望月衣塑子 1975年、東京都生まれ。東京・中日新聞社会部記者。慶応義塾大学法学部卒業後、東京新聞に入社。千葉、神奈川、埼玉の各県警、東京地検特捜部などで事件を中心に取材する。2004年、日本歯科医師連盟のヤミ献金疑惑の一連の報道をスクープし、自民党と医療業界の利権構造の闇を暴く。経済部記者などを経て、現在は社会部遊軍記者。防衛省の武器輸出政策、軍学共同などをメインに取材。著書に『武器輸出と日本企業』(角川新書)、『武器輸出大国ニッポンでいいのか』(共著、あけび書房)、『新聞記者』(角川新書)。二児の母。


「声をかけて下さったプロデューサーさんが今の政治に疑問を持ち、“日本でもアメリカのように政治に切り込んだ社会派作品があるべきだ”と強く思っている方で。ただ私の体験を書いた原案そのままではなく、より広い観客に訴えられる、娯楽性のあるフィクションにしたいと。私と、前川喜平さん(元文部科学省事務次官)、マーティン・ファークラーさん(元ニューヨーク・タイムズ東京支局長)、南彰さん(朝日新聞記者・新聞労連委員長)の4人の対談も撮影したんですよ。“どうやって使うんだろ?”と思っていたんですが(笑)、うまくインサートされていて。実在の人間がリアルな政治問題を批判する場面が入ることで、映画と現実がクロスする感じになっています」

 

映画は、私たちの何の変哲もない日常、その裏側を描いていきます。例えば。疑惑を追う主人公の若手記者・吉岡エリカが、その過程で出会う若手官僚・杉原拓海。彼は内閣情報調査室で働いていて、現政権を維持するための世論コントロール――スキャンダルのリークや、フェイクニュースの拡散など――を行っています。権力の都合のいいように操作される世の中で、それを知りながら――もしかしたら知るからこそ、メディアは忖度しているようにも。それもまた、どこか現実とオーバーラップします。

東都新聞記者・吉岡エリカを演じるのは今最も注目される韓国女優のひとりシム・ウンギョン。正義と組織に葛藤する若き官僚・杉浦拓海を演じるのは、主演作が続く松坂桃李。 ©2019『新聞記者』フィルムパートナーズ


「被害者報道は誰もやりたくない」「求めてない」で良いのか


「“メディア=正義”とは見えていないんですよね、やっぱり。例えば5月に起きた自動車事故での保育園の会見。おそらくメディアに関係している方だと思うのですが、“現場の記者は誰もやりたいと思っていない、遺族取材をやめよう”とつぶやき、ネット上で数万を超える“いいね!”がつきました。私も記者になって最初の仕事が遺族取材で、なぜこんなことをと思った経験があるので、その気持ちはわかります。でも被害者の言葉を伝えなければ、事故の悲惨さは“他人事”で終わってしまう。ニュースにすることで“保育園の沿道のガードレールを義務化しよう”といった、社会の変化につながっていくと思うんです」

ただその一方で、政治家などが相手の場合、「それで終わり?」と思ってしまうことも。そのバランスの悪さが、メディア不信の根源にあるようにも思います。

「それは私も憤りを感じるところで。“韓国で「モリカケ(森友・加計)」みたいなことが起こったら、官邸前に10万人20万人集まるのが普通。なんで日本人は怒らないんですか?”と言われたことがあるんですが、まず記者がそうなんです。“お上至上主義”が抜けないし、忖度してしまうんですよね」


質問も答えも“予定調和”の会見で、何が聞けるのか?


