メランコリア

メランコリアの国にようこそ。
ここにあるのはわたしの心象スケッチです。

『変な男』 眉村卓/著(角川文庫)

2017-09-03 12:07:57 | 
『変な男』 眉村卓/著(角川文庫)
眉村卓/著 カバー/木村光佑(昭和53年初版 昭和55年4版)

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[カバー裏のあらすじ]
濃い紺色のスーツに地味なネクタイ――列車で前に座ったこの中年男が、突然私の裾をつかんで言った。
「教えて下さい。いったい私は何者なんでしょう?」
さっき、彼がトイレに行くまでは、あんなに自信に満ちた表情だったのに、急に気が狂ってしまったのか?
だが、彼の変化の謎が解けたとき、私は思わずゾッとしてしまった…。
毎日を平穏に暮らしている人をギクリとさせる、眉村卓の毒を含んだ傑作ショート・ショート集!


私好みのカバーデザインのほうだと、少しだけテンションがあがるけれども
ショート・ショートのほうが、なぜか1冊読むのに時間がかかる

1作がわずか数ページのものもあれば、短篇に近いボリュームのもあり
どちらも量に関係なく、意表をつく、考えさせられる内容のため
1作読み終えると、次に行くまでに時間を空けたくなるんだ

巻末の解説は、星新一さん


あらすじ(ネタバレ注意

変な男
来月からサラリーマン生活が始まる前に4、5日気ままに旅行しようと列車に乗った青年
嫌いなタイプの中年男が向かいに座り、じろじろ見て不快になる

そいつがトイレに行って戻ると、なぜかぼんやりとしてしまい、思わず「大丈夫ですか?」と声をかけると
「私はどこへ行くんでしょう 私は・・・なんなのでしょうね」などと言う
こんな奴と何時間も過ごすのはたまらないと席を移ろうとすると「教えて下さいよ」と追いかけてくる

反射的にトイレに逃げ込み、男が忘れていったと思われる名刺入れの中に身分証明書があり
相手に見せると奪い取り、にわかに元の顔に戻った

身分証明書がそんな力を持っているなんてとゾッとする青年



昼休みの作業
設計図に従い組み立てると、30分ほどで小型の電気自動車が出来上がったが
スイッチを入れても動かない

そこで仕事が始まるベルが鳴った

計器を監視し、会議を繰り返す疲れる仕事に戻らねばならない
あんな仕事をやっていれば、こうしたことでストレス解消するほかないのだ

材料代などで給料の半分以上が消えると知りながら
昼休みにやらずにいられないのだ



調査員
無人エレベーターに乗るとイヤな臭いがした 僕はそれをメモする
行動予定表にはこのまま外に出るよう書いてある
自動走路も汚かった みんな公徳心がない それもメモした

まっすぐ役所に戻り、メモを上司に渡して帰途に着く
僕の仕事は、市内交通状況調査なのだ

その職業病で、いつも何かに乗っていないと落ち着かず
は動かないのでイライラし、不安でたまらなくなるのだ



S夫人
団地まわりのセールスマンがしつこくブザーを鳴らす
S夫人はすぐに断ると、彼は小型のカセットレコーダーを握っているのが見えた
たて続けにセールスマンが来て、みなそれを持っている

「このぶんじゃ、15秒もつ者は出そうもないな」

「一番長く相手をひきつけた者が賭けに勝つアイデアはよかったが、
 対象をあの夫人にしたのはまずかったかな」



団地の午前
僕が依然として共稼ぎをしながら、金を借りてマイホームを持つことに課長はあまりいい顔をしない
だが、やはり今の団地を出ずにはいられない

2週間ばかり前、身体を壊して会社を休み、回復してもしばらく団地の中を散歩した
それまで平日の日中に団地を歩き回ったことがなく、
こんなにゆったりした風景があることを知らなかった

その晩、妻が飲み込むように夕食を食べるのに驚くと

「あなたこそ、なんだか動作がのろのろして、ものの言い方もまだるっこいわ
  今日、団地のメインストリートで子どもがクルマにはねられたんでしょ?」


夕刊にそう書いてあるが、まったく気づかなかった

回復したらすぐ仕事に戻るつもりが、1週間休みを届けて、
なにもそこまで一生懸命やることはないのではという気がしてきた

そして、また散歩に出かけると、昨日と同じように
幼稚園の送迎バス、園児たち、母親たちのお喋り・・・
僕はゾッとした、その光景は、昨日と何ひとつ変わらないのだ

妻から電話があり「私たちの1階で火事なんでしょ?
僕は外に走りでたが何もない平和な眺めだ

その夜、妻と話し合い、この団地では、何が起きても
当人以外の目には何も映らないのだと結論した

だから家を買うことにしたが、まさか、新しいマイホームの近辺も
そうじゃないかと内心恐れているのだ



女房族のホットライン
出勤の時も妻は立体テレビの前に座ったままだ
出演の主婦が感想を述べ合う番組で、大勢の主婦が毎日見ている番組らしい
つまりは、よほど暇なのだ

僕は、小型のテープレコーダーを妻に気づかれないよう部屋にしこんだ
留守中、妻が何をしてるか分かったら、反省を迫るつもりだった

今夜は仕事で遅くなると言ったが、実は、会社の若い女の子と映画を見て、食事する約束だ
しかし、出勤すると、そのコは欠勤していた

帰宅すると妻が映話で話しているのが聞こえた

「そのコのお母さんに映話して、欠勤してもらったの
 うちの人、そんなのことも知らずに、いそいそ出かけたわよ
 ところで、今日の暗号画見た? 例のお店、不買運動で潰れるらしいわ
 なぜ潰れたか首をひねるでしょうね


