キカクブ日誌

熊本県八代市坂本町にある JR肥薩線「さかもと駅」2015年5月の写真です。

現代日本のナショナリズム 講座

2023年05月21日 | ☆学ぶ!
1年ほど前から受講している神奈川大学の公開講座 新しいシリーズが始まったので 行ってきました 今回は2ヶ月で6回の講座を受講します。





これまで12シーズンにわたって日本のナショナリズム 愛国心などについて 講義が行われてきたそうです。私が受講したのはポツダム宣言の頃から 三島由紀夫 まで 戦中戦後のナショナリズムについての各論ですが、これからはもう一度ナショナリズムについて 俯瞰してみようということのようです。

現代日本ナショナリズムの理論的再検討
〜グローバル化と自国第一主義の蔓延する世界において考える

第1回目の 今日は以下のようなテーマが発表されていましたが 例によって 冒頭はちょっと違う話から始まりました。

歴史観とナショナリズム
文明史観・唯物史観・皇国史観など「歴史観」とナショナリズムとの関係を整理する

ウクライナ 戦争の話です。
1945年8月15日生まれの先生は、バリバリの左翼 反戦主義者とおっしゃっています。
プーチンかウクライナへ侵攻したことが非常に ショックだったと話していました。 政治史の専門家として認識が甘かったと言わざるを得ないと。

プーチンは2022年の2月からウクライナに軍事行動していることを 「戦争」とは言っていませんでした。 それがこの5月になってようやく これが戦争状態であるということを認める発言をし始めたそうです。

これは日中戦争時の日本の理屈と非常に 似ている という話でした。 つまり 日中戦争が起こった 1936年当時日本はこれを 戦争とは言わず 日支事変とか 日華事変 という表現をしていました。 あくまでも 「暴支膺懲」(初めて聞きましたこの言葉)、警察的行動だと言うわけです。
80年以上経って この論理がまだ使われていることに考えさせられます。

スティーブンピンカー という人が
2011年に発表した「暴力の人類史」という 本には、人類の誕生以来 人々が殺人や暴力行為でどのくらい 死んでいったかということを 統計的にまとめられています。私も一昨年あたりに読んだのですが非常に面白い本でした。 この研究によれば 第1次大戦 第2次大戦でおびただしい人が亡くなったとされているものの、 実は人類の太古の歴史から見ると、残虐な行為によって死ぬということがどんどんどんどん減ってきているという結果がわかったそうなんです。

ピンカーの考察によると その理由として考えられるのは特に国家による法の整備が挙げられるということでした。 つまり国家による法の整備がなされる前は、殺し合いが日常的にあり 、諍い、戦争、殺人や処刑で死ぬ人が相対的に多かったということなのだそうです。
中世では処刑は町の広場で行われ(魔女狩りなど) 人々は処刑を見世物的に楽しんでいたとも言われます。
今ではちょっと考えられない感覚です。

また国家による法の整備と同時に 啓蒙思想により 人道主義が人々の間に芽生えたということも大きな変化ではないかとか。

しかし先生はこのピンカーの説も全面的に肯定はしていませんでした。 やはり ピンカーは歴史学者ではなく 心理学者であり、 統計的に これまでのものを処理しただけで 今後もそうなるかどうか、そのことが本当に歴史の真実であるかということは また別の話だと考えているようです。

歴史学にも歴史があり 1970年頃は歴史を学ぶには経済を学ばなければならないという風潮があり 経済から見る歴史ということがとても流行っていたんだそうです。 そして今は歴史に統計学を持ち込むのが流行っているのだそうです。



それから最近は 地政学がかなりクローズアップされています。テレビや雑誌 インターネット上でも時勢柄、地政学を云々する人たちが とても増えていますが、それについても先生は批判的でした。
地政学 すなわち 地理学と政治学を融合したものは 本来 軍事作戦上、どの地点を抑えれば有利になるかなどを考える手法であり、先生に言わせれば 「エセ学問」なのだそうです。

第二次世界大戦時 ヒトラーのナチス や 日本 でも 「生存圏」という言葉が登場しました。 今でも シーレーン などという言い方で、どこそこが 日本の生命線だなどと言います。地政学をいくら考えても 「なぜ戦争が起こるか」という理由はわからない、生存圏を設定してしまうそのものの見方が戦争を引き起こすのだというのが先生の主張です。


地政学は第二次世界大戦後 急激に学問の世界から消えていったんだそうです。なのに、なぜ今なぜそんな古いものを持ち出しているのだ??と。


さて この話もなかなか面白かったのですが ナショナリズムの話がまだ出てきませんね。

先生は続けます。 ピンカーによれば 1945年から ピンカーのその本が出た 2011年まで 長い平和の時代が続いている。 大国間の戦争はなく、 核兵器は使われず、 先進国がどこかの国に攻め入って領土を拡張したことは一度もなく、国際的に認定された国が消滅することもなく何十年も続いてきたと。

プーチンがウクライナに侵攻するまでは。


話を 2011年時点に戻して、 なぜこの長い平和が続いてきたかということも考察があります。

一番強い理由は 人々のメンタリティーの変化とのことです。 例えば 第二次世界大戦までは 狙撃兵が何人射殺したか、その数が多ければ多いほど英雄視され、自分も誇りに感じていたそうですが第二次世界対戦後は人を殺した兵士達は心に傷を負うという考え方が常識になってきます。また「戦争で人が死ぬことはコストだ」という考え方も浸透してきました。そのコスト意識があるために プーチンは総動員をかけずに 刑務所で服役している人々に声をかけて戦場に送り出しているわけです。 その段階で 人の命の 選別をしているということに問題が大有りですが。

反戦意識の盛り上がりも理由の一つです。
さらに経済的にグローバル化が進み 各国が相互依存する関係にあるというのも 大きな理由です。

だから先生もまさか プーチンが本当にウクライナ侵攻するだろう とは 直前まで思っていなかったというのです。歴史学者として自分の味方が甘かったと大いに反省をしているという話でした。

ピンカーは核抑止という理由も提示していたようですが、 先生はそれには懐疑的でした。


こんな感じで1回目の講義が終わりました。ナショナリズムの話は 次回からということになりそうです。

前回までの講義は ポツダム宣言、近衛文麿、南原繁、野坂参三、清水幾太郎、江藤淳、三島由紀夫などの文章を吟味する内容で結構難しかったのですが、 これからは 俯瞰する内容になるようなのでもうちょっとつかみやすくなるかな? 楽しみです。





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