うまがスラムダンクの続き

うまがスラムダンクを勝手にアレンジ。
スラムダンクの続きを書かせていただいています。

#105 【大栄攻略作戦】

2009-04-30 | #05 海南 選抜編
海南の会議室に選手が集まり、彦一が作成した大栄学園の攻略ビデオを見ていた。


再び、ビデオテープが鈍い音をたてて回り始める。


モニターには、インサイドの2人が映っている。


<#5センター赤井秀樹、身長196cm、#7パワーフォワード青島慶二、身長194cm、大栄のインサイドを守る・・・。>


彦一のナレーションは続いた。



適当なところで、高頭がテープを止め、説明に入る。


「今、見てもらったらわかるように、この2人の特徴は・・・。」

「リバウンドとブロック!」

「その通り、C赤井は、その体格を生かし、大阪のリバウンド王にもなっている。
かたや、PF青島のほうは、持ち前の反射神経で、ブロック王になっている。」

「つまり、インサイドの守りは、鉄壁ということですか?」

「あぁ。青島がブロックでシュートの軌道をずらせ、赤井がリバウンドを奪い取る。
2人で1人を止めるディフェンスだ。そして・・・。」


再び、テープが回る。


『シュパ!』

『ザシュ!』


「軽い動きっすね・・・。」

「それだけじゃないぜ。清田。」

「ん!?」

声の主、武藤に眼をやる。

「こいつら、2人とも左だぜ。」

「左?」

モニターをよくみる。

「あっ!ホントだ!気がつかなかったけど、こいつら2人ともサウスポーじゃん!」

「タイミングが取りずらいな。」

と高砂。

「リバウンドもブロックも普段と違うタイミング、位置からやってくる。しかも、2人だ。
インサイドでは、いつも以上に注意が必要となる。」

「はい。」




ビデオが再生される。


『シュパ!』

『バシ!』


<#6シューティングガード小池哲也、身長180cm、ジャンプシュートを得意とする・・・。>



「これが、SG小池だ。ドライブよりも外角を得意とする選手だ。小池の売りは、何といってもディフェンス。
強気のディフェンスは、何よりも要注意だ。一瞬でも気を抜けば、ドリブルカットにくるから、気は抜けん。」

高頭がモニターを見ながら続ける。



「そして、この男が、2年生PGの桜井。桜井が加入したことにより、土屋がSFに転向した。」


<#10ポイントガード桜井丈、身長174cm、大栄のバランスオフェンスを支える冷静なPGや・・・。>



「試合勘や読みは、土屋と同等か・・・。」

「そう考えておいていいだろう。そして、ここからが、大栄の真骨頂だ。」



『ポチッ!』

高頭がビデオのリモコンを押す。


<大栄学園は、土屋淳を中心としたディフェンスのチーム。
まずは、ディフェンスを打ち破らんと、負けは決まったと同じや。・・・。>

彦一のナレーションとともに、大栄のディフェンス映像が流れている。



「このディフェンスはすげー。」

「オールコートのゾーンプレスは、山王のオールコートプレスにも匹敵する。」

「話には聞いていたけど、想像以上だな。」

「ディフェンスもすぐに変わっちまうしな。」

「対応だけで、体力は削られ、リズムが狂わされる。」

海南の選手が、大栄のディフェンスの凄さに焦りを感じていた。


(打ち破れるのか・・・。)

不安だけが脳裏をよぎっていた。


そんな中、神が言葉を放つ。

「マンツーは、得意じゃないみたいですね。」

「え!?」

誰の眼にもそんなふうには見えなかった。この2人を除いては・・・。


「ここだ!」

高頭が、ビデオを止める。


「一瞬だが、スイッチのタイミングで間が空いているな。」

と牧。


「あっ!ホントだ!!」

「神、この間ならいけるよな?」

「えぇ。問題はありません。」

と牧に向かって微笑んだ。

「よーし!マンツーになったら、神にスクリーンをかけ、シュートチャンスを作る。牧、清田、任せたぞ!!」

「了解っす!俺たちのスクリーンプレーは、完璧っすよね、牧さん?」

「あぁ。」

牧は微笑んだ。


「それともう一つ。やはり、大栄戦は、神に頑張ってもらわなければならんな。」

大栄対豊玉戦、南の3Pの模様が、モニターに映し出されている。


「なるほど。」

と武藤がうなずく。

「神なら、余裕だな。」

と牧もいった。


「見てわかるように、南の3Pは全ての桜井の前からだ。
セオリーだが、大栄のゾーンには、プレッシャーの少ない174cmの桜井の前で神に打たせて対抗する。
神、頼むぞ!」

「はい。」

「へへっ、大栄戦は、神さんゲームになりそうですね。」

「2回戦は牧さん、今日は信長、俺もそろそろ仕事をさせてもらわないとね。」

神が笑った。


「リバウンドには、牧も参加してくれ。
清田は、牧がリバウンドにいったら、セーフティーに戻り、相手の速攻を防いでくれ。」

「了解。」

「OKっす!」



「そして、大栄のオフェンスの特徴として挙げられるのが・・・。」

「バランスオフェンスですね。」

「あぁ。誰からも得点をとってくる。一瞬たりとも隙を見せてはいかんぞ。」

「はい。」

「それで、明日はマンツーで守り、勝負どころで、オールコートを繰り出す。」

高頭が続ける。

「牧は桜井。神は小池。武藤は青島。高砂は赤井。そして、土屋には・・・、清田。
大栄以上に足を動かせ!」


『ゴクッ!』


(土屋・・・。超一流といわれている土屋が俺の相手・・・。楽しみでしょうがねぇ。にかっ。)

こうして、海南の長い一日は過ぎていった。




「チュンチュン」

早朝、すずめが鳴く声が聞こえる。

ホテルの前の駐車場で、屈伸運動をしている清田。


「よっしゃー!今日も大活躍してやるぜ!!見てろよ!土屋ーー!!流川ーーー!!」

気合を入れて清田は叫んだ。



『ピクッ!』


「ん!?なんか目覚めの悪い朝やで・・・。」



そして、もう一人、バスケットボールを片手に、MDを聞きながら、自転車をこぐ男。



『ピクッ!』


(電池が切れた・・・。ついてねー。)


ふと、横を見るとナンバー10の車。

ふと、前を見るとナンバー10のバイク。

ふと、時計を見ると6時10分。

ふと、桜木と清田の顔が浮かんだ。

(ますます、ついてねー。)