妻は何をたくらんでいるのだ?
テープレコーダーは、スイッチが切られて、何も録音されていなかった



変身妻
平生あまり酒など飲まないのに、自分だけ昇進に洩れてかなり酔っ払った

ぐでんぐでんで帰ると、
「何しとったんや、今ごろまで!」と妻がわめいた
いつもは神経質に片付けられている家も、めちゃくちゃに散らかしてある

妻はもとは良い家の出で愚痴をこぼすことなどできない
上品で、汚い言葉ひとつ吐かない女なのだ こんな妻は見たことがない

「飯、食うのか、食わんのか、どっちや!
 なんかあったんやろ? 蹴飛ばしたろか 何があった?」

事情を話すと

「お前、ほんまにロクデナシやなぁ トロいし、要領も悪いんや
 そやけど、わては、それだけが人間の値打ちやない思うとる
 どうせ出世しても社長になるわけないし そんなもんでええやないか
 くよくよすな わかったな!」


これだけ言われても腹は立たず、かえって爽快だった

翌日、同僚から「昨日、どこ行ってた? 家に帰らなかったって、奥さんひどく心配してたぞ」
妻から電話があり「お泊りならそうおしゃっていただかないと

あの日の妻は妖怪かなにかだったのか?

いずれにせよ、時々、あの時の妻に会いたくてたまらなくなる
あの調子で尻を叩かれているほうが、どんなに人間的だろうか
あいつとなら、今みたいにいじいじせずにやっていける気がするのだ



美しい手
Kの結婚相手を仲間で探すことにした
K「僕はほっそりした美しい手を持った人と結婚しようと思っている」

ところがなかなかいないものだ
とうとうある日、仲間が素晴らしい美人を連れてきた
彼女も手の美しい男を探していたという

Kと彼女は目を合わせて握手した
それきりだった
2人はみんなの目の前で消えてしまったのだ

求めている者同士が遭遇した時、
人間はこの世にとどまる必要はなくなるのではないかと思えて仕方ないのだ




あるスタッフの死
「御木本が、今日の夜明けに自殺したんだ」

「情報整理会社のスタッフの自殺は近頃増えているが、あいつも疲れていたんだなあ」

伊原は、ここに採用されてまだ半年もならず、御木本とも2、3度会話した程度だ

情報整理会社は、世間からエリート視され、高収入だが、精神活動加速剤を飲む者もいる

おびただしい情報の中から重要と思うものをピックアップし、音声タイプに吹き込むのだ
それには、人並み以上のありとあらゆる知識が必要で、たえず補充も必要だ

かつて1960~1970年代、産業による公害がクローズアップされたが
長い間お国のために強圧的に隠されてきた

その産業構造が戦争で壊滅し、排気ガス、スモッグ、プラスチック廃棄物、工場廃液
農薬公害、騒音
、ごうごうたる非難のうち、政府や企業はやむなく手を打ちはじめた
公害は、産業が宿命的に背負う反作用だった

それを改善したのは変な話だが、公害対策技術を売りにする新しい企業群だった
そしてより新しい「情報公害」が悪化した

膨大な情報をどう取捨選択すればいいかをセレクトするのが「情報整理会社」だ
数ヶ月契約した顧客に、定期的にダイジェストを送る

情報整理会社のスタッフになりたいと15、6歳の女の子が来て、伊原に押し付けられた

「私、スタッフになれる知識は、あなたよりあるはずです
 スポーツや遊びなどのくだらぬことは一切やめて、毎日暗記しているんです」


このコに人格形成や、人生観をいくら説いてもムダに違いない これではまるでロボットだ
「うちは、満20歳以上でないと使わない規則なんです」
「規則なら仕方ありません ほかの情報整理会社へ行きます」

仕事後、御木本の通夜に行くことになった

「遺書があり、やはりあとからあとから知識を詰め込むことに耐えられなくなったそうだ」
「年ごとにやりにくくなるのは事実だよなあ」

「情報整理会社のせいで、お客もえらく知識をつけているからなあ
 今のお客の水準なら、10年前にはスタッフとして通用したんじゃなかろうか」

伊原は思った
情報整理会社に振り回され、今度はあの女の子のような知識しか信じない「知識公害」がくるのではないのか



ダイジェスト・サービス
週末会議まであと2時間半しかない それまでに十数点の情報を分析し、解説を作らなければならない
そこに契約部の板原が見込み客を連れて、一緒に案内してくれと言ってきた

