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BL小説・風のゆくえには~片恋6(浩介視点)

2016年01月22日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 片恋

 6月になって初めての木曜日。
 物理の先生が急に休んだため、自習になったのだけれど、

「大富豪やるぞ大富豪!」

 溝部がニヤニヤとトランプを持っておれの席までやってきた。

「え、でも」
「どうせ誰も様子なんか見にこねえよっ」

 最近、同じクラスの溝部と山崎と斉藤と、渋谷とおれは毎休み時間ごとに、大富豪をやっている。おれはやったことがなかったので、はじめは大貧民になりがちだったのだけれど、コツをつかんできた今は、貧民以下に落ちることは滅多にない。面白い。

 授業中だというのに、トランプをするなんて………ちょっとワクワクしてしまう。

「そういやさ……桜井って、最近美幸先輩と仲良いよな」
「え!?」

 斉藤の言葉にドキッとする。斉藤はおれと同じバスケ部なのだ。

「そ、そうかな……」
「あーいいなーバスケ部。女バスと合同で何かやること多いもんな」
「野球部、男しかいねえもんなあ」
「マネージャーは?」
「あれキャプテンの彼女だもん」
「パス」
「オレもパス」
「流すぞ?」

 喋りながらも、どんどんゲームは続いていく。

「で? 桜井、お前まさかその美幸先輩とやらと付き合ってるんじゃないだろうな?」
「ま、まさかっ」

 いいながらも赤くなってしまう。付き合うなんて、恐れおおい。
 でも、部活の前とか後とか、結構お喋りしたりしてる。それから、先月駄菓子屋に一緒にいったのと、先週、部活が急に休みになった時に、渋谷に強引に一緒に帰るように仕向けられたのと、あと昨日、の合計3回一緒に帰ったけど……

「顔赤いぞ」
「慶っ」

 小さく冷やかすように言ってくる渋谷を肘でつつくと、溝部がそれに目ざとく気付き、

「え、なになに? やっぱ付き合ってんのか?」
「マジで?」
「教えろよー」
「だから、ちが……っ」

「何が違うって?」
「!!」

 突然の野太い声に、5人全員固まってしまう。ぎぎぎぎぎ………と、声の主を見上げた………のと同時に、

「痛っ」
「痛い痛いっ」

 交互に悲鳴があがり、最後におれの頭にも、ゴンッと衝撃が走った。

「いたっ」
 上野先生の、ゲンゴツだ。

「ひでーよっ何でオレらだけっみんな喋ったりしてて、だれも自習なんかしてねーじゃん!」

 溝部の抗議に、上野先生ははああっと拳に息を吹きかけ、再び構えた。

「授業中にトランプするような度胸のある奴はお前らだけだ」
「ぎゃーっ」
「痛い痛い」

 再びゲンゴツが落ちてくる。

「さっさと席戻れ! 自習しろ!」
「はーい……」

 みんな頭をさすりさすり席に戻る。

「…………慶」
 渋谷と目が合い、思わずぷっと吹き出してしまう。渋谷もニッと笑ってくれた。

 ああ……楽しい。こんな風に先生に怒られるなんて初めてだ。

「桜井……お前、楽しそうだな」
「…………はい。おかげさまで」

 小さくおれにだけ聞こえるように言ってきた上野先生に、にっこりと笑い返す。

 上野先生はおれが中学時代あまり学校に行けていなかったことも、一年の時はクラスに馴染めずにいたことも知っている。それで内緒で渋谷と同じクラスになるよう画策してくれたのだ。

「あんま変な影響受けるなよー?」
「はい」

 ぐしゃぐしゃと頭をなでられ、笑ってしまう。影ながら見守ってくれる存在がありがたい。


 小中学校時代、過干渉な母は何かあるとすぐに学校にのりこんで騒ぎ立てていた。おれはそれが本当に嫌だったけれど、止めることもできなかった。
 高校生になって、それがピタリと止んだのは、上野先生のおかげだということを知ったのは、つい最近のことだ。バスケ部のもう一人の顧問である三田先生から聞いた。

「高校生にもなって、母親が学校に様子を見にきているなんて、友人から馬鹿にされてしまうのでやめてください」

と、高校に入学してすぐに学校に現れたおれの母に、上野先生がバシッと言い放ったのだそうだ。おそらく中学側から情報がいっていたのだろう。

「もう高校生なんです。何かあったら自分で対処できないようでは困ります。親離れ、子離れ、してください」

 さすがの母も先生からここまでハッキリと拒絶されたため、学校にくることはなくなった。でも、何かと電話をしてきたりすることはあるようで、担任の先生には迷惑をかけていて申し訳ない……。


 でも、おかげで、学校では本当に楽しい毎日を送れている。
 大好きな親友。楽しいクラスメート。充実した部活動。片思いしている先輩。
 『友情』『部活』『恋』……夢に描いていた学校生活だ。おれにこんな日が訪れるなんて……

 怖いくらいだ。

 怖くなって、手先がすーっと冷えてくる。でも、そんな時でも、

(………渋谷)

 斜め後方の席に座っている渋谷を振り返る。ちょうど偶然こちらの方を見ていた渋谷とバッチリ目があった。ふっと笑ってくれた渋谷。その笑顔に指先までポカポカ温かくなってくる。

(大丈夫)

