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(BL小説)風のゆくえには~嘘の嘘の、嘘 4-1(浩介視点)

2016年11月11日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 嘘の嘘の、嘘


 あかねとは、大学2年の終わりから交際をスタートさせ、現在交際7年目に突入した。

 ………………。

 気持ち悪……。こうあらためて言うと、本気で気持ち悪い。あかねも「げー」と言うことだろう。

 あかねがおれの親の前で恋人のフリをしてくれるようになってから、もう7年目……。

 おれとあかねの関係を言い表すのに一番ふさわしい言葉といったら『理解者』になると思う。
 あかねとは、大きな共通点が2つある。

 一つは同性愛者であること。
 おれが男性である慶しか愛せないのと同じで、彼女の恋愛対象は同性である女性である。

 そして、もう一つは。
 あかねもおれと同じく……「母親を殺したい」と思ったことがある、ということだ。


 この2つだけでも充分だけれども、他にも、同じ教師という職についたこと(あかねは都立中学の英語教師だ)、読書が趣味なこと、大学時代、同じ日本語ボランティアサークルに参加していて、現在も同じ国際ボランティア団体に所属していること、も加わる。


 大学二年の時、母がおれと慶を別れさせるために、慶の家族の元やバイト先に押しかけるという暴挙にでたことがあり、それをやめさせるために、親の前では、おれは慶と別れて、同じサークルのあかねと付き合いはじめた、ということにしてもらったのだ。


 あかねもあかねで、職場の男性からの誘いを断る口実におれを使っているらしく、歓迎会や忘年会の後には、必ず迎えに呼ばれ、職場の人達に挨拶させられる。

「背が高くて、顔もそれなりで、良い大学出てて、高校の先生やってて……って、あんた結構、高条件なのよね」

と、あかねに言われた。虫除けには充分らしい。

「女の子にまで避けられちゃうんじゃないの? それはいいの?」

と、聞いたところ、「職場恋愛は面倒だから、職場の女の子には手出さないよ」だそうだ。まあ、そんなこと言いながら、去年も教育実習生に手を出していた、ということについては、言及しないでおこう……。


 そんなこんなで「お互い様」とあかねは言ってくれるけれど、どう考えてもおれの方が迷惑をかける回数が多い。今回だって………


「……休みの日にごめん」
「いや? 焼肉忘れないでよ?」

 あかねはおどけて言ってくれたけれど、焼肉なんかじゃ全然足りない。

 祖母の葬儀の手伝いに、母があかねを呼んだのだ。おれはキッパリと断ったのに、あろうことか、母はあかねの職場に電話をかけてしまい……

「あかねさん、こっちもお願い」
「はい。おばさま」

 あかねはおれの両親に見せる用の顔で、ニコニコと仕事をこなしている。

(…………女優だな)

 さすが、元舞台女優。あかねは大学時代、大学のサークルだけでなく、プロの劇団にも所属していて、主役や主役級の役を何度も演じていた。でも、大学卒業と同時に引退してしまって………。あいかわらず引退が悔やまれる演技力だ。

「浩介君の彼女、いい子ねえ~。美人だし、気もきくし」

 親戚連中のあかねを誉める言葉に、母が満面の笑みを浮かべている。母の目的はこれだ。人手なんて充分に足りている。ただ単に「将来の嫁」を自慢したいだけなのだ。

「結婚はまだなの?」
「二人とも先生だから忙しくて……。今あかねさん3年生の担任だから、この一年は無理かなって……」
「……………」

 気持ち悪い………気持ち悪い。

 そんな話、一度もしたことない。「結婚は考えていない」とつい先日も言ったばかりだ。それなのに、嬉々として勝手におれの結婚話をしている母の笑顔に吐き気がする。

(おれはあんたの思い通りに動く人形じゃない……)

 あかねとも、もう別れたことにした方がいいのかもしれない。これ以上迷惑をかけられない……

(でも………)
 そうなったらきっと、山のようにお見合い写真を送ってくるだろう。先走って勝手に結婚話を進める可能性もある。
 慶とのことを認めてもらう、ということは、はなから選択肢にない。慶に迷惑がかかるだけだ。

 では、どうすればいい……?

(………消えればいい)
 おれが、母の前から消えればいい。
 すべてを捨てて、慶だけを連れて、どこか遠く………誰にも見つからない遠い国に………

(……………)
 そんなこと出来るわけない。おれはいいけど、慶にすべてを捨てさせるなんて、出来るわけがない……

「浩介さん?」
「え」

 あかねのよそいきの声に我に返る。普段は呼びつけだけれども、両親の前では、淑やかな女性を演じているので、さん付けで呼んでくるのだ。6年前はその度に笑いそうになっていたけれど、さすがにもう慣れた。

「具合、大丈夫? やっぱり辛そうね」
「……………」

 おれ、いつの間に具合悪いことになっているらしい。

 その後、あかねは適当な嘘をまことしやかについてくれ、気がついたら、母を言いくるめて、おれとあかねは先に帰ることにしてくれていた。

 ありがたい……
 あのままあの場にいたら、本当に吐いていたと思う。まあ、そう考えると、具合が悪いというのも、あながち嘘ではないか。



「今日、慶君は?」
「午前中、おれの部活の練習試合観に行ってくれてて……」

 おれが告別式で行けない、と言ったら「代わりに観てきてやる」と言ってくれた慶。
 そのあと、おれのアパートで待っててくれる予定になっていたんだけど……

「でも、午後から出勤になったってメールがきたから、今頃病院……」
「あらま。残念。せっかく毒消ししてもらえると思ったのにね」

 毒消し。うまいこと言う。

「飲みにでも行く? っていいたいところだけど、これからデートなんだわ」
「あ………そうなんだ。ごめん……」

 それなのに今日来てくれてたんだ……

 言うと、あかねは肩をすくめ、

「いや?逆よ? あんたんち行くことになったから、予定入れたの。役から抜けきるために」
「………………」

 前に言われたことがある。
 舞台だと、舞台用の衣装から着替えて、メイクを落とせば、役から抜けられるけど、この役はそういうわけにはいかないから、抜けきるのにちょっと苦労する、と。入り込むのはわりと簡単だそうだ。良く分からない世界……。

「あんたも、朝からずっとイイコにしてたんだから、息抜きしなさいよ」
「…………」

「毒は早めに洗い流さないと」
「…………うん」

 親を「毒」と言いきってくれるあかねの存在がありがたい。慶は何も口出ししないけれど、心の中では、おれと両親の関係を修復させたい、そのうち自分とのことを認めてもらいたい、と思っているのが伝わってくる。

(でも無理なんだよ、慶)

 慶には理解できないと思う。幸せな家庭で育った慶には。でも理解してほしいとは思わない。慶にはこんな黒い気持ちに触れてほしくない。慶にはいつでも白く輝いていてほしい。

(………会いたい)

 慶に会いたい。

 慶のあの白い光に触れることができたら、今おれの体にベットリついている黒いものなんて、すぐに浄化されるだろう。今は息を吸っても吸っても苦しいけれど、慶が纏う清涼な空気に包まれたら、呼吸も途端に楽になることだろう。

(会いたい……)

 このままではこのドロドロとした黒いものに覆われて、窒息してしまいそうだ……




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お読みくださりありがとうございました!
浩介、安定の暗さ(^_^;)
ちなみにあかねはこの時点ではまだ都立中学の教師ですが、現在は超お嬢様学校の教師をしています。

本当は一つにまとめようと思っていたのですが、あまりにも長いため切りました。
ので、続きはまた明日……

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コメント (2)
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