ヒゲジイのアル中よもやま話

断酒を始めて早7年目。このブログは回復プロセスの記録と脳のリハビリを兼ねて綴っています。やはり、まだチョット変ですかネ?

あなたは “脳組”? それとも “肝組”? (下)

2016-01-01 05:46:12 | 病状
 “肝組” のアルコール依存症者の末期が肝硬変とすれば、 “脳組” にとっての末期はアルコール性認知症でしょうか。その認知症の初期症状が記憶障害だということは広く知られています。

 記憶を司っているのは海馬と呼ばれる部位で、脳の奥 大脳辺縁系にあります。タツノオトシゴによく似た形状だそうです。感覚器官から集まって来た情報にタグを付け、分類・整理してくれる機能があり、主に直近の短期的記憶を保存しているといいます。海馬で分類・整理された記憶はその後、大脳皮質のしかるべき部位でそれぞれ長期記憶として保存されているのだそうです。海馬はアルコールの麻酔作用を受けやすく、緊張で分泌されるストレスホルモンの一つコルチゾールで委縮しやすいともいわれています。神経細胞は再生しないとされていましたが、海馬では細胞再生があることも確認されています。

 飲酒時代、深酒した時に起きたのが一過性の記憶障害 ブラックアウトでした。記憶の保管庫である海馬が大量の飲酒で麻痺し、短期的な記憶が出来ない状態のことで、急性アルコール障害とされています。

 専門クリニック初診直前1ヵ月間ぐらいの私の記憶は前後の脈絡もなく、部分的にしか残っていません。記憶が欠けた時期には、息子との待ち合わせをすっぽかしたり、予約していた大腸内視鏡検査を反故にしたりしていたようです。まったく覚えがないですし、日付や曜日の認識も薄かったようです。

 辛うじて思い出せる記憶は断片的で、その出来事が一体何時のことであったのかも正確には分からないままです。周りの人から聞いた話や書き残していた記録から、辛うじて時期を特定できるありさまです。それでも推理でカバーし切れない部分がどうしても残ります。そんなことから以前、この状態をパーツが所々欠けたジグソーパズルと表現したことがありました。

 連続飲酒でアルコールの飽和状態になっていましたから、断続的にブラックアウト状態が続いていたのだろうと考えていますが・・・。こんな状態が続いたままだと痴呆(アルコール性認知症)にまで行ってしまうのだと主治医が説明してくれました。さすがに背筋がゾッとしました。アルコール依存症になると、ビタミンB1欠乏が原因のウェルニッケ・コルサコフ症候群を経てアルコール性認知症へと辿るルートばかりでなく、深酒によるブラックアウト頻発でアルコール性認知症にまで行き着く本道もあるのですね。ブラックアウト恐るべし、侮ってはいけません。

 断酒を開始すると快方に向かうことの方が多いのですが、数少ない新たな異変として自覚させられたのが記憶障害です。急性離脱後症候群(PAWS)の一つと言われている障害です。最初の頃は、直近の記憶がすぐ消えてしまうことから自覚させられましたが、しばらくすると意図する意味は分かっているのに、すんなり言葉となって出て来ないという想起障害も自覚するようになりました。

 記憶障害は体験談を語るときに際だっています。途中から論旨を忘れて話が飛んでしまったり、無意識に話を端折り過ぎたりして、論理の展開が支離滅裂になるのは毎度のことです。最も伝えるべきことを、コロッと忘れてしまうのですから話になりません。与えられたミーティング・テーマにぴったりの(体験)エピソードがなかなか浮かんで来ないこともしょっちゅうです。ミーティングが終わる頃になってやっと思い出せたりしています。

 会話を交わしている際は、言葉に詰まることはありますが、話が支離滅裂になることはまずありません。相手がいるお蔭で、聞き直しや相槌が入りますし、何よりも言い直しができます。それで話が逸れなくて済み、記憶障害など素知らぬ気分でいられるのだと思っています。まぁ、元々「アレが・・・、アレして・・・、アレを・・・、」で何とか会話が成り立つのですから問題になるわけがありませんが・・・。

 もっと情けないことにも気づかされました。客観的な状況判断の衰えとでもいうのでしょうか、当事者として現場にいながら半分上の空で、その場の状況や自分の心の動きが同時進行的には把握できていないことです。元々感受性が鈍いせいなのか、それともアルコールの毒性(中枢神経麻痺?)の残滓が原因なのか? ドライドランク状態のときが典型的でした。

 AAの定例ミーティングで、出席仲間の体験談すべてに鼻白んでしまったときがありました。そのときのテーマは「どうやれば、(断酒が)うまくいくのか?」でした。発表者の多くは、再飲酒に繋がりかねない “空白の時間” を作らないように例会に出続けるという類のものでした。「そんなことは当たり前で、何かより新しい、画期的なことはないのか?」と私には白々しく聞こえてきました。「こんな程度なら、ひょっとして独力でも断酒が続けられるかもしれない・・・」と憤懣やる方なかったのです。明らかに異常だったのですが、その異常に気づいたのはミーティングが終わり、もやもやしたまま帰宅してからのことでした。ネット検索した結果、ドライドランクに特有の自信過剰と初めて知ったのです。異常だと気がつくまで1時間程度の時間が経っていました。

