創作小説屋

創作小説置き場。BL・R18あるのでご注意を。

BL小説・風のゆくえには~巡合9-1(慶視点)

2016年03月12日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 巡合


 あれ……? おれ今、浩介とキスしてる……?


 気がついたら唇が重なっていた。
 時間にして3秒……5秒?くらい?
 想像していたよりも、もっと柔らかい唇の感触……

「…………」
「…………」

 唇が離れて、顔を見合わせる………
 浩介、目が丸くなってる。たぶんおれもそう。びっくりし過ぎて………

「あの……」
「慶………」

 二人同時に何か言いかけて、同時に黙る。な、なにを、どうすれば………

 奇妙な沈黙に二人身動きがとれなくなっていたところ、

『実行委員長渋谷君、副委員長鈴木さん。至急本部まできてください。実行委員長………』

 おれを呼ぶ放送が緊張感を破った。

「じゃ、じゃあ、おれ行くな」
「う、うん」

 繋いでいた手を離し立ち上がる。

「あ、缶捨てておくよ」
「おお、悪い。サンキュー」

 持ちかけた缶をその場に置く。

「あ、慶。おれこのあとバスケ部の打ち上げ……」
「そっか。じゃあ、明日……は、今日の振り替えで休みか」
「うん。また明後日」
「おお」

 手をあげてから、本部テントに小走りで向かう。一度振り返ったら、浩介がこちらを見ていたのでまた手を振ると、浩介も手を振り返してくれた。

「………」
 下げた手で唇に触れる……

「夢………じゃない……よな」
 思わず一人ごちる。でも夢じゃない。あの感触、本当に本当に……

(うわあああああああっ)

 耐えきれなくて、その場にしゃがみこんでしまう。
 本当に、本当に、本当に……

(キス、しちゃった……)

 想像していたよりも、ずっと柔らかくて、震えるほど気持ちがよくて……

(うわああああっ、ど、どうしよう……)

 あれはおれか? おれが無理矢理した?
 いやいやいやいや。無理矢理はしてない。してないよな?
 あれは、どちらからともなくってやつだよな?
 おれだけの責任じゃないよな? 違うよな?
 浩介どんな顔してた? びっくりしてた……な。びっくりしてただけで、嫌とかそういう顔では……

「渋谷ー何やってんの。具合でも悪い?」
「うわわ」

 しゃがみこんでいたところを、ひょいっと脇腹を掴まれ立たされた。

「か、軽々持ち上げないでくださいよ。真弓先輩っ」

 実行副委員長の3年の鈴木真弓先輩だ。真弓先輩は肩をすくめると、

「軽くはないね。渋谷、見た目より筋肉ついてるね」
「一応鍛えてるんでっ」
「『恋せよ写真部』のくせに?」
「関係ないじゃないですかっ」

 二人で本部の放送席にたどり着くと、放送部の部長さんが時計を見つつおれ達にいった。

「そろそろ時間なので、皆さんから一言ずつ……」
「皆さんはいいよ。委員長だけでいいんじゃない? 長い時間喋ると白けるし」
「そうですね。じゃ、委員長だけで」
「えー……おれもいいですよ」
「よくない。短く締めて」

 真弓先輩に無理矢理マイクを持たされる。
 音楽の終わりとともに、放送部の女の子の声がはじまる。

『楽しい時間ももう終わりが近づいてきました。ここで文化祭実行委員長の渋谷君から一言……』

 促され壇上に上がると、当然のように「恋せよ写真部!」とヤジが飛んでくる。

(ああ、めんどくせー……)

 後夜祭だから真面目に締めることもないだろう。ノリだけでいこう。

「文化際も後夜祭も……楽しかったですか?!」

 わああっと拍手が起こる。

「カップル成立した人!」

 あちこちで冷やかしの声。
 それを見渡すフリをして浩介の姿を探す……。いた。
 木に背を預けて、ボーっとこちらをみている。

 何考えてんだろうなあ……浩介……

 そんな思いは腹の中にしまいこんで。興奮気味の生徒達に向かって手を広げる。

「最高の文化祭! 自分たちに拍手!」

 そして、拍手と歓声の中、頭をさげる。

「ありがとうございました!」



 こうして、文化祭も後夜祭も無事に終了した。
 けれども、実行委員にはまだアンケートの集計という仕事が残っている。

 翌日の振替休日、本部役員のオレ、真弓先輩、石川さん、ヤス、の4人に加え、アンケート集計の係になっていた文化祭委員の一年生4人で、集計作業のため、生徒会室に集まった。
 結構な量のアンケート結果を手分けして集計した結果、我が2年10組は見事飲食部門で2位を獲得していることが分かった。

「これ、一位のお好み焼き屋は、家が本物のお好み焼き屋の奴が、材料とか安価で仕入れて店のソースをそのまま使ったってんだから、旨いし安いし一位になるのは当然だよな。そう考えると、実質一位は渋谷たちのクラスっていってもいいんじゃねーの?」

 ヤスがそんな嬉しいことを言ってくれた。みんなに報告するのが楽しみだ。

 一覧表をしげしげとみつめていたヤスがボソッと言った。

「ポスター部門……『恋せよ写真部』ブッチギリだな」
「それはもういい……」

 『恋せよ写真部』とは、写真部のポスターに書かれていたキャッチコピーで、そのポスターにはおれが浩介を見ているところを隠し撮りされた写真と、真理子ちゃんが失恋して泣いている写真が使われている。
 文化祭の最中、かなり目立つところに張られていたため、色々な人に散々冷やかされたのだ。いい加減もう忘れたい……

