ワクチン予約、当日キャンセルは3872件 大規模接種センター

2021年05月31日 22時08分49秒 | 医科・歯科・介護

5/31(月) 18:33配信

毎日新聞

大規模接種が始まり、新型コロナウイルスワクチンの接種を受ける高齢者=東京都千代田区で2021年5月24日午前(代表撮影)

 防衛省は31日、自衛隊が東京、大阪に開設した新型コロナウイルスワクチンの大規模接種センターで直前のキャンセルが1週間で7401件となり、このうち予約当日のキャンセルは3872件に上ったと発表した。直前にキャンセルした人数は実際に接種した人数の11%を占めた。

【世界の5つの変異株】感染力、ワクチンの有効性は?

 開設初日の24日から30日までの1週間の合計で、当日のキャンセルは東京が3232件、大阪が640件。前日までのキャンセルは東京が2880件、大阪が649件だった。特に30日は1日だけで当日キャンセルが東京で841件、大阪で149件にも上った。

 防衛省関係者によると、自治体の接種との二重予約や体調不良などを、直前のキャンセルの理由に挙げることが多いという。中山泰秀副防衛相は31日、「(キャンセルした人の)人数を算出し、さまざまな角度から分析しているが、具体的な理由について確たることは申し上げられない」と記者団に述べるにとどめた。

 このため、防衛省は6月2日から、キャンセル分も見込んで東京で予約数を5%程度、大阪で1・5%程度増やすことにした。中山氏は「予約したものの、当日来場されない方が一定数いらっしゃることから、キャンセル分を無駄にせず、ほかの希望する方々を受け入れる」と狙いを話した。【畠山嵩】

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前立腺・頭頸部・骨軟部に対する重粒子線治療については保険適用が認められています。

2021年05月31日 21時01分35秒 | 医科・歯科・介護
口腔非扁平上皮癌に対する重粒子線治療に関する無料出前講座について
 
歯科口腔外科の先生方を対象に、口腔非扁平上皮癌に対する重粒子線治療に関する無料出前講座の受付をしています。
 
国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構
 
保険診療における費用
 
2018年4月現在、前立腺・頭頸部・骨軟部に対する重粒子線治療については保険適用が認められています。
前立腺の場合160万円、頭頸部と骨軟部については237.5万円となっており、これに入院費などを含めた金額からお持ちの保険証によって1割~3割の負担額となります。
また、高額療養費の制度もご利用いただけます。
 
先進医療における費用
先進医療とは、新しい医療技術の出現や医療に対するニーズの多様化に対応して、「厚生労働大臣が定める高度の医療技術を用いた療養その他の療養であって、保険給付の対象とすべきものであるか否かについて、適正な医療の効率的な提供を図る観点から評価を行うことが必要な療養」として、厚生労働大臣が定める「評価療養」の1つとされています。先進医療は、有効性及び安全性を確保する観点から、医療技術ごとに設定されている一定の施設基準を満たしているとして届出を行った保険医療機関において、保険診療との併用ができます。
先進医療の承認が得られたことにより、重粒子線治療は一般医療の仲間入りを果たしたといえます。具体的な適応疾患については、重粒子線治療の適応をご覧ください。
臨床試験における費用
 
臨床試験で行われる場合、重粒子線治療の技術料については患者さんの負担はありません。その他の診察・検査・入院等の費用については通常の保険診療と同様です。
臨床試験における費用
臨床試験における費用
臨床試験とは、先進医療の適応となっている疾患について、さらに成績の向上を目指したり、治療期間の短縮を目指して臨床試験を行っているものや、新たな疾患への治療適応の確立を目指して臨床試験を継続してものがあります。具体的な適応疾患については、「重粒子線治療の適応」をご覧ください。
自由診療における費用
 
保険診療、先進医療、臨床試験の適応とならない場合でも、自由診療として重粒子線治療が行える場合があります。
自由診療の場合、公的医療保険は利用できず、診察・検査・入院等の費用を含め、全額自己負担となります。
当院では、自由診療の価格を以下のとおり定めています。
重粒子線治療の技術料 352万円(税込)
その他診察・検査・入院費など 保険点数×11円(税込)
 
自由診療における費用
自由診療における費用
国立研究開発法人 量子科学技術研究開発機構
QST病院(旧 放射線医学総合研究所病院)
〒263-8555 千葉県千葉市稲毛区穴川4-9-1

 

 

 
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重粒子線治療の対象となる症例

2021年05月31日 20時59分54秒 | 医科・歯科・介護

重粒子線治療の対象となる症例

 粒子線治療 

1粒子線治療の原理2粒子線治療の歴史3なぜ粒子線でがんが治るか4粒子線治療の特徴5重粒子線治療の対象となる症例6重粒子線治療の症例別治療期間7重粒子線治療の治療成績8普及型重粒子線治療装置

 重粒子線はがん病巣に集中して照射できることから、進行していない限局したがんの治療に適しています。また、がんの周りに重要な臓器や放射線に弱い組織のある場合に、それへの照射を避けることのできる強力な治療法と考えられています。

この治療法は、不規則に運動する胃や袋状・管状の臓器は、がんの狙い撃ちが困難であったり、臓器に孔を開ける危険性があるため、適応は不向きです。また、白血病のような全身に広がったがんや広く転移したがんにも適応は不向きです。

 現在放射線医学総合研究所(放医研)で行われている重粒子線治療の効果が期待される適応部位は下の図に示すとおりです。

効果が期待されるがん

高度先進医療の対象となっている部位

臨床試験中の対象部位

(1)頭頚部腫瘍・頭骸底・眼球の腫瘍

(1)脳腫瘍

(2)肺がん(非小細胞がん)

(2)中枢神経腫瘍

(3)肝がん

(3)食道がん

(4)骨・軟部肉腫

(4)すい臓がん

(5)前立腺がん部腫瘍

(5)子宮がん

 

(6)直腸がん術後再発

この分類は、がん腫瘍の進行程度にもよりますので、詳細は放医研の病院にお問合せください。

重粒子線治療の適応条件

  1. がんであることをきちんと予告されていること
    ・患者自身ががんであることを認識していること    
    ・悪性の腫瘍であること(良性の腫瘍は対象とはなりません)

  2. 転移がないこと
    ・広範な全身転移は対象となりません

  3. 過去に放射線治療を受けたことがないこと
    ・治療を受けた部位と異なるばあいは治療の対象になることがあります。

 

重粒子線治療が適用されない疾患例

  • 白血病など、全身に広がっているがん

  • 胃がん、大腸がんなど、蠕動運動を伴う臓器の疾患

  • すでに他の良好な治療法が確立しているがん

  • 全身に転移してしまったがん

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コロナ禍のこころの遠隔評価・相談~

2021年05月31日 12時51分33秒 | 医科・歯科・介護

コロナ禍によるメンタルヘルス

古屋範子が座長を務める党うつ対策プロジェクトチーム・青年委員会(矢倉克夫委員長・参院議員)で、国立精神・神経医療研究センター病院長 中込数幸先生に「うつ病の現状とコロナ禍によるメンタルヘルス課題への対応」をテーマに講演をして頂きました。

中込先生を中心に取り組まれている重要な研究、遠隔対応型メンタルヘルスケア基盤システム構築を後押ししてまいります。

(以下、2021.1.6付 公明新聞より引用)

【うつ病 遠隔診療めざす/実用化に向けた課題聞く/党PT】

公明党うつ対策プロジェクトチーム(PT、座長=古屋範子副代表)などは5日、参院議員会館で会合を開き、うつ病など精神疾患のオンラインによる遠隔診療の実用化に向けた研究開発事業について、代表者である国立精神・神経医療研究センターの中込和幸病院長から説明を受けた。

 同事業は、公明党の政府への提言を受けて、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)で昨年11月から行われている。

 中込病院長は、同事業の一環として、自分で心の健康状態をチェックできるシステムを4月の実用化をめざして開発していると報告。人工知能(AI)が相談内容に応じて、医療機関受診の必要性など重症度を判定するとし、「相談業務に当たるスタッフ、自治体職員らの負担軽減につなげたい」と述べた。

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コロナ禍で増加 心の病に身近な人の支援

2021年05月31日 12時45分44秒 | 医科・歯科・介護

2020年9月2日  公明新聞

専門家につなぐ応急処置 
メンタルヘルス・ファーストエイド 
浸透は不十分 教育現場などで周知を

“コロナうつ”という言葉が生まれるなど、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う生活の変化によって、心の病を抱える人が増加している。こうした中で、家族や友人などの身近な人が行える「メンタルヘルス・ファーストエイド」(MHFA)という支援に注目が集まっている。普及に向けた課題を探った。

MHFAは、心の病に対する「応急処置」や「初期対応」を意味する。うつ病などの精神疾患を抱える人に対して、専門家ではない身近な人ができる支援プログラムだ。

①自傷・他害のリスク評価②はんだん(判断)、批判せずに話を聞く③あんしんと情報を与える④専門家のサポートを勧める⑤自分でできる対処法(セルフヘルプ)を勧める――の五つの行動計画で構成され、「りはあさる(リハーサル)」と覚えられる。

支援プログラム 五つの行動計画

最も重要度の高い、自殺の意思などを確認するリスク評価に加え、責めたり決め付けたりせず、相手の話をしっかり聞くこと。適切な治療で良くなるなどの情報を与え、医療機関への受診を促すこと。軽い運動など、症状を緩和する対処法を示すことなど、専門家の支援につなげるための具体的な対応を学ぶことができる。

MHFAは、2000年にオーストラリアで開発され、日本でも、東日本大震災における被災者支援やひきこもり対策など、心の健康に関するさまざまな場面で活用されている。

自殺のサインに気付き、適切な対応を図る「ゲートキーパー」もその一つだ。NPO法人ゲートキーパー支援センターの竹内志津香理事長は、支援の現場においてMHFAは必要不可欠なものだと語る。

例えば、うつ病の患者の家族であっても、判断、批判せずに話を聞くということができず、患者を追い込んでしまうケースがある。また、精神疾患を抱える患者に自殺の意思などを尋ねることは、死にたいという思いを和らげるために大切なことだが、必要性を知らない人にとっては抵抗がある。竹内理事長は、「身近な人が悩んでいても、(MHFAの)スキルや知識を学んでいない人は、適切な支援ができていない」と指摘する。

MHFAの普及を進めているメンタルヘルス・ファーストエイド・ジャパンの大塚耕太郎代表は、保健師や民生委員など、特定の職種や分野では活用が進んでいるものの、社会への浸透が不十分だと強調する。

大塚代表は、教育現場での活用など、国民一人一人への周知・啓発が不可欠とした上で、「コロナ禍で家族や身近な人と過ごす時間が増える今こそ、MHFAの重要性が増している」と語る。

相談件数、2カ月で1万件

新型コロナウイルスに関する心の相談件数

全国の都道府県・政令市の精神保健福祉センターに寄せられた新型コロナウイルスに関する心の相談件数は、緊急事態宣言が発令された4~5月の2カ月間で大幅に増え、1万件近くに上った。

東京都にある相談窓口の一つ、中部総合精神保健福祉センターによると、感染拡大の初期は、感染への不安や生活の乱れによる不眠などの相談が多かったという。現在は、件数が減少したものの、他人との関わりが薄れたことによる孤独感や、将来への不安を吐露する内容は増加傾向にある。

また、ニッセイ基礎研究所が6月26~29日に実施した「新型コロナによる暮らしの変化に関する調査」では、他人との「交際や付き合い(オンラインを含む)」が減ったという人が5割に上る一方で、3割の人が「家族と過ごす時間が増加した」、2割の人が「一人で過ごす時間が増加した」と回答している。

国民の命守る政策進める

公明党うつ対策プロジェクトチーム 三浦信祐 事務局長(参院議員)

日本のうつ病患者数は約127万人(17年現在)と増加傾向にあり、自殺の原因としても最も高い割合を占めている。

公明党はこれまで、うつ病対策を極めて重要な政策課題と位置づけ、有効な治療法の一つである「認知行動療法」の保険適用などを実現してきた。今年2月には、それまでのワーキングチームから体制を拡充した党うつ対策プロジェクトチームを設立し、専門家へのヒアリングや医療機関への視察などを精力的に行っている。

うつ病は誰もがなり得る病気であり、メンタルヘルス・ファーストエイドのような身近な人ができる支援を広げていくことは重要だ。

新型コロナの影響が長期化する中、国民の命を守る政策として、うつ病対策を進めていきたい。

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精神科医推奨の“コロナうつ”対策!こころのコンディションを整える5つの生活術

2021年05月31日 12時41分35秒 | 医科・歯科・介護

プライムオンライン編集部

2020年4月18日 土曜 午前11:30
自宅待機でありがちな生活リズムの乱れは、“コロナうつ”のリスクを高める
生活リズムが整うと、体内時計が整い、こころが整う
社会的距離は保ちつつ、人とのこころの距離は“密”にしよう

新型コロナウイルス肺炎(COVID-19)の感染拡大を防ぐ対策としてのソーシャル・ディスタンシング(社会的距離の確保)ですが、自宅待機も長丁場になればなるほどストレスがたまります。
慣れない生活に加え、会いたい人に会えないフラストレーションや、逆に普段は仕事や学校などで適度に距離のあった家族との“家庭内濃厚接触”に「もう、無理!」と頭を抱えている方も少なくないことでしょう。
3月23日からロックダウン(都市封鎖)が始まっているイギリスでは、1ヶ月も経たないうちに約半数の人たちが「普段より不安で気分が落ち込んでいる」と答え、38%がよく眠れないという調査結果が出ています。決して対岸の火事ではありません。
先の見えない不自由な状況下でやり場のないストレスが続くと、“コロナ疲れ”から生じるうつ状態、いわゆる“コロナうつ”を患う危険性があります。

この記事の画像(5枚)
さまざまなストレス解消法やこころのケアが紹介されています。ご自身に合ったものを見つけ、うまく取り入れることで、みなさんの自宅待機中の心身の疲れが癒やされることを願っています。
一方で、それらが効果を充分に発揮するには、前提となる“こころのコンディションづくり”が不可欠です。コロナ前には当たり前だったけれど、非常事態ではつい忘れがちな“こころにやさしい日常生活の過ごし方”が、先日国際医学会によって共同で世界に向けて提言され、日本語版も日本うつ病学会によって発表されています。
ここでは、その提言に基づいて、実践ポイントについて解説します。
“こころにやさしい日常生活”を
そもそも“こころにやさしい日常生活”とは何でしょう?
それは私たちが人間である前に、“動物レベル”で実践すべき基本的なものです。具体的には、 規則的な生活リズムを心がけるということです。
私たちがこころ穏やかに過ごすために最も重要な脳のメカニズムのひとつに、“体内時計”と呼ばれるものがあります。
この体内時計がスムーズに働く(=正確に時を刻む)と、私たちは心身共に心地よさを感じるようにできています。逆に、体内時計が乱れると、多岐にわたる心身の状態が悪化します。
例えば、うつ病などのメンタルの不調から、糖尿病、がん、ひいては心筋梗塞や脳梗塞といった病気まで。女性の大敵である肌荒れ、冷え性、肥満にも影響します。
なんと言っても、今、一番懸念されている感染リスクに関係する免疫力まで低下させてしまいます。不規則な生活だと風邪もひきやすいですよね?動物実験では、インフルエンザワクチンの抵抗力に4倍の差が出るほど、免疫は体内時計の影響を強く受けることもわかっています。
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時計のくせに、すぐに時間が狂う“体内時計”