 おれには渋谷がいてくれるから、大丈夫……。



***


「今日やっぱおれ、写真部休む……」
 放課後になってから、渋谷が言いにくそうにいった。

「え、具合でも悪い?」
「まあ……うん。そんな感じで……。じゃ」
「えええっちょっと待ってちょっと待って」

 カバンを持って出て行く渋谷を慌てて追いかける。

「だったら自転車で送っていくよっ」
「いや、いいよ。お前は出ろよ」
「でも………」

 具合が悪いというわりに、渋谷はものすごい早歩きをしている。
 そのまま昇降口に行くために職員室の前を通ろうとしたところ、

「あ、お兄ちゃん。浩介さん」
「南ちゃん」

 職員室に部室の鍵を取りに来たらしい渋谷の妹・南ちゃんと出くわした。
 
「どうしたの?」
 いぶかし気に聞いてきた南ちゃんに、渋谷がやっぱり言いにくそうに答える。

「いや、ちょっと……おれ、今日は、写真部休むから……」
「え?そうなの?」

 南ちゃんが首をかしげたのと同時に、

「えええ! 渋谷先輩お休みしちゃうんですか?!」
「!」
「え?」

 渋谷が……わりといつも冷静な渋谷が、こっちがビックリするくらい、ビックリしたように跳ね上がった。
 職員室から出てきたのは、部長の橘先輩の妹・真理子ちゃん。

「えー困ったなあ。私、今日先輩にご相談があるんですけど」
「え……あ、そ、そう……」

 なんだ? なんだなんだ???
 渋谷の様子がおかしい。真理子ちゃんの登場に明らかに動揺している。

「お休み、しちゃうんですか?」
「あ……いや、じゃあ……行くよ……」
「わあ。良かった」

 ハテナハテナハテナ??となっているおれを置いて、渋谷は真理子ちゃんと並んでいってしまった。

「何、あれ……」
 南ちゃんも眉間にシワをよせている。南ちゃんも知らないらしい。

「なんか真理子ちゃん、今週入ってから、妙にお兄ちゃんのこと聞いてくるようになったんだよね」
「え、そうなんだ」
「先週なにかあったのかなあ」

 先週……木曜日は普通に部活があって……

「あ、金曜日」

 そうだ。金曜日、渋谷は写真部に用があるって言ってた。それでおれに強引に美幸さんの待ち伏せをさせて……

「金曜日の放課後、渋谷、写真部の部室にいったはずだよ」
「え。真理子ちゃんも写真部の部室行くっていってた」
「ってことは……」

 そこで何かあったんだ……

 南ちゃんと顔を見合わせる。南ちゃん、大変フクザツな表情をしている。

「お兄ちゃん、浩介さんに好きな人ができて、やけくそになってるのかな」
「えええええ?!」

 す、好きな人ができて……っって!

「南ちゃん、おれの好きな人って……っ」
「女バスの先輩でしょ? 見てればわかるよ」

 し、渋谷兄妹、恐るべし! 見てればわかるって渋谷も同じようなこと言ってた。

「……って、あれ? それで渋谷がやけくそって?」
「ああ……」

 南ちゃん、真面目な顔をしておれをジッと見つめてきた。

「浩介さんは別にどうも思わない? お兄ちゃんに彼女ができても?」
「え………」

 渋谷に彼女……。

「んー……渋谷の恋は応援しないとって思う」
「………………あっそ」
「南ちゃん?」

 南ちゃんはなぜかプリプリ怒りながら行ってしまった。
 その後ろ姿を見ながら、想像してみる。

 渋谷に彼女ができたら……

 渋谷はその彼女と一緒に帰るようになるのかな。
 日曜日はデートだから、おれとは遊べなくなるのかな。
 今みたいに頻繁におうちに遊びにいけなくなるのかな。

(………やだな)

 我儘だけど、そんなことを思ってしまう。

 あの、おれにだけしてくれる、甘えるみたいにギュッと抱きついてくることとか、彼女にするようになるのかな……。彼女にはもっともっと色々なことするのかな……。
 想像の中の彼女が、真理子ちゃんと一致してしまい、余計にリアルな映像が浮かんでしまう。

(まさか真理子ちゃんと付き合ってたりするのかな……)

 心の中がモヤモヤしてくる。
 なんで教えてくれないんだろう……おれたち『親友』のはずなのに……


 部室に入ると、真理子ちゃんと渋谷が並んで立って、橘先輩と話していた。

「…………」
 渋谷と真理子ちゃんが付き合っているとしたら、今後は渋谷の隣にはああして真理子ちゃんが並ぶことになるのかな。おれじゃなくて……。

 ますます、モヤモヤ……いや、ザワザワ……してくる。なんだろう……

 でも、モヤモヤもザワザワも心の中に押し込めないといけない。
 おれは、渋谷の『親友』。
 渋谷の恋は応援しないといけない。今、渋谷がおれのことを応援してくれてるみたいに。




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お読みくださりありがとうございました!

先生からゲンコツ指導が普通にあった時代の話でございます。
(自習中トランプやっててゲンコツくらったこと、あります。まじ痛かった^^;)

浩介君、「偶然こちらを見ていた渋谷と目が合った」なんていってるので、
偶然じゃないしっ慶は君のことずっとずっと見てるんだよっばかっ……と突っ込みたくなりました。

次回は真理子ちゃんが……、ということで、また明後日!よろしくお願いいたします!

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