全国高等学校バスケットボール選抜優勝大会 ベスト4が決定する当日を迎えた。







続く。

#104 【PG土屋】

2009-04-28 | #05 海南 選抜編
意気揚々と宿泊先のホテルに戻る海南選手を愛和学院、諸星が出迎えた。


「よっ!」

「お前も好きだな。」

と呆れ顔の牧。

「なんだよ。こうして、出迎えてやったのに。」

少し脹れ顔の諸星。

「はいはい。ありがとな。」

「まずは、最初の難関突破だな。」

「あぁ。予想以上に手強い相手だった。そっちは、余裕だったな。」

「もちろん。優勝するまで俺たちは止まらないぜ。」


「俺たちもだ!」

清田が横から声を出す。


「おっ、清田、今日はいい動きだったな。今日の殊勲賞はお前だぜ。」

「あっ当たり前よ!」

諸星から思わぬ言葉をかけられた清田は、戸惑いと嬉しさが同居した。


(これで、俺も超一流の仲間入りってか。)

にやける清田。


「だが、まだまだ俺の敵じゃない。」にやっ。

「なっ!?」

「まぁ、せいぜい2流ってとこだな。」

「なっ!何をー!IHでは、牧さんに完敗したくせにーー!」

「なっ!何だとー!お前こそ、名朋に負けて泣いたくせにーー!」

にらみ合う両者をほっておいて、海南選手は歩を進めた。




ロビーのソファーには、土屋とSG小池が腰をかけていた。


海南に気付いた小池が土屋に話しかける。

「土屋。帰ってきたで。」

「んっ。」


「今度は、土屋か。ご苦労なことだな。」

「今日は、おつかれさん。明日に備えて、よう寝るんやで。ほな、またな。」

手を上げて立ち去ろうとする土屋。


「それだけか?」

「それだけや。」


「???土屋も今日の疲れをとっておけよ。」

「あぁ。わーってる。疲れ、残しといたら、勝てるもんも勝てなくなるからな。」

「それは、うちも同じだ。明日は、全力真っ向勝負だぞ。」

「望むところや。」

土屋と小池は去っていた。


「結局、何がいいたかったんだろう?」

と宮益は首をかしげた。

「最初で最後の真剣勝負。全力で勝負したい。そういいたかっただけでしょうね。」

神が冷静に答えた。

「牧が、白金にいくと信じてやまないんだな。土屋は。」

高砂が牧をみていった。


「・・・。」

牧は黙っていた。

(もう、俺の気持ちは固まっている・・・。)





数時間後、海南の会議室に選手が集まった。

「疲れているところすまないが、明日の作戦を伝える。まずは、このビデオを見てくれ。」


大阪府予選 大栄学園が出場した全ての試合を短く編集したビデオがモニターに映し出された。

『ザシュ!』

『シュパ!』

『ビュン!』

『ダムダム!』

3P、ミドルシュート、ゴール下、アシスト、ドライブ、リバウンドなど、
土屋のあらゆる動きのみが映し出された。

<もう、何もゆうことはないやろう。大栄学園#4キャプテンにして、オールラウンダー土屋淳や。>


「なっ、なんだこのビデオ?」

清田が眼を丸くする。

「ふっ、この声は彦一か?」

牧が笑う。

「あぁ。彦一君の作った大栄攻略ビデオだそうだ。ホントに面白いやつだな。彦一君は。
是非、海南のマネージャーにほしい人材だよ。」

と扇子を広げながら、高頭が笑った。


このビデオは、編集はもちろん、ナレーションまで、彦一一人が担当し、作成したビデオであった。


「IH以上だぜ。この資料は・・・。」

高砂もビックリしている。


高頭が口を開く。

「見ての通り、土屋はゴール下の1on1から、3P、アシスト、リバウンド、何でもできるスーパープレイヤーだ。
やつを止めることは容易でないだろう。」

「でも、大和だって、オールラウンダーって呼ばれていたし、今日、止めるてやりましたよ!」

「清田のいうとおりだ。だが、大和と土屋、秋月と大栄は、明らかに違う点がある。
それはまず・・・、土屋の身長だ。」

「確かに、大和に比べ6cmほど高い。しかも、191cmといったら、高砂さんと同じ・・・。
長身オールラウンダーってことか・・・。」

「そして、もう一つが、経験と判断力だ。」


(経験・・・。)

清田がいち早く反応する。



「土屋も牧同様、1年の夏から全国を経験している。1年次はPGとしてな・・・。」



(PG!!)

再び清田が反応した。


「ふっ、そうだったな。」

思い出したかのように、牧がいった。


「2年前、海南の牧、山王の深津、翔陽の藤真、そして大栄の土屋。
この4人は、NPGと呼ばれていた。」

高頭が説明する。


「NPG?」

「NEW PG。新しいPGという意味だ。」

「初耳だぜ。」

神や清田を初め、初耳の1,2年生は驚きを隠せない。


「牧が1年のとき、IHに衝撃的な出来事が起きた。
それは、ベスト8に進んだ8校のうち、4校のPGが1年生だったこと。深津は2番手だったが、そのときの4人が・・・。」

「牧さんを初めとするさっきの4人だったってことか。その中に、土屋も含まれていた。」

「そういうことだ。
だから、あの長身の土屋がアシストにも判断力にも優れていることがこれで納得できるだろう。」


『ゴクッ!』


「牧さんに並ぶPGだったって・・・。」

清田は、息を呑み、冷や汗を流しながら思った。

(でも、ゾクゾクしてきたぜ・・・。)



海南の作戦会議は続く。






続く。

#103 【背負う想い】

2009-04-25 | #05 海南 選抜編
「よっしゃー!ベスト8だーーー!!」

清田は、ヘアバンドを高く放り投げた。


「ふーー。」

と一息ついたのは、高砂。


宮益は、タオルを差し出し、武藤と神をベンチに迎えた。


「ご苦労。」

「骨のあるやつらでした。」

高頭と牧は、軽く握手をした。




「このオールコートプレス。相当、走りこんでるな。」

沈黙を保っていた山王・堂本が口を開いた。

「でも、うちのほうが、遥かに強いワン。」

「あぁ。そうだ。オールコートはうちの専売特許だからな。」


「海南だろうが、大栄だろうが、俺たちの3連覇に狂いなし。」

「ん!?俺たち!?最初の年、お前はいないだろう。」

「そうだワン。沢北は、昨年からだワン。」

「いいじゃないっすか?別に。チームが3連覇なら。」

「来年は、お前が勝って4連覇になるってか?」

「納得がいかないワン。」


『ガシ!』


「うぐっ!!」

河田に、フロントチョークを決められる沢北であった。

(ちくしょう。早く引退しやがれ・・・。)