板原「今日のお客は、4000部近い契約代行権を持っているんだ」
映話の相手に見えないところで桜井は拳を握り締めた

板原
「わがダイジェスト・サービス社は、世の中の無数の情報の中から
 信頼できる重要なものを拾い出し、お客さま一人ひとりのご要望に応じて
 コンパクトにまとめてお届けするのが仕事です

 今の時代、人間は情報の洪水に溺れそうになり、本当に必要な情報は見逃しがちです
 それを原始記憶としてファイルし、カード化し、優先順位づけが行われ
 毎日、エアシュートでお送りするわけです
 必要とあれば1時間ごとの配送も可能です」

初老の男は大あくびしながら

「わしらは職業訓練学校の連合や その教官に、生徒にバカにされへんような教養を与えさえしたらそいでええんや
 そんな解説などみんな読まなあかんのか?」

板原が「いえ、とんでもない・・・」と言いかけて桜井はおおいかぶせた

「現代の問題の多くは、誰もが基礎的なことを知らず、
 表面だけをかじって、知っているような顔をすることから起きているのです
 一知半解にすぎない 真の情報化社会はそうではないはずですです
 もっと考えるよう努力しなければならない」


初老の男「アホクサ! もっとらくなとこ探すわ ほかへ行こ!」

板原が「これは・・・責任問題だぞ!

デスクに戻り、あと30分 とてもダメだ 疲労感と空しさが襲ってきた
そこに社長が来た

「僕たちは、情報化社会を見越して今の会社をはじめ、当てた
 だが、こんなものじゃない いつかきっと、あらゆる情報が
 その背景や意味づけを伴わなければ使い物にならない時が来る
 君の仕事は、それまで灯し続けるあかりなのだ」

桜井はふたたび自信が湧いてくるのを覚えながら立ち上がった



弁当どろぼうめ!
今日も弁当を盗まれた うっかり席を空けたのがいけなかった

教師が進路相談で言った

「今は食べるものを確保するために、死に物狂いにならなきゃならん時代だ
 配給だけではとてもやっていけない ぼちぼち合成食品も出回りはじめた
 君たちの子どもの時代には、また豊かな生活が来るに違いない
 将来のために大学へ行く気はないか?」

教師の言うことは分かるが、彼らは美味しいものを選り好みして食べていた記憶があり
そんな時代がまた戻るという気があるのに反して、
地球に小氷期がいついてしまってから生まれた僕たちには、どうしてもそうは思えないのだ


弁当の中には小さなレンガ状の合成食品のかたまりが詰めてある
これが僕にとっての大切なエネルギー源だ
引き出しには錠をかけているが、また外されている

弁当を盗んだり、盗まれたりは日常茶飯事なため、盗まれるほうが間抜けということになっていた
弁当を持って来られない者もいるし、何を食べているか知られたくない者もいるため
昼飯の時間は、みなそれぞれの場所へ散ってしまう

やはり、やるしかない 弁当を盗まれないために、みんながやっているあの方法を
合成食品は工業製品だから、発売日に早く行列に並ぶと、ある程度まとめて買える

その中にダミーを混ぜるのだ
うっかり食べると下痢をおこしたり、猛烈な眠気に襲われたりする

強力なものは死んでしまうのもあるという

自分が食べてはいけないから、食用着色料で数字を書き、覚えておく
大きく書いたほうがダミーが混じってると分かるからいいと、父が教えてくれた

だがやはり弁当は盗まれてしまった
そして、後に下痢などになる者はいなかった

今度は父に印をつけてもらった これで僕の性格を研究しても分からないはずだ
だが、翌日も弁当を盗まれ、何事も起こらなかった

下校の時、後ろの席に座っている女生徒から声をかけられた
僕は彼女が苦手だ クラスメイトが痩せて目をぎょろぎょろさせているのに
彼女だけはよく肥え、いつも圧倒されていたからだ

「実は話があるの でも怒らないで聞いて あんたの弁当を盗っていたのは私なの」

「だが、あれにはダミーが入っていたのに、それも食ったのか?!」

「私、体質改善学校に通っているの 少々の毒を食べても平気な体になれるように薬品を飲み
 特殊な訓練をしているおかげで、私はクラスの人の弁当を盗み、ダミーも食べるけど、こんなに元気よ
 これをあんたに言うのは、一緒にその学校へ通わないか誘うためなの
 だって・・・私、あんたが好きなんだもの」




めざめて みれば……
目覚めると、ノックの音がして警察の者だという
2人は制服で、もう1人はえらい老人だが、なぜか見覚えがある気がした
刑事「やっぱりそうだ! この人もやられている」

彼らに鏡の前に連れていかれると、そこには皺だらけで、腰も曲がったよぼよぼのじいさんがいた
間違いなくオレなのだ 「オレはまだ21だ!」

刑事と一緒にいた老人のは、ゆうべ一緒に飲み歩いた友人だった

刑事
このところ、一夜にして老人になる例が頻発している
 急速に老化させる薬品が、いろんな飲料に混入されているらしいのです

 それは、じきに元に戻りますよ 市販されている若返りのクスリを連続服用すれば
 ひどく高くつきますがね 我々は、その製薬会社が仕組んでいるとにらんでいます
 そのクスリの売り上げをのばすために、症状をおこす薬品を開発するなんて、ひどい時代になりましたよ」