生きていく上でこれほど大切な体内時計ですが、時計のくせにすぐにバグを起こして時間が狂ってしまうという、とても困った習性を持っています。
 
どれだけ頼りない時計かというと…

(1)毎日、確実に時間がずれるので、“時刻合わせ”も毎日必要
(2)環境変化で簡単に時間が狂ってしまう
(3)すぐに狂うくせに、一度大きく狂うと修正が難しい
だから、生活が激変した今こそ、“体内時計のケア”が不可欠なのです。
新型コロナのように生活を激変させる出来事に直面すると、体内時計は乱れやすくなるだけでなく、一度乱れたその体内時計を元に戻すことも難しくなります。
特に、仕事や学校・余暇・人との関わりといった一定のリズムで毎日行ってきた日課が失われると、体内時計はバグりやすくなります。その結果、不眠、食欲や意欲の低下、疲労倦怠、憂うつや苛々などの感情不安定化、といった時差ボケに似た不快な心身の症状が出現してくるのです。
そこで、体内時計をスムーズ働かせるために、非日常下でも可能な5つの生活術を紹介します。

“コロナうつ”対策に役立つ5つの生活術
<1>睡眠

・毎日、同じ時間に寝起きして、一貫した睡眠リズムを維持しましょう。いつも同じ時刻に起床することは、体内時計の安定に最も重要です。必ずしも無理に朝型にする必要はなく、朝型か夜型どちらでもよいので、毎日、自分に合った一定のリズムで寝起きすることが大切です。
・起床後すぐの朝日浴は、必ずしも睡眠に効果的とは限りません。朝日浴は、夜型になりやすい若者タイプの不眠には効果的ですが、高齢者に多い“寝つくのはすぐだけど、目覚めが早すぎて困る”といったタイプの不眠では、かえって逆効果になることが少なくないということが行動科学では常識となっています。“朝日浴=誰もが良眠”と誤解を与えかねない情報が、なぜか日本ではステレオタイプに拡散していますが、注意が必要です。

・日中の昼寝(特に、午後遅く)は「夜の睡眠を食べる」と言われるほどなので、できるだけ避けましょう。どうしても昼寝が必要だとしても、長くても30分以内に収めましょう。昼寝直前に、紅茶やコーヒーなどカフェイン入りの飲み物を摂ると、昼寝が長引かないという裏技もあります。
・夜間に明るい光(特にブルーライト)を浴びるのは避けましょう。パソコンやスマホの画面も含まれます。ブルーライトは、睡眠に不可欠なホルモン(メラトニン)を減らしてしまいます。
<2>食事

毎日、同じ時間に食事をしましょう。食事の刺激は体内時計を正常化させます。とりわけ、朝食は大切です。食欲がなくても時間が来たら少量で良いので何かを口にしましょう。
アルコールも体内時計を狂わせるので、お酒の飲み方は要注意です。寝酒は、寝つきが少しましになったような気にはなれても、睡眠の深さが失われるので、睡眠薬代わりのお酒は厳禁です!また、昼酒や飲み過ぎといった悪いお酒の習慣は、うつの原因になることも示されています。
<3>運動

毎日、運動をしましょう。できれば、同じ時間帯で。散歩などは気分転換にもなりますので、3密を避けて一日一回は外に出てからだを動かしましょう。ただし、急に運動し過ぎると、けがの原因にもなりますし、かえって免疫力が下がるという研究すらあるのでマイペースを大切に。

<4>日課

・洗顔や歯磨き、朝の着替え、在宅での仕事や勉強、家事、入浴など、毎日行ういくつかの日課も、同じ時間に行いましょう。すでに、朝からパジャマのままでダラダラとなし崩し的な生活を送り、調子がすぐれないという方は、私の周囲でも散見します。“自宅待機生活=毎日が日曜日”ではありません!
・毎日、一定時間を屋外で過ごしましょう(3密は避けて)。
・外出できなくても、少なくとも2時間は窓際で過ごし、太陽の光を浴びながら、読書や音楽、瞑想など、こころが落ち着く時間を持ちましょう。
・体内時計の時刻合わせには、朝の光が欠かせません。時刻合わせに望ましいのは、お昼近くよりは、目覚めてから1~2時間以内の早い時間帯です。一方で、既述のように朝日には、特に高齢者の睡眠にはマイナスの影響もありえますから、バランスをとりながら自分に合ったリズムを総合的に判断して見つけていきましょう。
 
<5>対人交流

・特に一人暮らしの場合、社会的距離を取ることで、人との交流が希薄になりがちですが、スムーズな体内時計の働きには、健全な対人交流も不可欠です。会えない期間は、テレビ電話でも音声通話でも構わないので、毎日、誰かと会話する機会を持ちましょう。LINEのような文章だけのやりとりでも、リアルタイムにメッセージが行き交うものであれば大丈夫です。日課に取り入れ、毎日、同じ時間帯に誰かと交流するようにしましょう。
・家族など同居している人がいる場合、生活リズムは他人に乱されがちです。例えば、家での不要な気遣いは消耗しますし、あまりにもマイペースな同居者に自分の生活が振り回されるのはつらいことです。できれば、率直に話し合いたいものです。

ただ、相手に頼む時には「やってもらわなきゃ、困るよ!」「私のつらさ、わかってんの!?」とネガティブな感情を添えるのではなく、「やってくれたら、助かるなぁ」「手伝ってもらえると嬉しいよ」とポジティブな気持ちをおしりに添えるのがポイントです。言われた時の印象が180度違いますし、断られても互いに傷つかず、またの機会にワンチャンを残せます。
・社会的隔離を一足先に経験した海外からは、ドメスティック・バイオレンス(DV)やコロナ離婚の激増も漏れ聞こえてきます。もしDVがあるならば、我慢せずに専門機関に相談しましょう。
・互いに気持ちを分かちあえる信頼できる人間関係こそ、うつ予防も含めた最強の“こころの抵抗力”のひとつであることは医学的に示されています。「今さら急に、冷え切った家族との関係改善などありえない!かえって苦痛!」という場合には、家族以外の人間関係を充実させるだけでも“困った人との関係性”が少し薄められ、負の影響力を最小化できる次善の策として有効です。
・もともと交流できる人間関係なんてない、という人は、こころのうちを書き出すだけでも、楽になれます。Twitterやブログでスッキリする、あれと似たイメージです。ただ、人目にふれるものは書きすぎが怖い。そんな時には、こころのうちにたまった気持ちを紙やスマホに書く「感情日記」なども心身の健康に医学的効果が示されておりお薦めです。

ただ、書いてかえってつらくなる場合には、自己流で無理はし過ぎないでください。書き方のコツについての解説書もありますので参考にしてもよいでしょう(参考文献参照)。
・生活リズムが破綻する最大の理由は、役割のアンバランスです。夫婦で在宅勤務、子供は休校、そんな中で母親(妻)だけに家事や家族のケアが集中するといった“役割のオーバーシュート”は、よくある不健全な例です。長丁場になるほど母親(妻)のペースは狂わされ、体内時計が正しく機能しなくなってしまいます。この機会に、家族で家事などの役割分担を相談して、みんなが心地よく「Stay Home」できる生活リズムのルールを作りましょう。
“コロナうつ”のさらに深刻な原因として懸念されているのが、いわゆるコロナ不況の到来です。先の見えない持久戦で“大切な自分を守る”には、こころのコンディションづくりはますます不可欠になるでしょう。
その“はじめの一歩”として、“コロナうつ”対策としてのこころのコンディションを整える5つの生活術、ぜひ参考にしてみてください。
 
日本うつ病学会:
「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的大流行下における、こころの健康維持のコツ」
https://www.secretariat.ne.jp/jsmd/2020-04-07-covid-19.pdf
国立精神・神経医療研究センター認知行動療法センター:
https://www.ncnp.go.jp/cbt/news/archives/32  
内閣府男女共同参画局:
配偶者からの暴力被害者支援情報
http://www.gender.go.jp/policy/no_violence/e-vaw/soudankikan/index.html
【参考文献】
『日記を書くと血圧が下がる―体と心が健康になる「感情日記」のつけ方』
(CCCメディアハウス)最上悠
執筆=宗未来(精神科医・医学博士)​
東京歯科大学准教授・市川総合病院精神科部長
対人関係・社会リズム療法を、日本人としては唯一公式に米国ピッツバーグ大学から学び実践する専門家。英国留学中にはオックスフォード大学で睡眠医学の世界的権威であるコリン・エスピー教授に不眠症の認知行動療法の指導も受ける。他に、AI(人工知能)やVR(バーチャル・リアリティ)を駆使した新時代のメンタルヘルスを提唱し、実践する。

※対人関係・社会リズム療法とは、体内時計にやさしい“日常生活と対人交流”のリズムを整える心理医学的治療。環境変化で調子を崩しやすく、気分の波が不安定な方のこころの不調には、認知行動療法などと並んで高い医学的効果が証明されている。

 

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コロナうつ」に負けないために

2021年05月31日 11時48分28秒 | 医科・歯科・介護

 

 

長引くコロナ禍で、心身に不調をきたすケースが増えています。いわゆる「コロナうつ」もそうした症状の一つです。地域によっては緊急事態宣言が出されるなど、行動が制限されることが多い今、私たちは「コロナうつ」を引き起こすストレスとどう向き合えばよいのでしょうか。なでしこメンタルクリニック院長の白石弘巳先生に解説してもらいました。

「コロナうつ」ってどんな状態?

「コロナうつ」とは医学的な診断名ではなく、新型コロナウイルス感染症の影響で精神的に鬱(うつ)のような状態にあることを指す言葉です。感染が収まらない中で生じる不安いらだちなど、さまざまな精神的不調を象徴的に表しています。

たとえば……
・感染するのではないかと不安で消毒ばかりしている
・感染予防を常に意識した生活が続き気疲れする
・今後のことを考えて不安になり眠れなくなった
・家族がいつも家にいるようになりイライラする
・夫婦間のけんかやDV、子どもへの虐待行為が増えた
・食べてばかりで体重が増え、自己嫌悪に陥った
・在宅勤務で家にこもり、飲酒で憂さ晴らしをしている
・新型コロナ関連のニュースばかりで心が晴れない 

このような状態は、今日、誰にも多かれ少なかれあるものです。しかし、精神的な不調が日常生活に影響を及ぼすまでになると、適応障害と診断されます。何をしても感染への強い不安が消えない人は不安障害と診断されるかもしれません。
また、不安から逃れるため、長時間手洗いや消毒を繰り返すようになる強迫性障害につながることもあります。飲酒でストレスを紛らわせるうちに、アルコール依存症になる人も出てくるでしょう。
そして、不安や緊張が続き、さまざまな対処に疲れ果てた結果、本当にうつ病になってしまう人が出てくると考えられます。
最近の自殺者の急増は、うつ病の増加を示唆しています。女性の自殺者が特に増えているといわれるのは、高ストレスの影響をより強く受けた結果と思われます。

医療関係者に広がる「コロナうつ」

一方、医療関係者、特に新型コロナ感染症の治療に携わる医療従事者の中には高い緊張と著しい疲労が続くと「コロナうつ」に陥る人が増えることが問題視されてきました。実際、職員の3割近くがうつ状態になっているという医療施設の報告もあります。

ところで、災害時に避難所などで支援活動を行なう人々には次のような心理的な変化があるとされています。
まず、危険を顧みない勇気ある行動を示す「英雄期」(災害直後)。次いで、連帯感が高まる「ハネムーン期」(1週~6カ月)。そして怒りや失望が生じる「幻滅期」(2カ月~2年)。最後に、落ち着きを取り戻す「再建期」(数年)です。
仮に、新型コロナウイルス感染症を、波状に感染者増を繰り返す「激甚災害」と見なした場合、新型コロナの顕在化から約1年を経た今、現状に幻滅し、燃え尽きてしまう危険が高まっている医療関係者が増えていることが懸念されます。

心身をケアして「コロナうつ」を防ごう

このような中で、「コロナうつ」を防ぐ上で大事になるのが、自己の不調に早く気づくことです。精神的な不調が現れる標準的なパターンは以下のように考えられます。

精神的な不調が現れるパターン

第一段階

態度の変化
いらいら、
不平が高まる

 
第二段階

行動の変化
仕事への意欲や
責任感が低下する

 
第三段階

身体の変化
症状(胃腸の不調、不眠など)が現れる

 
第四段階

燃え尽き
うつ状態

一人ひとりができるだけ早く自身の不調に気づき、心身のケアをすることが大切です。そして、不調が現れる前に、普段から仕事と休息の取り方の両面でストレスに強いスタイルを身につけておくことが、「コロナうつ」の予防につながります。

 

仕事のスタイル
~自分の四つの限界を超えないようにする~

自分を消耗させるまで働かない (身体の限界)
相手の感情に合わせすぎたり、引きずられない (感情の限界)
他の人の責任まで引き受けない (責任の限界)
勤務時間の枠の中で仕事をする (時間の限界)

休息のスタイル
~ストレスマネジメントをしっかり行なう~

十分な休養をとる
家族を大切にする
趣味を持ち、さまざまな人と交流する
ストレスマネジメントの方法を学ぶ
(リラクゼーション法、自律訓練法、バイオフィードバック法など)

これらはすぐに完璧に実践できるものではないので、自分ができるところから実践していきましょう。なお、自分だけがよい状態でいることはできません。その実現のためには、職場や家族等の協力が必要です。職場の同僚や家族とワンチームになってこの困難を乗り切ることが求められています。

助け合ってピンチをチャンスに

長引くコロナ禍の中、重要なのは、3密の回避やうがい・手洗いの励行、換気の徹底など、新型コロナを「正しく恐れる」とともに、健康的な生活習慣を意識することです。「正しく恐れる」とは、得た情報に基づき「何かをしない」のではなく、「何かをする」のを目指すことです。自粛ムードの中で我慢するばかりではなく、ストレスに強いスタイルを意識し、今までの活動的な生活をできるだけ維持しましょう。
また、個人的な生活の見直しにとどまらず、コロナ禍は、少し広い視野で活動することを考えてみる機会かもしれません。例えば身近に困っている人がいて、自分が何らかの役に立てそうだと思ったときは、支援する方法を考えて行動してみてはいかがでしょうか。

人のために「ボランティア」的活動を行なうことによって、相手だけでなく自分自身の心身にも改善が得られることは「ヘルパー・セラピー」という言葉で知られています。
一人では難しいことも、同じ気持ちの身近な人と一緒ならできるかもしれません。たくさんの人がゆるくつながり、助け合っている社会は幸せな社会といわれています。コロナ禍後の日本がより住みやすい国になるよう、お互いに助け合って、このピンチをチャンスに変えたいものです。

参考:水澤都加佐 著「仕事で燃えつきないために 対人援助職のメンタルヘルスケア」大月書店(2007)

 
PROFILE
白石 弘巳なでしこメンタルクリニック 院長

東京医科歯科大学医学部卒業、同大学院修了(医学博士)。2018年6月より現職。埼玉県済生会鴻巣病院副院長を兼任。

日本精神保健福祉学会副会長、川崎市精神障害者家族会連合会(あやめ会)理事、社会福祉法人めぐはうす理事長、一般社団法人メリデンファミリーワークプロジェクト代表理事などを併任。鴻巣病院では1997年から2005年まで訪問ボランティア活動を実践。精神保健指定医。精神科専門医。

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貧困・介護・育児の政治 ベーシックアセットの福祉国家へ

2021年05月31日 11時37分04秒 | 社会・文化・政治・経済

 宮本 太郎 (著)

●広がる生活不安をコロナ禍が追い打ち、やはり福祉政策こそ根本だ。今こそ、ベーシックアセットの保障へ。
政府や自治体の政策論議に深く関わりつつ、同時に批判的な視点も貫いてきた福祉政治論の第一人者が、
貧困、介護、育児をめぐる生々しい政治に分け入り、そこでの対立点を明らかにしつつ、停滞から脱却する道筋を考える。

●本書の内容から
■複雑な福祉政治を読み解く――「例外状況の社会民主主義」が「磁力としての新自由主義」に阻まれ、「日常的現実としての保守主義」へ
■「新しい生活困難層」とは誰のことか 日本にいかなる分断関係が生じているか
■介護保険制度や子ども・子育て支援新制度は、市場化に向かうのか
■北欧ももはやそのままモデルにはならない 何が起きているのか
■ベーシックインカムでもベーシックサービスでもなくベーシックアセットを

●福祉政策ほど、私たちの生活を根本から左右する政策はない。にもかかわらず、貧困、介護、育児の制度はたいへん複雑で、全体像は迷宮のよう。まして政治で何が争われているか分かりにくい。
政府や自治体の政策論議に深く関わりつつ、同時に批判的な視点も貫いてきた福祉政治論の第一人者が、貧困、介護、育児をめぐる生々しい政治に分け入り、そこでの対立点を明らかにしつつ、停滞から脱却する道筋を考える。
「新しい生活困難層」が急増するなか、求められるのは「自立支援」かベーシックインカムか? 老いを支えうる介護保険制度のための選択肢は? 待機児童解消だけが保育改革の目標でよいのか? ベーシックアセットによる福祉国家再生という大きな頂を望みつつ、現実の複雑な地形からそこにたどり着くルートを探索した、類書のない福祉政治論の達成。

出版社からのコメント

●広がる生活不安をコロナ禍が追い打ち、やはり福祉政策こそ根本だ。今こそ、ベーシックアセットの保障へ。
政府や自治体の政策論議に深く関わりつつ、同時に批判的な視点も貫いてきた福祉政治論の第一人者が、
貧困、介護、育児をめぐる生々しい政治に分け入り、そこでの対立点を明らかにしつつ、停滞から脱却する道筋を考える。

●本書の内容から
■複雑な福祉政治を読み解く――「例外状況の社会民主主義」が「磁力としての新自由主義」に阻まれ、「日常的現実としての保守主義」へ
■「新しい生活困難層」とは誰のことか 日本にいかなる分断関係が生じているか
■介護保険制度や子ども・子育て支援新制度は、市場化に向かうのか
■北欧ももはやそのままモデルにはならない 何が起きているのか
■ベーシックインカムでもベーシックサービスでもなくベーシックアセットを

●福祉政策ほど、私たちの生活を根本から左右する政策はない。にもかかわらず、貧困、介護、育児の制度はたいへん複雑で、全体像は迷宮のよう。まして政治で何が争われているか分かりにくい。
政府や自治体の政策論議に深く関わりつつ、同時に批判的な視点も貫いてきた福祉政治論の第一人者が、貧困、介護、育児をめぐる生々しい政治に分け入り、そこでの対立点を明らかにしつつ、停滞から脱却する道筋を考える。
「新しい生活困難層」が急増するなか、求められるのは「自立支援」かベーシックインカムか? 老いを支えうる介護保険制度のための選択肢は? 待機児童解消だけが保育改革の目標でよいのか? ベーシックアセットによる福祉国家再生という大きな頂を望みつつ、現実の複雑な地形からそこにたどり着くルートを探索した、類書のない福祉政治論の達成。
 

著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)

宮本/太郎
1958年、東京都に生まれる。1988年、中央大学大学院法学研究科博士後期課程単位取得退学。
立命館大学法学部助教授、ストックホルム大学客員研究員、立命館大学政策科学部教授などを経て、北海道大学大学院法学研究科教授(比較政治、福祉政策論専攻)、博士(政治学)(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
 
 
福祉政治論の研究者であり政府の審議会等でも政策形成に関与してきた著者が、ここ30年間の貧困・介護・育児政治を見事に紐解いたのが本書です。
ポリティカル・コレクトネスなどによってなかなか表立って見えてこない政治対立、特定のイデオロギーを体現した政治勢力があいまいであるといった状況の中で、これら3つの領域における政治過程を「例外状況の社会民主主義」、「磁力としての新自由主義」、「日常的現実としての保守主義」という視点で鮮やかに整理しています。
 政権交代等の例外的な政治状況で社会民主主義的な政策が押し出され、増税の大義名分が欲しい財務省も後押しする。
しかし一度政策が立ち上がると、右は言わずもがな増税に反対する左にも広がる自由主義に引き付けられてしまい、当初の社会民主主義的な政策が変わってしまう。そうこうしている間に家族の役割を押し出す保守主義が前に出てくる。本書はこうした分析枠組みで政治過程を描き出しており、極めて説得的です。
 また、これまでの政治を分析するだけではなく、ベーシックアセットというビジョンを提示し、今後の福祉国家のあり方、展望も示しています。今まで福祉政治でどのような動きがあったのか、これからどのような福祉国家が望まれるか、こうしたことに興味をお持ちの方には手に取っていただきたい一冊です。
 
 
 

 

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コロナ禍の「外国人技能実習生」の実態、フィリピン人実習生の悲しみと喜び

2021年05月31日 11時26分24秒 | 社会・文化・政治・経済

ダイヤモンド・セレクト「オリイジン」 玉腰辰己 福島宏之

コロナ禍は、日本で暮らし働く外国人(在留外国人)にも大きな影響を与えている。40万人以上が在留している技能実習生については、その経済的困窮や失踪者の犯罪関与といったネガティブな報道もあり、悪しきイメージが先行しているようだ。実際にいま、技能実習生たちはどういう状況に置かれ、仕事(実習)にどのように向き合っているのか? 「オリイジン2020」に寄稿され、監理団体で技能実習生と日々コンタクトを続ける玉腰辰己さんに、その“現在進行形”を聞いた。(ダイヤモンド・セレクト「オリイジン」編集部)

*本稿は、現在発売中のインクルージョン&ダイバーシティ マガジン 「Oriijin(オリイジン)2020」からの転載記事「外国人労働者との付き合い方が、これからの企業の生命線になる理由」に連動する、「オリイジン」オリジナル記事です。

コロナ禍の2020年は技能実習生には「寂しい一年」

 玉腰さんの機関(技能実習制度における監理団体)は、東北6県を中心に、全国約70社に計260人ほどの技能実習生を送り出している*1 。技能実習生たちの仕事内容は、掘削・型枠工事・締固め・塗装といった作業を行う土木・建設関係が8割で、国籍は、フィリピンが86%、ベトナムが7%、インドネシア人とミャンマー人が若干名という構成だ。昨年2020年から2021年の現在に至るコロナ禍で、そうした技能実習生たちはどのような時間を日本で過ごしているのだろう。

*1 技能実習生の受入れには企業単独型と団体監理型の2つの方式がある。企業単独型は、日本の企業等(実習実施者)が海外の現地法人、合弁企業や取引先企業の職員を受け入れて技能実習を実施する方式で、団体監理型は、事業協同組合や商工会等の営利を目的としない団体(監理団体)が技能実習生を受け入れて、傘下の企業等(実習実施者)で技能実習を実施する方式。 (公益財団法人 国際人材協力機構 [外国人技能実習制度とは]より)

玉腰 わたしが勤める機関(監理団体)は、土木建設業に従事するフィリピン人の受け入れが多いので、わたし自身が語る「技能実習制度」のお話は偏りがあるかもしれません。ニュース報道やルポルタージュなどで紹介されている「奴隷労働」な話ではないので、逆に「本当か?」と思われるかもしれませんが、あくまでもひとつの例として、わたしが見聞しているままをお話しできればと思います。

 コロナ禍だった2020年は技能実習生にとって、一言でいえば「寂しい一年」だったようです。

 例年なら、一年に一度、母国の家族のもとに帰省するのを楽しみにしている人たちがいますが、それができませんでした。移動途中に感染して家族にも感染させてしまうのが心配だったからです。それ以外にも、隔離滞在用のホテル代や日数も余分に必要でした。フライトが不順だったので予定も組みづらくなっていました。そのため、帰国を楽しみにして、貯金を毎月こつこつためていた人たちもあきらめざるを得ませんでした。

 例年なら、ゴールデンウイークやお盆休みなどの長い休みのときには、勤め先の人(日本人)たちに花火や盆踊りなどの遊びに連れて行ってもらうのですが、そうしたイベント類も一切中止でした。

 フィリピンから日本への入国も制限されたので、新しい実習生が来ることも春からストップしました。自国での面接試験に受かり、日本語の勉強も終わり、あとは日本に来るだけだった後輩たちが母国で待機させられる状態になったのです。なかには、弟が来るのを待っていた実習生もいました。10月に入国が再開されたときには、久しぶりの再会が「いよいよか?」と期待を高めたのですが、入国の順番が回ってくるより先に、年末にまた入国ストップがかかってしまい*2 、兄弟の再会はかないませんでした。

「日本で働いていて良かった」という考えもあった

 厚生労働省の公表数字によれば、新型コロナウイルス感染症の拡大で仕事(=実習先)を失った技能実習生は数多く、出入国在留管理庁は、実習が継続困難となった技能実習生への特別措置*3 を図るなど、民間企業の雇用継続への支援と啓発を行っている*4 。雇用がたとえ継続されても、休暇利用で自国に戻れないことは、留学生や技能実習生をはじめとした在留外国人にはつきまとう悩みだ。

*3 新型コロナウイルス感染症の影響により実習が継続困難となった技能実習生等に対する雇用維持支援
*4 PDF「雇用調整助成金を活用して外国人 技能実習生の雇用維持に努めて下さい」

玉腰 自分のことに置き換えて考えていただくと分かりやすいと思いますが、もし海外で働いていて、楽しみにしていた年に一度の帰国もままならず、外に遊びにも行けず、来るはずだった家族も来れなくなったら、それはかなり(メンタルに)こたえるでしょう。技能実習生たちにとっては、そういう寂しい一年だったと思います。

 ただ、帰れないことで鬱屈ばかりしていたかというと、そうでもなかった面もあります。コロナのときだからこそ日本で働けて良かったという面もあったからです。

 幸いにして、わたしたちのいる東北地方は東京などにくらべて感染拡大が緩慢で、そもそも、人が「密」になることが少ないので比較的「安全」だと思われたようです。仕事の減少も比較的小さく済んでいました。コロナの影響で自宅待機になった分も雇用調整助成金で埋め合わせられましたし、6月には特別定額給付金10万円も支給されました*5 。それも、人口の小さな市町村では大都市よりも支給が迅速だったので、申請書を書いてわりとすぐに支給があって、手軽に公的保護にあずかれた感触があったのではないでしょうか。

*5 特別定額給付金の給付対象者は、基準日(2020年4月27日)に住民基本台帳に記録されていた者であり、その条件を満たす技能実習生は給付対象となった。

 一方で、(技能実習生たちの母国である)フィリピンは感染がひどく、経済活動も滞っていて、夏頃に帰国した技能実習生の先輩たちが自国で「仕事がない」という情報がSNSなどで入ってきて、「いま帰っても仕事がない。もうしばらく日本にいるほうが得策だ」という考えが実習生たちの間に広まったようです。

 それで、3年の「技能実習」が終わって本来なら帰国するはずだった人たちも、急きょ、多くの人が帰国を2年延期して(技能実習3号*6 に延長して)日本にとどまりました。

*6 技能実習3号は、3年間の実習期間(1年目が技能実習1号、2・3年目が技能実習2号)を終えた技能実習生が最長2年間延長できる在留資格で、法務省の統計数字では、コロナ禍の影響もあり、取得者が増えている。

(2020年の)秋に世界的に感染がいっそう拡大し、母国で外出制限が出たり、家族が失業したり、親類や帰国した仲間に感染者が出始めると、「安全な日本で働ける自分たちはラッキーだ」「母国で家族が収入を失っている分、日本にいる自分たちこそが家族の支えだ」という気持ちの人が増えたようでした。

 つまり、2020年は、多くの実習生たちにとって、家族に会いに帰ることができずに寂しい思いを強いられたけれど、ここ日本でがんばることで家族を支えようと前向きに思い直して暮らした――そんな一年だったように思えます。


*2 詳細は、外務省[国際的な人の往来再開に向けた段階的措置について]参照

玉腰辰己 Tatsumi Tamakoshi

1966年愛知県生まれ。日本大学芸術学部卒業。西武百貨店、ギャガ・コミュニケーションズ、上海・台北・シンガポール留学、日本語教師、笹川平和財団研究員、聖心女子大学非常勤講師などを経て、2019年から岩手・盛岡に移住し、外国人技能実習制度の監理団体で実習生受入企業の監査を担当している。博士(国際関係論、早稲田大学)。共著に『日中関係史 1972-2012 III 社会・文化』(東京大学出版会)、『証言 日中映画興亡史』(蒼蒼社)がある。国際関係でも政府間関係より社会間関係に関心があり、外国人労働者とこれからの日本社会のあり方を探求している。
母国で働くより「出稼ぎ」のほうが「実入り」がいい

 新型コロナウイルス感染症の世界規模の拡大で国家間の移動が現在は不自由となっているが、古今東西、短期労働の就職先を母国以外に求める者は決して少なくない。では、なぜ、フィリピンの人たちは、日本の技能実習制度を利用して、「日本」という地を選ぶのか?

