メランコリア

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ここにあるのはわたしの心象スケッチです。

宮沢賢治童話傑作選『ひかりの素足』

2012-10-13 14:21:04 | 
宮沢賢治童話傑作選『ひかりの素足』(偕成社)
宮沢賢治/作 赤羽末吉/絵

▼あらすじ
父のいる山小屋に泊まった兄弟、兄の一郎と、弟の楢夫は、
母の待つ家に帰ろうとして、馬を引くおじさんに連れられて山越えをするが、
途中、おじさんが知人に会って話し込んでいる間に、
兄弟だけで先を急いで歩いてしまったゆえに、
途中で急な猛吹雪に遭い、道も間違えてしまった。
弟をかばうように頑張っていた一郎もとうとう意識が朦朧として、
2人は赤い鬼が子どもたちを追い立てるフシギな世界へと入ってしまう。。


 そのとき楢夫がとうとう一つの赤い稜(かど)のある石につまづいて倒れました。
 鬼のむちがその小さなからだを切るように落ちました。
 一郎はぐるぐるしながらその鬼の手にすがりました。

 「私を代りに打って下さい。楢夫はなんにも悪いことがないのです。」


どこからか「にょらいじゅりゃうぼん第十六。」という声がして仏に救われる2人。


 「みんなひどく傷を受けている。それはおまえたちが自分で自分を傷つけたのだぞ。けれどもそれも何でもない、」

 「ここは地面が剣でできている。お前たちはそれで足やからだをやぶる。そうお前たちは思っている、
  けれどもこの地面はまるっきり平らなのだ。さあ、ご覧。」

 ・・・すべて夏の明方のようないい匂いで一杯でした。


仏の徳や慈愛の広大さを匂いで示したり、
人が苦しいと思っていることはすべて、自ら生み出した想念であると説く場面に心を打たれる。

すごくキツイ訛りが味わい深い。
まえがきにある通り、今作は『銀河鉄道の夜』をよりリアルに描いたような物語りだ。
あっという間に猛吹雪に飲まれて、死後の世界をまるでその目で見てきたように描かれていて、
弟を必死に守ろうとする兄の心に涙を流さない人はいないだろう。

それでも今作で最も心を奪われたのは、
風の又三郎から、これから起こる恐ろしい出来事を予言された楢夫が
恐ろしさに泣く冒頭のシーンではないだろうか。
一郎もゾッとした不気味な思いが、読者をいやおうなく作品に引きずり込んでいく。
賢治の文章力、構成力の高さに改めて感服する素晴らしい一作だった。


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