注射
いつものバーでカクテルを頼む カクテルといっても、法定の範囲内で
アルカロイドや麻薬も入ったしろもので効き目もすばらしい
数秒で解放感が身体に広がり、ホッとため息をついた
こんなもののお世話になりたくはないが、昼間の耐え難い緊張の仕事を思い出すと飲まずにはいられないのだ

「ここ、よろしい?」 横にとても明るい感じの女が座った
「“白夜”ちょうだい」 “白夜”は、アルコールも薬物も入っていないカクテルだ
「お友だちになってくれない? 私、チコっていうの」

翌朝は飲みすぎで痛む頭を抱えて起きた
覚醒用ガスを吸い、銀行に入ると準備室に向かう 注射をするためだ

サガは注射が嫌いだが、現代では、重要な仕事にたずさわる人間は、
これをしないと責任を果たせない
これは、人間の知的能力を増し、感情を抑制させるクスリだ

しかし、彼は知っている 新皮質の発達していない動物は、同類同士争うことはあっても
勝負を決めるだけで殺し合いはしない 古皮質はそういうものだ

新皮質が発達した人間だけが、お互い殺し合うことができる
“知的”だからこそ、殺さねばならない時には殺せるのだ


多くのコンピュータで仕事が行われるようになった今、
まだ人間がこうした仕事をするのは、数字にはどうしても出ない微妙なニュアンス
貸付先の雰囲気などは、やはり150億の脳細胞をもつ人間でないとつかめないからだ

新しい小さな会社が、業容拡張のための資金を借りたいといって来た
お客を見ると昨日のチコだと分かったが、彼は冷たい口調で対応し
欠陥を改善すれば話し合ってもいいと言った

バーに来たら、彼の横にまたチコが座った

「今日は本当に・・・仕事のためとはいっても・・・」

「どうせあなた、注射で感情を殺していたんでしょ?
 今の時代じゃ、女の子は、注射しなきゃならないほどの重要な仕事をしている男でないと
 頼りにできないと思っているのよ
 それに、夜は反動で、とても人間らしくなるし、優しくなるし あなた、それでいいんじゃない?」



残酷な代償
武夫は、法事が終わったばかりで、広美が言った

「一度にお父さんとお母さんを亡くした辛さは分からないけど、
 四十九日だし、そろそろ悲しみを乗り越えてほしいの

 あれから学校にも行ってないんでしょ
 武夫さんは、私たちのアイドルよ サッカーチームのキャプテンで
 高校生で初めて文芸誌の新人賞をとって、同期生で唯一T大学に入って・・・


交通事故で父母が即死した喪失感と、犯人がいまだ捕まってないことの怒り
そして、広美の言うように、なぜ自分にそんな能力があるのか、自分では見当もつかないのだ
ろくに努力もしないのに、天才と言われても少しも嬉しくなかった
亡くなった父母も、兄も自分とちっとも似ていない 僕は本当に父母の子なのか?

背後から呼ばれて見ると、2、3ヶ月に一度、父を訪ねていた岡本という男で
葬式が済んでもしばしば家に来る 彼の尊大なところが好きになれなかった

「君は悔しくないかね? 犯人さえ見つけることのできないような世の中を
 君は復讐しなければならないんだ! 世の中をめちゃくちゃにするのが使命なんだ!」


その後、通学証明書をもらいに教務課に行くと、誰かが勝手に除籍したせいで出せないと言う
病気療養のための退学という書類まである
T大学に入った栄光のようなもの、その肩書きは、あんな1枚のニセ書類でぐらつく程度なのか?

またあの岡本がニヤニヤ笑いながら並んで歩いていた

「退学届けは私がやった 君は私たちの仲間なんだ
 私たちと一緒に、世の中をぶっ潰す気になれないかね?」

武夫は彼を突き飛ばそうとしたが、相手の姿は消え、別の地点に現れるのを見た
「君がその気なら、家へ帰る前に思い知るだろう」

広美「大変よ! 武夫さんの家が火事なの! お兄さんは会社だし、何も持ち出せなかったそうよ」

兄と武夫は、広美の好意で彼女の実家に泊まることになった
夜中になにかのしかかる気がして、目の前に岡本がいた

「どうしたんだ、武夫」 隣りから兄が来て、岡本に操られるように
ピストルの銃声がとどろき、兄は即死した

岡本は、武夫の体と、彼にすがりつく広美を楽々引っ張りクルマに乗った
猛スピードで深夜の住宅街を走る見事な運転技術だ

「飛び出してもいいんだぞ 女の子は間違いなく死ぬが、武夫くんは必ず助かる
 君は死にやしない 人間じゃないんだからね
 我々の文明ははるかに優れている ここを我々の植民地にするために・・・」