「『恋せよ』っていっても、渋谷はもう恋してるでしょ?」
「はい?!」

 真弓先輩、いきなり直球。バサバサとアンケート用紙をまとめながら、何でもないことのように言う。

「あの『恋せよ写真部』の渋谷って、好きな人のこと見てるとこ撮られたんでしょ?」
「え……」

 す、するどいっ。

「そ……そうなの?」
 石川さんまで話に食いついてきた。

「渋谷君の好きな人って」
「あの『恋せよ写真部』のもう一人の子だろ?」
「あの泣いてた子ね」
「えええっそうなの?!」

 矢継ぎ早の言葉に、「違います」と大きく手を振ってみせる。そうしてから、はっと思いだした。

「あ、そうだ、ヤス、お前、浩介に変なこと吹き込んだだろ」
「変なこと?」
「理想の……」
「はいはいはい」

 ヤスは悪びれもせず肯くと、

「あの写真部の女の子が渋谷の理想の女子だって話しな。だってホントのことだろ?」
「それは……」
「え、そうなの?!」

 石川さん、まだ食いついてくる。そこへ、真弓先輩がニヤニヤと、

「渋谷の理想の女の子はお姉さんなんでしょ? お姉さんと写真部の子、似てるもんね~。あの写真はあの子のこと見てたとこ撮られたんでしょ?」
「だからそれはー……」
「えええっそうなの?!」

 ああ、面倒くせえ……

 でも、真弓先輩の追及は止まらない。

「後夜祭、どうした? あの子と手、繋いだ?」
「うそうそうそっ!そうなの渋谷君?!」
「手……」

 後夜祭……昨日の夜のことなのに、ずっと前のことのようだ。
 オレンジ色の炎を見ながら、おれは……おれ達は……

(うわわわわっ)

 思いだすだけで全身の血のめぐりが3倍くらいになる。
 繋いでいた手が、触れた唇が、熱くて……

「あ、渋谷が赤くなってきた」
「やだー渋谷君ー」

 真弓先輩と石川さんの声にハッと現実に引き戻される。

「やっぱ、あの子と繋いだんだ?」
「え、マジで? 渋谷」
「繋いでません」

 キッパリと首を横に振る。

「あの子とは繋いでません」
「あの子『とは』……って」

 真弓先輩、石川さん、ヤス、が顔を見合わせてから、わあっと騒ぎはじめた。

「あの子とはってことは他の誰かとは繋いだってこと?!」
「マジで! 誰だよ!」
「うそうそ! 渋谷君、誰なの?!」

 ぎゃあぎゃあぎゃあと騒ぐ3人に、耳をふさいでみせる。
 誰か、なんて教えない。あれはおれの秘密の宝物だ。



 翌日。
 浩介と再会するにあたって、おれはあらゆるシチュエーションを考えた。

 キスの件を追求してきた場合→「なんか雰囲気に流されたよなっ」と笑い話にする。
 よそよそしくなっていた場合→今まで通り接するよう頑張る。

 あとは……あとは何かあるだろうか……。
 そんなことを悶々と考えながら、教室に入り……

「はよーっす」
 近くにいたクラスメートたちが「おはよー」と返してくれるのに「はよーはよー」と返しながら進み……

(浩介、いた!)
 ドキンっと心臓が跳ね上がる。窓際、後ろの席の山崎と喋ってる。
 そして、おれの姿に気がついて、

「あ、慶。おはよう」

 にっこりと笑った。わあ、その笑顔、好き……。血が逆流する……

「アンケート集計お疲れ様。どうだった?」
「お、おう。まだ正式発表はできないけど、2位確定だ」
「わあ。やったね」

 浩介、ニコニコしてる……

 ニコニコ、ニコニコ……

「ああ、そうだ。実行委員用のアンケート書いたんだけど、慶に渡せばいい?」
「あ、ああ、くれ」
「あ、でも一か所浜野さんにも聞きたいところがあったんだ。ちょっと待ってて」
「おう」

 …………。

 普通……普通だ。浩介………。

 浜野さんと喋っている浩介を見ながら、思わず声が出る。

「……普通だな」
「え?何?」

 山崎に問われ、ブンブン首をふる。

「いや、何でもない……」

 浩介………

 そうか………

 こちらに戻ってきて、「はい」と紙を渡してきた浩介を見て、確信する。


(無かったことに、するつもり、だな?)


 そういうことだ。あのキスは後夜祭の魔法。現実ではないってことか……

 そういうことなんだろ?

「おお、さすが丁寧に書いてあるな。助かる」
「うーん、でも、ちょっと細かく書きすぎちゃったかも。適当にいらないとこは外してもらえる?」
「分かった」

 浩介の丁寧で優しい字を指で辿りながら、何度も肯く。

(無かったことに……)

 そうだな。そうだよな。
 親友を続けたければ、無かったことにするのが一番だ。
 あれは、後夜祭の魔法が見せた夢だ。

 忘れよう。忘れよう……




------------------------------------



お読みくださりありがとうございました!
次も慶視点です。続きはまた明後日、よろしくお願いいたします。

クリックしてくださった方、本当にありがとうございます! せっかくの初キス!だったのに、キスはなかったことに……(^-^; 次回もどうぞよろしくお願いいたします!
ご新規の方もどうぞよろしくお願いいたします。

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へにほんブログ村

BLランキング
↑↑
ランキングに参加しています。よろしければクリックお願いいたします。
してくださった方、ありがとうございました!

「風のゆくえには」シリーズ目次 → こちら
「巡合」目次 → こちら

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« BL小説・風のゆくえには~巡合8(浩... | トップ | BL小説・風のゆくえには~巡... »

コメントを投稿