「1枚、外が足りなかったな。ガード陣が手薄だった。」

と愛知の翼。

「俺が秋月のガードなら、大和さんも品川さんももっと上手く使えたのにな。もったいないですね。」

とPG織田。

「これで、大栄と海南か。海南も一難去ってまた一難だな。」

諸星がいった。


(大和さんは、もっと上を目指せる人だと思うんだけどな・・・。)

観客席から大和を見つめる織田。


近い将来、大和と織田は同じチームでバスケをすることになるのだが、それはまた別の話。

そして、品川も大学に進学し、あの男とともにバスケをすることになるのだが、それもまた別の話。




「・・・。」

(海南のオールコートプレス。IHより、破壊力が増しているやないかい。ちーとしんどそうやな。)

「どないした、土屋?」

「なんでもない。」

「秋月の敗因は、ガード陣。そして、スコアラーが大和と品川しかおらへんということや。」

「うちは、ちゃうで。誰からも点の取れるオフェンスや。」

「心配せんでええって。お前ばかりに負担はかけへんよ。」

「運びは、わいらに任せておけって。なっ?」

「あぁ。心配なんてしてへん。ただ・・・。」

「ただ?」

「いや・・・、なんでもない。」

(ただこの試合、牧の全てが見れたわけやない。
神や清田が、これだけの成長をみせとるっちゅうことは、牧やって・・・。)

翌日、土屋の不安は的中することになる。




一方、秋月ベンチでは・・・。

第4Q、3点差まで迫った残り6分。

流れ、勢いともに秋月が掴んでいたのだが、海南のオールコートプレスの破壊力により、
全てが飲み込まれていった。

シュートはおろか、思うようにボールを運べなかったPG渋谷、2年生SG西は、
自分の不甲斐なさ、自分への苛立ちで、大粒の涙を流していた。

SF大和は、責任を感じ、PF立川同様に沈黙を保っていた。

だが、無口なC品川が静かに口を開いた。


「みんな。よくやった。俺たちは、よくやった・・・。」

精一杯の気持ちを言葉に変えた。

眼は潤んでいた。


「渋谷、西、自分を責めなくていい。」

ようやく大和が口を開いた。

「俺に悔いはない。俺は、本当にみんなとバスケができてよかった。ありがとう。」

大和はそういって、結わいていた髪をほどき、牧の元へ歩みだした。




「牧!」

「ん!?大和。」

「今日はいい試合だった。ありがとう。」

固い握手を交わす2人。

「明日は大栄、そして、その次は山王か?茨の道だな。」

「あぁ。だが、今日の試合もしんどかったぜ。」

「ありがとう。ここは俺たちの地元だ。
最後まで、海南の勇姿見させてもらう。応援もさせてもらうよ。」

「頼もしい限りだな。」

「頑張れよ!」

「あぁ。」


(神奈川のやつら、そして秋月・・・。また、負けられなくなったな。)


手が離れたとき、再び大和が声をかける。


「神奈川の花形って国体のときのメガネのセンターか?」

「あぁ。神奈川県一の頭脳派センターだ。」

「よろしくいっておいてくれ。大和が楽しみにしているって。」

「ん!?そうか、大和は、拓緑か。わかった。必ず伝えておく。」

「じゃあな。」

「あぁ。またな。」




海南、秋月の選手がコートから姿を消し、まもなくして、関係者席、観客席の人々が席をたった。


担当者が、トーナメント表に、試合結果を赤字で記入した。


8試合の熱戦を繰り広げ、熱気に包まれていた会場には、静けさだけが残った。


そして、彦一のノートに記される。




第4試合

大栄学園 × 海南大附属
 



-----------------------------------------------

選抜優勝大会 3回戦

海南×秋月

海南 93
秋月 80


【海南】青 93

#4 牧  18P 6R 7A
#5 高砂 10P 8R 
#6 神 25P(3P6本)  
#8 小菅 2P 
#9 武藤 5P 
#10 清田 22P(3P3本) 
#15 宮益 11P(3P3本) 


【秋月】白 83

#4 大和 27P 11R 12A
#5 品川 29P 17R
#6 渋谷 5P 
#7 立川 11P
#9 三田 2P
#13 西 9P

-----------------------------------------------







続く。

#102 【ディフェンスの重要性】

2009-04-24 | #05 海南 選抜編
残り7分

海南 81
秋月 76




海南のオフェンス。




「また、品川だーー!!」

「ゴール下を支配してる!!」




品川がリバウンドを掴みとった。




「海南は流れが悪いで。神も2本連続で外しておる。」

「まだ、時間もある。もしかするともしかするかもしれへんで。」

と大栄選手も試合の行方を見守る。




掴めそうで掴めなかった流れを今、秋月が掴んだといっても過言ではない。

牧が一度断ち切った流れを再び呼び戻した。

それは、牧のような3点プレーでもなく、神のような3Pでもなく、清田のようなダンクでもない。


泥臭く奪い取ったリバウンドと5人で粘り強く守ったディフェンスから。


流れとは、得てして、ディフェンスなどの地味なプレーから持ってくるものなのである。

そのことを秋月の選手は十分理解していた。


そして、海南選手たちも・・・。



「気にするな。もう一度、流れはうちにくる。あいつが必ず引き寄せる。」

神の腰を叩く牧。

「ええ。そうですね。」

清田をちらっと見る神であった。



そして、清田は思い出していた。



-----------------------------------------------------------------------

<<回想>>

神奈川混成チーム 対 海南
練習試合終了 体育館入口



「オフェンスから持ってくるものは、勢い。ディフェンスから持ってくるものは、流れだ。わかるか?」

「はい・・・。なんとなくっすけど・・・。」


「流れがあって勢いがある。勢いがあっても、流れが向いていないと、単発で終わることが多い。
逆に流れが向いていれば、何事も巧くいくものだ。」

「はい・・・?」


「そして、海南において、勢いをつけるのが、牧と神。流れを引き寄せるのは、お前だ、清田。」

「俺・・・?」


「わかるか?」

「ええ・・・。」

「その顔はわかってないな。
まぁ簡単にいえば、清田がディフェンスで頑張って、牧や神に回せってことだ。」

藤真は笑って話した。

「おお!そういうことなら、わかりました!初めから簡単にいってくれれば、すぐわかったんすけどね。」


清田も困惑の表情からようやく笑顔になったが、藤真はまた険しい表情へと戻った。

「そして、おそらく・・・、清田は全国の超一級をマークすることになるだろう。」


『ゴクッ!』

(超一級って・・・。市原や土屋、諸星や沢北・・・ってことか。)


