大野威研究室ブログ

おもにアメリカの自動車産業、雇用問題、労働問題、労使関係、経済状況について、最近気になったことを不定期で書いています。

米自動車販売が急減: 4月は78%マイナスの可能性も

2020年03月28日 | 経済

 新型コロナウイルスの影響で、アメリカの自動車販売が急激に落ちこんでいる。

 オートモーティブニュース紙は、自動車調査会社J.D.Powerの予測として3月の米自動車販売台数が前年比38-45%のマイナスになると伝えている。

 同社は4月の米自動車販売は前年比78%のマイナス5月も前年比75%のマイナスになると予想している。

 このような状況をうけ、2020年3月26日(木)、GMは北米の全自動車工場を無期限で停止することを決定。影響が広がっている。

 今回のような販売落ち込みはリーマンショック時にもみられなかった。

 一方、新型コロナウイルスの感染が収束すれば、2020年後半からV字型で販売増加、景気回復するという見方も多い。

 ひきつづき米経済の行方を注意してみていきたい。

2020/3/28追記

 トランプ大統領は戦時生産法にもとづきGM人工呼吸器の生産を命令した。米政府とGMはこれまで人工呼吸器生産について協議していたが価格などで合意できない状態が続いていた。

 命令を受けたGMはVentec社と協力して、インディアナ州のココモ工場で人工呼吸器の生産をはじめる。来月には月1万台の生産が可能になるとしている。

 

2020年5月2日追記

 ビッグ3は現在月ごとの販売台数の公表をやめているため正確な数字は不明であるが、2020年4月の米自動車販売台数は前年同期比で50‐55%のマイナスになった模様。単月販売台数を公表してるメーカーでは、トヨタが‐53.9%、ホンダが‐54.1%などとなっている。

 現在、米自動車メーカーはオンラインでの販売を進めるほか、長期にわたるゼロ金利、車をかってから半年間はローン支払いを猶予などさまざまなインセンティブで販売促進をおこなっている。

 

中国で自動車販売が急減:新型コロナウイルスの影響  2020/2/22


米新規失業保険申請者件数が歴史的な急増

2020年03月27日 | 経済

 2020年3月26日(木)にアメリカで、新たに失業保険を申請した人数(3/15-21の1週間)が328.3万人と発表された。

 これは歴史的に例をみない高水準。1967年以降をグラフにすると下にあるように、ふつうあり得ない形になる。

 新型コロナウイルスの影響でアメリカでは解雇される人が急増しており、その影響がでたかたちになった。

 事前予測で200万という数字をみて驚いていたが、実際はその予測さえ大きく上回る数字となった。

 3/21以降も各地で解雇が増えていると報道されている。

 また申請窓口がパンク状態で、申請を遅らせている人も少なくないといわれている。

 4/2(木)に予定されている次回公表がふたたび大きな関心を集めそう。 


米、景気後退の可能性高まる: 金融不安の再燃も

2020年03月21日 | 日記

 アメリカの景気後退がさけられない状況になってきた。

 2月28日(金)にわずか65人だったアメリカの新型コロナ感染確認者は、3月20日(金)に15,219人まで急増

 これ以上の感染拡大をふせぐため、カリフォルニア州(人口4千万弱)は外出禁止令(食品以外の小売の閉鎖含む)をだし、ニューヨーク州(人口2千万弱)も22日(日)から労働者に基本的に在宅勤務を義務づけることになっている。

 これに、ニュージャジー州、コネチカット州、イリノイ州続く予定になっている

 この影響は経済統計にもではじめており、3月19日(木)に発表された失業保険の新規申請者数(3月8-14日までの1週間分)は、前週より33%増加して28.1万人になった。

 3月15日以降、さらに失業者数が急増していることが各地で報告されており、今週発表の失業保険の新規申請者数はびっくりするような数字になることが予想されている(株式市場への影響をふせぐため、米政府は3月26日(木)のデータ公表日まで各州の数字を発表しないよう指示をだした)。

 これまで好調を続けてきた雇用が大きく失速するのは確実な状況となっている(ただし米雇用統計にあらわれるのは1-2か月遅れになる)。

 米議会では、年収7.5万ドル(830万円:1ドル=110円)まで一人あたり1200ドル(13万円)の現金を支給(共和党案は税金からの払い戻し)する法案が検討されているが、消費の落ち込みを十分おぎなうことはできないとみられている。

 こうしたことから、アメリカのGDPは第1四半期、第2四半期ともに前期比マイナスになるとする予想がふえている。

 景気後退は一般にGDPが2期連続マイナスと定義されており、そのいみでアメリカが景気後退にはいる可能性がきわめて高くなっている(アメリカはこれとは少し違った方法で景気後退を判断しているが、判断に大きな違いはでない)。