そこにパトカーが来た

「このままでは、君は殺人犯として逮捕される 私は瞬間移動でいつでも逃げられる

 我々は、転換手術を受けて地球人になった 君は我々の世界から送り込まれた行動隊員なんだ
 私は人間になりすましている仲間がうまく育てられているか見守り
 やがて行動に踏み切らせるのが仕事だ

 我々の誤算は、仲間が地球人そのものになってしまう可能性に気づかなかったことだ
 だから孤立させるよりほかなかった 父母を殺したのも私だ」

「私が死ねば、武夫さんが安全になるなら撃ってちょうだい」

武夫は岡本に飛びついた 彼はふいをつかれて、屋上のふちに腰を打ち、地上へ落ちていった

「私、真相を信じてくれなくても、信じるまで言うわ」

自分は殺人犯になるだろう でも、あの長い間自分をとらえていた後ろめたさが
いつのまにか消えているのを感じていた



遺されたノート
社会部記者の私は、通常の仕事のほかに、一昨年から起きている「高校生蒸発事件」と呼ばれる事件を追っている
突如、行方不明になり、ぼんやりした顔で帰宅したり、帰らない者もいる 戻っても何も話そうとしない

明るいスポーツ青年だった甥も蒸発し、3日ほど前に帰ったが
その後、単車のブレーキがきかなくなって死んだと電話が来た

お通夜に行こうとして、その甥から書留が届いた
そこには、記者である私宛に切々と蒸発時の状況が書き残されていた

ある日、教育委員会の肩書きをもつという中年の男に声をかけられ
喫茶店でコーヒーを飲むと、砂糖に何かクスリを入れられてぼうっとし
命令されるがまま大型バスに乗った

着いたのは倉庫のような場所で、100人以上の高校生が閉じ込められていた
そこに制服を来た大学生らしい連中が十数名来た

「お前たちは、今から3週間、兵士の訓練をするために集められた」

このような訓練所は全国にいくつもあり、訓練が終わると、催眠術をかけられ
日本が危急存亡の際に、日章旗を目にするなどの合図で術が解け、戦列に馳せ参ずる仕掛けになっている


僕は、前日に負傷して痛みのせいで術にかからなかったが、かかったフリをした
戻ったら、クラスメートか、部員に話してみよう そうすれば・・・

とそこで切れていた お通夜に出かけようとして、私は声をかけられた
「お前は、知ってはならないことを知ってしまった」



障害出動
宇宙ステーションで、パトロールの艇長をしているヤスダに電話が入った
火星調査隊の報告データが30分前から滅茶苦茶になったから、至急、中継惑星Cに行ってくれという
やがて築かれるはずの火星基地 そこから先へ行くために作られた人工天体だ

そこにはいかにも金持ちのどら息子というタイプの男が冒険家がオオキと名乗った
地球から130光年も離れた人類の最前線では、
何が起きるか分からずノイローゼ患者が続出しているというのに
全裸の人々が住むという第二惑星に探検に行くという

ヤスダ:
我々はあの惑星で4名もの貴重な隊員を失ったんだ
君の身に何が起きても救助に向かう余裕はない


ストリップ・スター
オオキは鼻で笑い飛ばした

すでに多くの冒険家が、ろくに調査されていない星々の姿を明らかにしているのを宇宙軍は認めようとしない
哀れむべきセクショナリズム
行方不明者は、きっと厳しい宇宙軍人の生活より、楽園のような星を選んで脱走したのかもしれない

オオキは、財閥の父の力を借りて、小さな冒険はしたが、まだ太陽系を沸かせるようなことは成し遂げていない
一躍有名になるチャンスだ

第二惑星に着くと、森林が広がっている
長さ2mほどのナメクジのようなバケモノを見たが堪えた
調査隊が見逃したものを発見するほど名声はあがるのだ

森から美男美女が一糸まとわぬ姿で出てきて
「オ待チシテイマシタ 支配者様! オモテナシにゴ案内シマス」

最初は不安で抵抗したが、彼らは微笑しながら押すように動き続ける
彼らは原始的な生活をしている未開人なのかもしれない

土の中からだしぬけに大きな穴が開き、中に入ると、地球でもできない高度な技術でつくった施設があった
すると、周りにいた人々は空気が抜けるようにしぼんでいった

調査隊員そっくりのモノが言った

ワタシは、以前ココヘ来タオマエタチの仲間ノ皮ニ入ッテイル 不定形ノ生物ダ
 ワレワレハ、他ノ生物ノ心ヲ読メル

 自然ヲ荒ラスノヲ避ケテ地下ニ文明ヲキズイタガ、オマエタチハアマリニ邪悪ダ
 自分ノタメナラドンナコトデモシテ、征服スルコトシカ知ラナイ
 オマエタチガコレ以上勢力ヲヒロゲルノヲ見テイルコトガデキナカッタ


