飲酒中にみられるアルコール依存症者の特徴は自己中心的、否認、他罰的、自己憐憫などとされています。
今回、再び取り上げるドライドランクとは、酒を飲んでもいないのにあたかも酔っ払っているような、断酒中に経験する病的心理状態のことを言います。
この言葉の起源は自助会AAだと聞きました。日本語訳では「空酔い」とか、「飲んでいない酔っ払い」とか呼ばれています。
私が通院中の専門クリニックでは、ドライドランクを病気の再発と位置付けています。再飲酒した患者に確かめてみると、例外なく直前にドライドランクになっていて、再飲酒の「スウィッチが入った」状態であったと話す患者もいるそうです。
以下の項目を読んで、ご自身の心境に当てはまるかお試しください。
*************************************************************************
【ドライドランク自己診断チェックリスト】当てはまるものにチェック
1 ( ) 周囲の人のやることなすことに腹が立つ
2 ( ) 自分のつらさを分ってくれる人なんて誰もいないと思う
3 ( ) もう一生酒を飲めない自分はとても不幸だと思う
4 ( ) うれしいことがあると浮かれやすくなった
5 ( ) 思いのほか口が達者になって人と話し始めたら止まらない
6 ( ) 断酒が続いているのを家族が褒めてくれないので面白くない
7 ( ) 家族の中で自分の立場がなく、情けない
8 ( ) 気分がよくなったので仕事に復帰しても大丈夫と自信がある
9 ( ) 仕事上のブランクを早く取り戻したいと焦りがある
10 ( ) 酒のせいで出世コースから外れた悔しさでいっぱい
11 ( ) 仕事上の悩みが一日中頭から離れない
12 ( ) 身近にいる好みのタイプの異性にむしょうに惹かれている
13 ( ) 時間を持て余していてギャンブルがむやみにしたくなっている
14 ( ) 自分は他の人よりひどくないと思う
15 ( ) 飲みたい気持ちが早くも薄れたので、もう回復できたと思う
16 ( ) 一日が長く感じ、そわそわザワザワして落ち着かないときが
ある
17 ( ) 半ば意識が飛んで、自分が今何をやっているのか分かって
いないことがある
18 ( ) 酒ぐらい一人で簡単にやめられると思う
19 ( ) 抗酒剤を飲まなくても酒はやめられると思う
20 ( ) ノンアルコールのビールなら飲んでみたいと思う
21 ( ) これだけ断酒を続けたから、一杯ぐらい大丈夫と思う
22 ( ) 自分はたとえ酒席に出ても絶対に飲まない自信があると思う
23 ( ) 体験談を語るときは、通り一遍の話を繰り返している
24 ( ) 自助会のミーティングからしばらく足が遠のいている
25 ( ) 他の人の体験談はどの人の話も同じに聞こえ飽き飽きする
(通院中の専門クリニックの教育資料から)
**************************************************************************
いかがでしたか? お察しの通り、上にあげた事例はすべてドライドランクのときになりがちな具体例です。多くが日常でもよく経験する僅かな気分の変化としか思えないため、気に留めないでいることが多いと思います。
もしも、あなたが今ドライドランクの最中なら、意に反して「自分は違う」と密かに否認した項目が多かったかもしれません。すでにドライドランクを脱した後なら、素直に「こんなこともあったなぁー」と認めたことでしょう。
17番目の項目は、私が “自動行動” と名付けているもので、無意識の内にやってしまう行動のことです。再飲酒に直接繋がる可能性が最も高いものではないかと考えています。
ドライドランクのときによく見舞われる心理的変化の要約を下に列挙してみます。上表のリストと比べてみてどうでしょうか?