 こうしたなか、ふたたび金融危機がおこる可能性が指摘されるようになっている。

 このブログでは、信用の低い企業が発行するハイイールド債あるいはレバレッジドローンの問題をたびたび紹介してきた。

 こうした債券をまとめて証券化したものにCLO(ローン担保証券)がある。

 低金利がつづくなか、CLOは高利率をうたうことで多くの機関投資家(年金、保険会社、投資会社、アメリカ外の銀行など)をひきつけてきた。

 いまこのCLOが金融危機のひきがねをひくのではないかと心配されている。

 ウォールストリートジャーナルによれば、低格づけ企業が発行した債券は1.2兆ドル(130兆円)。カナダ年金基金など安全性を重視する機関投資家も、CLOのかたちで低格づけ企業の債券を大量に保有している。

 しかし、景気後退が意識されるなか、格付けがとくに低い債券では価格の大幅な低下(額面の8割程度)がはじまっている。

 ここでおもいだすのがリーマンショックである。  

 信用の低い人の住宅ローンをまとめて証券化したサブプライムローンはリーマンショックをひきおこしたが、CLOはその企業版にみえる。

 もっともリーマンショックと今では違いもある。

 リーマンショックでは、もうけ優先の企業(リーマンブラザーズなど)を救済することに批判が多く、金融支援が後手にまわって景気後退を大きなものにした。

 一方、新型コロナウイルスが原因の今回の景気後退では、企業救済に制約(批判)は少なく、各国中銀は市場安定のため全力で資金供給をおこなうとみられている。

 新型コロナウイルスの感染拡大がどこまで経済に影響をおよぼすのか、ひきつづき注意してみていきたい。

2020/3/27追記

 2020/3/26に発表された新規失業保険申請者件数は328.3万人。歴史上例を見ない水準に跳ね上がった。


女性役員登用の国際比較をした論文を書きました

2020年03月19日 | 日記

 東証一部上場企業について、役員にしめる女性割合が30%を超えると、株価と企業業績(ROE)のパーフォマンスが著しく高くなることを明らかにした論文を書いた

 1990年代まで、どの先進国でも女性役員はほとんどいなかった。

 しかし、2000年代にはいると一定比率の女性役員を法律で義務づけたりコーポレートガバナンス・コード(証券取引所などが定めたルール)の目標にする国がふえ、女性役員がふえていった。

 ところが日本はその流れに乗り遅れ、現在も1990年代とあまりかわらない役員構成にとどまり、ほかの先進国との違いがきわめて大きくなってしまった。

 もっともそうしたなかにあっても、女性役員を積極登用する企業はあり、とくに女性役員が30%をこえた企業は株価ですぐれたパーフォマンスを出している。

 論文のおおまかな内容は以上のようなもの。

 具体的なデータをたくさん載せているので興味のある方はご覧ください(論文のPDFファイルはこちら)。

 なお、この論文については石井記念証券研究振興財団から研究助成をいただきました。ここに記してお礼申し上げます。

大野威, 2020, 「女性役員登用の国際比較および女性役員と企業業績・株価の関係-女性役員比率30%以上の日本企業の株価とROEの分析」


米、株・国債が同時下落

2020年03月16日 | 経済

 アメリカで株と国債が同時に下落するという非常にめずらしいことがおこっている。

 一般的に、リスクの高いが売られるときは、安全な国債が買われて国債価格は上昇(利回りは低下)する。

 ところが、下のグラフにあるようにアメリカでは先週、株(青い線)の下落と同時に、国債利回り(赤い線)の上昇(価格は低下)がおこった。

   

 これは、とにかく手元の現金を可能なかぎり積み増しておきたいひとたちが、市場が吸収できないほど大量の国債を売っていることを意味している。

 ひとことでいえば、信用のひっ迫(現金が足らない)がおこっている。

 これを解消するため、ニューヨーク連銀は2020年3月12日(木)、国債を担保とした3か月の短期融資(レポ)を1兆ドル(110兆円:1ドル=110円)、1か月の短期融資を5,000億ドル(55兆円)実施すると発表した

 また、Fed(米連銀)は現在、短期資金市場の安定を目的に短期国債の買い入れを月600億ドル(6.6兆円)おこなっているが、長期国債の売りがふくらんでいるため、今後は国債買い入れの対象を長期国債にまで広げることも決定した。

 週末に株価が反騰したこともあり、巨額のレポ実施に対し、実際の応札はそれほどなかったが(3か月物、1か月物ともに1,000億ドル=11兆円前後)

1日(翌日物)、14日の短期融資(レポ)はあいかわらずきわめて高い水準で推移している。

 3月17-18日(火-水)のFOMC(公開市場委員会)では1%の利下げが決定されると考える人が多いが、はたして国債、金融市場は安定に向かうのであろうか。

 注意してみていきたい。

 

2020/3/16追記

 2020年3月15日に緊急のFOMCが開催され、1%の利下げを決定した。