■美内すずえ傑作選2『聖(セント)アリス帝国』(白泉社)
美内すずえ/著
※「マンガ感想メモリスト」カテゴリーに追加しました。
美内すずえさんは、こないだ書いた『妖鬼妃伝』の他に『魔女メディア』も大好きだった。
今作ももっとドロドロ系を想像してたけど、案外あっさりと恋愛もののオチで終わってしまって、
1冊丸ごとの長編ものだと思っていたから、次の作品も続きかと勘違いしてしまった
それにしても、出てくるキャラが濃い! お蝶夫人どころじゃない世界。あり得ないよね、こんな学校w
巻末に、少女漫画家の歴史が書かれているのが興味深い。
▼あらすじ(ネタバレ注意
聖アリス帝国
桃子は、両親が仕事でドイツにいるため、聖アリス学園に転校。
そこでは、優秀な生徒、能力のある生徒は「貴族」と呼ばれて優遇されていた。
授業も出ずに、占いをしている「おばば」と呼ばれる生徒がいたり、魔術を使う生徒がいたり、
貴族のものを盗む「怪盗ゼロ」がいたり、演劇部部長・変化さんから部活に誘われたり、
あちこちのクラブに殴りこみをかけて、学園の体制を変えようとする「海賊キッドとその一味」がいたり、、、。
桃子は、「怪盗ゼロ」が落としたロケットの中の写真が変化さんに似ていると見せると顔色を変える変化。
実は、変化こそ「怪盗ゼロ」だった。
学園の頂点に立つ、生徒会長の大和火美子が予算委員会を開いているのを屋根裏から覗く新聞部員は、
「黄色いリンゴ」という言葉を聞いて不審に思い調べ始める。
火美子の命が狙われたことで、桃子は関係していると疑われ、地下牢で拷問されそうになる。
体育館の下では、用具を使って、拷問が行われていたが、「怪盗ゼロ」と「海賊キッド」らに助けられる。
「黄色いリンゴ」とは、テキスト販売額からピンハネして、委員に配られるお金の意味だと知る。
その犯人の手に3つのホクロがあるのを見た桃子。
舞踏会で火美子が狙われていることを知り、変化らに相談する。
桃子も舞踏会に参加して、ホクロの人物は、その日、表彰されるガリ勉で有名な灰島だと見抜く。
灰島は、一歩校門を出ると、盛り場をうろつき、ゆすりなどをする不良で、バイク事故を起こし、
そのネタでゆすられ、黄金の校章を狙うために火美子に怪我を負わせようと企んでいた。
事件後、「怪盗ゼロ」はおたずね者の身になるが、たびたび助けられた桃子は想いを寄せる。
写真部部長の華房は、「怪盗ゼロ」の正体が分かったから、今度の写真展で発表するという。
桃子は部室でネガを盗もうとして失敗する。
写真展当日、「怪盗ゼロ」はネガを盗み、証拠写真をゴリラにすりかえて、学生らは爆笑。
ダイナマイト・みるく・パイ
桂木みるくは、剣道7段で、異常なほどのケーキ好きの17歳。
道場を継げとか、暴力団の跡取りになってくれと毎日言われて追い回されている。
ある日、突然、赤羽産業の社員から、1週間だけ社長の娘・カナコの身代わりになってくれと頼まれ断れなくなる。
黒羽会長が引退したら、孫息子・虹彦が跡取りとなるが、赤羽産業か青羽産業の娘のどちらかを嫁にしたいと言い、争っている状態。
だが、他に好きな人がいると手紙を残してカナコは失踪。誘拐事件の可能性もある。
みるくは1週間でピアノを習わされたり、親戚の名前や、カナコの癖を覚えさせられたりする。
青羽産業の娘・聖子は美人の上、なにもかも完璧。
そんな中、みるくは、敵対しているはずの三笠社長と、虹彦の伯父・宇田川がつるんで、黒羽家の財産を狙っていることを知る。
聖子も彼らの一味に狙われるが、少林寺拳法など身につけた聖子は、みるくとともに相手をやっつけ、すっかり意気投合する。
カナコは誘拐されたのかもしれないと聖子に相談し、みるくは一味にクロロフォルムをかがせられて倉庫に監禁される。
カナコは谷に突き落とされたが運良く助かったらしいことを突き止める。
実は、カナコの好きな相手は家庭教師の宮下で、彼がカナコをずっとかくまっていた。
虹彦は祖父が亡くなり、遺書を書き換えたとウソの情報を流して罠にかける。
ふたりのメロディ
貴族のような暮らしをしている幸。一方、「八百長」という名前の八百屋で男兄弟とともに育った安菜。
幸の祖母が急病になったところを安菜が救ったことで知り合う。
そのお礼にデートに誘う幸だが、クラシック×ずうとるび、バイオリン×祭り太鼓と、2人の趣味は真反対。