○あまりにも良い事があり、回復の目安とされる時期よりも早く訪れたと思う
○飲酒をコントロールできるだろうと感じ始めた
○断酒を続ける自信が強くなった
○自分の力で、道を開いていく自信が強くなった
○万能感で自信満々となった
○患者仲間や酒好きな人にやたらお節介したくなっている(自我の肥大)
○なぜ自分だけがこんな目に遭うのかと可哀そうに思う(自己憐憫)
○他人の悪いところが、やたら目についてきた
○仲間の体験談が白々しく感じられてきた
これらは自己中心的、自信過剰、万能感、自我の肥大、自己憐憫などの言葉で説明される心理状態を示していて、上表のリストと合わせると、おおよそどんな気分なのか分ってもらえると思います。自己憐憫の状態になると、容易に他罰的になりやすいとも言われています。
* * * * *
断酒を始めて2ヵ月目ぐらいの頃、専門クリニックの初心者教育プログラムでドライドランクというものがあると教わりました。飲んでもいないのに酔っ払った状態になりがちと聞いたのですが、そう言われても断酒を始めて間もない当時はピンと来ませんでした。
私の場合は、断酒を始めて4ヵ月目ごろからドライドランクらしい状態が始まったようです。その頃の二つのエピソードをご紹介します。
人と話しているときに妙にハシャイだ気分となって、些細なことにも笑い転げていました。あくまでも人と話しているときに限り、思いのほか口達者となり完璧に浮ついた気分になったものです。身体的な回復を実感し、それで心にゆとりが出て来たとばかり思っていました。まさかドライドランクなどとは、夢にも思いませんでした。その一方で、一人でいるときには理由もなく(?)気持ちが空回りしているのをよく感じていました。
次に、第一回目の本ブログでご紹介したエピソードですが、大腸内視鏡検査を受けた日の検査直後、AAで聞いた仲間の体験談に白々しさを覚え、断酒など独力でもできると自信過剰になったことがありました。典型的なドライドランクの症状です。その日の帰り道、今度は一転して不吉で不穏な胸のザワザワ感に襲われました。自信過剰となったことの反動だったのかもしれません。
上記の二番目の出来事は継続断酒11ヵ月目に経験したものです。その直後にネットで詳しい特徴を知り、初めてドライドランクと納得できました。詳しい知識が得られた以降は、ストレスが懸念される度にドライドランクを警戒し、「あっ、今はアレかも!?」と再飲酒しないよう用心して来ました。このようにできるだけ意識することで、無難にやり過ごすことができたのだと思います。
回復過程にある脳内環境のバランスは、情動に係る亢進系と抑制系それぞれの回復速度の違いによって、とかく揺らぎやすい状態にあると仮定してみました。そう仮定すると、典型的なドライドランクの症状は、微妙な揺らぎが外からのストレスで一時的に増幅した結果、バランスの不均衡が顕在化し、一過性の情動不安定として現れたものと説明できるようなのです。
上で述べたエピソードを例に取ると、普通にする内輪の会話などでは軽いストレスが、大腸内視鏡検査などでは強いストレスが、それぞれかかった状態とみることができます。これら外からのストレスに、ドライドランク状態にある脳が敏感に反応した結果が自信過剰や、気持ちの空回り感、胸のザワザワ感として現われたと説明可能なのです。
身近な患者仲間やAAでの体験談を聞いていると、程度に差はあるものの、誰でも断酒中に気分の昂揚感や胸のザワザワ感を経験しています。私はこれらを総称してドライドランク状態と名付けてみました。ドライドランク状態は、受けるストレスの強弱によって現れる症状の強弱も変化するようです。
回復プロセスの移行期には、急性離脱後症候群(Post Acute Withdrawal Syndrome:PAWS)の一つとして誰もが必ず記憶障害を経験します。ドライドランク状態は、再飲酒前に限って現れる特異的な症状ではなく、記憶障害と同じく PAWSの一つ情動障害であると、私は考えています。
断酒継続中のアルコール依存症者は、もっとドライドランクに警戒すべきです。脱したと自覚できるまでは、常に自分はドライドランク中なのだと意識し続けるべきなのです。心当たりに強いストレスと思しきことがあったときが肝腎です。
ドライドランクになると、たとえ些細な異変であっても、その渦中では自覚できないでいるのが当たり前のようです。泥酔中であっても、酔いを自覚することなく自分は酔っていないと否認するのがアルコール依存症の酔っ払いです。それと同様に、ドライドランク中であればそれと自覚できないでいるのも道理なのです。
