創作小説屋

創作小説置き場。BL・R18あるのでご注意を。

(BL小説)風のゆくえには~嘘の嘘の、嘘 15-2(浩介視点)

2017年01月13日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 嘘の嘘の、嘘


「マリサちゃん、まだ日本にいるの?」
「ママの国に帰るんじゃなかったの?」
「なんでまだいるの?」
「早く帰ったら?」

 少女二人の言葉に、マリサはピキッと固まってしまった。

「ん? マリサ、夏休みだからママの実家に遊びにいくの?」

 ライトがさっとマリサの横に行って問いかけると、マリサが一人でいるものだと思っていたらしい少女二人はギョッとしたように、マリサとライトを見比べた。マリサは下を向いたまま、首を振っている。

「行かないってさ」
「あ、そう」
「ふーん……」

 後ずさりするようにこの場を立ち去ろうとする少女二人。
 そこにスーッと慶が近寄っていき、少ししゃがんで二人と目線を合わせた。

「君たち、この子と同じ学校の子?」
「え」
「う……うん」

 いきなり現れた超美形のお兄さんに、明らかに動揺した二人。かまわず淡々と問いかける慶。

「今夏休みだよね? どこか行く?」
「え……あの、北海道のおばあちゃんちに行く」
「ね」

 うなずきあっているところを見ると、どうやら姉妹のようだ。
 慶は「そっか」とうなずくと、確認するように、

「北海道のおばあちゃんちに『行く』んだ?」
「うん……」
「『行く』んだよね?『帰る』とは言わないよね?」
「………」

 気まずそうに下を向く二人……

「さっきの君たちの言い方……」
「………」

「変だよね?」
「……だって」

 お姉ちゃんと思われる方の子が口を尖らせた。

「ママがそう言ってたんだもん」
「……………」

 慶もおれも大きくため息をついてしまった。子供の常識は親の常識に添うものだ……

「君たち、何年生?」
「4年生」
「2年生」
「そっか……」

 慶は一度立ち上がり、あらためて身を屈めて二人と目線を合わせた。

「もう4年生と2年生なら」
「…………」
「ママの言うことが正しいとは限らないって知ってるよね?」
「え………」

 ぽかんとした顔をした姉妹に、無表情で慶は言う。

「もう自分で判断できるよね? たとえママが言ってたとしたって、それが合ってるのかどうか、それが言っていい言葉なのかどうか」
「…………」
「それを言われた子がどんな気持ちになるのかも、分かってるよね?」
「…………」

 慶に真っ直ぐ見つめられ二人が固まっている。ただでさえ美形の真顔は恐い。

(慶………)

 この場だけ空気が止まってしまったようだ………

 と、そこへ、侑奈が戻ってきた。

「どうかした?」
「ユーナちゃんっ」

 マリサが侑奈に抱きつく。するとスイッチが入ったかのように姉妹は「じゃあねっ」「ばいばいっ」と口ぐちに言いながら逃げるように走っていってしまった。

「なに……?」
 侑奈がきょとんとしながらマリサと一緒に一つの椅子に座る。

「何かあったの?」
「あー……」

 聞かれた泉君が何か答えようとしたところで、突然、ライトがケタケタと笑いだした。

「慶君変わらないねーっ」
「何が?」

 慶もきょとんとしながら、おれの横に腰かける。ライトは笑いながら言葉を継いだ。

「オレが中1の時もさ、オレに『日本から出てけ』とか言ってきた奴らに、『お前ら両親とも東京出身か?そうじゃないなら東京から出てけ!お前らが言ってるのはそういうことだ!』とかキレたよねー」
「そんなことあったっけ?」

 慶は首をかしげている。ライトは嬉しそうにうなずきながら、

「それから喧嘩のやり方も教えてくれたよね。拳の親指は中に入れるんじゃなくて外から他の指を押さえるみたいに握れとか、蹴りは素早く離せとか、顔は痕が残るから腹を狙えとか……」
「何それ……」