玉腰 フィリピン人は英語もできるので、英語圏に行けば苦労が少なくて済むはずです。にもかかわらず、日本語という高いハードルが待ち受ける日本を選ぶのはなぜなのか――フィリピン人に聞くと、まず、「近いから」といいます。地理的な近さが心理的なハードルを下げているようです。

 ほかに、「日本に親戚がいたから」という答えがあります。日本人と結婚して暮らしているおばさんがいるとか、親戚のおばさんから日本に昔行っていたときの話を聞いたことがある、といったものです。二十数年前、先陣として日本に来たフィリピン女性の存在が次の世代の目を日本に向けさせたということでしょうか。兄がすでに日本で働いていて、弟が後から来たというケースもあります。親類を頼って異国に渡るというのは「移民」*7 の定番といえるでしょう。また、人数は多くないですが、日本のアニメなどが好きで、日本に興味を持ち、「日本で暮らしてみたかった」という若者もいます。

*7 国際連合広報センター[難民と移民の定義]によれば、「国際移民」の正式な法的定義はなく、多くの専門家は、移住の理由や法的地位に関係なく、定住国を変更した人々を国際移民とみなすことに同意し、3カ月から12カ月間の移動を「短期的または一時的移住」、1年以上にわたる居住国の変更を「長期的または恒久移住」と呼んで区別することを一般的としている。

 それぞれに、さまざまな理由で日本を選んできますが、根本のところはひとつで、「日本で稼げるから」です。実習生たちは、母国なら月に日本円で2万円から3万円稼げる程度なのが、日本では、最低賃金の水準で残業なしでも月に10万円前後の手取りとなり、フィリピンにいる家族には8万円ほどの仕送りができます。母国で働くより「出稼ぎ」のほうがはるかに「実入り」がいいわけです。

 なかには「出稼ぎの達人」もいます。以前は中東で働いていたとか、韓国にいたとか、台湾で働いたという人たちがいます。彼ら彼女たちは出稼ぎ先から母国に戻ったとたんに収入が減ってしまうわけです。そうなると、安い賃金の母国で働くより、また次の出稼ぎ先を探して出ていこうとするわけです。それで、「今回は日本に来た」という人も珍しくありません。

 だからといって、実習生たちが日本に来る意味を単純に「出稼ぎ」と言い切るのは必ずしも正しくない、とわたしは思います。

「技能実習」での人材育成が日本企業を飛躍させる

 現在、日本の労働力人口*8 は2012年から微増傾向にあるが*9 、減り続ける生産年齢人口(15歳以上65歳未満の人口)に伴い、今後の減少は疑いの余地がない。そうしたなか、外国人の労働力はとても貴重であり、働き手不足の職場と多くのお金を得たい技能実習生との「見かけ上の相性」は良い。しかし、実習生を単に労働力とみなすような、コロナ禍での解雇*10 といった “使い捨て”めいた事例もあり、「技能実習制度」の名目である「国際貢献」*11 とは程遠い現実が見え隠れしているが…。

*8  15歳以上の人口のうち,「就業者」と「完全失業者」を合わせたもの(総務省統計局/労働力調査 用語の解説より)
*9 「令和2年版厚生労働白書」より
*10 NHK WEBニュース記事「コロナ禍 行き場失う外国人技能実習生 国に実態調査を要請」などを参照
*11 「外国人技能実習制度は、我が国が先進国としての役割を果たしつつ国際社会との調和ある発展を図っていくため、技能、技術又は知識の開発途上国等への移転を図り、開発途上国等の経済発展を担う『人づくり』に協力することを目的としております」(厚生労働省[外国人技能実習制度について]より)

玉腰 たとえば、ある会社にこんな実例があります。

 その会社は土木業で、23歳・34歳・41歳の3人の男性の技能実習生を採用しました。

 23歳の実習生は、日本のアニメが大好きで「日本で働いてみたい」と思って来日しました。34歳の実習生は母国に7歳のお子さんがいるパパで、家族の生活費や息子の教育費の工面が来日の目的です。41歳の実習生は、8カ月から14歳までの4人のお子さんが母国にいて、34歳の実習生と同じように、その生活費や教育費の工面が目的でした。

 来日した当初、23歳と34歳の二人は年齢が若いこともあって日本語の上達が早く、職場の日本人たちにいち早く溶け込みました。それに対して、41歳の実習生は、日本語がおぼつかなく、どちらかというと引っ込み思案となり、影が薄くなっていきました。

 ところが、1年を過ぎた頃、重機の運転による高度な作業を任せてみたところ、41歳の実習生が高い技量を発揮しだしたのです。母国での経験が生きてきたのです。若いふたりが、ともすると難しい仕事を避け、軽い作業を望み、現場では「逃げることを覚えたな」などと揶揄(やゆ)されだしたのに対し、41歳の実習生は現場監督の指示にも従順で、任された仕事を次々にこなしていき、仕事の範囲が日に日に広がっていきました。仕事で実力を見せられるようになったことも彼のやる気を引き出したのでしょう。

 日本人の現場監督の目から見れば、41歳の実習生は、あと2年も働けば、日本の土木業の「安全で、きれいな仕上がり」を身に付けて帰国するだろうと期待されるようになりました。

 実は、フィリピンには日本の大手の建設会社(ゼネコン)が数多く進出しています。日本で「技能実習」し、日本人の仕事ぶりを覚え、日本語も多少分かれば、帰国後に日系企業で働けるかもしれません。日系企業では安定した賃金を望めるため、本人にもメリットがあります。フィリピンの土木施工技術はまだまだ雑だといわれていますが、今後、経済成長していけば、より精度の高さが必要とされていくでしょう。そうした場合に、日本で身に付けた仕事の方法が役に立ってくることも考えられます。


建設現場などでは外国人労働者(技能実習生)が貴重な働き手になっている 「オリイジン2020」より
 つまり、「技能実習」で人材を育成することが、日本企業の海外展開に貢献するかもしれません。

 技能実習制度が国際貢献をうたっていながら実態としては単純労働の受け皿になってしまっているという指摘はよく見ます。そういう側面も確かにあるでしょう。「技能実習です」と、こちらがいくら念を押しても、実習生本人たちが自分たちは「出稼ぎ」で来ているとしか思っていないかもしれません。それでも実質的には本人の仕事のスキルアップになっている場合があります。

 単純労働の受け皿にするか、スキルアップにつなげて帰国してもらえるかは、制度の改善も大切ですが、むしろ、職場での人間関係や、実習生たちを見守る、周りの日本人の意識の持ち方に相当左右されているようにわたしは思います。 

強い味方がいる、フィリピン人の技能実習生たち

 本国の送り出し機関と日本の監理団体のあしき関係性が技能実習生の労働を搾取しているというメディア報道、また、ベトナム人の技能実習生などが何らかの犯罪に関与したというニュースも目立っている。玉腰さんは監理団体に在籍する者として、そうした状況をどう見ているのか。技能実習生たちの母国それぞれの、制度への向き合い方の「違い」はあるのだろうか。

玉腰 技能実習生に関する新聞報道やルポルタージュを読んだり、NHKなどのドキュメンタリー番組などを見たりすると、本当に心が痛みます。

 2016年に外国人技能実習法*12 が制定され、外国人技能実習機構*13 が作られ、監理団体が認可制になり、いったんは技能実習制度の健全化が進むのではないかと思われました。

*12 「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律」の略称
*13 外国人技能実習機構(OTIT)は、「外国人の技能、技術又は知識の修得、習熟又は熟達に関し、技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護を図り、もって人材育成を通じた開発途上地域等への技能等の移転による国際協力を推進することを目的」としている。2017年(平成29年)設立。所在地は東京都港区。

 しかし、同じ頃、実習生としてベトナム人が急増しました。そして、毎年の失踪者数が5000人から7000人、9000人と急増していき、状況は悪化したのです。報道で取り上げられる技能実習生にまつわる事件もほとんどがベトナム人に集中するようになりました。

 フィリピンは、以前から「出稼ぎ立国」などと呼ばれているように、自国の労働者を海外に送り出して、その送金で経済を潤してきた国です。それを追随しているのが中国であり、最近のベトナムだと、わたしは思います。

「先輩格」のフィリピンには、国が出稼ぎ労働者を保護しようとする場面がよくあります。たとえば、実習生を日本に呼び寄せる際、駐日フィリピン大使館が申請書類を細かくチェックし、ときには賃金をもっと高く設定するよう要求してくることもあります。日本にいる実習生から何か問題が通報された場合には迅速に乗り出してきます。

 わたしたちが関係しているフィリピン人実習生たちは、日本で何か不満があったとき、監理団体ではなく、母国の送り出し機関や日本語教育機関に連絡を取って窮状を訴えることがあります。そのほうが実習生たちにとって慣れない日本語ではなく、母国語で相談できて気持ちが伝わりやすいからでしょう。それに、スタッフや先生と親しい関係ができていて味方になってくれるので安心して話せるのでしょう。

 このルートでクレームを受けると、監理団体は寝耳に水で問題を知ることになり、フィリピン側に不信感を持たれてしまいます。だから、そういうことがないように、わたしたちは日頃から実習生たちとよく会い、仕事や生活の様子を聞き、業務や人間関係に不満を言っていないかを聞き出すようにしています。フィリピンは、国も送り出し機関も、実習生の「強い味方」になっているようです。

 ベトナムの場合はどうでしょう。丹念に取材されたルポによれば、ベトナム人の技能実習生の場合、日本に来る前に多額の借金を作ることが多い事実が明らかにされています。ベトナムの送り出し機関が実習生から大金を得て、実習生たちは日本に来てからその借金を返しているというのです。しかも、送り出し機関から日本の監理団体へのバックマージンがあったり、過剰な接待が行われたりと、ベトナム人の実習生たちは「悪徳業者」に食い物にされている側面もあるようです。

「厳正な対処の姿勢」が監理団体の脅威になり得る

 送り出し機関は、「技能実習生になろうとする者からの技能実習に係る求職の申込みを適切に本邦(日本国内)の監理団体に取り次ぐことができる者」と定義され*14 、日本国内の監理団体が、監理費に該当しない金銭を送り出し機関などの関係者から受け取ることは禁じられている。また、公的な調査によれば、ベトナムの送り出し機関は500弱あり、その数はフィリピンの1.5倍となっている*15 。同じ国の送り出し機関でも技能実習生になろうとする者への対応は異なるだろうが、数が多いだけに「右へ倣え」的な姿勢もあるのかもしれない。

*14 外国人技能実習機構(OTIT)[技能実習制度における送出機関]より
*15 外国人技能実習機構(OTIT)[送出し国・送出機関情報]より(2021年1月15日現在)

玉腰 フィリピン人の実習生は、借金をしてくる人もなかにはいるようですが、それは日本語の勉強をしている数カ月間の生活費や多少の渡航準備のためらしく、せいぜい10万円から30万円程度で、数カ月から1年以内で返せるものです。

 母国での借金がないので、フィリピン人なら、日本で職場が合わないとか、何か不満があってどうしても解決がつかないときには、最悪の場合には帰国してしまえばよいのです。実際、ミスマッチが埋まらないときには本人の希望で帰国しています。そのときの帰国費用も通常は日本側の会社負担です。

 会社側にしてみれば、高い費用をかけてフィリピンまで採用面接に行き、日本語学習の費用も負担し、寝起きする部屋や生活道具一切まで用意したりと、手間ひまをかけたあげく、帰国費用まで負担するのですから、丸損です。(実習の途中で)帰られては困る。その点でみれば、実習生と会社の労使関係が対等に近く、緊張感を持っているともいえます。

 ベトナム人の実習生のなかには多額の借金を抱え、途中帰国になったら返しきれない膨大な借金が残るケースもあって、帰国できない人もいるのでしょう。そのため、会社がブラックでも実習生たちは我慢するしかない。どうしても我慢できなくなったり、試験に落ちたりして帰国しなければならなくなったときには、逃げて、違法状態で稼ぐしかない。失踪者が集まれば、犯罪につながる可能性も高まっていきます。

 世界各国どこでもそうですが、外国人や移民に対して受け入れ側となる社会が直感的にネガティブな感情を持つのは、「治安秩序が損なわれる」「犯罪発生率が高くなる」という心配があるからでしょう。人口減少と高齢化で、社会を維持するのに若い労働力を外国人で補っている日本の現状で、不要に外国人排斥感情に直結する事例が頻発しているのは困った事態です。このまま続けば、偏見を助長し、まじめな外国人まで疑いの目で見られかねません。

 それなら、国の機関(外国人技能実習機構など)が悪質な事例に厳正に対処すればいいではないか、という話になるでしょう。特にブラック企業に加担する監理団体の認可を取り消せばいい。実際、わたしたち監理団体の職員は認可を取り消されれば全員が失職するので、「取り消し」を相当な脅威に感じていて、コンプライアンスの徹底を心がけています。その意味では、2016年の外国人技能実習法の効果は相当にあると思っています。

 ベトナム人の実習生が来日前に借金を背負う問題は、「厳正な対処の姿勢」が抑止効果をまだ持っていないと考えられます。外国人技能実習機構は日本の公的機関であって、国外にある送り出し機関までは是正の矛先が届きにくいのかもしれません。

 わたしから見れば、つくづく、ベトナム人の技能実習生の問題は歯がゆく、残念です。

次稿(2月16日配信予定)に続く

※本稿は、現在発売中のインクルージョン&ダイバーシティマガジン「オリイジン2020」からの転載記事「外国人労働者との付き合い方が、これからの企業の生命線になる理由」に連動する、「オリイジン」オリジナル記事です。

※オリイジン公式Twitterでは、SDGsやダイバーシティ&インクルージョンなど、あらゆる情報を発信しています。

 

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「低度」外国人材

2021年05月31日 11時16分57秒 | 社会・文化・政治・経済

安田 峰俊 (著)

「ルームメイトは逃亡しました」紋切り型報道では描かれないディープルポ!

「ルームメイトは逃亡しました」
国からは「高度」と見なされない、圧倒的多数(外国人労働者)の世界。
大宅賞『八九六四』著者が、絶対的な弱者でも敵でもない、彼らの「現実」に追るディープルポ!

日本政府をはじめ、公的機関が使用している言葉、「高度外国人材」。
「高度」な人材がいるということは、国の定義とは真逆の属性を持つ人材も存在するはずだ。
それは、「(年齢だけは若いかもしれないが)学歴・年収が低く、日本語はろくに喋れず専門知識もない、非熟練労働に従事している」人たちといえる。
しかし、日本社会は彼らにこそ強く依存しており、必要としているではないか。
生身の「“低度“外国人材」は、紋切り型の報道のなかで語られるような、絶対的な弱者や被害者たちの群れではない。
ましてや、陰謀をたくらむ存在でもない。
そもそも中国は経済成長をとげ、稼げない日本に見切りをつける中国人は多く、在日外国人問題の主役はベトナム人に移行している。

──われわれは記号としての弱者や敵を想定していたのに、いたのは人間だった。

3年にわたって中国、ベトナム、日本各地を回り、生身の姿に迫ったディープルポ!

