創作小説屋

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ベベアンの扉(4/22)

2006年10月05日 23時59分38秒 | ベベアンの扉(原稿用紙73枚)
 両親は私が中学一年の時に離婚した。そして私は母に引き取られて、長野の母の実家の近くで母と二人暮らしをしていた。
 でも翌年には母の恋人が一緒に暮らすようになり、その翌年には腹違いの弟が生まれた。母の恋人は息子を溺愛している。よく母達は私を置いて外食に行ったり、旅行に行ったりしている。
 ここに私の居場所はない。
 だから、学生寮のついている東京の大学に行くことにした。
 そのことを父に報告すると、入寮までの間、しばらく家に泊まることを提案してくれた。どのみち東京にいる間の保証人は父にお願いするので、書類に印をもらうために、一度は家に行かなくてはならなかった。
 でも……今思えば、こんな書類は、郵送すればいいだけの話だ。やっぱり、父にちょっと期待していたのかもしれない。
 私と母を裏切って、よそに女を作って、子供まで産ませた父だというのに。まだ期待していたのかと思うと、自分が情けない。

 その夜、変な夢をみた。
 誰かを捜して、駅やスーパーの階段を一生懸命上ったり下りたりしている夢。夢の中で息切れして、階段の踊り場でしゃがみこんでいたら、
『ここにいるのに……』
 上のほうから、笑い声と一緒にそんな言葉が聞こえてきた。小さな女の子の声だ。
『ここにいるのに、なんでわからないのかな』
『みんなベベアンにいるのにねえ』
『はやく七重もくればいいのにねえ』
「誰?! ……あ、夢?」
 自分の声にビックリして、目が覚めた。
 目は覚めたんだけど……体が動かない。
『ねえ、はやくおいでよ、七重も』
「!」
 夢の中と同じ声が足元から聞こえてくる。
『赤いものを投げて、そして呪文を唱えて、扉をあけて』
『ベベアンの扉を開けて!』
「!」
 足元で、白い影が動いた。
 いや! 見ない! 見えない! 見ない! 見ない! 何も見ない!
 恐ろしさに目をつむって、かたくなに目をつむっていたら……、気がついたら朝になっていた。
コメント
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