 人との会話中、無闇やたら浮かれ調子でいたことが多々ありました。相手が話し上手というわけでもなく、波長が特別に合うというわけでもないので、普通ならば自分の奇妙さに直ぐピンと来るはずなのです。その場を離れて初めてハシャギ過ぎに気づく、そんなことがしょっちゅうでした。会話の最中にあっては、ただ今日はちょっと頭の回転がイイかな(?)ぐらいにしか思わなかったものです。

 AV動画に憑りつかれていた際も、それに気づくまでに結構長い期間を要しました。暇さえあれば動画サイトにアクセスせずには済まなくなり、初めて何かオカシイと異変に気づいたのです。その後、どうにも離れられなくなっていることに困り果て、ヤケクソで画面を叙述し始めました。その膨大な言語化作業の末に、突然憑きモノが落ちたと体感できたのです。正気に戻って初めて、それまでの諸々の異常に気づかされました。アルコールの毒性が妄想として残っていて、それがAV動画に駆り立てていたのだと悟ったのです。

 今の私にとって、“気づき” とは、ハンパない事後になって初めて理解できることを意味します。旧式の蛍光灯と同じで、間をおかないと気づかないままでいます。大事であればあるほど瞬時の閃きで即座に理解できることは稀です。これは果たして断酒後に始まったことでしょうか? 渦中にありながら事の重大さにピンと来ず、価値判断が即座にできなかったことが飲酒時代にもあったと気づきました。

 アルコール依存症と宣告された直後の47歳の時、新薬の申請資料について当局と突っ込んだ話し合いをしていたときのことです。当局が新薬の特徴にかかわる際どい問題に触れ、根拠データが不十分だと暗に仄めかして来たのです。当局が明かした懸念に対し、即座に的確な応答ができませんでした。オウム返しに確認しはしましたが、当局の真意を問い質すまでには至りませんでした。結局、当局の本音を聞き出せないままに終わったのです。後になって気づいたものの、文字通り後の祭りでした。

 素面で酔ってなどいませんでしたが、緊張していたのでしょうか? それともアルコールが体内から消えても作用は残ったままだったのでしょうか? ちゃんと話を聞いていたのに、半ば上の空で意識が飛んでいたようにも思えます。視野が狭まり多角的な見方ができなくなっていた状態は酔ったときと同じなのです。

 アルコールはその麻酔作用で思考回路を麻痺させると同時に、ストレスホルモンのコルチゾール分泌をも亢進させます。記憶機能の要・海馬はこの両者の影響を受けやすい部位です。海馬の記憶機能と、多角的な思考回路の両者が麻痺した状態では、AならばBだけという超短絡的な思考回路しか機能しないのではないでしょうか? 短絡的な思考回路だけでは二者択一的な判断だけとなり、バランスの取れた(価値)判断はできなくなります。アルコール依存症者に多い思い込みと白黒思考はこれが原因なのかもしれません。

 “気づき” には単に記憶ばかりでなく、事の軽重を量る価値判断が深く係わっていると思えてなりません。当事者として現場認識が鈍いということは、価値判断が鈍いことと同義に思えるのです。

 価値判断は、情動(感情)を司る扁桃体が記憶を司る海馬と連携して行われるのだそうです。確かに価値判断には比較すべき対照事案が必要で、対照事案は記憶の中にしかありません。さらに対照事案を動員するには多彩な思考回路が必須です。アルコールがこれらのネットワークを障害し、機能不全の状態が長く残るのだと思います。しかもその回復には相当の時間を要しそうなのです。

 事が重大であればあるほど思考回路が固まってしまい、適切な価値判断が即座にはできなかった経験 ―― 患者同士で話し合ったことはありませんが、こんな経験は多くのアルコール依存症者に共通しているのではないでしょうか? どうやら感受性が鈍いのはこのあたりに原因がありそうです。AならばB、またはCかD・・・という複眼的思考のネットワークが、酒を断った後でも多くのアルコール依存症者で損なわれたままだからと思います。

 アルコール依存症は “否認の病” とも言われています。 “否認” するのは記憶障害や価値判断の鈍さと関係していると思えてなりません。記憶は時間が経つと矮小化されるか美化されます。酒が原因での不始末が記憶としては些細なものとしか残らないのも、記憶障害や価値判断の鈍さの所為かもしれません。記憶や価値判断が健全に保たれていることは人間としての矜持を保ち続けることに繋がります。アルコールの慢性毒性は人間としての矜持を損なうものかもしれません。本当のアルコールの怖さはここにあります。

 海馬は再生するそうですから、今後は言語化を実践して前頭葉を鍛え続け、多様な思考回路を回復させるだけです。回復できるまでは、思い込みや白黒思考に陥らないよう、 “一息ついて 一歩引いて” ・・・気づくまでには時間がかかる・・・です。


PAWS(急性離脱後症候群)―― 断酒してボケが始まった?」もご参照ください。


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