藤真が続ける。

「だが、お前ならできるはずだ。守れるはずだ。俺は、そう信じている。
そして、お前自身のため、自分で流れを掴みとるんだ!その経験が今後、仙道や流川にも勝る糧となる。
わかったな?」

「はい・・・。」



(仙道や流川にも勝る部分・・・、経験か・・・。)



清田は流川に負けたと思っていないが、勝ったとも思っていない。

だが、流川に勝っている部分となると、確固たるものが見つからない。

その答えを導き出してくれた藤真。



(経験か・・・。

 経験ねぇ・・・。

 やっぱ、経験は必要だよな・・・。

 仙道や流川になくて、俺にあるもの・・・。

 全国の超一級とやる経験か・・・。

 それが、やつらに勝る糧になる・・・。

 これだけは、仙道にも流川にも負けねる気がしねぇな。)

清田は笑った。


「藤真さん!ありがとうございます!!なんか、わかった気がするっす。」

「清田。俺はお前を高く評価している。もしかすると、牧以上にかもしれない。」

「ふっ藤真さん・・・。」

「神奈川県代表として、頑張って来いよ!!」

「はい!!」


-----------------------------------------------------------------------



(見ててください!牧さん!!そして、藤真さん!!)



『キュ!』


「経験値をあげさせてもらうぜ!」


「ん!?」




「おう!大和さんに清田君がワンマークやでーー!」

「海南のディフェンスが動いた。」

「大和君へのボックスワンだわ。少し遅い気もするけど、これで流れが変わるかも。」




だが、


PG西からディフェンスが一枚減ったインサイド品川へパスが渡る。



『シュパ!』


高砂の上から、力強くゴール下を決めた。




「いいぞ!いいぞ!品川!」




秋月選手も今が逆転のチャンスとこの試合一番の集中力をみせている。



海南 81
秋月 78




「3点差やーー!!清田君を大和さんにマークさせた分、中が手薄になってしもうた。」

「やはり、大和君だけじゃなく、品川君も止めないといけませんね。」

「なんとか、品川君を4人だけで守らないと・・・。」




「いけるぞ!秋月!!」

「牧!頼むぞ!!」

「大和!逆転だ!!」

「負けるな!海南!!」




伏兵秋月が、IH第2位の海南を破るかもしれない。

海南は、3回戦で負けてはならないチーム。

会場は、両校を応援する声援で真っ二つに割れた。




高頭は、タイムアウトを取った。


浮かない顔をしている海南選手たちとは反対に、高頭は晴れやかな表情をみせている。


「さすがに、205cmの品川を守るのは、きついな。どうだ、高砂?」

「はい。でかいだけじゃない。スクリーンアウトやフェイク、パスやシュートとかなりレベルの高い選手です。」

「赤木や河田、森重よりも上か?」

「・・・。いや、それは・・・。あいつらが放っている威圧感は、特別なものですから。」

「なら、お前一人で守れるな?」


「!!!」


「俺一人?」


「そうだ。赤木や河田、森重を一人で守ってきたお前だ、やれるだろ?」


「・・・。」


「高砂さん、大丈夫っすよ!」

と笑顔の清田。

「高砂さん。」

神は微笑みかける。

「お前なら、大丈夫だ。俺がフォローに回る。」

武藤が腰を叩く。

「高砂、頼んだぜ。」

牧が肩に手を乗せた。


「・・・。そうだな。俺がやつを、品川を止める。」


(ここで品川を抑えられないようなら、河田にも勝てやしない。
何より、赤木たちに申し訳がない。)

高砂が拳を力強く握った。


「よし!そうと決まれば、やることは一つだ!牧、頼むぞ!」

「はい!」


「高砂の負担はでかい。神、清田、品川にボールをいれさせるな。ガード陣を叩くぞ!!」

「OKっす!大和は俺が止めます!!」

「ええ。」


「よーし!腰を落とせ!足を動かせ!一気に行くぞ!!」

「おう!!」



タイムアウト終了後、海南はオールコートプレスを繰り出した。

正直、プレスは大栄戦まで温存しておきたかった高頭であったが、指示せざるを得なかった。

それほど、秋月というチームは、海南を苦しめた実力あるチームであった。


試合残り時間 6分。

全力でコートを走り回る海南選手。

清田は、2つのファウルを奪われたものの大和に追加点を許さなかった。

サイズ、スキルで勝る牧、神は、ガード陣を完璧に抑え、品川へのパスコースを断った。

また、高砂も、品川をきっちりとマーク、武藤と連携をとり、タイムアウト以降、シュートを許すことはなかった。



そして・・・。



試合終了を告げるブザーがなった。







続く。

#101 【流れ】

2009-04-23 | #05 海南 選抜編
海南 79
秋月 68




第4Q開始のブザーがなる。

海南は、牧、神、清田、武藤、高砂のスタメンが出場する。




「海南は、出しますかね?」

「ん!?4アウトやろか?」

「うーん。この得点差なら、出さないんじゃないのかしら。みすみす大栄に手の内を見せる必要もないわ。」




「まだ10分ある。最後まであきらめたらダメだ。みんな、頑張ろう。」

秋月ベンチでは、大和が選手を集め円陣を組んでいる。

「おう。まだいける!」


残り10分に逆転の望みをかける。




この日最後の10分を迎え、観客席から大きな拍手が鳴り響いた。

それは、秋月、海南を応援するものだけでなく、本日出場した16校全てを称えるものだった。




海南のオフェンス。


開始早々の牧のペネトレイトが秋月のゾーンを切り裂く。




「鋭さが増している!!」

「さすが牧だーー!!」

「自分か、神か、それとも清田か!?」




(中には入れさせない。)


品川が間合いをつめた瞬間、ノーマークの武藤へパスが通る。


(!!)




「ノーマークでゴール下!!」

「巧い!!!」




だが、



『チィ!!』



「!!」



ボールは、武藤の手から弾けた。



「よし!」


後ろには、大和。

武藤の後ろからシュートブロックを鮮やかに、成功させた。

ボールは、PF立川が拾う。


「立川!」


『バシ!』


大和にボールが渡るが、前には清田が立ちはだかった。



(ここは通さないぜ!)