 地球ヘムカイ、人類ヲ絶滅サセル工作ニカカル
 オマエの立場ハワレワレニ好都合ダ オマエノ父親は勢力家ダ」



トペラソーニ
ここの店主のトペラソーニは、なぜか僕には親切で、何百冊も本を買ってきてくれる

ペランタを買いたいという客が現れたが戻ってきた
売買交渉は不成立になり、彼女のプライドは傷つけられたようだ

「あいつらに人間の値打ち、分からないのよ
 タプルト、また本とやら読んでるの?」

そこにずるずるぺったんというズダ人特有の濡れた足音が近づいてきて
ぺちゃぺちゃした声がして、店主がタプルトを呼んでいるという

トペラソーニ:
人間の研究をしているベダダゾーニさんは、自分の飼っている人間を自由にさせて観察されるそうだ
今、文字の読める人間を集めていて、お前が本を読むと聞いていらしたんだよ

ベダダゾーニ:
わしはヤマモトにやりたいようにやらせておる オマエらだけで話し合うがいい

ヤマモト:
あんた、本を読むなら、ほんの3世代前には、人間が地球の支配者だったと知ってるな
もう一度、地球をわれわれの手に取り戻すんだ! その共同体に加入しないか?


タプルト:
ズダ人の科学力は、僕たちより格段上だし、反抗したら即座に殺されて、他の人間の飼料に加工されるよ

トペラソーニ:
お前が誘いを断ったのは賢明だったよ
トペラソーニは今は勢力があるが、いったん失脚したら、飼われている人間は競売にされるし
何をしていたかで処分されることもある

また人間が支配者になったら、前のように増えるだけ増えて、どうしようもなくなる
わしらズダ人が、お前たちを管理してやらなければ、とうに滅びていたと思う

人間がこの惑星の支配者だった頃は、動物、植物、なんでも己のやりたい放題に殺したり
改造したりしたんだろ? 我々は、人間をちゃんと大切にしているつもりだ


昔の人間が書いたという本の話をしてくれ
わしら人間屋なんて、手がかかるわりに儲けは少ない
こんな楽しみでもなきゃ、つまらんものな



敵は地球だ
月面都市連合が独立を求めて反乱し、世界連合理事会議が続いていた
数十年続いた平和を捨て、30年ほどの月世界植民の歴史を捨て去ることはできない

太古以来の死の世界と勇敢に闘い、ひとつずつ拠点を作った開拓者たちに
世界連合は何をしてやれたか?
人口1万に満たない都市が受ける打撃を考えると議長は躊躇した

そこに「世界連合管理下にある宇宙基地が、片っ端からやられています!」と連絡が入った

ロケットからは、月面都市に帰順をすすめる勧告が発信されたが
ロケットは迎撃ミサイルによって次々やられた

「全面戦争か とうとうやって来たな」

母艦から数十台のロボット水爆が発射され、おそらく都市は跡形もなく爆破されるだろうと
総司令官は考えていたがレーザー網によって、それもやられた

次は1000台の無人戦車が、小規模の研究所のある基地に攻め入った
それらは誘導プラズマによりやられた
戦車は高温に負けないが、岩が溶けて崩れ、戦車が地面にのみこまれた

「“雨の海”に独立宣言した都市は集まっているはずです」と話していると
艦長室の温度がたちまち上昇し、母艦は宇宙空間に砕け散った

<ワレワレニハ、地球ヲ攻撃スル意志ハナイガ防衛ハツヅケル>

将官「どこから放送しているのだろう?」

地球船団の第二陣は、全乗員の神経に強烈な影響を受け、艦船は月面に激突した

月世界反乱軍の少年たちは、月に生まれ育ち、科学知識と集団生活を叩き込まれていた
しかし、地球には永久に行けない
地球の1/6の重力で育った彼らは、2mを超す身長で、骨組みは華奢なためだ



不運
宇宙船には、いろんな星を出身とした種族が乗っている
科学に劣る未開の惑星・地球の住民と直接の接触を行うのはこれが初めてだ

そこに人間たちが打ち上げたロケットがきた

隊長:落ち着け! 我々はこのまま流星を装って着陸すればいい
隊員:推進装置がやられた! 船は爆発するぞ!

大都会の真っ只中に落ちた彼らが不運だった
乗組員が外に出ると、得体のしれない到来物で家族を失った恨みで原住民たちが石を投げつけはじめた

だが、不運だったのは地球かもしれない
外交使節団の全滅を知った銀河連邦は、こんな野蛮な生物のいる星は放っておけないと
地球を爆破するミサイルを撃ち出したからだ



新世界
4年ほど前、僕がまだ学生の頃に、叔父に建設現場に誘われた
叔父は「やがて世界中が興奮の嵐に巻き込まれるぞ」と言っていたが
家族は誰も信じていなかった おじは若い頃から山っ気が強かったからだ

着くと、5階建てほどの窓のないビルがあるばかりだ
しかし、そのビル自体がエレベーターだと気づいた
ドアが開くと、都心の眺めではない 霧に包まれた森のようだ
そして何百という男女が土砂をほうり込んで、すでにいくつか建物もある

叔父:
オレが偶然発見したんだ
オレたちの世界は実はいくつもの世界が折り重なっているのではないかということだ

ここはまぎれもない新天地だ
けして増えない土地を食い物にするセンミツ屋も、土地の値上げを待つだけの無能な地主もいない
その土地の売買をGNPに入れて、世界第何位なんてほざく政府もない
オレはここに新しい世界を作りたい 君にはぜひ参加してほしいんだ

