子に味噌が充分つくを度として、火から下ろし、器に盛り分けて侑めます。鍋鴫に用ふる味噌には、玉子も混和する必要はありません。尚味よくするには細かにした鰹節を絹 にかけて後、少量加へればよいのであります。
   〇茄子の船盛り燒
 材料 茄子、百匁 鶏肉、五十匁 玉葱、二十匁 胡麻油、少々 小麥粉、五匁 みりん、三勺、鹽、醤油、柚子少々。
 【料理法】 鶏肉は極く細かに敲 たヽ き、みぢんに切つた玉葱と共に、胡麻醬油で色のつかぬ樣に味をつけ、水溶きした小麥粉を加へて粘りをつけ、火より下しておきます。次に、茄子は竪二つ切りにして、中央を船のやうにくり抜き、まはりに胡麻油を塗つて、中央の凹 くぼ みに鶏肉の煮物を體裁 ていさい よく詰めて、天バンに並べ、よく溫 あたヽま つた天火に納め、二十分間蒸し燒きにして一度取り出し、上に裏漉 うらご しにした玉子をふりかけ、再び天火に納め、上部 うへ に稍々焦げ目のつくを度として、皿に取り、刻み柚子を散らして侑めます。若し天火がない時は、フライ鍋に並べ、焙烙 はうろく を蓋にして、上火を強く下火を弱くして燒きます。

〔蔵書目録〕

 上の文は、大正十三年九月一日發行の雑誌 『婦人倶樂部』 九月號 震災一周年記念 特別讀物號 第五卷 第九號 に掲載されたものである。



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