 泉君と高瀬君のビックリした顔に慶は頬をかいているだけなので、おれが注釈をいれてあげる。

「この人ね、こんな外見なのに、喧嘩ものすごく強いんだよ」
「こんな外見って、どうせチビだよっ」
「痛い痛い」

 横からゲシゲシ蹴られるのを何とか手で止めながら話し続ける。

「高校の時、おれの目の前で人が吹っ飛んだことあるからね」
「えええっ」
「すごかったんだよ。飛び蹴りが見事に決まって……」

 言うと、慶ははて?と首をかしげた。

「そんなことあったか?」
「なんで忘れてんの?!」

 この人、ホントに覚えてないんだよなあ……

 でも、泉君とライトは「わー」と尊敬の眼差しで慶を見ると、

「すげーっオレも教えてほしいっ!」
「飛び蹴りみたいっ!」

 わーわー盛り上がりはじめたけれど、侑奈が「ちょっと待って!」と手をパタパタしたので言葉を止めた。

「どした?」
「としたじゃないよ。話が読めない。マリサがあの子達に何か嫌なこと言われたってこと?」
「…………」

 そうだった。侑奈はジュースを買いにいっていて見ていないんだ。

「大丈夫? マリサ」
「うん」

 心配げに侑奈に聞かれたマリサは、こっくりとうなずくと、

「お兄さん達が守ってくれた」

 そう言ってにっこり笑ってくれた。


***


「あー、いいなあ……マリサ」

 迎えにきた母親に連れられて帰って行くマリサの後ろ姿を見ながら、ライトがボソッと呟いた。

「マリサのママ、マリサによく似た美人のママで」

「何言ってんだよ」
「何言ってんの?」

 泉君と侑奈が一斉にツッコむ。

「ライトのママだってすごい美人じゃん」
「そうだよ。マリサのママとはタイプ違うけど」
「しかも若いし」
「そうそう。とてもこんな大きな息子がいるとは思えない」

 二人が口々に言うと、高瀬君が隣の泉君にコソッと聞いた。

「なんで二人ともライトのママのこと知ってるの?」
「なんでって、お前が事故にあった日のバスケの試合にきてただろ」
「え」
「その後、一回夕食一緒に……あ、お前、誘ったのに来なかったもんな」
「え、えええ?!」

 うそ……あれ、ライトのママだったの? と、高瀬君が呆気に取られたようにいっている前で、ライトが再びはあっと息をついた。

「ね? 見えないでしょ? ママンだって思わないでしょ?」
「そりゃ思わない……」
「だよねー……」

 ライトのため息に、侑奈が「あ、そういうことか」と肯いた。

「ママと自分が親子に見えないのが嫌って話?」
「嫌っていうか……まあ、しょうがないことだとは思うけどさ~」

「まーそうなんだよね。私もお父さんと一緒にいても、父親だってまず思われないもん。ママがいたころは、3人でいたら親子だと思ってもらえたけど」
「……だよね」

 あーああ、と、またため息をつくライト……

「何かあった?」
「…………。何もないよ? ちょっと思っただけ」

 とても「何もない」ではない表情だけれども、それ以上踏み込ませない雰囲気のため、黙ってしまった。やはり、ライトとは一度ゆっくり話をしたい……

「まあ……世間の認識って幅が狭いからな」
「そうだね」

 間を埋めるように言ってくれた慶の言葉にうなずく。

「みんな世界観狭いよね………、?」

 その時、何か言いたげに高瀬君がこちらに視線を動かしたことに気がついた。

(…………あ、そうか)
 これはチャンスかもしれない。なるべく自然な形で言葉を続ける。

「個人の趣味嗜好もそうだよね。例えば……ぬいぐるみを好きな男の子だってたくさんいるのに、ある程度大きくなったら、それはオカシイことだと決めつけられて、取り上げられてしまったり……」
「…………」
「男の子は女の子を、女の子は男の子を好きにならないといけない、っていう『常識』を押し付けられたり」