僕はそれから毎日のようにそこに出かけた
ここでは土地は商品ではない いや、土地が商品な今の世の中の機構が狂っているのではと考えたぐらいだ
だが、移住すれば、これまでの絆をすべて断つことになると迷っていた

2ヶ月ばかり後、パトカーや野次馬が大勢集まっていた
見ると、ビルの上半分は吹っ飛び、大勢が血を流してうめいている修羅場だった

男:残念だ 地震の関係でか、あの通り道が消失したらしい・・・

これは大事件になった ビル倒壊とともに、そこで働いていた何百人が行方不明になったからだ

僕は内定していた会社に就職し、ありきたりのサラリーマンになった
今日、新聞で小さな記事を見つけた

世界中の天文台が不思議な電波を受け止めたというのだ
地球まで電波が届くには3、4年かかるアルファ・ケンタウリから
“連絡乞ウ・・・”

新天地は、きっと今も建設されているに違いない
今の押し潰されそうなサラリーマン生活とは違う、開拓者としての毎日があるはずなのだ



すばらしい生活
ずっと昔は、食事は人間の大きな楽しみだったそうだが、
15cm立法の固形食品と、決まった味の液体を飲む食事は僕は大嫌いだ

今日はスポーツドームに行く前に、補助筋肉をつけ、合成皮膚で覆い
いかにもスポーツマンらしいスタイルにした

我々は、スモッグや、工場廃液、原子爆発による放射能のために地下で暮らすようになり
地下都市しかぼくは知らない


あらゆる生産は機械がやり、僕らはただ遊び暮らしていればいいのだ
昔の「家族制度」のことを考えるたびにゾッとする
たんに契約や、遺伝的つながりで一緒に暮らすなど吐き気がするではないか

スポーツドームでは、すでに3、4人の友が宙に上がってから落下し
ギリギリで止める競争をしていた

僕はベテランだが、そのために一度は本当に死んでしまった
だから、僕の顔と左腕、下半身は人工だ
いつでも生き返れる今は、みんなも一種のサイボーグなのだ
(『攻殻~』みたい

今日は見慣れない奴が1人いる まだ生まれたままの肉体を後生大事に守っているのだ
「君、やらないのか? 15歳ならまだ無傷でも仕方ないが、加わる気がないなら離れていてくれ」

そいつは侮辱に真っ赤に染まり「やりますとも!」と勝負になった
僕は地上1mギリギリで止まったが、そいつは失敗し、首が折れ、血を吐いて転がった
すぐに救急ロボットが来て、収容した
今度は、奴も人工・自然合成体になっているだろう

僕は52歳だ あとまだ48年間、生存の権利がある
その間ずっとこんな暮らしを続けるのは空しいのでは・・・?
よそう これが、ユートピアというものなのだ



有職者への道
私はトレニーニングセンターに行くと言って家を出た
途中、基礎教育所で一緒のススムに会った

「君、有職者の養成学校を受けるってほんと?
 昔と違って、今じゃ、人間は働かなくても好きなように生活できるんだよ
 自動生産、配分機構が完備してるからね

 だから、人は、創造的、芸術的なことや、スポーツに力をそそぐ

 有職者になるには、激甚な競争を勝ち抜かなければならないんだよ
 君、ひょっとして試験にパスした時の快感や栄光のために受験するんじゃないのか?」

「失礼な 私は世の中のために有職者の道を選ぶのよ!

「一度、幻覚装置にかかってみたら? パスした時の快感を味わって
 なおかつ受験したいなら、その気持ちは本物なんだろう」

(そんなはずはない と自分に言い聞かせようとしたが やはりできなかった
 こわかったのだ)



一九九九年=マサ
今日は休日だと忘れて、ゆうべ熟眠のクスリを飲み、覚醒装置をセットせずに寝たのだが
目が覚めて、すぐ安心と虚脱にかわった
こんな気持ちになるのは毎日のスケジュールに追いまくられているからに他ならない

今日はクラスメートと市のサービスセンターで計算画像を見る約束だった
ミキがぼんやりした顔で、さっきまで泣いていたのではないかと思ったが何も尋ねなかった

これらは本当の名前ではない 便宜的な言い方だ
国民は長い一連の番号をつけられ、国家のコンピュータに登録されている

僕らは16歳になると親から離され、指定された訓練所で3年間
学習に次ぐ学習で、何の専門家になるのか決定を受けるのだ

今のように科学技術が発達し、専門化が進むと、大量の専門家が必要で
その才能が、家庭環境などの要素で消されたり、ねじ曲げられたりするのを防がなければならない


30年ほど昔、あらゆる公害で空はいつも灰色で、道を歩く5人に1人は倒れ、
海は真っ黒だし、すべての食べ物には有害物質を多量に含んでいたという
その後の科学技術の発達で一掃され、道には緑が茂り、無公害電気車も見えないくらい遠い

サービスセンターの計算画像に自分の番号をセットし、ヨシは20年後を押した
スクリーンには中年の男が現れる ヨシの20年後の姿だ
正確には、こうなるだろうという予測像なのだ
サービスセンターは、国の中央コンピュータに照会し、ヨシのデータを揃えて未来の姿を合成する

「最大効果ボタン」を押すと、今の成績が続いて、最も高い地位につくにはどんなコースがいいかが出る
ヨシは行政官がいいと出た 高い地位だ

マサはなんとなくこのゲームじみた未来決定を疎ましく思い始めていた
近頃の疲労感、空しさがどっと襲いかかってきた
未来像に至るまでの長い年月が、自分の意思と関わりなく勉学を強制される重さが実感となっていた
自分のやりたいことを尋ねてなぜいけないのだ?


