大野威研究室ブログ

おもにアメリカの自動車産業、雇用問題、労働問題、労使関係、経済状況について、最近気になったことを不定期で書いています。

GM、セダン生産工場で1.5万人の大リストラ

2018年11月27日 | 日記

 日本でも大きく報じられているが、2018年11月26日(月)、アメリカ最大の自動車メーカーGMは売れ行きが低迷しているセダン(いわゆる4ドア車)を生産している工場で大規模な生産中止をおこない1.5万人の人員削減をおこなうと発表した。

 GMによれば、工場閉鎖の可能性があるのは、カナダのオシャワ工場、オハイオのローズタウン工場、ミシガンのデトロイト・ハムトラック工場の3つの組み立て工場。この3工場では、2019年中にいま生産している車種(セダン)がすべて生産中止になるが、その後継車種がきまっていない。GMは、このまま後継車種がきまらなければ、2019年に工場が閉鎖される可能性があるとしている。オートモーティブ・ニュースによれば現在、3工場で6,700人が働いている。

 またGMは、バルチモア(メリーランド)とウォーレン(デトロイト)の2つのエンジン部品工場でも2019年以降の生産品が決まっておらず、工場閉鎖の可能性があるとしている。

 そしてGMは、最終的に2019年中に1万5千人の労働者を削減し、2020年までに45億ドル(5千億円)のコスト削減15億ドル(1.6千億円)の設備投資削減を実現するとしている。

 GMはさきごろ、これとは別に北米で5.4万人いるホワイトカラー(事務、エンジニア)の15%(8千人)以上を削減することも決定している。

 この発表をうけGMの株価は4.8%急騰したが、GMの決定に対しトランプ大統領はさっそくオハイオの工場を閉鎖するなとの発言をおこなっている。オハイオ州はトランプ大統領の再選にどうしても必要な州。

 GMの決定は、これからはじまる日米貿易協議にも少なからぬ影響を与えそうだ。


日本では買えない最先端のものが多い:eスクーター

2018年11月25日 | 日記

 最近、世界的にeスクーター(電動キックボード)が注目をあつめている。

 自転車より手軽で、持ち運びや屋内への持ち込み(保管)が容易なところなどがうけているようだ。

 とくにeスクーターのシェア・ビジネスが注目を集めており、アメリカでeスクーターのシェア・ビジネスを展開するBirdLimeは今年、グーグルなどからそれぞれ3億ドル(330億円:1ドル=110円)以上の資金提供を受けている。いまは未公開であるが、(公開したときの)時価総額は10億ドル(1100億円)以上とする見方もあるようだ。

 このeスクーター、日本でもアマゾンで比較的手ごろな値段で買える。しかし日本では公道が走れないため、このさきも普及する見込みはない。

 安全性などの問題もあり、このさきeスクーターが新しい乗り物として定着するかどうかはわからない。世界的に注目を集めているこの乗り物、日本では試す機会もない間に日本以外の地域でその将来が決まりそうだ(日本でも交通量の少ない地域などで地域振興、まちおこしに使えそうに思うのだが)。

 eスクーターのように日本を素通りする最先端のものは少なくない。

 たとえば、私個人がこれまで手に入らずとくに残念に思ったものにティーボ(TIVO)、ブラックベリ―、衛星ラジオ(シリウスXM)などがある。

 ティーボ1999年にアメリカで販売がはじまったケーブルテレビ番組を検索予約してHD録画する機械である(いまのような高画質ではなかったが)。当時、日本ではまだHD録画は登場しておらず、テレビ番組の検索予約という機能も知られていなかった。アメリカでは爆発的に売れたが、結局、日本では発売されなかった。

 ブラックベリ―は、1990年代末にカナダの会社が開発した小さいキーボードがついた携帯電話である。私はテンキーで言語を入力するのがいやなことなどから、いまだに携帯電話を持っていない。このブラッドベリ―、アメリカやカナダでは爆発的に売れ、オバマ大統領も愛用者だったが、日本では最近まで売っていなかった。

 衛星ラジオというのは、スカパーがやっているものでなく、アメリカでやっている自動車で聞ける衛星ラジオ(シリウスXM)である。アメリカでは、2000年代初頭、シリウスとXMという2つの衛星ラジオがはじまり、いまではアメリカで販売されるほとんどの新車に衛星ラジオの受信機が取り付けられている。またホームセンターなどでも100ドル程度で受信機が売られている。

 遠距離を自動車運転すると、聞いていたラジオ局が入らなくなったり、地域により聞きたい局が少ないといったことがあるが、衛星ラジオであればそのような問題はおこらない(チャンネルは数百局以上ある)。

 最近でも、自動車とインターネットをつなぐアップルのCarPlayのようなものが、欧米では急速な普及を見せながら日本にはなかなか入ってこないということがおこっている。日本にいれば、世界の最先端のものをふくむあらゆるものが手に入るというのは、バブルの頃、日本が一時的に世界の先端をはしっていたときに当てはまるだけで、いまはまったく当てはまらないと思う。むしろいま、最先端の技術の素通りがおこっているのではないかと心配している。

 ここではなしを最初にもどすと、実はeスクーターを使ってみたくてしかたがない。  

 しかし、このままではどうやらティーボなど欲しかったリストに仲間入りしそうである。


未公開株(プライベート・イクイティー)の買収のレバレッジ、リーマンショック前のピークにならぶ

2018年11月17日 | 日記

 この数年、世界的な金融緩和、金あまりを背景に、信用の低い国や企業に対する貸付・投資が大量におこなわれてきた

 しかし欧米で金融引き締めがはじまり、こうした貸付・投資の安全性が疑問視されるようになってきている。

 このブログでも、信用度の低い新興国や企業の発行する債券(ハイ・イールド債や投資適格ぎりぎりの債券)の問題についてたびたび触れてきたが、これに未公開株(プライベート・イクイティ―)の無理な買収というあらたな問題が加わりつつある。