幸の母は、世界的ピアニストの千代糸で、幸の将来が心配で5年ぶりに帰国し、
安菜と引き離すためにオーストラリアに連れていくという。
その日はちょうど祭りの日で、太鼓を叩く安菜のもとに乱入する幸の本気な気持ちに負ける千代糸。
【解説 美内すずえ登場前後 石子順(評論家)抜粋メモ】
美内すずえは、昭和42年に「山の月と子だぬきと」でデビュー。高校2年だった。
戦後派の少女漫画家たちが輩出していった時代。
昭和39年:里中満智子、昭和41年に浦野千賀子、大和和紀
昭和42年:池田理代子、志賀公子、忠津陽子、牧野和子
昭和43年:津雲むつみ、竹宮恵子、大島弓子、一条ゆかり、もりたじゅん、土田よしこ、庄司陽子、河あきら
昭和44年:山岸凉子、萩尾望都 などなど
美内すずえは、長編「はるかなる風と光」を描き、「ガラスの仮面」で頂点を極めた。
***********
戦後の翌年、昭和21年、手塚治虫がデビュー。
その後、藤子不二雄、永島慎二、松本零士、横山光輝、石ノ森章太郎、ちばてつやら、少年漫画家が登場。
少女漫画家はほぼ10年遅れた。
『少女倶楽部』『少年少女冒険王』が創刊するが、そこで描いていたのは男性の漫画家だった。
例:松下井知夫、小野寺秋風、倉金章介。
戦前からの少女漫画家は、矢崎武子、田河水泡の弟子の長谷川町子しかいなかった。
昭和24年に、上田としこが登場。
女性のストーリー漫画家で最も早かったのは昭和27年のわたなべまさこ。
昭和31年、トキワ荘の水野英子がデビュー。
昭和30年代は、牧美也子、細川智栄子、今村洋子。
女性による少女漫画家のデビューが遅れた理由
1.女性の漫画家が少なく、伝統がなかったこと。
2.ストーリー漫画が手塚治虫によって生み出されたこと。
3.少年漫画家が活躍し、少女漫画を描いたこと。
4.少女小説が根強かったこと。
戦後、民主主義、男女平等といっても、女性の進出に限界があったという
社会的な状況が漫画界にも反映されていたのではないかと考えられる。
それが大きく変えれたのは、昭和40年代からで、美内すずえは、その旗手の一人となるべくデビューした。
美内すずえ/著
※「マンガ感想メモリスト」カテゴリーに追加しました。
美内すずえさんは、こないだ書いた『妖鬼妃伝』の他に『魔女メディア』も大好きだった。
今作ももっとドロドロ系を想像してたけど、案外あっさりと恋愛もののオチで終わってしまって、
1冊丸ごとの長編ものだと思っていたから、次の作品も続きかと勘違いしてしまった
それにしても、出てくるキャラが濃い! お蝶夫人どころじゃない世界。あり得ないよね、こんな学校w
巻末に、少女漫画家の歴史が書かれているのが興味深い。
▼あらすじ(ネタバレ注意
聖アリス帝国
桃子は、両親が仕事でドイツにいるため、聖アリス学園に転校。
そこでは、優秀な生徒、能力のある生徒は「貴族」と呼ばれて優遇されていた。
授業も出ずに、占いをしている「おばば」と呼ばれる生徒がいたり、魔術を使う生徒がいたり、
貴族のものを盗む「怪盗ゼロ」がいたり、演劇部部長・変化さんから部活に誘われたり、
あちこちのクラブに殴りこみをかけて、学園の体制を変えようとする「海賊キッドとその一味」がいたり、、、。
桃子は、「怪盗ゼロ」が落としたロケットの中の写真が変化さんに似ていると見せると顔色を変える変化。
実は、変化こそ「怪盗ゼロ」だった。
学園の頂点に立つ、生徒会長の大和火美子が予算委員会を開いているのを屋根裏から覗く新聞部員は、
「黄色いリンゴ」という言葉を聞いて不審に思い調べ始める。
火美子の命が狙われたことで、桃子は関係していると疑われ、地下牢で拷問されそうになる。
体育館の下では、用具を使って、拷問が行われていたが、「怪盗ゼロ」と「海賊キッド」らに助けられる。
「黄色いリンゴ」とは、テキスト販売額からピンハネして、委員に配られるお金の意味だと知る。
その犯人の手に3つのホクロがあるのを見た桃子。
舞踏会で火美子が狙われていることを知り、変化らに相談する。
桃子も舞踏会に参加して、ホクロの人物は、その日、表彰されるガリ勉で有名な灰島だと見抜く。
灰島は、一歩校門を出ると、盛り場をうろつき、ゆすりなどをする不良で、バイク事故を起こし、