脱した後で初めて自覚するのがドライドランク、そんな厄介な心理状態なのだと考えるべきです。ドライドランクは回復過程に必定です。常に意識しておくことで再飲酒を回避できるのであれば、どんなに注意してもし過ぎることはありません。ドライドランクを初めPAWSの教育にもっと注力してもらえるよう、医療関係者全員にお願いしたいと思います。
「断酒中のハイテンションは危ない!(ドライドランク)」も併せてご参照ください。
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今回、再び取り上げるドライドランクとは、酒を飲んでもいないのにあたかも酔っ払っているような、断酒中に経験する病的心理状態のことを言います。
この言葉の起源は自助会AAだと聞きました。日本語訳では「空酔い」とか、「飲んでいない酔っ払い」とか呼ばれています。
私が通院中の専門クリニックでは、ドライドランクを病気の再発と位置付けています。再飲酒した患者に確かめてみると、例外なく直前にドライドランクになっていて、再飲酒の「スウィッチが入った」状態であったと話す患者もいるそうです。
以下の項目を読んで、ご自身の心境に当てはまるかお試しください。
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【ドライドランク自己診断チェックリスト】当てはまるものにチェック
1 ( ) 周囲の人のやることなすことに腹が立つ
2 ( ) 自分のつらさを分ってくれる人なんて誰もいないと思う
3 ( ) もう一生酒を飲めない自分はとても不幸だと思う
4 ( ) うれしいことがあると浮かれやすくなった
5 ( ) 思いのほか口が達者になって人と話し始めたら止まらない
6 ( ) 断酒が続いているのを家族が褒めてくれないので面白くない
7 ( ) 家族の中で自分の立場がなく、情けない
8 ( ) 気分がよくなったので仕事に復帰しても大丈夫と自信がある
9 ( ) 仕事上のブランクを早く取り戻したいと焦りがある
10 ( ) 酒のせいで出世コースから外れた悔しさでいっぱい
11 ( ) 仕事上の悩みが一日中頭から離れない
12 ( ) 身近にいる好みのタイプの異性にむしょうに惹かれている
13 ( ) 時間を持て余していてギャンブルがむやみにしたくなっている
14 ( ) 自分は他の人よりひどくないと思う
15 ( ) 飲みたい気持ちが早くも薄れたので、もう回復できたと思う
16 ( ) 一日が長く感じ、そわそわザワザワして落ち着かないときが
ある
17 ( ) 半ば意識が飛んで、自分が今何をやっているのか分かって
いないことがある
18 ( ) 酒ぐらい一人で簡単にやめられると思う
19 ( ) 抗酒剤を飲まなくても酒はやめられると思う
20 ( ) ノンアルコールのビールなら飲んでみたいと思う
21 ( ) これだけ断酒を続けたから、一杯ぐらい大丈夫と思う
22 ( ) 自分はたとえ酒席に出ても絶対に飲まない自信があると思う
23 ( ) 体験談を語るときは、通り一遍の話を繰り返している
24 ( ) 自助会のミーティングからしばらく足が遠のいている
25 ( ) 他の人の体験談はどの人の話も同じに聞こえ飽き飽きする
(通院中の専門クリニックの教育資料から)
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いかがでしたか? お察しの通り、上にあげた事例はすべてドライドランクのときになりがちな具体例です。多くが日常でもよく経験する僅かな気分の変化としか思えないため、気に留めないでいることが多いと思います。
もしも、あなたが今ドライドランクの最中なら、意に反して「自分は違う」と密かに否認した項目が多かったかもしれません。すでにドライドランクを脱した後なら、素直に「こんなこともあったなぁー」と認めたことでしょう。
17番目の項目は、私が “自動行動” と名付けているもので、無意識の内にやってしまう行動のことです。再飲酒に直接繋がる可能性が最も高いものではないかと考えています。
ドライドランクのときによく見舞われる心理的変化の要約を下に列挙してみます。上表のリストと比べてみてどうでしょうか?