官房長官とのバトルも辞さない望月さんの記者としての姿勢には、そうした思いがあります。映画に登場する主人公・エリカの、“アメリカ育ちで日韓の両親を持つ”というキャラクターは、そうした新聞業界にある望月さんの「異物感」とリンクしているかのようです。

©2019『新聞記者』フィルムパートナーズ

「納得がいかないとストレートにぶつかっていく主人公には、“私もこんなやったよな”って思いました。でも作品を見た当時の上司からは“ぜんぜん違うだろ、お前はあんなおとなしくない、あんなもんじゃなかった”と(笑)。大学で一年だけ海外留学を経験するまではずっと国内育ちですが、よく“帰国子女だよね”とも言われますね。でも海外のジャーナリストは“海外では望月さんみたいな人ばっかり”と」

逆を言えば、望月さんが“変わり者”と思われることこそが、日本のマスコミの特殊性かもしれません。望月さんは続けます。

「例えば今の官房長官の定例記者会見って、長官側の要望もあり、質問が事前に官邸側に渡っていることが多いと聞きます。自民党でも後藤田正晴官房長官の時はまずしていなかったと聞きますが、たぶん菅さんは質疑が苦手で、その場でしどろもどろになったりしたくないんだと思うんです。それは官房長官に限らず、首相の会見も同じ。もちろん記者はそうはしたくないけれど、求められてしまえばなかなか抗えない。
海外では記者がダイレクトに質問をぶつけるのが当たり前で、あのトランプ大統領ですら、例えばシンガポールで行われた米朝首脳会談では、単独で1時間ぶら下がり(記者が大統領を囲む)会見をやる。でも日本の政治家は国連なんかで外国の記者に“事前に質問を投げてくれ”と言って笑われている。記者も政治家もそれでいいというありようは、本当によくない。用意された答弁だけ、形だけで、何も聞けないし、何もチェックできないですから」

実は、メゲたりすることもあるそうです。特に菅官房長官が国会で望月さんを罵倒し騒ぎになっている時は、あまりに腹が立って食事が喉を通らなかったのだとか。

「注目を浴びて“罵倒されてましたけど大丈夫ですか?”とかと聞かれるんですが、“大丈夫じゃないよ!”って(笑)。会社からも“検証記事をまとめるから、今は不用意にしゃべるな”と言われていて、反論一つできず言われっぱなしでしたし。
でもしばらくすると応援してくれる人が沢山出てきて。市民団体の方たちが官邸に抗議声明を出したり、直接抗議してくれたり、朝日新聞や共同通信の記者が会見で追及してくれたり。内閣記者クラブも、昨年末の官邸からの“望月を外せ”という要請には、“さすがに容認はできない”と抵抗してくれたみたいで。もちろん私の至らない点や反省すべき点もありますが、私の権力への向き合い方について、正面から文句をいう人は少なくなってきたと感じています。それは私のためではなく、「記者はなんの為に存在しているのか」「政府広報のためではなく、国民の知る権利を支えるために記者がいるんだ」という、“原点”の価値を共有する記者達が多いということなのだと思います」

伊藤詩織さんに端を発した日本のメディアの#MeToo、テレ朝の女性記者へのセクハラ、事務次官による「女性記者を囲む会」の実態など、望月記者へのインタビューは後編へと続きます。

解説

「怪しい彼女」などで知られる韓国の演技派女優シム・ウンギョンと松坂桃李がダブル主演を務める社会派サスペンス。東京新聞記者・望月衣塑子の同名ベストセラーを原案に、若き新聞記者とエリート官僚の対峙と葛藤をオリジナルストーリーで描き出す。東都新聞の記者・吉岡エリカのもとに、医療系大学新設計画に関する極秘情報が匿名FAXで届く。日本人の父と韓国人の母のもとアメリカで育ち、強い思いを秘めて日本の新聞社で働く彼女は、真相を突き止めるべく調査に乗り出す。一方、内閣情報調査室の官僚・杉原は、現政権に不都合なニュースをコントロールする任務に葛藤していた。そんなある日、杉原は尊敬するかつての上司・神崎と久々に再会するが、神崎はその数日後に投身自殺をしてしまう。真実に迫ろうともがく吉岡と、政権の暗部に気づき選択を迫られる杉原。そんな2人の人生が交差し、ある事実が明らかになる。監督は「デイアンドナイト」の藤井道人。第43回日本アカデミー賞では最優秀作品賞、最優秀主演男優賞(松坂桃李)、最優秀主演女優賞(シム・ウンギョン)の3冠に輝いた。