マサは「表現技術部門」のキーを叩くと、痩せて、ボロをまとった男の像が出た
「これは脱落者じゃないか もっとまともな部門を選んだらどう?」
「君がやらなくても、このコースには、君より優れた才能の連中がたくさんいるんだ」

ヨシは「最大効果ボタン」を押すと、技術局員の姿に変貌した
「いつもの通りだ でも今日は局長じゃない 君、このごろ課業をサボっているからな
 僕の勝ちというところだろう」


帰り道、ミキが喋りはじめた
「お父さんがいなくなったの やりかけの仕事も放り出して」

そんなことをしたら、恐るべきマイナス点になり、一生そのハンディキャップを背負わなければならない
たしかミキの父は巨大企業のトップだった そんな人が義務を放棄すれば、完全に再起不能では?

「母は早く死んで、父が私を育ててくれたの
 父は私が訓練所に入る時、これでわしの役目も終わったなんて言ってたけど」

そこにミキの父が現れた

わしもそろそろ自由になっていい頃だ 登録番号も捨てたから、もはや市民でさえないんだ
 番号のない人間は、人間じゃない 就職も出来ないし、裁判で警察に守ってももらえない
 しかし、自分の思いどおりに生きてゆくことはできる


 今は、専門家が何千人と必要だ コンピュータはそれを計算して
 訓練所にいる間に、選別して駆り立てるんだ
 予定以外にいこうとすると惨めな未来像を見せる
 それに逆らう者はマイナス点をかぶせて番号を剥奪する
 だが、わしみたいな人間はけして一人じゃないと信じている じゃ元気でな」

ミキ「私も連れてって!」

「それは、お前が自分で考えて判断することだよ」

ミキはその後、訓練所から姿を消した

マサはまだ迷っている
公害列島を駆逐したのは高度な科学技術だ
だが、その体制・制度が今度は新しい世代を締め上げ、歪めているのでは・・・?

マサはもうすぐ18歳 その2ヵ月後には、日本は2000年を迎える

(この頃は、2000年は遠い未来だったんだ 今も何も変わってないけど



【星新一解説 内容抜粋メモ】
私の高一の娘は眉村さんのファンだ NHKテレビの番組を見てからだ

眉村さんをひと言で評すると、実力派の作家だ
人気俳優だけで視聴率はとれないし、いい俳優を起用できるのは、テレビ局の原作への信頼があればこそ
NHKの全国放送になったSF作家はほかにいない

眉村さんは何をやるにも全力投球で手を抜かない

「SFマガジン」の矢野徹さんのインタビューで、眉村さんの作家になるまでの人生で気づいた
父が和歌を趣味としていて、高校時代に俳句をはじめ、周囲に高いレヴェルの人がいて、かなりしごかれたらしい

同時に美術部にも属し、才能を発揮した
それで大阪大学の経済学部に入ったのだから、成績優秀だったわけだ

卒業後、耐火レンガ会社に入社 上場会社のエリート社員だ
その頃SFにとりつかれ、編集長に認められ、「SFマガジン」の佳作入選
最初の本を出版し、本名が知られ、退社

その後、広告代理店の嘱託をしたのがいい体験となり、作家専業となる
一時期、ラジオのDJとしても活躍した

四柱推命(!)によると、2つを並行させる運勢があるらしい

私は逆だ のほほんと育ち、父の死後、多額の借金の整理にうんざりし
たまたま作品が認められ、夢中になるうち作家になってしまった
他の人生など想像もできない

眉村さんの最初の本『燃える傾斜』は、現代の日本SF界の最初の長編だ
長編は小松さんより早いのだ 短篇しか書かない私はただ感嘆するばかりだ

眉村さんは、ストーリー展開において、並々ならぬ技巧の持ち主だ
本書の作品を見ても、バラエティに驚かされる
私は時事風俗を書かないが、知識があやふやだからだ

小松さんが好むのは人類、私は奇妙な状況における個人、眉村さんは社会

私の短篇の大部分は三人称形式で、筒井康隆さん、豊田有恒さんはほぼ一人称
眉村さんは自在に書き分ける

当人がくせ者的な性格でもない 眉村さんに関する悪評は聞いたことがない
礼儀正しく、酒を飲んでも乱れず、世話好きで、誰からも好かれている
雑誌の締め切りもちゃんと守っているに違いない




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