【目次】
はじめに
第一章 コロナ、タリバン、群馬県――隣人は平和な「イスラム原理主義者」
第二章 「兵士」たちの逃亡と犯罪――主役は中国人からベトナム人へ
第三章 頼りなき弱者――ベトナム「送り出し」業者に突撃してみれば
第四章 「低度」人材の村――ウソと搾取の「破綻した制度」
第五章 「現代の奴隷」になれない中国人――稼げない日本に見切りをつけるとき
第六章 高度人材、低度人材――「日本語だけは上手い」元技能実習生
第七章 「群馬の兄貴」の罪と罰――北関東家畜窃盗疑惑の黒い霧
おわりに
主要参考文献

著者について

●安田 峰俊:1982年滋賀県生まれ。ルポライター。立命館大学人文科学研究所客員協力研究員。立命館大学文学部東洋史学専攻卒業後、広島大学大学院文学研究科博士前期課程修了。2018年に『八九六四「天安門事件」は再び起きるか』で第5回城山三郎賞、19年に第50回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。
他著に『和僑 農民、やくざ、風俗嬢。中国の夕闇に住む日本人』『移民棄民遺民 国と国の境界線に立つ人々』(角川文庫)、『さいはての中国』(小学館新書)、『現代中国の秘密結社』(中公新書ラクレ)など。
 
 
数年前からネット上で時々、外国人労働者を日本企業が搾取している事件が記事になっていた。技能実習生は現代の奴隷制度と断定できるだけの状態ではあったが、詳細には知らなかった。
滋賀県は工場が多く、20年前から外国人労働者が多く、頭の片隅には常にあるテーマだった。そのため、実態を知るために本書を購入した。図書館で借りずに購入したのは1/20(Amazonでの予約注文)なので、今となっては何故購入を決めたのかについて記憶にないが、購入した方が良かったとは言える。何故なら他人に貸して、輪読すべき内容だからである。

日本政府は高度人材が日本で働くことを求め続けて来た。(しかし、給料が安く、上司がITに疎く、労働生産性を下げることに全力を尽くす組織で、我儘な高度人材が働きたくなるはずがない。)その一方で、日本全体に安価な労働力が不足していて、技能実習生という名目で「低度人材」である外国人労働者が大量に流入して来ている。多くの日本企業は、法治国家とは思えない劣悪な環境で彼らを酷使し、使い捨てていて、その様子が本書で複数描かれている。しかし筆者 安田峰俊氏は当初、外国人労働者を可哀想な人々というよくある視点から書くのではなく、あるがままの彼らを描こうとした。彼らのあるがままの姿は我々の予想外を含んでおり、読み物としては面白い。しかし本書は小説ではなく、現実である。その厳しい搾取の現実が、筆者をも苦しめることになるのである。

筆者はルポライターなので、搾取構造を作った麻生太郎等の話を書かれていないが、いづれ政治の問題に切り込む仕事をされるようになるのは時間の問題である。
 
 
中国ルポライターとして実績のある著者の新境地。ベトナムからの外国人技能実習生を中心とし、近年急増する「低度外国人材(著者の造語)」が題材。とかく「可哀そう」もしくは「出ていけ」と単純に二極化した反応になりやすい技能実習生に対し、丁寧な取材と活き活きとした文体により彼らの実情についてリアルに描写されており、読み応えがある。事実上の「移民社会」となりつつある日本の今後を議論する上でのベースとなる良書。
 
 
良くぞ書いてくださいました。
 あの技能実習制度は、実習生の転職、結婚の自由も奪ってなりたっているものなのに、なんで外国の方が応募してくるのか不思議でした。このフレーズで疑問が氷解しました。「日本の技能実習制度は、身も蓋もない言いかたをすれば、発展途上国出身の「〝低度〟外国人材」である若者の判断力や論理的思考能力の低さや、権利意識の弱さに依存して構築されているシステム」
自発的隷従論のエティエンヌ=ポエシにも評論させたい一冊。 なくてイイ、いや無い方がイイ制度、技能実習生制度ですね。
 
 
安田峰俊は行動の作家である。
アンダーグラウンドな取材や、グレイゾーンの人々に入るこむ才能を持っている。
今作でも、ベトナムの送り出し業者への突撃、中国人の元技能実習生を自分の部屋の住まわせる、北関東家畜窃盗関連アパートへの潜入等、いい意味でやりたい放題。
綺麗事では説明も解決もできない『留学生・技能実習生』の現実に迫る。
ステレオタイプな可愛そうな外国人本・外国人排除者本とは一線を画す良書である。

30年ほど前、日本の受験戦争の敗者(いわゆる落ちこぼれ)が「アメリカならなんとかなるかも」と親のスネを齧り語学留学するのが流行った。
私のまわりの劣等生も、アメリカの語学研修のある非正規の学校に留学。アメリカの正規の大学に編入する予定があっさり帰国。今は地元をプラプラをしている人間が多数いる。
彼らは一般的に学習意欲も希薄、コニュニケーション能力、運動能力も平均以下。
結局儲かったのは留学の斡旋業者とアメリカのディグリーミル大学(学位販売業者)だけ。この構造は現代の外国人労働者ビジネスでも基本同じ。
日本で通じないヤツはどこに行っても通じないのである。
こんな事を再確認させてくれる本でもある。

なお、安田峰俊さんは出入国管理や在留資格の専門家ではないのでそこは注意。
いくつかミスリードを誘う表現がある。

①在留資格とビザを同一視している。

②14ページ部分。高度人材ポイント制を取り上げているが、これは29ある在留資格のうちもっとも尖った在留資格「高度専門職」に関するもので在留資格全般に求められるものではない。
「高度専門職」は在留期間5年or無期限のスペシャルな在留資格である。
例示するとすればGAFA役員、AI技術者、有名若手投資家などの在留資格でかなりのレアケース。

③在留資格「特定技能」の導入が外国人の永住化に直結するような表現もあるがこれは問題がある。
この制度で永住化に繋がりそうなのはいまのところ14業種ある特定技能のうち『建設分野』と『造船・舶用工業分野』の2種類でありこの制度による移民化が進むかどうかは不透明。「特定技能」の在留資格は見事に伸び悩んでいる。
 
 
本書にはろくでもない人物や団体ばっかり登場する。あるレビューでは、「救いがない」と書かれていた。確かに読後感は爽快ではいが(そもそもそういう本じゃない)、希望を感じる部分もあった。

イスラム街化した群馬県の古い宿場町紹介した後の安田氏の思いは正直だった。
「多文化共生の重要性は、頭ではよくわかっているつもりではあっても、自分の生まれ育った街が荒廃し、イスラムシティに変わっていたとすれば、私はそれを心の底から歓迎できるだろうか」

今以上の多文化社会になることは避けられない日本。新時代の日本は、どうすればマシになるのか?
あわよくばどうすればより良い国になるのか?本書を考える糧にしたい。

あと個人的に笵博文さんのその後が気になる。どうか彼には幸せになってほしい。
 
 
当ルポは外国人材制度の蜜月関係や業の深さを感じる次第で、如何に社会に
組み込まれてシステム化していることが理解出来ます。
搾取される側にある外国人実習生でありますが、日本の個人主義的な都会人現代人
よりもコミュニティ志向で結束力が強く逞しく生活していてその点では
ある意味、恵まれている感じがしてしまいました。多くの方に読んで頂きたい一冊です。
 
 
この本だけからの情報だと、悪いケースばかりで、今の制度は極めてまずいと理解されることになる。
うまくいっている場合も取材して、比較記述して頂くとより有り難いと思った。
 
 
大変興味深く読みました。技能実習生のような、ええ加減な制度は、廃止して、シンプルに移民を認めるべきだと思います。
 
 
 
 
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理化学研究所 新センター「量子コンピュータ研究センター」開設

2021年05月31日 11時13分28秒 | 社会・文化・政治・経済

2021年4月1日

-量子技術イノベーション拠点の形成・発展に向けて-

理化学研究所(理研)は、国が策定した「量子技術イノベーション戦略」[1]に基づき、「量子コンピュータ研究センター(RQC:RIKEN Center for Quantum Computing」を4月1日に開設しました。今後、同戦略における量子コンピュータ分野の技術ロードマップの達成を目指すとともに量子技術イノベーション拠点の形成に向け、研究の重点化に取り組みます。

理研は2020年10月、理研における量子コンピュータ開発拠点を形成するため、創発物性科学研究センター(CEMS)の量子情報エレクトロニクス・量子コンピュータ[2]に関係する研究者を中心として「量子コンピュータ研究領域」を設け、研究を集約しました。同時に、この開発拠点を担う「量子コンピュータ研究センター準備室」を設置し、理研における新たな研究センターとしての開設準備を進めてきました注1)。

量子力学の基本原理を物理学のみならず情報科学に適用することにより、情報処理・通信・計測への変革をもたらす量子情報科学研究が世界中で推し進められています。例えば、米国連邦政府では「量子情報科学(QIS)」を「未来の産業(Industries of the future)」として国家的な研究開発の優先課題に指定し、量子技術の中心課題として位置づけています。

理研においても、量子情報科学の基盤となる研究開発を推進するとともに、その成果に基づいて、さまざまな応用への展開に向けた量子コンピュータの研究開発を進め、社会課題解決のための量子計算プラットフォーム構築へ貢献します。また理研では、スーパーコンピュータ「富岳」[3]を用いた量子コンピュータのシミュレーションや有効性の高い量子アルゴリズムの探求をはじめ、開拓研究(量子情報物理)、物性科学、計算科学等、他研究センターとの連携によって、理研の強みである総合力を発揮し、激しい国際競争の中にある量子コンピュータ分野において世界を先導します。

さらに、引き続き世界をリードするため、若手人材の育成を図るとともに、国内外の大学・研究機関や企業からの参画を募り、先駆的なイノベーションの創出に取り組みます。理研は、量子技術イノベーション拠点の中核組織を担い注2)、RQCがその中心として「量子技術イノベーション拠点推進会議」を開催することで、社会的・科学的課題の共有・解決、成果普及等を促進し、国際連携ハブとしての役割を果たしていくことを目指します。

量子コンピュータ研究センターの設置会見の写真

量子コンピュータ研究センターの設置会見(4月1日)にて
(左から、理研 小安重夫理事(研究担当)、富士通株式会社 原裕貴執行役員常務、理研 松本紘理事長、中村泰信センター長)

概要

名称量子コンピュータ研究センター
RIKEN Center for Quantum Computing(RQC)
研究拠点理化学研究所和光事業所
(埼玉県和光市広沢2-1)
目的・研究開発内容
  • 1.量子コンピュータの研究開発
    量子コンピュータの研究開発及び量子技術の新たな応用への開拓に取り組むとともに、高精度かつスケーラブルな量子演算を実行する量子計算プラットフォームの実現に向けた研究開発する。
  • 2.量子情報科学基盤研究
    量子情報科学の基盤となる量子制御・計測技術に加え、異なる物理系を融合し、それぞれの利点を活かすハイブリッド量子系を利用した量子情報処理技術などを探究する。
  • 3.先駆的なイノベーション創出に向けた取組及び国際連携ハブとしての役割
    • 量子技術の発展を担う若手研究者・研究リーダーのための環境整備
    • 国内外の機関、企業等との連携開発の場の構築、人材交流
    • 開発成果の試行的実用化等の先駆的なイノベーション創出
    • 量子技術イノベーション拠点が国際連携ハブとなるための取組実施
研究体制9研究チーム、1理研白眉[4]研究チーム、3研究ユニット、1産業界との連携センター制度[5]による企業連携センター

国内外の優れた研究者を糾合し、超伝導方式のみならず、光方式、半導体中の電子スピンや真空中の原子といったさまざまな物理系を用いた方式に関するハードウェア研究を行うとともに、量子計算理論・量子アルゴリズム・量子アーキテクチャなどのソフトウェア研究も推進する量子コンピュータ分野を広く網羅した研究開発拠点を構築します。

また超伝導量子コンピュータ開発に対し、富士通株式会社との企業連携センター(連携センター長:中村泰信)を設置し、革新的な量子技術の研究開発を行い、科学研究の進歩や実社会応用の発展に貢献します。

参考

量子コンピュータ研究センター

補足説明

  • 1.量子技術イノベーション戦略
    我が国において「量子技術イノベーション」を明確に位置付けた上で、日本の強みを活かし、重点的な研究開発や産業化・事業化を促進することを目的として、2020年1月21日に統合イノベーション戦略推進会議が最終報告を取りまとめた。本戦略の中で、量子コンピュータ・量子シミュレーションを含む量子技術イノベーションの重要領域が設定されるとともに、国内外から人や投資を呼び込む国際研究拠点として、「量子技術イノベーション拠点(国際ハブ)」を形成することが示された。「統合イノベーション戦略2020」(令和2年7月17日閣議決定)において、国を挙げて量子技術イノベーションに関する総合的かつ戦略的取組を強力に推進していくこととされている。
  • 2.量子コンピュータ
    量子力学における重ね合わせおよび量子力学的相関を利用して、超高速計算を実現するコンピュータ。従来のコンピュータでは天文学的な時間のかかる因数分解の問題などを短時間で解くことを可能にする量子アルゴリズムが開発されている。
  • 3.スーパーコンピュータ「富岳」
    スーパーコンピュータ「京」の後継機。社会的・科学的課題の解決で日本の成長に貢献し、世界をリードする成果を生み出すことを目的とし、電力性能、計算性能、ユーザーの利便性・使い勝手の良さ、画期的な成果創出、ビッグデータ解析やAI処理の性能の総合力において世界最高レベルのスーパーコンピュータ。15万8976個の中央演算装置(CPU)を搭載し、1秒間に約44京2010兆回の計算が可能。2020年6月と11月に世界のスパコンランキング「TOP500」「HPCG」「HPL-AI」「Graph500」で2期連続の世界一位を獲得。2021年3月8日に共用開始。
  • 4.理研白眉制度
    並外れた能力を持つ若手研究者に、研究室主宰者(理研白眉研究チームリーダー)として独立して研究を推進する機会を提供することを目的として、2017年に理研が創設。理研白眉研究チームリーダー間の積極的な交流を促すことで、広い視野を持つ国際的な次世代リーダーの養成を目指す。
    理研白眉制度
  • 5.産業界との連携センター制度
    企業から提案された中・長期的な課題の解決に向けて理研と企業が一体的に研究開発を推進することを目的に設置する研究組織。広い視野を持ったさまざまな研究テーマを設定し、理研と企業双方の文化を吸収した人材の育成を図りつつイノベーションの創出を目指す。2021年4月1日現在、11センターが活動中。
    産業界との連携センター制度|理化学研究所バトンゾーン研究推進プログラム新規タブで開きます