『チィン!』


大和の1歩目のドリブルをカット。

だが、ルーズボールは大和が拾った。

ボール際の粘り強さを見せる秋月。



(まだだ!)


再び、清田を抜きにかかる。


『ダム!』


「なっ!?」


清田の股の間を通すトリッキーなドリブルで清田を抜いた。




「清田の股を通した!!」

と宮益が叫び、

「ほうっ、やるな。」

と真田が感心した。




(勝負はこっからだ!)


スピードにのったドリブルは、一気に海南コート内へ。


(決めるんだ!この1本で流れを掴む!!)


『ダン!』



シュート体勢に入る大和を後ろから、牧が襲い掛かる。



『バチン!!』


「!!!」


『ピィーー!!』


笛が鳴る。



(この1本は、獲らせんよ。)


勝負どころの1本と判断した大和を、ファウルでもって阻止した牧。

大和は、2本のフリースローを確実に沈めた。


だが、


『シュパ!』


牧が、お返しとばかりにジャンプシュートを決める。


秋月は、牧のファウル+フリースローの2点。

海南は、流れの中の2点。


一見、大和の2点のほうが、価値が高い2点のように思えるのだが、流れの中で決めた得点ではない。



つまり・・・。




「流れは変わらないワン。」

「秋月に傾きかけていた流れを牧が断ち切った。」

「試合の流れを読んだ牧の静かなファインプレーですね。」

「さぁ、どっちが引き寄せるか・・・。」




だが、秋月も最も多くの高校が出場した東京都を勝ち抜いた強豪校。

このまま引き下がるチームではない。

SG西の外したジャンプシュートを大和が10個目のリバウンドでもぎ取り、ゴールにねじ込む。


続いて、海南のオフェンスを品川がブロックで凌いだ。




「まだわからないですね。スキを見せるようなら、秋月も一気に畳み掛けてくるはずです。」

「あぁ。大和もそう柔な男じゃない。牧、気をつけろよ。」

諸星が腕組みをしながらいった。




「わーーーー!!!」

会場の観客が沸く。




「絶妙のタイミングやーー!!土屋さんと変わらんスキル・・・。
全国には、ほんまにぎょうさんうまい人がおるんやな。」

「確かに、大和君は土屋君と並び称されるだけのことはあるわね。」




「しな、いいぞ!」

「おう。」


大和のループパスから、品川がゴール下を決めた。



更に、神の放った3Pは、リングに嫌われ、リバウンドは品川が奪った。




「いいぞ!いいぞ!品川!品川!」

秋月ベンチが盛り上がる。




『ザシュ!』




「いいぞ!いいぞ!大和!大和!」




渋谷、西、品川、大和と小さくパスをつなげ、最後は大和がミドルシュートを決めた。




「5点差!まだいけるぞ!!」

「ディフェンス!ディ!ディ!ディフェンス!!」

秋月ベンチの応援が、会場全体に響き渡る。




「さすがに、手強いっすね。」

汗を拭く清田。

「あぁ・・・。」

(果たして、清田に止められるか・・・。だが、やってもらわなきゃ困る。)

「清田。」

「ん!?」

「エース封じの信長。見せてもらおうか。」

微笑む牧に、静かに答える。

「待ってましたよ。にかっ。」

「任せたぞ。秋月の流れを・・・、止めろよ。」

「任せてください!!」




残り7分

海南 81
秋月 76






続く。

#00 【こんにちは】

2009-04-21 | #00 ご挨拶&目次
こんにちは。毎回、拙いブログを見ていただきありがとうございます。

うまだんくと申します。

名作スラムダンクの続きを勝手にアレンジし、書かせて頂いております。


今日は、朝から『goo ブログ』でメンテナンス作業があったようで、たったいま復旧しました。
そういうわけで、今日は『スラムダンクの続き』は、お休みとさせていただきます。


100話目まで来ました。そして、いただいたコメント。嬉しい限りです。

半年前の08年10月20日から始めて、結構あっという間に、100話まで到達した感じがあります。

低俗な文章であり、諸先輩方のような心に響く感動を与えられるものではありませんが、
長めの1話、かつ早い更新というスタンスの元、なんとか100話まで続けられ、
これも読んでいたただけるみなさまのアクセスがあってこそだと思っております。


これからも、『うまがスラムダンク』を朝の定番として、みなさまの楽しみのひとつになっていただけたら、
嬉しいなと思います。


最後に、ストック分と構想分を合わせて、200話までは順調にいけそうですし、
少なくても週に3回は更新していきます。


また、うまだんくに体調不良や怪我等がなければ、途中放棄することもありませんし、
今後もコツコツと続けさせていただきますので、今後とも宜しくお願いいたします。

#100 【怒涛の展開】

2009-04-20 | #05 海南 選抜編
第1Q 5分

海南 13
秋月 12




「絶対、勝つ!!カップを神奈川に持ち帰るんだ!!」

「おう!!」

清田の言葉が、海南に気合を入れる。




『チィ!』


(ぬっ!?)

武藤が、品川のボールをゴール下でスティールした。


「武藤さん!」

清田は誰よりも早くスタートを切っている。


「武藤!」

牧が中継し、清田へのパスが通る。



『キュ!』


『ダムダム!』



(負けねぇぞーー!!誰にも!!流川にもだーー!!)



『ダン!』




「うそ!」

「届くのかーー??」

「まじかよ!?」




清田は、フリースローライン上から、ゴールに向かい、踏み込んだ。



(おいおい。)

牧が心配そうな顔をしている。



「うそでしょ!?」

敵である大和もつぶやく。



「信長!うしろにパス!」

珍しく、神が叫ぶ。



だが、清田はお構いなしに、叫んだ。



「俺が清田信長だーー!!」



ボールを片手に持ち替え、渾身の力を込めて、腕を振り下ろす。



『ガシィ!!!』



「!!!」



(!!!)



(えっ!?)



清田が振り下ろしたボールは、リング真正面に当たった。



(あっ!?)



その衝撃で清田が吹っ飛び、ボールが大きく弾けた。



(やっぱり!?)