2019年製作/113分/G/日本
配給:スターサンズ、イオンエンターテイメント

オフィシャルサイト

スタッフ・キャスト

  • シム・ウンギョン

    吉岡エリカシム・ウンギョン

  • 松坂桃李

    杉原拓海松坂桃李

  • 本田翼

    杉原奈津美本田翼

  • 岡山天音

    倉持大輔岡山天音

全てのスタッフ・キャストを見る


 

 

<映画紹介>
『新聞記者』

©2019『新聞記者』フィルムパートナーズ

一人の新聞記者の姿を通して報道メディアは権力にどう対峙するのかを問いかける衝撃作。
東京新聞記者・望月衣塑子のベストセラー『新聞記者』を“原案”に、政権がひた隠そうとする権力中枢の闇に迫ろうとする女性記者と、理想に燃え公務員の道を選んだある若手エリート官僚との対峙・葛藤を描いたオリジナルストーリー。主演は韓国映画界の至宝 シム・ウンギョンと、人気実力ともNo.1俳優 松坂桃李。

6/28(金)新宿ピカデリー、イオンシネマほか 全国ロードショー!
監督:藤井道人
出演:シム・ウンギョン、松坂桃李
本田翼  岡山天音 郭智博 長田成哉 宮野陽名 / 高橋努 西田尚美
高橋和也 / 北村有起哉 田中哲司
配給:スターサンズ/イオンエンターテイメント
©2019『新聞記者』フィルムパートナーズ

この映画で描かれていることは、フィクションか、現実なのか!? 見る者を戦慄させる孤高のサスペンスエンターテインメント「新聞記者」が、6月28日に公開を迎える。ある新聞記者のもとに届いた、大学新設の極秘情報。その裏に隠された真実を追い求めるうち、彼女は国家を揺るがしかねない官邸とメディアの関係の“裏側”を目の当たりにする……。一方、若きエリート官僚は組織を覆う巨大な“闇”と向き合い……。「デイアンドナイト」の藤井道人監督がメガホンをとり、「怪しい彼女」のシム・ウンギョン、「孤狼の血」の松坂桃李が共演。ここまで“日本の暗部”に切り込んだ物語は、本作でしか見られない!

 

【映画化したこと自体が《告発》】 信じるか信じないかは、あなた次第━━
“本作の内容”は、日本で“本当に行われていること”なのだろうか……!?



画像13



描かれるのは、国家による「陰謀」――。驚くべきは、その“切り込み加減”だ。国会議事堂を背にしたポスタービジュアルの時点で、すでにセンセーショナルな雰囲気は漂っていたが……実際に内容を見てみると、予想をはるかに超えてくる“題材”に鳥肌が立つ。あくまでフィクションという触れ込みだが、見る者の頭の中には現実に起こった、記憶に新しい“事件”の数々が同時再生されるはずだ。自分が立っている地面が音を立てて崩れるような、驚がくのシンクロ感……限りなく“今”を映した作品になっているのだ。

画像14


[驚異的な《攻め具合》]
この映画、ただものじゃない……テーマも内容も“ボーダー”を飛び越えている!

国家が抱える闇を、新聞記者とエリート官僚が暴く――。これまでの日本映画では描かれなかった強烈なテーマ、さらに内容は現在進行形の問題を扱っている……。映画化すること自体が、とてつもないリスクを伴ったであろう本作。映画ファンの皆様には、劇場公開の意義を感じつつ、本作が鳴らした“警鐘”を見届けてほしい。

画像3


[戦慄する《リアリティとのシンクロ》]
見る者の脳裏をかすめる、現実とのオーバーラップ……本当に“フィクション”なのか!?

あくまで、劇中では一切言及はされない。「●●を下敷きにした」というような断りもない。だが、見る者の頭の中には、明確に「それ」がイメージされる……。それこそが、本作の恐るべき構造だ。この日本に暮らし、テレビやネットでニュースを見ている者なら、この作品を他人事とは思えないだろう。

画像18


[無視できない《同時代性》]
私たちが生きる“今”の根底が覆る……「今、すぐそこにある恐怖」が描かれる!

