(『うえぽん版「お葬式」・第2話「悲しむには早すぎる」』の続き)
昨日書いた分で、一つ重要な箇所を書き忘れていたので、ここで改めて記す。
打ち合わせの真っ最中、ケータイが突然鳴りだし、ヒロコおばさんが「もしもし…」と話し出したがすぐに絶句してしまった。「ちょ、ちょっとお待ち下さい…」と一旦間を入れるヒロコおばさんに母が「誰から?」と聞くと、なんと祖父の地元の老人会からだった。祖父は密葬にする予定だったから、まだ親類以外には知らせていないはずなのに。そして、なぜ教えていないはずの電話番号を知っていたのか…う~ん、ミステリアス!
実は、恐ろしい偶然だった。老人会の人は、最近の祖父の家がずっと留守で、姿も見かけないので心配になり、祖父の家の隣に住んでいるマスダさん宅に連絡を入れたそうで、マスダさんが親切にヒロコおばさんの電話番号を教えてあげたのだ。老人会の人としては今回の電話の内容は単に「祖父の具合はどうですか?」という割と気軽なものに過ぎなかった。電話を代わった母から「実は先ほど…」と、祖父の死を知らされた老人会の人の「えーっ!?」という驚愕の絶叫が電話口から聞こえる。向こうも驚いたろうが、こっちだって、その電話のタイミングに驚いた。
向こうは参列の意を表明していたが、再び代わったヒロコおばさんが「今回はごくごく身内でやりますので、申し訳ありませんがお気持ちだけで…」と、部屋の片隅で頭をペコペコ下げていた。
流れに戻って、15日。この日はコンピュータ講習の日である。昨晩あまり眠れなかったため、まぶたは重いし目がショボショボする。まぁ、これは多少花粉症の気もあるのだろう。眠気と戦いつつ講習を終えたその足で、鶴見の祖父の自宅方面へと向かう。仕事と、東戸塚の病院から預かった書類の件で、S病院に先に立ち寄った。K吾院長は診察中であったため、看護師長のイトウさんに書類を渡す。ついこの前までS病院にかかっていた時の祖父は比較的元気な方だったから、祖父を知っているイトウさんに事情を説明したら驚いて、持った書類を思わず握りつぶしそうになっていた。
その後、祖父の家に着くと、一族が既に部屋中を片っ端から「大捜査」していた。とりあえず印鑑や預貯金の通帳をまとめ、生前に「死んだらこれを遺影に使ってヨ」とあらかじめ撮っておいた写真(妙に怖い顔で写っていて個人的にはイヤなんだが)、数珠、棺に入れるお気に入りの服、愛用の杖、ハンチング(祖父は「ハンチング星人」だった)などをピックアップしておく。
押し入れやタンスから色々なものが出てくる。ヒロコおばさんと母が、姉妹揃って地元の私立女子中・高に通っていた時のバッジ。その学校は仏教系だったのだが、卒業時に「戒名」がもらえるという変な風習があった(今もあるのだろうか)。もらうのはいいが、その家の宗派とかが違ったりした時はどうするのだ。それはともかく、母がなくしたと思っていた、戒名を書き付けた紙が見つかった。その名も「清顔妙浄」(せいがんみょうじょう)。「要するに、アタシの顔がきれいってことじゃん?」と、母は勝手に解釈して喜んでいた。ちなみに、ヒロコおばさんがもらった戒名は「花屋妙麗」(かおくみょうれい)。偶然だが、ダンナであるヒロシおじさんの義姉は、埼玉県で花屋をやっている。
「あれがないわよぅ!」とヒロコおばさんが叫んだ。祖父が愛用していた、竹でできた大きい花かごがない、というのだ。「アタシ、おじいちゃん亡くなったらあれだけはどうしてももらおうと思ってたのにー!」とヒロコおばさんが嘆くと母が「えー!?あれアタシも狙ってたんだよー!」と静かに火花を散らす。遺産を巡って姉妹骨肉の争い!?でも、ブツは5千円に値切らせて買ったという花かごだ。ショボい、ショボ過ぎて逆に笑えるぞ。まぁ、お金で争うよかよっぽどマシではあるが。
ヒロシおじさんとトーゴちゃん(従弟)と私は「そんなもん誰かにあげたんじゃん?」と冷ややかにつぶやくが、半ば血眼になって探している姉妹には聞こえない。「おじいちゃんは何でもポンってあげちゃうんだからー!」と半ギレ状態である。祖父のその気前の良さで、アナタがたも今までいっぱい恩恵に浴してきたじゃないですか、もう。
この光景を見ていて、江戸時代に詠まれたある川柳を思い出した(一応近世文学専攻ですから、ね)。
「泣く泣くも 良い方を取る 形見分け」
伯母一家は葬儀の打ち合わせなどがまた残っているため、2時半頃に「今日の『捜査』はここまで」ということになった。
お葬式が終わったら、また形見分けや引き払いの準備などでここを何度か訪れることになるが、それが終わってしまえば、家も地主に返されて、もう来ることもないのか、と思ったら何だか寂しくなった。
(以下次号)
昨日書いた分で、一つ重要な箇所を書き忘れていたので、ここで改めて記す。
打ち合わせの真っ最中、ケータイが突然鳴りだし、ヒロコおばさんが「もしもし…」と話し出したがすぐに絶句してしまった。「ちょ、ちょっとお待ち下さい…」と一旦間を入れるヒロコおばさんに母が「誰から?」と聞くと、なんと祖父の地元の老人会からだった。祖父は密葬にする予定だったから、まだ親類以外には知らせていないはずなのに。そして、なぜ教えていないはずの電話番号を知っていたのか…う~ん、ミステリアス!