お問い合わせ

理化学研究所 和光事業所 量子コンピュータ研究推進室
Tel: 048-467-7892
Email: rqc_info [at] ml.riken.jp

※[at]は@に置き換えてください。

報道担当

理化学研究所 広報室 報道担当
お問い合わせフォーム新規タブで開きます

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「ムーアの法則」は、もう超えた――爆速で量子コンピュータ開発を進めるIBMの野望

2021年05月31日 11時05分15秒 | 社会・文化・政治・経済

ここ数年で急速に研究が進む量子コンピュータ技術。その先陣を切るベンダーの1社がIBMだ。研究だけでなく実用化に向けた連携や次世代の人材育成にも注力する。ムーアの法則を超える「1年で性能を2倍に」という猛スピードで進む開発の現在地と、その目的地とは。同社で研究に携わる関係者に聞いた。

2020年07月10日 07時00分 ITmedia エンタープライズ
[大河原克行,ITmedia]

数年前には遠い未来の技術だと思われていた量子コンピュータが、いよいよ産業界で実用化されようとしている。その流れをけん引しているのがIBMだ。

 IBMは、量子技術の基礎研究や、量子コンピューティング関連のハードウェア開発、ソフトウェアの開発に長年取り組んできた。加えて、実用化に向けた事業開発や「量子ネイティブ」と呼ばれる、量子コンピュータ技術に精通した人材の育成にも力を注いでいる。これらの取り組みはどこまで進んでいるのか。また、その先の将来を同社はどう見据えているのか。関係者の発言から、IBMが挑む量子コンピュータの現在を追った。

1970年代に始まった、IBMの量子コンピュータ開発の現在地

 量子コンピュータは、1と0が混在している量子bitを基本単位とし、古典コンピュータでは不可能だった「量子重ね合わせ」や「量子もつれ」「トンネル効果」といった、量子力学に基づく活用が期待できる。例えば量子重ね合わせにおいては、1つの量子bitで2つの状態を同時に表現でき、5つの量子bitでは32通りの状態、10量子bitでは1024通りの状態、20量子bitでは100万通り以上の状態を同時に表現できるようになる。


IBM Q
 現在、IBMは量子コンピュータ「IBM Q」を18台保有し、米国ニューヨーク州のIBM Quantum Computation Centerに設置している。その稼働率は97%を超え、一般ユーザーがIBM Qのリソースを使えるWebサイト「IBM Q Experience」には約24万人が登録している。これまでIBM Qで実行された演算は約1980億回で、その結果を基に235本の科学技術論文が出版された。クラウドでIBM Qの演算能力を提供する「IBM Q Network」には106の組織が参加している。


 IBM Qの応用領域も広がっている。現在、新素材発見や創薬、ゲノム解析といった化学分野、物流やルート探索といった最適化の分野、機械学習やニューラルネットなどのAI(人工知能)分野、量子化学やリスク解析などのシミュレーション分野にIBM Qが活用されている。

 日本IBMの森本典繁氏(最高技術責任者 研究開発担当)は「量子コンピュータの本格的な応用、利用の時代に向けて準備を始めている」と語る。


日本IBMの森本典繁氏(最高技術責任者 研究開発担当)
 IBMが量子コンピュータの研究を開始したのは、1970年代にさかのぼる。量子コンピュータの論理に関する研究から始まり、量子効果を制御する技術が現実になった2000年以降は研究が一気に進展した。2016年には、5量子bitの量子コンピュータを動作させ、クラウドを通じて世界中の研究者が利用できるようにしてきた。

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【図解】量子コンピューター開発競争、日本の現状は?なぜ米中に負けないと言えるのか

2021年05月31日 11時05分15秒 | 社会・文化・政治・経済

経済産業省が解説

現在、欧米諸国とともに、日本でも従来型のコンピューターとは異なる仕組みで動作する「次世代コンピューター」の開発競争が巻き起こっている。その分野の1つが量子コンピューターだ。なぜ日本は量子コンピューター開発に挑むのか。経産省の担当者に聞いた。

経済産業省 商務情報政策局情報産業課 課長補佐 門田 裕一郎

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なぜ経産省が量子コンピューター開発に取り組むのか
(Photo/Getty Images)


量子コンピューター開発の背景

 近年、現代社会に広く普及している従来型(ノイマン型)(注1)のコンピュータとは異なる仕組みで動作する「次世代コンピューター」が注目されている。

注1:計算プログラムを記憶装置に格納しておき、それを順に呼び出して逐次処理を行う方式

 その背景には、従来型のコンピューターの性能向上に限界が見えてきたという事情がある。コンピューターの性能向上は、「集積回路上の半導体(トランジスタ)の数が、1.5年~2年ごとに倍増する」というムーアの法則に沿った半導体の微細化と、それによる処理速度や省電力性能の向上に支えられてきた。

 しかしながら、現在、ムーアの法則は終焉を迎えつつあるとも言われており、微細化のみを通じて継続的に性能を向上させることは、難しくなってきている。

 その一方で、AI技術などを活用した製品やサービスが急速に普及しており、大量のデータを高速かつ省電力で処理することへのニーズは、これまで以上に拡大している。

 たとえば、非営利の人工知能研究機関であるOpenAIによると、近年、最先端のAIが学習に要する計算量は、概ね3.5ヵ月ごとに倍増しており、過去5年半の間に約30万倍へと増加している。これは、AI技術が急速に進歩していることを示すとともに、AIの学習を担うコンピューターの高性能化が極めて重要であることを意味している。

画像
AIが学習に要する計算量の推移
(出典:OpenAI「AI and Compute」)

 このような状況下において、微細化のみに頼ることなく情報処理技術を高めるため、次の2つの方法に注目が集まっている。

 1つは、「ドメインスペシフィック・コンピューティング」と呼ばれる、特定のアプリケーションで中心となる演算領域(ドメイン)に特化した情報処理技術を用いる方法である。たとえば、「AI処理に特化した回路構成を持つAIチップ」がこれに当たる。

 もう1つが、従来技術の延長線上にない新たな仕組みの「次世代コンピューター」を開発する方法であり、その中でも、最も大きな期待を寄せられているのが「量子コンピューター」である。

各国政府における量子コンピューター開発

 量子コンピューターの開発には、世界各国が取り組んでいる。一例を挙げると、米国政府は、2016年の時点で量子コンピューターを含む量子情報科学分野に年間2億ドルを投資していたが、2018年末に「国家量子イニシアチブ法」が成立し、今後5年間で総額12.8億ドルの予算が投入されることとなった。欧州や中国においても、米国と同様に、巨額の研究開発費がこの分野に投入されている。

画像
各国政府における量子コンピュータ開発の動向
(出典:公表情報を基に編集部作成)

 日本政府も、近年、量子コンピューターの開発に力を入れている。経済産業省では、2016年度より、量子コンピューターの一種である「量子アニーリングマシン」や、量子コンピューターから着想を得た新型コンピューターの開発に取り組んできた。特に、2018年度に「高効率・高速処理を可能とするAIチップ・次世代コンピューティングの技術開発事業」を立ち上げて以降、その取り組みをさらに強化している。

世界の量子アニーリングマシン開発の動向

 量子コンピューターには、大きく分けて、「量子ゲート型」と「量子アニーリング型」の2つの方式がある。前者の方式の量子コンピューターは「ゲート型量子コンピューター」、後者は「アニーリング型量子コンピューター」もしくは「量子アニーリングマシン」と呼ばれている。

画像
量子コンピュータ等の分類
(出典:公表情報を基に編集部作成)

 ゲート型量子コンピューターは、いわゆる汎用型の量子コンピューターであり、理論的には、あらゆる種類の問題を解くことができる。実際には、高速で解くことのできる(高速化可能なアルゴリズムが見つかっている)問題は、現時点では限られているが、それらの問題については、高速化が保証されている。

 一方、量子アニーリングマシンは、膨大な組合せの中から最適な組合せを見つける「組合せ最適化問題」を解くことに特化した量子コンピューターである。組合せ最適化問題に特化していると言うと、応用範囲が非常に限定的な印象を与えるが、社会には至る所に組合せ最適化問題が存在しており、広範な産業分野で活用される可能性を秘めている。

 たとえば、配送情報や交通量の変化を踏まえた物流オペレーションの構築、金融市場の変動を反映したポートフォリオの更新、人々のニーズに合わせたコンテンツの配信、AIを活用した新材料の開発などは、すべて量子アニーリングマシンの有望な適用領域として期待されている。

画像
アニーリングマシンのユースケース例
(出典:経済産業省政策シンポジウム「次世代コンピュータが実現する革新的ビジネス~量子コンピュータ/アニーリングマシンが切り開く未来~」HP)

 量子アニーリングの特筆すべき点は、ビジネスで扱う問題を試験的に解いてみることのできる、一定の規模を持ったハードウェアが開発されていることである。

 量子アニーリングに対する注目が高まったきっかけは、2011年のディー・ウェイブ・システムズ(D-Wave)による世界初の商用量子コンピューター(量子アニーリングマシン)の発表だが、それ以降も同社のマシンの集積度(量子ビット数)は増加を続けており、現在2048量子ビットに達している。試行錯誤のために利用できる実機が存在することは、ビジネスへの活用に向けた検討を進める上で、非常に有用だ。

 このため、D-Waveとそれを追う企業・研究機関(海外は、グーグル、MIT、ノースロップグラマン、キリマンジャロ、国内は、産業技術総合研究所、理化学研究所、NECなど)によるハードウェア開発もさることながら、D-Waveのマシンを使って、自らのビジネスに量子アニーリングマシンを活用するためのアプリケーションの探索や実証実験に取り組む企業もいる。

 このような先進的なユーザー企業としては、たとえば、航空・軍事大手のロッキードマーティン、自動車大手のフォルクスワーゲン、自らハードウェアも開発しているグーグル、日本のデンソー、リクルートコミュニケーションズなどが挙げられる(出典:D-Wave ウェブサイト)。

 加えて、量子コンピューターではないが、通常のデジタル回路の設計を工夫したり、デジタル回路と量子技術を組み合わせることにより、組合せ最適化問題を高速で処理することのできる新型コンピューター(以下、この新型コンピュータと量子アニーリングマシンを合わせて「アニーリングマシン」という)が、国内の複数の企業によって開発されている。D-Waveと同様に商用サービスの提供を開始した企業もあり、ユーザー企業のコミュニティ拡大に貢献している。


 
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国内量子コンピューター研究開発の主戦場はどこか?

2021年05月31日 11時02分36秒 | 社会・文化・政治・経済
量子コンピューター 第4回
量子力学の原理で動くコンピューターを使って、難問を解決する社会
 
未来構想センター 武田 康宏2020.05.29

世界で着実に進む、量子コンピューター研究開発

量子コンピューターの研究開発は、将来の本格的な実用化に向けて今どういった段階なのでしょうか。量子コンピューターの開発を進めるには、理論的な基礎研究に加えて、「マシン」にあたるハードウエアの開発と、その動作に必要なソフトウエアやアルゴリズムの開発が必要です。

グローバルに見ると、先進各国において量子コンピューターの研究開発が着実に進んでいます。ハードウエア開発の面では、量子ビットの実現方式でこれまで本流に見えていた超電導方式に加え、光方式やイオントラップ方式にも大きな注目が集まっています。ソフトウエアの面では、古典コンピューターと量子コンピューターをうまく使い分けるハイブリッド方式を活用したり、開発言語に汎用性の高いPythonを採用するなど、量子コンピューターの本格的な利用に向けたトレンドや工夫が現れています。また、2019年10月には、Googleによる「量子超越性」、すなわち「量子コンピューターの方が古典コンピューターよりも、ある計算を(特に)高速に処理・実行できること」を実証したという発表が話題になりました(詳細は※1)。量子超越性は、量子コンピューターの研究開発の重要なマイルストーンであり、世界的に量子コンピューターの実用化に対する期待がいよいよ高まってきています。

このような世界的な期待の高まりと軌を一にして、日本国内の量子コンピューターの研究開発についても、大きな動きが出てきています。今回のコラムでは、国内で取り組む企業とその研究開発領域、さらに量子技術の研究開発に対する国の政策について、解説します。

国内企業の量子コンピューター研究開発戦略

現在の国内企業の“主戦場”は、下記の3つにグループ分けできます。

①応用グループ 量子アニーリングマシンを用いて社会における実際の問題を解くグループ
②ソフトウエアグループ 量子アニーリングマシンや量子ゲート方式の量子コンピューター上で稼働するソフトウエア・アルゴリズムを開発するグループ
③ハードウエアグループ 量子アニーリングマシンや疑似量子計算方式のマシンを開発するグループ

①は、量子アニーリングマシンの強みである最適化ソリューションの提供や、その開発支援を行うグループで、国内企業では、Jij、フィックスターズ、NTTデータなどが該当します。また、さまざまな企業で量子アニーリングマシンによる最適化計算が注目されています。例えば、金融でのポートフォリオ最適化、化学での材料設計、自動車での渋滞回避経路などが挙げられ、各分野で共同研究やソリューション化が進められています。これらの取り組みでは、実社会の課題をいかに「組合せ最適化問題」に落とし込めるか、技術的なハードルを下げて量子アニーリングマシンを使いやすくできるか、がポイントになります。また、量子アニーリングマシンを使い、さまざまな企業との共同研究を牽引する東北大学/東京工業大学・大関真之准教授のチームも有名です。

②は、量子アニーリングマシンや量子ゲート方式の量子コンピューター向けのアルゴリズムやソフトウエアを開発し、その導入コンサルティングなどを担う企業で、国内企業では、①にも取り組むJij、フィックスターズのほか、MDR、QunaSysなどが該当します。アルゴリズムの開発においては、量子物理の専門的理解に加え、量子コンピューター上でうまく計算させるための高度な工夫が求められます。また情報工学、コンピューターサイエンスに関する理解も重要です。ソフトウエアに関してはオープンソース化されているものが多く、開発したソフトウエアを多くのユーザーに利用してもらうことでコミュニティー拡大を狙う意図も感じられます。

③は、国内大手ベンダーが主なプレーヤーです。量子アニーリングマシンの開発はNECや産業技術総合研究所(産総研)で行われており、疑似量子計算機(=シミュレーテッド・アニーリングマシン)の開発はNECや東芝、日立製作所、富士通で行われています。疑似量子計算機とは、正確には量子コンピューターではなく、最適化計算などに特化した古典コンピューターに分類されるものです。既存技術を活用できるため当面の実用性が期待されますが、短期的にはどこまで現実の問題が解けるかが課題となります。中長期的には、量子コンピューターの実用化が進む中では存在価値が問われることになるでしょう。