日常生活の中では、意識的に無意識下に置こうとしていること……。自分が巨大な「国」の一員であるという“事実”を、本作はまざまざと感じさせる。真実を明らかにする者=新聞記者と、真実を操作する者=内閣情報調査室・官僚といった2つの立場でえぐり出す、衝撃のドラマ……。鑑賞後は、世の中の見方が決定的に変わっているはずだ。

画像5


[絶句する《裏側暴露》]
国家規模でSNS捏造、メディアを操作……これは果たして“真実”なのか?

国家の内部に、SNSを使った「情報操作チーム」が存在した!? 新聞社に圧力をかけ、或いは意図的にリークすることで、他のネタを隠すのは日常茶飯事? 国民の目をくらます様々な「工作活動」が描かれ、見る者を恐怖させる。あの報道も、あのツイートも、背後で糸を引いている人々がいたのか……!?

画像6

【《賛否両論》勃発中】 いますぐSNSで「#新聞記者」を検索してほしい──
そして、あなたの“鑑賞後の意見”は? 【この内容、語らずにはいられない】

画像19

「国家の情報操作」「疑惑の大学誘致」「官僚の飛び降り自殺」「レイプ事件の被害者会見」――この衝撃的な内容に、映画界だけではなく、すでに見たマスコミ全般で議論が噴出している……。作品のクオリティへの賛辞はさることながら、やはり題材に関してショックを受ける人々が続出。「国家の平穏のため、真実に蓋をすることも辞さない」という意見と、「全てにおいて、真実はつまびらかにされるべき」という意見の相克……。この映画が投げかける「疑問」に、様々な立場の人々が反応している!

画像8

[賛否] 国民のために、国は“嘘”をつき続けるべきなのか?[賛否] 原案は「菅官房長官の天敵」とも称される現役異端児ジャーナリスト[賛否] 大学誘致、レイプ、●●、聞いたことがあるこの“内容”、問題ないのか?[賛否] この日本に、“新聞記者”は本当に必要なのか?[賛否] 最後に……“本作”は映画化されるべきだったのか?

画像9

このような渦を巻き起こしているのは、これまでになかった作品なればこそ。その中心となっているのが、原案を務めた現役新聞記者の望月衣塑子だ。これまでの慣例に一石を投じる「攻め」の取材姿勢は“異端児”と称され、大きな話題を呼んでいる。
 フィクションという表現者の武器を最大限に駆使しつつ、目の前にあるリアルをダイレクトに撃ち抜くアクチュアルな物語に、映画界の実力者たちが加わり、かつてない骨太な「社会性」と「エンタメ性」が融合した一本に仕上がった!

 

「ペンタゴン・ペーパーズ」「スポットライト」「スノーデン」の魂を継承━━
日本映画史上、ここまで“タブー”に果敢に切り込んだ作品はなかった!

画像16

現代社会を鋭くとらえた「政治×サスペンス×エンターテインメント」のジャンルは、映画ファンにとって「高クオリティ」の証。報道VS国家をテーマにした「ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書」や「スポットライト 世紀のスクープ」などのアカデミー賞関連作、「記者たち」「女神の見えざる手」などの政治や報道の“舞台裏”を描いた映画ファン支持作、ドラマにおいては政治家のドロドロ劇「ハウス・オブ・カード」や麻薬王の壮絶な生き様を描く「ナルコス」など、現実社会とのリンクが観客の興味をかき立て、根強い人気を獲得している。

画像提供:アマナイメージズ
画像提供:アマナイメージズ

本作「新聞記者」も、それらの作品群に連なる“世界基準”の意識で作られた意欲作だ。「忖度」や「自粛」といった及び腰な姿勢は一切なく、今この瞬間の日本社会の“ひずみ”に堂々とスポットを当て、新聞記者とエリート官僚が内外から巨大な政府に挑んでいく姿を、鋭い筆致で描き切っている。若き演技派として国内外で高い評価を得るシムと松坂の静かだがどう猛な演技合戦に引き込まれ、国家のためにはどんな手も使う“究極の汚れ役”を演じた田中哲司の不気味な存在感に、冷や汗をかかされる。
 生ぬるい映画に飽きている映画ファン、本物の“覚悟”を持った作品を求める者に、本作は力強く応えてくれるだろう。「こんな映画を待っていた」――エンドロール後、きっとそう思えるはずだ。