日下公人著書「新しい日本人が日本と世界を変える」より“グローバリズムからローカリズムの時代へ”を転載します。
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現実を直視すれば、現在の国際金融資本が主導するグローバル化は、国境を越える多国籍企業を富ませはしても、世界の「国々」の「民」を富ませているとは言えない。
人道問題として移民や難民を受け入れることと、それを安価な、使い捨て可能な労働力と考えて移動を自由にせよというのはまったく違う。こうした訴えを排外主義や感情的なナショナリズムと切って捨てるのは誤りである。
英国のEU離脱に関し、ロックバンド「ローリング・ストーンズ」のボーカル、ミック・ジャガーが英テレビの事前インタビューで、「個人的にはどちらでも変わらないと思う」と断りながら、「短期的に見れば損害だが、二十年くらいの長い目で見れば有益だろう」と発表したことは興味深い。
私はミック・ジャガーをよく知らないが、彼は歴史に根差したイギリス人の価値観を判断材料に示したように思う。
英国のEUからの離脱は国際金融資本が主導する経済体制への「国民」の反発の現れである。米国の有権者も英国民と同じくグローバリズムに反発を強めた結果、「敵はウォール街だ」という、劇薬の塊のようなトランプ氏を大統領に選んだ。
一般化していえば、英国のEU離脱や米大統領にトランプ氏が選ばれたことは、反グローバリズム、反普遍主義、反エスタブリッシュメント(支配層)という、それぞれの国民意識の底流が反映されたものである。
世界は新しい秩序を求めはじめている。それは欧米が主導した秩序の行き詰まりを意味している。これからの時代はグローバリズムからローカリズムの時代に移っていく。言葉を換えれば、グローバリズムに対するエスニック(民族的)の時代、エスニシティ(民族性)の時代ともいえる。
これは国際政治の世界では、民族主義や地域共同体の尊重ということになる。それぞれの国の歴史伝統や文化を侵さずに共存していく考え方である。経済のルールに共通性を持たせるとしても、それはお互いの存在基盤を壊さない範囲にとどめるべきで、そうでなければ「国民経済」は成り立たない。
---owari---
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