ぶきっちょハンドメイド 改 セキララ造影CT

ほぼ毎週、主に大人の童話を書いています。それは私にとってストリップよりストリップ。そして造影剤の排出にも似ています。

楽園ーFの物語ー不埒と淫らと濃厚接触

2021-01-08 21:47:28 | 大人の童話
 早々に宮殿を辞し、一個小隊で送るというのをなんとか断って、七日後、ルージュサンとセランは、ドラフの船の上にいた。
 セランは欄干に寄りかかり、愛用のリュートで、愛の歌を弾き語っている。
 海を眺めながら聴いていたルージュサンがふいに、セランの首に腕を回した。
 セランの胸で何かが光る。
 セランがリュートを下に置き、不思議そうに手のひらに乗せる。
 それは白金のペンダントだった。
 小さな笛が下がっている。
「吹いてみて下さい」
ルージュサンの言葉に、セランが素直に従う。
軽やかで高い音色が、辺りの空気を澄みわたらせた。
「私が必要な時に吹いて下さい。行ける時は行きます」
「いつ・・・あの時ですね?僕が足を点検していた、じゃあ、まさか」
 ルージュサンがシャツの中から金のペンダントを引き出す。
 その先にも、セランのものと同じ形の、笛が付いていた。
セランの顏が喜びに輝く。
「やっぱりっ!ペアルックっ!貴女って人は、貴女って人は!いつもいきなり僕を喜びの渦に突き落とすっ!」
 セランが身をよじり、のけ反った。そしてルージュサンに向き直る。
「ああ、では貴女の音も聞かせて下さい。貴女が僕を必要な時には、万難を廃して駆け付けられるように」
「それは困ります」
「どうしてですか?僕はそんなに頼りないですか?」
 途端に泣き出しそうになるセランの頬を、ルージュサンが両手で包み込む。
「私はいつでも、貴方が必要だからです」
 セランは目を見張ったまま、背を欄干に預け、ずるずると伝い下りた。
 ぺたんと座り、数秒の間そのままでいる。
 そして、切なそうに呟いた。
「腰が抜けました」
「それは、丁度良い」 
ルージュサンが軽やかに笑い、セランの膝に頭を預けた。目は閉じている。
 セランは驚き、両手を跳ね上げた。
 やがてとろける様な笑みを浮かべて、ルージュサンの頭を撫で始めた。
そして数える。
「・・・三十一本、三十二本・・・どうして右の睫毛が、二本多いんですか?」
「気になるなら、引き抜いて下さい」
「とんでもない!これも貴女です。いつでもそのまま全てが、永遠に愛しい貴女です」
ルージュサンはその思いを、しっかりと受け止める。
時間をかけて全身に、染み渡らせて、目を開けた。 
「港に着いたら、少し遠回りしても良いですか?」
「もちろんです。でも何処に?」
「母が夫婦で宿を営んでいるんです」

女は遠目でそれと分かった。
しばし呆然とし、泣き崩れた。

二月後、ルージュサンは事業の引き継ぎを済ませて、ルージュサン=コラッドになった。複雑な儀式は全て省いた。 
セランは祖父母の旧宅に、そのまま住んでいたので、ルージュサンが身の回りの品を運び込めば、新居の準備も足りた。
その夜、ルージュサンは初めて、セランの寝室の中を見た。
 そして、納得した。
 大人がなんとか、体をねじ込める程度の隙間は四方に残されていた。けれど広い寝室のほぼ全てが、巨大な寝台に支配されていたのだ。
「セラン、この寝台は、お祖父様が使われていたものですか?」
「はい。僕が使っていたのと、大体同じだったので」
「ひょっとして、お父様も?」
「そうです。母上のはとても小さいです。他所にあるのと同じくらい」
 ルージュサンは家系について考えた。そして自分が産むであろう、子供達の行く末に不安を覚えた。
 セランはルージュサンの額を見た。
 その目が閉じる気配はない。
 この目がある限り、穏やかにたゆたう様な日々を、続けることは出来ないだろうと思った。 
 けれど。 
 そうであろうとなかろうと。
 自分がしたいことも出来ることも、ひたすら愛し続ける、それだけだ。
 セランは優しく、密やかと言って良いほど繊細に、ルージュサンを抱き寄せた。 
「やっと、貴女を抱き締められた」
「・・・待たせましたね」
「いいえ、貴女を恋慕う日々も、ときめきに輝き、心弾むものでした・・・今日から貴女を『ルージュ』と呼んで良いですか?」
 そう言いながら、セランはルージュサンの髪を束ねる、リボンを外した。
「えっ?どうして!?」
 ルージュサンの驚きに、セランが驚く。
「何でって・・・その方が綺麗だと思って」
「甘く見ないで下さい!編んで寝ないと、私の髪は爆発するんです。ちょっとやそっとの早起きで、追い付くものてはないんですよ」
「いちじゃないですか。明日も休みです。僕がゆっくりと、お好みに結って差し上げます」
 セランは構わず、リボンを放る。
「面白い。そうして頂きましょう」
ルージュサンは、自分に『痛い痛い』と言われながら、セランが悪戦苦闘する姿を想像した。
 けれど、それも二人なら、楽しい時間に違いない、と思った。


 
 

 
 

 










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