『ドガッ!』



「いてっ!!」

背中から、落ちる清田。



跳ね返ったボールは、後ろを走っていた神がキャッチし、レイアップを決めた。



審判が時間をとめる。



「大丈夫か、信長?」

倒れている清田に声をかける神。

「無理でしたっ。」

笑う清田。

「怪我はないか?」

「心配ないっす。」


『ゴン!』


「いたっ!」

「無茶はするな!」

牧が一発鉄拳を食らわせたあと、手を貸し、清田を起こした。


「すいません・・・。」

「お前が怪我をしたら、全国制覇はできない!」

「牧さん・・・。」

「さぁ、ディフェンスだ!」




会場がざわついてる。

清田がダンクを外したからではない。

180cmにも満たない身長で、フリースローから跳んで、リングに届いた。

その賞賛と拍手であった。




「翼。お前、届くか?」

「いや、無理でしょう。」

と苦笑い。

「あの身長で、あそこから、届くやつなんているのか・・・。」

さすがの愛和トリオも驚いていた。

もちろん、各校の主力選手も清田の身体能力に驚きを隠せなかった。




「超えた・・・。ミラクルアンビリーバブルを超えた・・・。ウルトラアンビリーバブルや・・・。」

「信じられない・・・。清田君の身体能力は流川君以上なの・・・。」

弥生も彦一も瞳孔が開いている。

中村にいたっては、言葉にさえできなかった。

「@*+#%$&・・・。」




清田の失敗ダンクで、会場を味方につけた海南が流れにのり、5点のリードを奪い第1Qが終了した。



海南 26
秋月 21




続く、第2Q。


海南は、武藤に代え、宮益を投入し、清田とともに、外角のシュートを中心に攻めた。

また、牧らが、神にスクリーンをかけ、スペースをつくり、その気持ちに神も応え、
トリプルシューターを形成させた。


対する秋月は、第1Q同様、ミスタートリプルダブルSFの大和統を起点に海南ゴールを攻め、
オフェンス、ディフェンスリバウンドともに確実に奪う品川は、早くも2桁のリバウンドを記録し、
じわじわと海南を追い詰め、逆転に成功した。



海南 50 
秋月 51




第3Q。


「秋月は、ここまで大和君を起点としている。ここまで、エースに信頼を置くチームも珍しいわね。」

すでに、大和は得点とアシストでダブルダブルを達成し、リバウンドの攻防にも果敢に挑んでいた。

そして、第3Q終了時には、トリプルダブルに近い数字を残していた。


一方、牧のスタッツは、2回戦とはうって変わって、伸びていなかった。

「今日の牧は不調だ!」

という見解が多いなか、あの男たちは違った。




「ここまで、海南が強いとは・・・。」

「牧の調子が悪いんじゃない。神や清田たちが、牧の分までプレーしちまっている。」

「つまり、牧が全力じゃなくても、他の選手がそれを補うだけの能力を発揮しているってことか。」




何時でも、如何なる時でも、全力投球する牧において、手を抜くなど考えたことはない。

ましてや、全国という舞台で牧が燃えないはずがない。

だが、実際に牧がボールを保持している時間は、今までと比べ物にならないくらい減っていた。


「苦しいときは牧」が当然と考えられていた海南であったが、今は違う。


神が、清田が、海南の次の世代を担う彼らが、自らその苦境を受け入れ、乗り越えていた。


秋月が格下だったのではない。

事実、海南は最大7点差のリードを奪われることもあった。

その度に、神や清田が主体となり、チームを勝利に近づけた。


(ここまで、成長しているとは思わなかったぜ。)


牧は、嬉しそうに、神らの背中を見つめた。




『パタパタ・・・。』


「あの練習試合を境に清田も少しは大人になったな。藤真に感謝せねばな。」

高頭の顔がほころんだ。




(もう、牧さんだけに頼ってられない。)

(これからの常勝海南を支えるのは、俺たちなんだから!!)

神、清田の鬼気迫るプレーで、海南は一気にリードを奪った。



海南 79
秋月 68






続く。

#99 【努力と信長】

2009-04-18 | #05 海南 選抜編
海南 6
秋月 6




「清田、大和にはもっと強く当たっていい。大和からのパスを封じれば、品川もゴール下の仕事はできまい。」

「はい。」

牧が指示を出す。



海南のオフェンス。

先ほどと同じように、ペネトレイトをした牧から真後ろの清田へボールが渡る。


(2度も同じ手をくらうか!)


SG西が素早く清田のチェックをするが、清田は低い重心から、171cmの西の脇をドライブで抜いた。


『ザシュ!』


清田のジャンプシュートが決まる。




「この全国大会に入って、清田君の外の調子がいいみたいですね。」

「ええ、フォームが安定しているわ。」

「どことなくスナップが神君に似ていますね。」

「うーん。神君のフォームは、簡単に真似することができない。
それくらい洗練された完成したフォームよ。ただ・・・。」

「ただ?」

「清田君なりに、自分の弱点である外角を克服するために、
神君のフォームから学ぼうとした可能性は十分に考えられるわね。」

「清田君も努力しているんですね。」




「いいぞ、信長。」

「はい!」

神に清田は笑顔で答えた。



-----------------------------------------------------------------------

<<回想>>

神は、いまもなお練習終了後には、500本の3P練習を続けている。

完成された高校生No.1シューターと呼ばれている神ではあるが、
更なる精度を積むために努力は怠らない。

その姿は、清田の心を大きく響かせていた。



IH全国大会終了後、3日間の部活休みが与えられた。

休みの間に、自分のロッカーを整理しようと、清田は体育館を訪れた。



「誰もいない体育館は静かだな。やっぱ、1人って好きにはなれねぇ。」


『ダム』

『ダン』


誰もいないはずの体育館から、ボールの弾む音が聞こえた。


「ん!?誰だ?今日は休みだぞ。」

そーっと、体育館を覗き込むと、そこには、2つの人影があった。


(神さん!宮さん!!)


2人は、真夏の体育館を締め切り、滝のような汗をかきながら、3Pの練習をしていた。

しばらく、2人の姿を眺めていると、神のリバウンドをとっていた宮益が、清田の姿に気がついた。


「清田じゃないか!どうしたの?」

「えっ、あっ、ロッカーの整理をしようと思いまして。」

「そうか。休みの日に偉いな。」

「宮さんと神さんは?」

「見てのとおり、3Pの練習さ。」

と宮益がメガネを掛け直す。

「今日は、休みっすよ。」

「休みの日だから、好きなだけ打てるんじゃないか。」

「そうすっけど・・・。」

ふと、神の横にあるホワイトボードに目を向けると、700の数字が書いてあった。


(700!?)