 慶とくっついている膝がピクリと揺れた。一瞬その膝に手を置いてからすぐ離し、自分の頭にのせる。

「男の方が背が高くないといけない、とかもそうかも」
「あー、それね!」

 侑奈が、うんうんうなずく。

「私、わりと背高いから、周りの人に勝手にあの人はダメとかあの人は大丈夫とか言われるんですよ! 私的には私より低くても全然オッケーなのに」
「相澤さん、何センチ?」
「68です」
「………はち……」

 うっと胸を押さえた慶。ここにも身長にとらわれている人が一人……。(慶は164センチだ)

 侑奈は、うーん、とうなると、

「うち、お父さんよりママの方が10センチ以上背が高かったから余計にそう思うのかも」
「あ~なるほど。育った環境ってやつだね」

 うんうんうなずいていると、ライトがうひゃひゃひゃひゃといつものように笑いだした。

「そっかーユーナちゃん、背の高い男が好みなのかと思ったら違うんだ~良かった~」
「あ、好みの話になると話は別! 背が高い方が好み!」
「ええええっ結局そうなの~!?」

 大袈裟に騒ぎ立てるライトに、慶がボソッと聞く。

「ライト身長いくつになった?」
「こないだ測ってもらったら、74だった~」
「……ななじゅうよん……」

 うううっとさらに胸を押さえた慶。……かわいすぎる。

 子供たちは引き続き身長の話で盛り上がっている。

「ライト、74っておれと同じだぞ? もっと高いのかと思ってたのに」
「え、そう?」
「え、そんなことないんじゃない? むしろ泉の方が背高く見えるよ?」
「マジか」

 侑奈に言われて嬉しそうな声をあげている泉君。その横で複雑な顔をしている高瀬君……

 うーん………身長の件に関しては、やはり問題解決するには時間がかかりそうだ……


***

 休憩時間が終わった侑奈とライトが持ち場に戻った後、高瀬君と泉君と一緒にお祭りを見て回った。
 泉君と慶がなぜか射的にはまってしまい、まだやる!まだやる!と、何度も挑戦している間、

「先生……ちょっといいですか?」

 高瀬君がボソッというので、射的のテントから少し離れた木陰に移動した。

「えーと……」
「泉君と、上手くいったんだよね?」

 言いにくそうなのを引き継いで言うと、高瀬君はホッとしたように息をついだ。

「はい……それで、ご相談が……」
「相談?」

 首をかしげると、高瀬君はいたって真面目な顔をしたまま、ハッキリと、言った。

「抱かれる側の準備、みたいなのがあったら教えていただきたいんです」
「………………」

 あー……、それね……。

 さて、何から教えたらいいんだろうか……

 教師生活もうすぐ丸5年。家庭教師のアルバイトも含めたらもうすぐ丸9年。

 最難関の問題だ………




---


お読みくださりありがとうございました!
前半、真面目な話でm(_ _)m
多種多様なこの世の中、人種・性別・年の差・その他諸々色々な形があるということをみんなが分かってくれれば……と思うわけです。

前クールに「地味にスゴイ!」というドラマがありまして……
このドラマのすごくいいなーって思ったところが、主人公の同僚(男性)が、取引先の男性に片想いをしていて、で、そのうち自然と二人が付き合うことになってた、ってとこなんです。
一切、「特別なこと」としては描かれず、普通の男女間の恋愛のように、あれ?もしかして~?と職場のみんなもニヤニヤしてて……みたいな。
これが、理想の形だよな!って思うわけです。特別なことでもなんでもないっていうのが……

ということで、次回はこの続きを諒君視点で。すっかり小学生時代に戻ったようなかわいい諒君(*^-^)

次回は明後日更新予定です。どうぞよろしくお願いいたします。 

クリックしてくださった方、読みにきてくださった方、本当にありがとうございます!!
よろしければ、次回もどうぞお願いいたします!

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へにほんブログ村

BLランキング
↑↑
ランキングに参加しています。よろしければクリックお願いいたします。
してくださった方、ありがとうございました!

「風のゆくえには」シリーズ目次 → こちら
「嘘の嘘の、嘘」目次 → こちら
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする