大野威研究室ブログ

おもにアメリカの自動車産業、雇用問題、労働問題、労使関係、経済状況について、最近気になったことを不定期で書いています。

トランプ減税は、富裕層減税: 減税額の半分は所得上位1%に

2017年04月29日 | 日記

 2017年4月26(水)、トランプ政権は懸案となっていた減税案を公表した。

 トランプ氏は選挙期間中、中間層に焦点をあてた減税をおこなうといっていたが、今回の公表で実際には富裕者を中心とした減税であることが明らかになった。減税案は次のとおり。

<企業>

1 公約どおり法人税をいまの35%から15%に引き下げる

  中立のTax Policy Centerは、これにより10年で1.5兆ドル(約160兆円:1ドル=110円で計算)の減税になると試算している。

2 大企業との公平を期すため個人所有の会社の税率も15%に引き下げる

  これについてニューヨーク・タイムズ(NYT)は、トランプ氏など富裕者は節税のため個人商会を立ち上げ、収入を事業収入として申告するようになると警告している。

<個人>

1 現在、アメリカでは1.1千万ドル(約12億円)を超える不動産の相続にのみ相続税がかかっている。税金を払うのは年5千人ほどとされている。これを廃止する

  NYTは、3千億円相当の不動産を所有するトランプ氏の場合、子への相続で40%の相続税がなくなることで、12億ドル(1300億円)の節税になると試算している。

2 富裕者への課税最低額の設定を廃止する。アメリカには多種多様な税控除の仕組みが存在する。富裕者は、この仕組みを利用して可能な限り納税額を少なくしようとしている(トランプ氏が、慣例にそむいて納税額を公表しないのは、この仕組みで大きな節税をしているからではないかと言われている)。

 アメリカではこうしたことへの歯止めとして、どれだけ税控除をしても所得に応じて納めなければならない課税最低額(alternative minimum tax)が決められている。これが廃止される。

 ちなみに先日リークされた2005年のトランプ氏の納税書をみると、この年、トランプ氏は3130万ドル(約35億円)の課税最低額を支払っており、納税額の80%をしめている。現在案がとおると、これが支払い不要となる。

3 現在オバマケアの財源を補うため、単身者で年収20万ドル(約2千万円)、結婚したカップルで年収25万ドル(3千万円)を超えると、キャピタルゲイン(株式などの売却益)に3.8%の加算増税がおこなわれているが、これを廃止する(注1)。当然のことながらこの減税は、年収2千万以上の人にかぎられる。減税額は10年で10兆円を超える。

4 所得税の最高税率を39.6%から35%に引き下げる。また現在、7種類ある税率を、10、25、35%の3種類に簡素化する。ここでようやく少し中間層の話がでてくる。

5 夫婦の基本控除額(=所得税の計算から除外できる額)を現在の2倍の2万4千ドル(約260万円:1ドル=110円で計算)に引き上げる

6 現在、アメリカでは州税を収入から除外したうえで連邦所得税の計算がおこなわれている。この除外を廃止する。ウォール・ストリート・ジャーナルは、これにより10年で1兆ドル(110兆円)の税収増(増税)が見込めるとしている。

 これで大きな影響を受けるのがカリフォルニア、ニューヨーク、マサチューセッツなど州税の高い(住民サービスが高い)ところに住む人々。こうしたところは民主党が強いところであり、政略的な意味が強い。

  中立のTax Policy Centerは、こうした減税が実施されると減税の半分は所得上位1%が得ることになるとしている(ワシントンポスト)。  

 ウォール・ストリート・ジャーナルなど共和党支持のメディアは、この減税案の売り込みにものすごく必死になっているが、この富裕層による富裕層のための減税あるいはトランプ・ファーストといえるような減税案が実現する可能性はどれだけあるのだろうか。たとえば増税となるカリフォルニアやニューヨークの共和党議員は、この減税案に賛成できるのであろうか?

 この点については、また後日、触れることにしたい。

 

(注1)アメリカは日本と異なり、年収に応じてキャピタルゲインの税率が異なる。おおよそでいえば、年収400万円ぐらい以下では0%、年収4千万円ぐらいまでが15%、それ以上で20%となっている。さらにオバマケアでは、単身者で年収20万ドル(約2千万円)、結婚したカップルで年収25万ドル(3千万円)を超えると3.8%が加算増税されることになっている。

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日銀の国債買い入れ、限界が近づく?

2017年04月09日 | 日記

 現在、日銀は年間80兆円程度をめどに国債購入をおこなっているが、買い入れの限界に近づいていると思われるような兆候がでてきた

 2015年度、日本政府は借り換え分を除いて約52兆円の国債を発行した。これをすべて買っても80兆円にならない。したがって日銀が年80兆円国債を買おうとしたら、国債をすでに保有している機関投資家(年金基金、銀行、生命保険会社など)から残り(約30兆円)を買うしかない。

 これに対しIMFは、2017年ないし2018年に機関投資家の国債保有残高はこれ以上減らせない水準にまで低下(国債をそれ以上売れない状態に達)し、日銀は政策の転換を余儀なくされるとするレポートを公表している。

 その最初の兆候と思えるものが最近発生した。

 日経新聞(2017/3/25)によれば、市場で国債不足が発生し、2017年3月24日、日銀は約1兆円の国債を売却した(一定期間後に買い戻す条件付き)。

 その後も国債不足はおさまらず、結局、3月中に日銀は6.5兆円、4月にはいってもすでに9千億円もの国債を市場に売却(一定期間後に買い戻す条件付き)している(日経 2017/4/7)。

 日銀が国債の大量買入れをおこないながら、その一方で大量の国債を貸し出すという異例の事態が生じているのである。

 上記の日経は決算期のためとくに国債需要が高まったとしているが、それとは別に短期国債(1年以内)の不足が進んでいるようだ。日銀に加え外国人投資家が短期国債を大量に買い入れている。 

 フィナンシャル・タイムズ(2017/3/21)によれば、短期国債の発行額117兆円に対し、日銀と外国人投資家の保有高はそれぞれ50兆円と60兆円。国内の銀行、保険会社の保有はたったの7兆円にまで低下している(2010年には外国人投資家の保有割合はわずか15%だった)。

 FT紙は、とくに外国人投資家が短期国債を買っている理由として、活発な通貨スワップ(外国人がドル・円の交換で得た円の待機場所として短期国債を買う)があると指摘している。

 結局、今回の国債不足は決算や通貨スワップにからむ一時的な現象なのかもしれない。

 しかし、いつかはわからないが、いずれ日銀の国債買い入れが限界を迎えるのは明らかである。

 これからも日銀そして国債の動きを注視していきたい。

 

2017年5月4日(木)追記1

 国債の品薄感がつよまっているため、日銀は国債の買い入れを縮小している。この状態が続くと、日銀の年間国債買い入れ額は60兆円程度にまで落ち込む見込日経 5/1)。

 ステルス・テーパリング(隠れた量的緩和の縮小)のはじまりかもしれない。

2017年5月4日(木)追記2

 連休の谷間、長期国債の売買が細り1日半にわたって売買が成立しない(値がつかない)事態が発生。20年近く、このような事態はおこったことがなかった(日経 5/3)。

 これもまた、日銀の国債買い入れが限界に近づいている兆候と思われる。

2017年6月30日(金)追記

 2017年6月29日(木)にふたたび長期国債の売買が一日中成立しない事態が発生した(日経 6/30)。

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トランプ氏はかつてシリアへの軍事介入を批判していた

2017年04月08日 | 日記

 アメリカのシリア軍事施設へのミサイル攻撃についてメディアではさまざまな論評がおこなわれているが、なかには「?」と思う論評もある。

 たとえば、2013年にアサド政権が化学ガスで多くの市民を殺害した際、オバマ大統領が最終的に軍事介入を避けたことについて、かねてからトランプ氏がこの対応を批判していたという論評である。

 しかし、トランプ氏はもともと人道目的で他国に軍事介入することを(アメリカにとって無駄な出費として)批判しており、オバマ氏が軍事介入を避けたときもトランプ氏はツイッターで「シリアを攻撃するな、アメリカの問題を解決しろ」とつぶやいている。

 これはバノン氏の立場とも一致している。意外と思われるかもしれないが、バノン氏も(アメリカに利益がないとして)中東への軍事介入に反対で、中東でのアメリカの積極的な役割を模索するクシュナー氏とするどく対立している。

 ティラーソン国務長官(=外務大臣)が「シリアの問題はシリア国民が決めることだ」とシリアへの介入放棄を示唆するかのような発言をしたのはこの延長線上にある。

 問題はティラーソン氏の発言の数日後に化学ガスが使われた(可能性が高い)ということである。

 これではトランプ政権の面目はまるつぶれである。

 そこで外交的、国内的ダメージをさけるため、国連などによる十分な検証をへることなくシリアの軍事施設へのミサイル攻撃が拙速におこなわれることになったというのが真相ではないかと思う。

 攻撃の2時間前にはロシアに攻撃対象基地から退去するよう事前通告がなされたということで、攻撃の実効性は限定的で、今回の攻撃はあくまで象徴的なものだったと思われる。

 なお攻撃の後、トランプ氏はいつものように、以前から2013年のオバマ氏のシリア不介入を批判しており、今回の化学ガス使用もオバマ政権に責任があるかのような(事実と異なる)コメントを発表している。

 さすがにアメリカのメディアはその問題点を指摘しているが、そんなフェイクニュースをそのまま事実のように報道している日本のメディアが多いのにはびっくりする。

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マスク氏のスペースX、たった1千億円で宇宙ロケットの革命(再利用)に成功

2017年04月04日 | 日記

 2017年3月30日、マスクCEO率いるスペースX社は、回収した一段目のロケット(一段目のロケットが最も高価)を使って衛星の打ち上げに成功するとともに、そのロケットをもう一度海上プラットフォームに回収することに成功した。

 これによりロケットの再利用(打ち上げ→回収→再打ち上げ→回収)が完成したことになる。

 ウオール・ストリート・ジャーナル(WSJ)によると、スペースX社は今後、ロケットの大型化を進めるとともに二段目以降を含むすべてのロケットの回収を計画している。

 さらにマスクCEOは、1年以内に、回収したロケットを24時間以内に検査、燃料充填して再び打ち上げることができるようになるだろうと予測している。

 再利用によりロケット打ち上げコストは現在の1/100まで安くなるとされているが、それが秒読みに入ってきた感じだ。

 ところでこうした革命的な事業にいくらかかったかだが、マスクCEOは、開発に10億ドル(約1100億円:1ドル=110円)かかったと述べている。

 ちなみに2隻の豪華客船の建造で三菱重工が背負った赤字は2000億円以上。同じく三菱重工が開発中の小型機MRJは、エンジンを米プラット・アンド・ホイットニーから外部調達するにもかかわらず開発費が5000億円を超えるといわれている。

 約一千億円というロケット開発費は、一桁少ないんじゃないのというぐらいの驚きである。

 2017年4月3日には、マスク氏がCEOをつとめるもうひとつのテスラ自動車の株の時価総額がフォードを抜いたというニュースもでてきた。

 マスクCEOは数年以内に人間を月に送り最終的には火星に人を送ると言っているが、こうした革命的な業績の数々を見ると本当に実現するのではないかと思ってしまう(革命的というのはマスク氏自身がよく使う言葉)。

 IMFは、金融危機後、低リスクのものばかりに投資がかたより、ハイリスクなものへの投資が減ったことが、先進国の生産性を以前より低いものにしているとの報告書を先ごろ公表している(FT 2017/4/4)。

 金融危機後、誰もが不可能だと考えたハイリスク事業に取り組みそれを成功させたマスク氏が日本だけでなく先進国全体からみても特異な人物であることがわかる。

 火星への人類到着までマスク氏の動向に注意していきたい。

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