上述した国内企業の状況を整理すると、おおよそ下図のようにマッピングできます。図では、量子ゲート・量子アニーリングの軸と、ソフトウエア・ハードウエアの軸を設定しました。①~③の領域で量子コンピューターの研究開発に取り組む企業が国内に存在する一方で、図中・点線で囲った「量子ゲート×ハードウエア」領域へ取り組むのは、大学・公的研究機関での研究に留まっており(研究室の例は※2参照)、国内で本格的に取り組む企業は現状見当たりません。この領域にはすでにGoogle、IBM、Alibabaといった海外の大企業が巨額の資金を投入し、国際的な研究開発体制を構築しているため、国内企業がこれから参入するには相当の覚悟を要すると思われます。

国内量子コンピューター研究開発の主戦場

<picture><source srcset="/50th/assets/img/columns/quantum/no04/graph01@2x.png" media="(max-width: 750px)" /></picture>

出所:各種資料・ヒアリングから三菱総合研究所作成

量子技術研究開発を後押しする国の政策

近年は量子コンピューターを含む量子技術に対する国の支援政策も進展しています。量子技術は、内閣府の「統合イノベーション戦略」(量子技術に関連して※3)や、破壊的イノベーション創出を目指す「ムーンショット型研究開発制度」で、対象として位置付けられています※4。また、文部科学省による「光・量子飛躍フラッグシッププログラム(Q-LEAP)」※5も動いています。

2020年度における量子技術イノベーション戦略に関する予算額は約215億円となっており、2019年度の約160億円からさらに増額となっています。1年あたりで見れば、アメリカの約280億円(5年間で最大約1,400億円)、EUの約125億円(10年間で約1,250億円)と比べても遜色のない数字です※6。

政策の中心である「量子技術イノベーション戦略」においては、量子アニーリングについてはハードウエア・ソフトウエアともに実用化・事業化を推進する方針が、量子ゲート型については、ハードウエアでは超電導方式を重点とした研究推進を、ソフトウエアでは短中期での実用化推進を重視する方針が打ち出されています。

新たな連携で期待が高まる、国内量子コンピューター研究開発の加速化

本コラムではこのように、国内の量子コンピューター研究開発企業の領域と国の政策について紹介しました。量子アニーリングでは、量子アニーリングマシンを使った実ビジネスや、一般ユーザーにも使えるようなソフトウエアの提供も進みつつありますが、量子ゲート方式の量子コンピューター開発に取り組む国内企業は非常に少ない現状も理解できたかと思います。

国の量子技術に対する予算は国際的にも大きなものとなっています。今後は長期的視野を持った研究支援を継続しつつ、様々な産業において企業がユーザーとして参入することや、海外の有力な大学・研究機関やグローバル企業と国際連携体制を構築することが重要となるでしょう。

こうした動きは近年、国・民間共に、欧米との連携の中で進みつつあります。例えば、国単位では「日米欧量子科学技術国際シンポジウム」※7が、民間単位では「IBM Q Network」※8、「Microsoft Quantum Network」※9が挙げられます。さらに、産学連携の事例としては、慶應義塾大学の「IBM Q Network @Keio University」※10、東北大学の「T-QARD」※11、東京大学とIBMとのパートナーシップ締結※12が挙げられます。またスタートアップ起点でQunaSysの産学連携コミュニティー「QPARC」※13など、注目すべき取り組みは多いと言えます。

このように、国内の量子コンピューターの研究開発は、堅実な研究と各種連携の進展により期待の芽があります。量子コンピューターと歩む社会実現に向け、今後の動向・さらなる進展に目が離せません。

※1:Google, Google AI Blog – “Quantum supremacy using a programmable superconducting processor”. October 23, 2019
https://ai.googleblog.com/2019/10/quantum-supremacy-using-programmable.html
(閲覧日:2020年9月25日)

※2:QunaSys, Qmedia「量子コンピューターを実現するハードウエア(後半)」(2018年10月30日)
https://www.qmedia.jp/making-quantum-hardware-2/
(閲覧日:2020年3月26日)

※3:統合イノベーション戦略推進会議「量子技術イノベーション戦略(最終報告)」(2020年1月21日)
https://www8.cao.go.jp/cstp/siryo/haihui048/siryo4-2.pdf
(閲覧日:2020年2月18日)

※4:内閣府「ムーンショット型研究開発制度」
https://www8.cao.go.jp/cstp/moonshot/index.html
(閲覧日:2020年3月26日)

※5:文部科学省「光・量子飛躍フラッグシッププログラム(Q-LEAP)について」(2018年1月)
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shinkou/025/gijiroku/__icsFiles/afieldfile/2018/02/28/1401097_13.pdf
(閲覧日:2020年3月26日)

※6:統合イノベーション戦略推進会議「参考資料 量子技術イノベーション戦略 最終報告案(補足)」
(2019年1月21日)
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/tougou-innovation/dai6/sanko.pdf
(閲覧日:2020年5月27日)

※7: 内閣府「日米欧量子科学技術国際シンポジウム EU-USA-Japan International Symposium on Quantum Technology における討議結果について」(2019年12月17日)
https://www8.cao.go.jp/cstp/stmain/20191217ryoushi.html
(閲覧日:2020年4月2日)

※8:IBM「Q Network」
https://www.ibm.com/quantum-computing/network/overview/
(閲覧日:2020年3月26日)

※9: Microsoft「Quantum Network」
https://www.microsoft.com/en-us/quantum/quantum-network
(閲覧日:2020年3月26日)

※10:慶應義塾大学「最先端量子コンピューター研究拠点 IBM Q Network Hub @ Keio Universityを開設」
(2018年5月22日)
https://www.keio.ac.jp/ja/news/2018/5/22/27-44149/
(閲覧日:2020年4月3日)

※11:東北大学「T-QARD」
https://qard.is.tohoku.ac.jp/
(閲覧日:2020年4月3日)

※12:東京大学・IBM「東京大学とIBM、「Japan-IBM Quantum Partnership」の設立に向け検討を開始」
(2019年12月19日)
https://www.u-tokyo.ac.jp/content/400129072.pdf
(閲覧日:2020年3月31日)

※13:QunaSys「QPARC」
https://qunasys.com/news
(閲覧日:2020年4月13日)

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【誰でも分かる】「量子力学」ってなんなの? 

2021年05月31日 10時57分01秒 | 社会・文化・政治・経済

2016.01.28
 
詳しい人に聞いてきた【入門編】

こんにちは。ヨッピーです。

突然ですが、みなさんは「量子力学」をご存じでしょうか?

「知らねぇ!」っていう人も、「量子コンピュータ」とか「シュレディンガーの猫」といった単語は聞いたことがあるかも知れません。

ちなみに僕は文系出身で、勉強を全然してこなかったことでお馴染みのクズなのですが、この「量子力学」については、調べれば調べるほど意味不明すぎておもしろいという摩訶不思議な体験をしましたので、このおもしろさをみなさんと共有したいと思ってこの記事を書くことにしました。

題して……、

誰でも分かる! 分かりやすい量子力学入門!

です!

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ちなみに今回の撮影には株式会社人間の社領エミ(@emicha4649)さんが同行しています。

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「今日はなんで私を呼んだんですか?」

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「まず、今日お話を聞く先生がアメリカ行ったり仙台行ったりで飛び回っててやたらと忙しいもんで、ここ関西国際空港でしか時間が取れなかったもんだから大阪で暇そうな人を探したんよ」

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「なるほど~~! Googleで『大阪 暇人』で検索すると私がトップに出ますもんね!」※出ません。

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「そうそう。あとは、僕、量子力学についていろいろ調べたせいで中途半端に知識がついちゃったもんだから、まったく何も知らない新鮮な人のリアクションを見たかったっていうのが大きいです」

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「分かりました! あれ? でも、さっきから背景が全然関空じゃないですよね?」

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「良くそこに気付いたね。実は今回の撮影が終わってからSDカードがブッ壊れて撮影したデータが全部飛びました」

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「なにそれ。最悪のやつじゃないですか。どうするんですか? 撮り直し?」

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「まぁ普通ならそうなんだけど、いかんせんお忙しい方でスケジュールが抑えられないので、再現イラストとありものの写真でなんとかすることにします」

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「大丈夫かな……」

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本日の舞台となる、本来の関西国際空港内部の写真(フリー素材)。

 

Index [非表示]
1 大関先生のありがたいお話を聞こう
2 量子コンピュータって?
3 量子アニーリングって?
4 日本とアメリカの違い
大関先生のありがたいお話を聞こう
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「はい。そんなわけで今回、お忙しい合間をぬってお時間をいただいた先生をご紹介しましょう!」

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「京都大学大学院、情報学研究科システム科助教の大関真之先生じゃーーーーい!」

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大関真之

1982年東京生まれ。

2008年に東京工業大学大学院理工学研究科物性物理学専攻博士課程を早期修了。

2010年より現職 京都大学大学院情報学研究科システム科学専攻助教。

「量子アニーリング」形式に関する研究活動を展開中。

TwitterIDは@mohzeki222。

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「東工大の院出て今は京大の助教なんやて。『ザ・知識!』って感じですね。よく分かんないけど」

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「本日はよろしくお願いします!」

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「僕は『あれ? 僕って義務教育終えたっけ?』っていう疑問がちょくちょく湧いたりするくらいの知能レベルしかありませんが、よろしくお願いします!」

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「私もこの間、右と左、どっちがどっちか分かんなくなってパニックになったくらいの知能レベルです! お願いします!」

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「まず最初に聞いてみたいんですが、量子力学ってどの程度ご存じですか?」

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「僕はネットであれこれ見たよ、くらいです!」

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「ゼロです! 何のことか全然分かっていません!」

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「良いですね。まず『量子』っていうのは物質を作る小さな小さな単位なんですね。原子っていうちっこいのが結合して分子になるっていうのは理科で習ったと思います。H2O(2は下付き)とかああいうのですね。その原子とか分子のように、物質を形づくる素材にあたる小さいものを量子と呼びます。量子の中には原子や分子、電流の正体である電子とか、光のことですが光子とか、いろんな種類があります」

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「なるほど」

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「どれくらい小さいかって言うと、小さすぎていろんな物質を素通りしちゃったりするものもあります」

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「そうそう。スーパーカミオカンデとかニュートリノとかって聞いたことある?」

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「こないだノーベル賞貰ってたやつですよね?」

無題
スーパーカミオカンデ検出器を擁する神岡宇宙素粒子研究施設

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「そうです。あのニュートリノも量子ですね。スーパーカミオカンデって、あれは何かと言いますと、限りなく純度が100パーセントに近い純粋な水を、大きなプールみたいなものに大量に貯めてある施設なんですよ。で、その大量に溜まった水の分子の中にある電子に、宇宙から降ってくる小さな小さな、ニュートリノと呼ばれる物質がたまーーーにぶつかるんですよ。宝くじがあたるみたいなもんです。宝くじはたまにしか当たらないので、大量に水を用意して当てに行くんですよ」

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「そして運良くニュートリノがぶつかった際に、その大量の水から飛び出た電子の衝撃波をセンサーで検出するための機械なんです。逆に言えば、それくらい大がかりに探さないと実態すら捉えられないくらいに小さな物質が存在するってことですね。ニュートリノは人間の身体くらいなら素通りします。なんなら地球丸ごと通り過ぎていきます」

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「おお……! じゃあ、人間の手では捕まえられないくらいに小さな小さな粒っていう事ですね」

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「おっ! その小さな粒っていう表現、良いですねぇ~!」

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「良いですね。それがここからのキーワードになります」

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「そうそう。量子力学がすごいのはここからだから!」

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「なんだろう。なんかムカつく」

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「でね、目に見えるくらいの大きさのものに関しては『どういうルールで動くのか』っていうのが現代においては大体分かっています。玉がどう転がるか、とか固体に熱を加えると液体になって、もっと熱すると気体にって。あれですね。氷から水、水から水蒸気になるとか」

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「なるほど。理科で習ったやつ」

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「だけど、それよりも小さい単位である量子になると、これまでのルールが全然通用しないんですよ。今までの感覚だとまったくもって意味不明な動きをするんです。だからこそ『じゃあ、量子はどういうルールで動いてるんだ』っていうのを調べる必要がありますよね。それが量子力学です」

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「うーん。具体的には、例えば目に見えるサイズの玉と量子で、その動き方のルールにどういう違いがあるんですか?」

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「いやーさっきから良い質問するね。見込みあるなぁ~!」

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「そうですね。良い質問です」

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「さっきからこの二人がちょくちょく腹立つな……」

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「先生、ぜひあの、2重スリット実験の話をしてくださいよ」

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「良いですね」

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「え? なんですかそれ?」

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「2重スリット実験というのは、20世紀で最も美しい実験にも選ばれたすごく有名な実験なんですよ」

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「有名とか言われてもこれまで生きてきて一回も聞いたことない」

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「では、小さい砂の粒を、スプレーみたいなもので、こんな感じで2つスリットを開けた紙に向かって噴射するのを想像してください。スリットの先には接着剤がついたスクリーンが置いてあるとします」

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「そうすると、その向こう側の紙にどんな模様が出ると思います?」

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「それはたぶん、こんな感じで、縦に砂粒がくっついた線が2つ出るかと……」

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「はい。正解です。では今度、これが光だったらどういう模様になると思いますか? 先ほどと同じく、こんな感じで2つスリットをつけた紙を置いて、その先に光が当たると感光するスクリーンがあったとします」

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「今度はどういう模様が出ると思いますか?」

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「え? さっきみたいに縦の線が2つ出るんじゃないんですか?」

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「それがですね、今度はこんな感じで縞模様が出て来るんですよ」

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「えっ! なんで!?」

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「さっきの小さい砂は『粒』なんですけど、光は『波』としての性質を持つので波紋の山と山がぶつかるところは強く光って、山と谷がぶつかって打ち消し合ってるところは暗くなるんですよ」

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「分かりやすいようにイラストにするとこんな感じなんですが、波はお互いに干渉しちゃうんですね。要するに、この実験をすることでその物質が『波』であるのか『粒』であるのかが分かりそうです。縞模様が出たら波、2本線が出たら粒っていう具合にですね」

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「なるほど。で、それが量子力学と何の関係が……?」

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「まぁまぁ、おもしろいのはこれからだからね! もうすごいんだから!」

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「なんでヨッピーさんがドヤ顔するの?」

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「じゃあこの実験を、量子のひとつである電子でやるとするじゃないですか。鉄砲みたいなもので、電子の粒を一発ずつスリットに向けて撃ち込んでいくんです。それを模様が出るまで何度も何度も繰り返すんですね。そしたらどういう模様になると思います?」

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「ええと、電子の粒だから粒ということで砂の粒と同じように2本の線が出るかと……」

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「そうなんです。普通はそう思うじゃないですか。粒を撃つんだから。でも実際には縞模様が出るんですよ」