実は、恐ろしい偶然だった。老人会の人は、最近の祖父の家がずっと留守で、姿も見かけないので心配になり、祖父の家の隣に住んでいるマスダさん宅に連絡を入れたそうで、マスダさんが親切にヒロコおばさんの電話番号を教えてあげたのだ。老人会の人としては今回の電話の内容は単に「祖父の具合はどうですか?」という割と気軽なものに過ぎなかった。電話を代わった母から「実は先ほど…」と、祖父の死を知らされた老人会の人の「えーっ!?」という驚愕の絶叫が電話口から聞こえる。向こうも驚いたろうが、こっちだって、その電話のタイミングに驚いた。
向こうは参列の意を表明していたが、再び代わったヒロコおばさんが「今回はごくごく身内でやりますので、申し訳ありませんがお気持ちだけで…」と、部屋の片隅で頭をペコペコ下げていた。
流れに戻って、15日。この日はコンピュータ講習の日である。昨晩あまり眠れなかったため、まぶたは重いし目がショボショボする。まぁ、これは多少花粉症の気もあるのだろう。眠気と戦いつつ講習を終えたその足で、鶴見の祖父の自宅方面へと向かう。仕事と、東戸塚の病院から預かった書類の件で、S病院に先に立ち寄った。K吾院長は診察中であったため、看護師長のイトウさんに書類を渡す。ついこの前までS病院にかかっていた時の祖父は比較的元気な方だったから、祖父を知っているイトウさんに事情を説明したら驚いて、持った書類を思わず握りつぶしそうになっていた。
その後、祖父の家に着くと、一族が既に部屋中を片っ端から「大捜査」していた。とりあえず印鑑や預貯金の通帳をまとめ、生前に「死んだらこれを遺影に使ってヨ」とあらかじめ撮っておいた写真(妙に怖い顔で写っていて個人的にはイヤなんだが)、数珠、棺に入れるお気に入りの服、愛用の杖、ハンチング(祖父は「ハンチング星人」だった)などをピックアップしておく。
押し入れやタンスから色々なものが出てくる。ヒロコおばさんと母が、姉妹揃って地元の私立女子中・高に通っていた時のバッジ。その学校は仏教系だったのだが、卒業時に「戒名」がもらえるという変な風習があった(今もあるのだろうか)。もらうのはいいが、その家の宗派とかが違ったりした時はどうするのだ。それはともかく、母がなくしたと思っていた、戒名を書き付けた紙が見つかった。その名も「清顔妙浄」(せいがんみょうじょう)。「要するに、アタシの顔がきれいってことじゃん?」と、母は勝手に解釈して喜んでいた。ちなみに、ヒロコおばさんがもらった戒名は「花屋妙麗」(かおくみょうれい)。偶然だが、ダンナであるヒロシおじさんの義姉は、埼玉県で花屋をやっている。
「あれがないわよぅ!」とヒロコおばさんが叫んだ。祖父が愛用していた、竹でできた大きい花かごがない、というのだ。「アタシ、おじいちゃん亡くなったらあれだけはどうしてももらおうと思ってたのにー!」とヒロコおばさんが嘆くと母が「えー!?あれアタシも狙ってたんだよー!」と静かに火花を散らす。遺産を巡って姉妹骨肉の争い!?でも、ブツは5千円に値切らせて買ったという花かごだ。ショボい、ショボ過ぎて逆に笑えるぞ。まぁ、お金で争うよかよっぽどマシではあるが。
ヒロシおじさんとトーゴちゃん(従弟)と私は「そんなもん誰かにあげたんじゃん?」と冷ややかにつぶやくが、半ば血眼になって探している姉妹には聞こえない。「おじいちゃんは何でもポンってあげちゃうんだからー!」と半ギレ状態である。祖父のその気前の良さで、アナタがたも今までいっぱい恩恵に浴してきたじゃないですか、もう。
この光景を見ていて、江戸時代に詠まれたある川柳を思い出した(一応近世文学専攻ですから、ね)。
「泣く泣くも 良い方を取る 形見分け」
伯母一家は葬儀の打ち合わせなどがまた残っているため、2時半頃に「今日の『捜査』はここまで」ということになった。
お葬式が終わったら、また形見分けや引き払いの準備などでここを何度か訪れることになるが、それが終わってしまえば、家も地主に返されて、もう来ることもないのか、と思ったら何だか寂しくなった。
(以下次号)
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