「もしかして?」

ホワイトボードを指差す清田。

「700本が終わったところだよ。」

神が汗を拭いながら答えた。


(700本って・・・。)

驚きを隠せない清田。


「部活が休みの日は、毎日こうやって2人で練習しているんすか?」

「いや、俺はこの3日間だけだ。神は、休みの日もかかさず500本はやっているようだ。」

スポーツドリンクを飲みながら、コクリとうなずく神。

「・・・。」

清田は言葉がでなかった。

(練習のあとの500本に加え、休みの日も練習しているのか、神さんは・・・。)



このとき、自分がいかに才能という力に甘えていたか、強く感じた。



神の話は知っている。

センター失格の烙印を押され、それからシューターに転向し、今の地位まで上り詰めた努力の人。



(俺は・・・?俺は・・・、何を努力したんだ?何を努力してるんだ?)



思い浮かべても、浮かんでこない。



中学時代、類まれなスピードとジャンプ力の身体能力だけで、流川には一切敵わずとも、
神奈川県代表として全国に出場。

そして、県最強の海南大附属高校に、推薦入学を果たした。


『努力』そんな言葉は、清田の頭の中になかった。


だが、いままさに、神と宮益の練習を見て、『努力』という言葉の素晴らしさを覚えた・・・。


(努力・・・。俺だって、今から努力をすれば、神さんや牧さん、流川にだって勝てるのかな・・・。)


そう思ったときには、声をあげていた。


「神さん!宮さん!俺も一緒に練習させてください!!お願いします!!!」

神と宮益は、目を合わし、答える。


「いいよ。」

「もちろん。」


それから、清田は、部活休みの日も、練習終了後も神とともに3Pの練習を続けた。


そして、芽生えるもう一つの感情。

神さんのためなら、我が身を犠牲にしてもいい・・・。

スクリーンをよりかかりやすくするため、牧とともに筋力トレーニングを行った。

その成果により、選抜予選では、清田のスクリーンは作戦の一つとなっていた。

だが、3Pの方はというと、もともと外角が不得意だったため、思った以上に成功確率は伸びなかった。



国体。

出場機会も少なく、3Pシュートを打つことさえなかった。



選抜予選。

練習の成果が伸びず、確率の低い外角は自粛していた。



そして、神奈川混成チームとの練習試合。

練習試合で見せたPG三井を食い入るように見つめた。



(俺の進むべき先はここにある!)


牧にいわれたPG転向。

自分で見つけた3P。

その答えが、三井であった。


(三井っていうのが悔しいが、俺はあれになる!!)



全国大会まであと2週間となったある日。

突然、その成果が現れる。


ゲーム形式の練習で5割を超える3P成功率。

自分でも信じがたい出来事だった。


清田の居残り練習をしっていた海南メンバーが祝福した。

高頭も計算できると太鼓判を押した。


牧は俺のハングリー精神が伝承されたと喜んだ。

神は冷やしたら感覚が狂うと大きな手袋をプレゼントした。

宮益のメガネは涙で曇っていた。


-----------------------------------------------------------------------



清田の天性のスピードとジャンプ力。


神とともに歩み掴んだ努力と3P。


牧とともに鍛え上げた体。


藤真が気付かせたPGの心。


三井が導いた自分の進むべき道。



その全てが融合し、今、清田の、能力が、心が、爆発する。



海南 8
秋月 6






続く。

#98 【信頼関係】

2009-04-17 | #05 海南 選抜編
海南 3
秋月 2




ボールは、SG渋谷からPF立川へ、そしてSF大和へと渡る。


試合開始早々だが、会場のボルテージは高い。

第1試合から第6試合までに沸いた興奮がいまなお持続している。




『キュ!』


品川が高砂を抑え、裏のパスを要求。

大和は清田の上からパスを供給した。


『シュパ!』


品川は大和のパスをダイレクトにゴールに入れる。




「いいぞ!いいぞ!品川!品川!」




「息のあったプレーね。品川君は、大和君からの絶妙なパスを見逃さない。固い信頼関係ね。」

と記者席の弥生。




「ぐっ。高すぎる。」

悔しそうに高砂がいう。

「大丈夫だ。スクリーンアウトをしっかりして、2次攻撃を防いでいこう。
練習どおりやれば、結果は自ずとついて来る!」

牧が励ます。




「大和はなかなかの選手だな。」

高頭の表情はまだ明るい。




「大和が動いたぜ。」

「神には徹底マークが必要っす。でも、大和で止められますかね?」

「翼はとめられなかったもんね。」

「虎は一言多いぞ。」

諸星ら、愛和の選手が話をしている。




海南のオフェンス。

秋月が早くもディフェンスを変えた。

海南のオフェンスを封じる定石といってもいい、神へのボックスワン。

マークは、大和がついた。


「もう打たせないよ。」

「それはどうかな。」


「このパターンはもう攻略済みさ。」

牧がつぶやく。



『キュ!』


牧が、渋谷と西の間、中央突破を図った。




「牧さんが、突っ込んでいきおった!!」

「さすが、全国大会。牧君のエンジンのかかりも早いわね。」




『ダム!』


『ガシ!』


牧と渋谷の体が触れるが、笛はならない。


(なんて体してるんだ!)

接触した渋谷が驚いている。


『キュ!』


(通さない。)

牧の正面には、205cmの巨体品川が立ちはだかった。

渋谷、西、品川の3人に囲まれる牧。




「つかまったーー!!」

「神は、大和がしっかり守っている!!」




(練習どおり、こいよ。)

牧は、ドリブルをしながら、ノールックで真後ろにバウンドパスを放った。



そこには、清田。

「練習どおり!」

キャッチした清田は、ゆっくりと3Pシュートを放った。



『ガン!』



『スパ!』



リングに跳ねたボールは、かろうじてネットを通過した。




「見たか、今のパス?」

「牧は、後ろにも目があるのかーー?」




「アンビリーバブルや!牧さん、一瞬たりとも清田君を見てへんで!」

「うっうん。僕も見てないと思います。」

「これはセットプレーね。」

「セットプレーやて?」

「神がボックスワンでマークされたときの対応策の一つよ。
牧君がペネトレイトで突っ込んで囲まれた場合、牧君の真後ろに清田君がフォローに回るんだわ。」

「でも、タイミングが少しでもずれたら、パスミスになってしまいますよ。」

「ええ、だから、きっと何回も何回も反復練習をして、
牧君がパスを出すタイミング、清田君がフォローに行くタイミングをはかっていたはずよ。」

「すごいでー!牧君と清田君。」

「ただ、清田君の3Pはラッキーだったかもしれないけどね。」

「秋月に、大和君と品川君の信頼関係があるように、海南にも牧君と清田君の信頼関係があるんですね。」




「ナイスパスです!」

「ナイッシューだ。」

牧は清田の頭を掴んだ。

「よし、こことめるぞ!」

「はい。」



だが、今度は大和がミドルシュートをあっさりと決め、同点とする。




「さすが、大和君、清田君が間合いを空けた一瞬をつき、自ら得点を奪いにいったわ。」

「僕には、その間合いの差はわかりませんでしたけど・・・。」



(10cm下がっただけで、打ってきやがった。こいつ、本物だぜ・・・。)