○あまりにも良い事があり、回復の目安とされる時期よりも早く訪れたと思う
○飲酒をコントロールできるだろうと感じ始めた
○断酒を続ける自信が強くなった
○自分の力で、道を開いていく自信が強くなった
○万能感で自信満々となった
○患者仲間や酒好きな人にやたらお節介したくなっている(自我の肥大)
○なぜ自分だけがこんな目に遭うのかと可哀そうに思う(自己憐憫)
○他人の悪いところが、やたら目についてきた
○仲間の体験談が白々しく感じられてきた
これらは自己中心的、自信過剰、万能感、自我の肥大、自己憐憫などの言葉で説明される心理状態を示していて、上表のリストと合わせると、おおよそどんな気分なのか分ってもらえると思います。自己憐憫の状態になると、容易に他罰的になりやすいとも言われています。
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断酒を始めて2ヵ月目ぐらいの頃、専門クリニックの初心者教育プログラムでドライドランクというものがあると教わりました。飲んでもいないのに酔っ払った状態になりがちと聞いたのですが、そう言われても断酒を始めて間もない当時はピンと来ませんでした。
私の場合は、断酒を始めて4ヵ月目ごろからドライドランクらしい状態が始まったようです。その頃の二つのエピソードをご紹介します。
人と話しているときに妙にハシャイだ気分となって、些細なことにも笑い転げていました。あくまでも人と話しているときに限り、思いのほか口達者となり完璧に浮ついた気分になったものです。身体的な回復を実感し、それで心にゆとりが出て来たとばかり思っていました。まさかドライドランクなどとは、夢にも思いませんでした。その一方で、一人でいるときには理由もなく(?)気持ちが空回りしているのをよく感じていました。
次に、第一回目の本ブログでご紹介したエピソードですが、大腸内視鏡検査を受けた日の検査直後、AAで聞いた仲間の体験談に白々しさを覚え、断酒など独力でもできると自信過剰になったことがありました。典型的なドライドランクの症状です。その日の帰り道、今度は一転して不吉で不穏な胸のザワザワ感に襲われました。自信過剰となったことの反動だったのかもしれません。
上記の二番目の出来事は継続断酒11ヵ月目に経験したものです。その直後にネットで詳しい特徴を知り、初めてドライドランクと納得できました。詳しい知識が得られた以降は、ストレスが懸念される度にドライドランクを警戒し、「あっ、今はアレかも!?」と再飲酒しないよう用心して来ました。このようにできるだけ意識することで、無難にやり過ごすことができたのだと思います。
回復過程にある脳内環境のバランスは、情動に係る亢進系と抑制系それぞれの回復速度の違いによって、とかく揺らぎやすい状態にあると仮定してみました。そう仮定すると、典型的なドライドランクの症状は、微妙な揺らぎが外からのストレスで一時的に増幅した結果、バランスの不均衡が顕在化し、一過性の情動不安定として現れたものと説明できるようなのです。
上で述べたエピソードを例に取ると、普通にする内輪の会話などでは軽いストレスが、大腸内視鏡検査などでは強いストレスが、それぞれかかった状態とみることができます。これら外からのストレスに、ドライドランク状態にある脳が敏感に反応した結果が自信過剰や、気持ちの空回り感、胸のザワザワ感として現われたと説明可能なのです。
身近な患者仲間やAAでの体験談を聞いていると、程度に差はあるものの、誰でも断酒中に気分の昂揚感や胸のザワザワ感を経験しています。私はこれらを総称してドライドランク状態と名付けてみました。ドライドランク状態は、受けるストレスの強弱によって現れる症状の強弱も変化するようです。
回復プロセスの移行期には、急性離脱後症候群(Post Acute Withdrawal Syndrome:PAWS)の一つとして誰もが必ず記憶障害を経験します。ドライドランク状態は、再飲酒前に限って現れる特異的な症状ではなく、記憶障害と同じく PAWSの一つ情動障害であると、私は考えています。
断酒継続中のアルコール依存症者は、もっとドライドランクに警戒すべきです。脱したと自覚できるまでは、常に自分はドライドランク中なのだと意識し続けるべきなのです。心当たりに強いストレスと思しきことがあったときが肝腎です。
ドライドランクになると、たとえ些細な異変であっても、その渦中では自覚できないでいるのが当たり前のようです。泥酔中であっても、酔いを自覚することなく自分は酔っていないと否認するのがアルコール依存症の酔っ払いです。それと同様に、ドライドランク中であればそれと自覚できないでいるのも道理なのです。
脱した後で初めて自覚するのがドライドランク、そんな厄介な心理状態なのだと考えるべきです。ドライドランクは回復過程に必定です。常に意識しておくことで再飲酒を回避できるのであれば、どんなに注意してもし過ぎることはありません。ドライドランクを初めPAWSの教育にもっと注力してもらえるよう、医療関係者全員にお願いしたいと思います。
「断酒中のハイテンションは危ない!(ドライドランク)」も併せてご参照ください。
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ふなしと申します。
今ドライドランクについて、勉強しております。
ハイテンションや断酒続くんじゃないかなどという妙な自信など、自分も危ないなと思っていたので、改めてこれはとても参考になりました。
気をつけたいと思います。
ドライドランク状態は意外に長く続くようです。
自分は常に危ない心理状態なのだと意識し続けることです。
回復までは7年ぐらいかかるものと、気長に構えましょう。
どうぞ、油断しないよう気を付けてください。
ヒゲジイ