 現在問題になっているのは未上場企業の買収、そのなかでもとくにLBOといわれる買収先企業のキャッシュフロー(1年で増減した現金や当座預金といった手元のお金の量)を担保として借りたお金をつかった未上場企業の買収が問題とみなされてきている。LBOを使うと、資金(担保)の少ない企業が、その企業にみあわない大きなお金を借りることができるが、それをしっかり返済できるかいま問題になりつつある。

 フィナンシャルタイムズによれば、2018年1月以降これまで100億ドル(1.1兆円:1ドル=110円)を超える大型のLBOが4件あり、リーマンショック後で最多となった。リーマンショック後の最多は2015年の3件だった。

 2018年のこれまでの買収総額は約500億ドル(5.5兆円)強で、金額だけみるとリーマンショック前の半分以下にとどまっている。

 しかし、フィナンシャルタイムズは、未公開株買収にかかる融資リスクリーマンショック前のピークにならんだと指摘している。

 すなわち、税金、金利、減価償却を引く前の総利益をEBITDAというが、2018年にはEBITDAの6倍以上のお金を借りて未公開株を買収しているケースが50%となりリーマンショック前のピークにならんだ。一般に、この倍率が高くなるほど融資リスクが高くなると考えられる。

 フィナンシャルタイムズは、さらに気になることを書いている。

 最近では、EBITDAを計算するとき、将来に見込まれるコスト削減や成長を現在の利益にふくむことが普通になってきており(リーマンショック前にはあまりなかった)、以前よりEBITDAが水増しされるようになっている。

 また最近は、融資先が債務返済ができないなど経営危機におちいったとき、融資先の経営に介入できる条項のないものが融資の大半を占めるようになっており、危機時の対応が難しくなっている。

 こうしたことから、フィナンシャルタイムズは、景気後退がはじまると融資の回収率が以前より低くなる可能性(融資者が大きなダメージを受ける可能性)があると指摘している。

 こうした問題はこれからもたくさん出てくると思われる。景気後退で何がおこるのか、とても心配になるところである。


スウェーデン、中道右派が首班指名に失敗

2018年11月15日 | 日記

 2018年11月14日(水)、スウェーデン議会で穏健党のクリステルソン党首の首相指名投票がおこなわれ、195対154で否決された

 穏健党のほか反移民政党であるスウェーデン民主党が賛成したが、スウェーデン民主党との協力を強く拒否する中道右派の中央党とリベラル党が反対したため過半数の賛成を得られなかった。

 フィナンシャルタイムズによれば、中央党とリベラル党は中道右派連合に中道左派の緑の党を加えた連立政権の樹立を主張しているが、緑の党の支持を得られるか不明なうえ、緑の党が加わっても過半数におよばず少数政権になるという問題がある。

 スウェーデンでは4回、首班指名が失敗すると再選挙がおこなわれることになっており、再選挙の可能性がでてきた。

 ただ、スウェーデンでは9月におこなわれた総選挙後、反移民のスウェーデン民主党の支持率が上昇している。ブルームバーグによれば選挙でのスウェーデン民主党の得票率は17.1%だったのが直近の世論調査では同党の支持率が21.1%に上昇している。

 再選挙がおこなわれればスウェーデン民主党が議席を増やす可能性が高いため、主要政党の間で選挙を回避するためなんらかの妥協が成立する可能性が依然高い。なおしばらくスウェーデンの様子に注意していきたい。

 

2018/9/25 スウェーデン、中道左派連合の首班指名が難航

2018/9/10 スウェーデン総選挙、中道左派連合が中道右派連合を1議席差でかわす:焦点は、中道右派連合が少数与党にどれだけ協力するか 

2018/9/1 9月9日はスウェーデンの総選挙:反移民政党の伸長に世界の注目が集まる


中国の自動車生産、販売台数が前年を下回る: 世界経済に大きな影響

2018年11月10日 | 日記

  上は、第一汽車(自動車)の本社。大きすぎてカメラのフレームに入りきらなかった。

 

  昨年度、日本国内では約970万台の自動車(軽、トラック、バス含む)が生産され、そのうち約半数が輸出された。だいたい年1000万台が生産され、半数が国内で販売され、半数が輸出されるというのが日本の自動車産業の現状である。

 これに対し、昨年、中国の自動車生産台数は約2200万台で、日本の2倍以上の水準となっている。販売台数の差はもっと大きく、昨年、中国では約2200万台の自動車が販売されたが、これは日本の4倍以上の水準となっている(日本と異なりいまのところ輸出は少ない)。中国の都市部では、自動車を所有することはもはや特別のことではなくなっている。

 ちなみに、昨年、アメリカの自動車販売は過去最高の1700万台となったが、中国にはまったくおよばなかった。

 いまこの中国の自動車市場が減速の危機をむかえている。

 中国では、今年の7月ごろから自動車販売が前年を下回りはじめ、2018年11月9日(金)に中国自動車工業会が発表したデータによると、今年の10月には前年同月比で1割近い減少となった。

 この結果、2018年1月から10月までの累計の自動車生産台数、販売台数は前年を下回ることになった

 中国の自動車産業はこれまでおどろくような速さで成長してきたが、これが減速すると世界経済にも相当大きな影響がでることがさけられない。

 こうした状況を打開しようと、中国政府は自動車取得税を10%から5%に引き下げることを検討していると伝えられているが、うまく販売をテコ入れできるか注目される。