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「こんな感じに」

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「え? なんで? 粒なのに?」

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「ね、一発ずつ撃ってるから干渉しないはずなのに縞模様が出るんですよ。不思議ですよね。でも実験すると実際に縞模様が出ちゃうから、『じゃあ、電子は波なんだな』ってなるじゃないですか? 少し考えて、もっと言えば、粒として発射された電子が波になって、そしてスクリーンに到達した時に粒に戻るのかなって思うかもしれない」

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「そこでね、学者さんは考えるんですよ。2つのスリットの内、右側と左側、どっちを電子が通ってるんだろうって。 それで今度はここにセンサーを付けるんです。電子が通過したら分かるように。そしたらどうなると思います?」

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「え? もう全然想像もつかないです……」

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「センサーで観測したら、さっきまで見えていた縞模様が消えて、砂で実験した時のように2本線が出るんですよ」

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「えー! なんで!?」

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「不思議でしょう? 量子は、観測すると挙動が変わるんですよ。我々が見ていない所だと『波』としてふるまっていたのに、我々が見ちゃうと量子は『あ、今見られてる』ってことに気付いて、とたんに『粒』として振る舞い始めるんです」

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「それは、カメラの電磁波が作用して、とかじゃなくてですか?」

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「はい。でも、それだけでは説明がつかないようです。未だに良く分かっていません。ただし、観測するということは見るために『触る』必要があります。これは『手で触る』ということではなく、例えば、目で見る時も光がその物質に触れてないと見えませんよね? その『触る』という影響が災いして量子は、『あ、今見られている』って気付いてしまうということです」

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「なので、量子力学では、観測しないでおけば、Aのスリットを通った状態と、Bのスリットを通った状態の2つの状態がそのまま重なり合って存在できたのに、それが観測された瞬間に『僕は粒だよ』ってアピールして、片方に収束するというような考え方をします」

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「この重なり合ってる状態というのがキモなんですよね」

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「そうです。ほかにも量子って不思議なことがいろいろあってですね、例えば1つの量子を、強い力で引っ張ってちぎって2つに分けちゃいましょう。言わば量子の双子のペアを作っちゃうんですね」

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「はい」

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「この双子は察しが良くて、片方が見られたらもう片方も必ず『見られた』ということに気付くんです。で、その双子のペアは距離に左右されることがない、つまりはどれだけ遠い場所にあってもお互い素性がバレたことには気付くんですよ」

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「片方が地球にあって、もう片方が太陽系のはるか先の星にあったとしても気付くんです。しかも、一切のタイムラグが無く、完全に同時に」

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「えー! 怖い!」

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「これがいわゆる『量子テレポーテーション』と呼ばれる技術の原理なんですが、ね? おかしいでしょ? 今までの感覚で理解できる物理法則を完全に無視した動きをするんですよ、量子って」

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「なんでそんなことが起こるんですか?」

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「それを研究するのが、量子力学です……!」

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「よっ! 日本一!」

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「なぜそうなるか、っていう謎は分からないままなんだ……!」

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「社領ちゃんがそれを解明したらノーベル賞もらえるよ」

 

量子コンピュータって?
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「で、その量子の謎を解明していくと何ができるようになるかっていう話なんですが」

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「有名なのは量子コンピュータですね。量子を利用して計算しようっていう」

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「その量子コンピュータは、今までのコンピュータとどう違うんですか?」

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「例えば、クロネコヤマトの人が10軒の家に荷物を届けないといけないとすると、そのルートって10×9×8……ってやっていって、362万通りぐらいあるんですね。で、その内どのルートを辿って配るのが一番早いかを計算するのって、今までのコンピューターだと、例えば順番に総当たりして行くんですよ。ルートAなら何分かかる、ルートBなら何分かかるって順番に362万回やって、その中で一番早いやつを選ぶっていう」

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「それでももちろん人間がやるより圧倒的に早いですし、もっと賢いやり方で実際はやってますけど、これが10軒じゃなく12軒になると今度は4億通り近くになるんですよ。そうやって数が増えて行くと、さすがに今のコンピュータを使ってもめちゃくちゃ計算に時間がかかるんです」

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「なるほど。パスワードが短いとダメっていうのはそういう計算が簡単にできちゃうからですね」

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「そうです。でも、さっき言った通り、量子っていろんな状態が重なり合って存在しているので、その性質を利用して、計算を一気に、全部同時にやっちゃうっていうのが量子コンピュータの素朴な発想です」

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「は?」

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「僕もそろそろ意味が分からなくなってきた。普通のコンピュータって0と1でできてるって言うじゃないですか。量子はそうじゃないんですか?」

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「そうです。0と1を使って計算するのが今までのコンピュータなんですが、量子は0と1が重なり合った状態なので両方の可能性を同時に扱えるんですよ。例えば素因数分解する時って、普通に計算する時は2で割って3で割ってってやっていきますけど、量子コンピュータだと2で割った状態も3で割った状態も重なり合って中に入れることができる」

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「で、フタを開けて結果を観測すると答えが出ているっていうのが量子コンピュータの基本的な概念です」

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「もうわけが分からん……!」

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「ただね、コンピュータって言うと今のパソコンみたいになんでもできちゃうのを想像すると思うんですが、今のところ、量子コンピュータは例えば素因数分解だけができる、といった専用マシン的なものになりそうです」

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「それって何に使うんですか?」

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「一番あり得るのは軍隊とかが暗号化されたものを解く時でしょうね。暗号には素因数分解が使われているんで。バレると分かれば、もうその暗号は使わないでしょうが。あとはさっきみたいな10軒ある家のどこから配るのが早いか、みたいな問題ですね。最適化問題っていうものです。ああいうのは量子コンピュータの得意分野だと言われています」

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「その量子コンピュータは、いつ実現するんですか?」

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「実はもう販売されてます!」

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「え! マジで!?」

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「はい。量子アニーリングという形式を使った量子コンピュータを戦闘機の会社のロッキード・マーティンやGoogle、NASAなどが買って、いろいろと実験していますね」

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「Googleってマジですごい会社なんだな……。民間でそれやってるっていうのがすごい……」

昨年12月、GoogleとNASAが研究を行っている量子コンピューター「D-Wave」が、従来型PCの1億倍の速度で「最適化問題」を解決した。簡単に言うと、従来型コンピューターよりも1億倍高速ということ。NASAはこれを、ロケットの打ち上げ予定の決定や、宇宙での複雑なシミュレーションに役立つ可能性があるとしている。編集部注:D-Waveは量子アニーリング形式を用いている。

参考記事:グーグルの量子コンピューター、従来型PCよりも「1億倍高速」と発表(WIRED)

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「ちなみに量子コンピュータって大きいんですか?」

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「大きいですよ。人が中に入れるサイズですね。ただし、さっき言った通り量子ってめちゃくちゃ小さいのでチップ自体はものすごく小さなものです。それを冷やすための装置が体積の大部分ですね」

 
量子アニーリングって?
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だいぶついて来れなくなってる僕と社領ちゃん

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「で、今度は先生の専門である量子アニーリングについて聞きたいんですが、量子アニーリングってなんなんですか?」

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「アニーリングっていうのは日本語で『焼きなまし法』って言うんですが、焼きなましって、例えば日本刀を造る時に熱を加えて叩いて冷やすっていうのを繰り返しますよね? あれを量子でやるんですよ」

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「量子に熱を加えたり冷やしたりするってことですか?」

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「そうです。超伝導量子ビットっていう小さい素子を、物凄く小さなワイヤーを使って並べてから冷やすんですよ」

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「え? 物理的に並べるんですか?」

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「はい。微細加工する機械を使ってジジジジって1000個並べてチップにするんです。この1000個というのは、1000個の量子を並べたものです。これらの量子の重なり合った状態を用意して、それにさっきの最適化問題を解かせるように配置して、あとはでっかい冷凍庫みたいなやつで冷やしておく。そのあと観測すると結果が出ているっていう」

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「もう考えるのが嫌になってきた。つまり、量子アニーリングっていうのは量子コンピュータを作る際のアプローチのひとつってことですか?」

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「そうです。世界中の研究者が量子について研究している内に、『量子コンピュータって、普通にやると、作るのめちゃくちゃ難しくない?』っていうことに気付いたんですよ。このままだとなかなか実現しない、と。それでほかになんか良い方法ないかなって模索して再発見されたのが量子アニーリングですね。説明が難しいのですが、『量子コンピュータの本気の性能に至らないけど、量子の性質を利用した計算はできるようになった』という感じでしょうか」

 
日本とアメリカの違い
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「たぶん、これ以上量子力学について進んで行くと脳味噌が爆発すると思うんで、今度は量子から離れて、エンジニアとか研究者とかの環境についてお伺いしたいんですが、先生は今日、ロスアラモス研究所が主宰する国際会議の帰りと仰っていたじゃないですか。やっぱり環境がアメリカとは随分違うんですか? さっきのGoogleが量子コンピュータ作ってる話とか聞いたら到底勝てないような気がするんですけど……」

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「うーん、数の暴力には勝てないって感じですね」

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「やっぱりそうなんだ」

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「まず、組織力がすごいんですよ。アメリカってひとつのプロジェクトに大量の人数で取り掛かってるんですよね。それがみんな猪突猛進でがーってやってくる。日本だと数人とかせいぜい数十人とかだったりするんですが」

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「それって政策の違いなんですか?」

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「そうですね。日本の研究者はリーダーを作る教育をされてるんですよ。だからあちこちにリーダーがいて、そのぶんグループの単位も小さくなるんですね。それに、アメリカに比べると研究者の数が少ないんですよ。そのぶん日本の研究者はいろんなことやらされるんですよね」

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「例えば僕は大学に属しているので、学生の指導もしますし、授業もあります。期末試験の監督もしますし、入学してくる学生の募集のイベントや、ほかにも書類を用意して研究費をもらったりもしなきゃいけない。大学のいろんなお手伝いもしなきゃいけない。その隙間をぬって研究するんですけど、アメリカだと大学でも学生に教える人と研究を中心にする人っていうように分業されているんですね。そのあたりはやっぱり強いですね」

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「えー。それだと絶対勝てないじゃないですか」

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「ただね、『アイデア』みたいなのを思いつくのは日本の方が実は強かったりするんですよ。さっきの量子アニーリングも、最初に言い出したのは、僕の先輩である門脇さん、指導教官である西森さん(西森秀稔:東京工業大学教授)っていう日本人ですし、超伝導量子ビットの精度の良い制御技術を作ったのも日本人です」

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「ただ、その思いついたものを研ぎ澄まして行くような過程ではやっぱり数の暴力には勝てない、と。負けてるとは思わないけどアメリカと日本の研究は得意分野が違うなって思います。数の力には勝てなくても、研究分野で日本の存在感がないってことはないと思いますよ。個々の力で言えば日本の研究者はまだまだ優秀ですし」

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「なるほど。日本でも、もっと優秀な技術者やエンジニアを増えやすにはどうすればいいんですかね?」

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「それはズバリチーム力です。誰もがリーダーではなく、それぞれの適性に合わせて、いろんな役割を大切にし、それぞれが得意なことで夢中になる場所や雰囲気、そしてチームとして協力することが大事です。あと新しいアイデアに対して、批判的になるのではなく、『まずやってみよう』、『やってダメなら次を考えるくらい』の考えを持たないとダメですね。やらずにほかのアイデアばかり追い求めてる間に、前に検討していたアイデアが腐ってしまう場合もありますから」

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「なるほど。ちなみに先生はずっと研究者とかエンジニアっていう職業でやっていく感じですか?」

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「これがね、けっこう難しい問題なんですけど、大学に所属していて研究成果を出して、それが評価されて助教から准教授、教授っていう感じで、まぁ偉くなるとするじゃないですか。そうすると今度は研究ができなくなるんですよ。なんでだと思います?」

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「あ! 分かった! 偉くなるとやらなきゃいけないことが増えるからだ!」

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「そうなんですよ。これはきっと日本の技術者がみんな抱えてる問題だと思いますよ。任天堂の岩田さんとかもそうですよね」

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「あー、岩田さんなんかは完全なる天才プログラマだったのに社長になってからはプログラム書けなくなったって。まぁ岩田さんは結果的にプログラムも経営もできたから良いんですけど、一般的にはプログラムがすごいから経営も凄いかって言ったら普通は別問題ですもんね」

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「そうなんですよ。研究者として一流だから、じゃあ教えるのも上手いのかっていうとそうでもなかったりしますし。そもそも僕らは教員免許持ってないんですよ。人に教えるための教育を受けていないので。それもあって僕は学生時代に予備校で教えたりして、『教える』ということを勉強をしてきたんですよね」

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「なるほど……」

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「わりとずーっと研究に没頭できる、みたいな施設は日本だと理化学研究所とかがそうなんですけど、僕は大学なので教育や大学の運営が関わってきます。どちらかと言うとまだ研究寄りなので研究を楽しんでいますが、場所や立場によっては、なかなか難しいかも知れません」

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「でも、こんな感じでずっと『量子とはなにか』みたいなのを追求してるとだんだん宗教みたいになってきそうですね」

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「いや、そっちに走る人も実際多いんですよ、これが。量子とは何か、生命とは何かってそれを突き詰めて行くと哲学みたいになってきますからね」

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「私も今日、知恵熱出してぶっ倒れるかも知れません」

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「同じく。ぶっ倒れたあとに悟りを開くかもしれない」

 
……というわけで今回の企画、いかがでしたか! 量子力学って難しすぎてよく分かりませんでしたが、この機会にこの研究が僕らの生活にどう役立っていくのかが、少しでも分かっていただけたかと思います!

調べれば調べるほど完全に意味不明な世界になって来て頭が爆発しそうなのですが、「もっと知りたい!」なんて人は量子力学に関する動画がYouTubeなんかにあがってるので見てみても良いかも知れません!

例えば、本文中にあった2重スリット実験についてなんかはこの動画が分かりやすいかも。

https://www.youtube.com/watch?v=vnJre6NzlOQ

ちなみに大関先生は理論物理学を使ってカンニングを検出する研究もやってらっしゃるそうです。なんのことや! 量子力学についてもっと知りたい人は、大関先生のホームページも見てみて!

http://intelligencedesigner.jp/author/masayuki_ohzeki/

http://scholar.tokyo/vol10/

ともあれ、文系理系関係なく、量子力学についてはホットな研究分野ですし、一度このあたりについて調べてみても良いかも知れません! 

編集部注:量子テレポーテーションやそのもととなる量子もつれは、テレパシーとは無関係です。

取材・文 ヨッピー+ノオト

イラスト マキゾウ(@makizou_11)

5130b6e3c8f76-160x120ヨッピー

フリーライター。平日毎日更新のおばかサイト「オモコロ」にて体を張った実験記事を執筆。ほかにも「スマホの川流れ」「トゥギャッチ」などで連載中。ブログ「ヨッピーのブログ(仮)」TwitterIDは@yoppymodel。

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