海南 6
秋月 6







続く。

#97 【海南対秋月】

2009-04-16 | #05 海南 選抜編
--東京体育館--

コートでは、今まさに海南対秋月の試合が行われようとしていた。


-----------------------------------------------

【海南】青

PG…#4 牧 紳一 184cm/3年
SG…#10 清田 信長 179cm/1年
SF…#6 神 宗一郎 189cm/2年
PF…#9 武藤 正 184cm/3年
 C…#5 高砂 一馬 191cm/3年


【秋月】白

PG…#6 渋谷 登 169cm/3年
SG…#13 西 京太郎 171cm/2年
SF…#4 大和 統 185cm/3年
PF…#7 立川 潤一 183cm/3年
 C…#5 品川 祥司 205cm/3年


-----------------------------------------------




「もう試合が始まるのに、彦一はどこ行ってるのよ!!」

「えーと、トっトイレ行くっていってました。」

(何しているんだ!?彦一君、早く来ないと相田さんがブチ切れちゃいますよ。)




両校がセンターラインを境に整列している。


「でっでけーー。」

清田は、品川を呆然と眺める。

(このでかさは脅威だな。)

牧も品川の大きさに驚きを隠させない。

それはまた、高砂も武藤も同じであった。


「牧。よろしくな。」

優しく声をかけたのは、秋月キャプテン大和統。

長髪を後ろで結わき、物腰の柔らかい穏やかな顔をしている。

#5品川は、短髪で目が大きく、愛嬌のある顔をしている。

どちらも、第1印象は、優しそうと思われる容姿をしていた。


「あぁ。フェアプレーで。」

牧も軽く答えた。




「ふーー。間に合ったでーー。」

椅子に腰をかける彦一。

「何が、間に合ったでーーよ。もう試合が始まるじゃない!遅刻は厳禁よ!!
ほんま、このルーズさはあかんわ。」

「弥生さんだって、よく遅刻するくせに。」

中村が小声でつぶやく。

「ん!?中村君、なんかゆうた?」

「いえ、何もっ。」


「おうー。品川さんは、でっかいなーー。高砂さんが小さく見えるで。
それに比べ、えーっと、渋谷さんと西さんは、えらく小っさいな。」

「あんたより5cmも高いわよ。」

(バックコート陣は、牧君、神君のサイズがはるかに上回っている。
反対に、フロントコート陣は、秋月が断然有利ね。)

「この試合のキーポイントは・・・、ミスマッチにどう対応するかですね。うんうん。」

「見れば誰だってわかるでしょ!?」

(あとは、大和君がどれだけの動きを見せるかで、大きく変わるわね。)




『ビーーー!』


3回戦 第8試合 海南大附属高校 対 秋月高校の試合が開始された。



ジャンプボールは、当然品川。

しっかりと、秋月PG渋谷がボールをキャッチする。


海南は引いて、2-3のゾーンを敷いた。




「当然だワン。」

「品川をマンツーで押さえられるのは、俺か赤木、新庄くらいしかいないだろう。んっ!?」

(あいつもいたか・・・。)

河田は、森重をそっと思い出した。




牧と清田が前列、後列は左右に神と武藤、センターには高砂がついた。


PG渋谷がボールをつきながら、トップで様子を伺う。

左にSG西、右には秋月のキープレイヤーSFの大和が位置づいた。

PF立川はハイポに、ローポには205cmの長身C品川が陣取る。


渋谷から右の大和へ、ボールが渡る。




「大和だーー!!」

「ミスタートリプルダブル!!まずは、得点か?アシストか?」




『キュ!』


(簡単には、やらせねぇ!)

清田がすかさずタイトについた。


(いいディフェンスだ。)

大和は、トップの渋谷にパスを出そうと腕を伸ばす。

だが、すぐにボールとともに腕を引っ込めた。


(フェイク!)

清田は、一瞬の隙も見せない。


だが、大和はそのままボールをバックビハインドパスで、ゴール下にループパスを放つ。


(!!)

思わぬ角度から放たれたパスに清田は反応することができなかった。


ボールは、武藤を越え、品川へ。



『ドガァ!!』



挨拶とばかりにアリウープを決めた。



『ギシギシ・・・。』



海南ゴールが軋んでいる。




「すげーパス!!品川もすげーダンクだーー!!」

「先制点は、秋月!!」

「背中を通して、あんなパス通せるのか!?」




(大和統、こんないい選手が埋もれていたとはな。)

牧に見られているのに気付いた大和は、にこりと微笑んだ。



「しな、ナイスダンクだ。」

「おう。」




「大和君はまずはインサイドを選択したわね。」

「海南は、あの2人を止められるんでしょうか?」

「当たり前や!!陵南を破った海南や、勝ってもらわなきゃあかん!!」




「よし、取り返すぞ。」

牧がボールを運ぶ。


秋月も2-3を敷く。

前列には、170cmの渋谷と西。後列に大和と立川。センターを品川が守る。


(インサイド勝負は難しそうだな。)

牧、清田、牧、神とボールを回す。


3P1m遠め。

神が全国大会初の長距離3Pシュートを放った。

あと50cmの余力を残して。




「遠いーー!!」

「あんなに遠いところから打てるのかーー!!」




(悪くない。)



『シュパ!』



難なく、ネットを揺らす。



「プレッシャーも少ない。楽に打てます。」

「了解だ。」




両校ともに、ファーストオプションで得点を奪う。

それは、相手の弱点をつくオフェンスでもあったが、自分たちをのらせるオフェンスでもあった。

だが、秋月は早い対応で、海南のファーストオプションを防ぎにかかる。



海南 3
秋津 2







続く。