そのネタでゆすられ、黄金の校章を狙うために火美子に怪我を負わせようと企んでいた。
事件後、「怪盗ゼロ」はおたずね者の身になるが、たびたび助けられた桃子は想いを寄せる。
写真部部長の華房は、「怪盗ゼロ」の正体が分かったから、今度の写真展で発表するという。
桃子は部室でネガを盗もうとして失敗する。
写真展当日、「怪盗ゼロ」はネガを盗み、証拠写真をゴリラにすりかえて、学生らは爆笑。
ダイナマイト・みるく・パイ
桂木みるくは、剣道7段で、異常なほどのケーキ好きの17歳。
道場を継げとか、暴力団の跡取りになってくれと毎日言われて追い回されている。
ある日、突然、赤羽産業の社員から、1週間だけ社長の娘・カナコの身代わりになってくれと頼まれ断れなくなる。
黒羽会長が引退したら、孫息子・虹彦が跡取りとなるが、赤羽産業か青羽産業の娘のどちらかを嫁にしたいと言い、争っている状態。
だが、他に好きな人がいると手紙を残してカナコは失踪。誘拐事件の可能性もある。
みるくは1週間でピアノを習わされたり、親戚の名前や、カナコの癖を覚えさせられたりする。
青羽産業の娘・聖子は美人の上、なにもかも完璧。
そんな中、みるくは、敵対しているはずの三笠社長と、虹彦の伯父・宇田川がつるんで、黒羽家の財産を狙っていることを知る。
聖子も彼らの一味に狙われるが、少林寺拳法など身につけた聖子は、みるくとともに相手をやっつけ、すっかり意気投合する。
カナコは誘拐されたのかもしれないと聖子に相談し、みるくは一味にクロロフォルムをかがせられて倉庫に監禁される。
カナコは谷に突き落とされたが運良く助かったらしいことを突き止める。
実は、カナコの好きな相手は家庭教師の宮下で、彼がカナコをずっとかくまっていた。
虹彦は祖父が亡くなり、遺書を書き換えたとウソの情報を流して罠にかける。
ふたりのメロディ
貴族のような暮らしをしている幸。一方、「八百長」という名前の八百屋で男兄弟とともに育った安菜。
幸の祖母が急病になったところを安菜が救ったことで知り合う。
そのお礼にデートに誘う幸だが、クラシック×ずうとるび、バイオリン×祭り太鼓と、2人の趣味は真反対。
幸の母は、世界的ピアニストの千代糸で、幸の将来が心配で5年ぶりに帰国し、
安菜と引き離すためにオーストラリアに連れていくという。
その日はちょうど祭りの日で、太鼓を叩く安菜のもとに乱入する幸の本気な気持ちに負ける千代糸。
【解説 美内すずえ登場前後 石子順(評論家)抜粋メモ】
美内すずえは、昭和42年に「山の月と子だぬきと」でデビュー。高校2年だった。
戦後派の少女漫画家たちが輩出していった時代。
昭和39年:里中満智子、昭和41年に浦野千賀子、大和和紀
昭和42年:池田理代子、志賀公子、忠津陽子、牧野和子
昭和43年:津雲むつみ、竹宮恵子、大島弓子、一条ゆかり、もりたじゅん、土田よしこ、庄司陽子、河あきら
昭和44年:山岸凉子、萩尾望都 などなど
美内すずえは、長編「はるかなる風と光」を描き、「ガラスの仮面」で頂点を極めた。
***********
戦後の翌年、昭和21年、手塚治虫がデビュー。
その後、藤子不二雄、永島慎二、松本零士、横山光輝、石ノ森章太郎、ちばてつやら、少年漫画家が登場。
少女漫画家はほぼ10年遅れた。
『少女倶楽部』『少年少女冒険王』が創刊するが、そこで描いていたのは男性の漫画家だった。
例:松下井知夫、小野寺秋風、倉金章介。
戦前からの少女漫画家は、矢崎武子、田河水泡の弟子の長谷川町子しかいなかった。
昭和24年に、上田としこが登場。
女性のストーリー漫画家で最も早かったのは昭和27年のわたなべまさこ。
昭和31年、トキワ荘の水野英子がデビュー。
昭和30年代は、牧美也子、細川智栄子、今村洋子。
女性による少女漫画家のデビューが遅れた理由
1.女性の漫画家が少なく、伝統がなかったこと。
2.ストーリー漫画が手塚治虫によって生み出されたこと。
3.少年漫画家が活躍し、少女漫画を描いたこと。
4.少女小説が根強かったこと。
戦後、民主主義、男女平等といっても、女性の進出に限界があったという
社会的な状況が漫画界にも反映されていたのではないかと考えられる。
それが大きく変えれたのは、昭和40年代からで、美内すずえは、その旗手の一人となるべくデビューした。