『鈴木いづみプレミアム・コレクション』

 鈴木いづみという名前が気になりだしたのは、去年の春の頃。それですぐにこの本を買ったわけでもないが、1年ほどは寝かせていたことになる。とても好きそうな予感と、エキセントリックさの方向が私の好みじゃなかったら…という不安とが、いつもない交ぜになっていた。

 『鈴木いづみプレミアム・コレクション』を読みました。
 

 たぷんとぷん、たっぷん…と、すっかり気持ち良く浸かりきっていた。
 とても、とてもとても、独特で不思議な味わいのあるSF作品を堪能出来たので、大変に満足している。懸念していたどぎつさは感じなく、むしろ何処かしら孤高というか、高潔な雰囲気すら漂っているように思われた。確かに風変りでセンシティブだけれど、そこのところに押し付けがましさは全くない。さらりと切ないほど、乾いているのである。まるで読み手に対してすら、何も期待していないかのようでもある。

 どの作品も面白く、インパクトの強いものばかりだったが、私がとりわけ気に入ったのは、「夜のピクニック」や「ユー・メイ・ドリーム」「ペパーミント・ラブ・ストーリィ」あたり。
 「夜のピクニック」には、やたらと“地球人らしさ”にこだわる4人家族が出てくる。彼らはどういった経緯からか、地球からの入植者が立ち去ってしまった異境の星で暮らす、最後に残った人々であるらしい。滑稽なほどに地球のことを知らず、ビデオや本から知識を得ようとするものの、それもまた間違いだらけだったりする。では、なぜこの一家族だけがこの星に残されていたのか…という疑問については、物語の最後に明かされる。可笑しさの中に紛れこんだ、ほんのぽっちりの彼らの哀愁。その匙加減が絶妙だった。

 「ユー・メイ・ドリーム」は、“冷凍睡眠”なるものが、政府の人口局によって人々に施されるようになってしまった未来が舞台になっている。さらにそこにもう一つ、ちょっと変わった仕組みが絡ませてあって、読み応えがあった。心理サスペンスっぽい。

 そして「ペパーミント・ラブ・ストーリィ」、この作品の底流をなす切なさと透明感については、何とも説明しがたい。8歳の少年想が、20歳の〈彼女〉の姿を見たときから、彼らの長い長い物語が始まる。どんなに二人の上を時が流れ過ぎ去っても、〈彼女〉は想にとっては永遠に12歳年上の“きれいな女のひと”であり続けるのか…。物語の終わらせ方とかも、とても好みな逸品だった。

 
 いやそれにしても、これほどに、本人のポートレイトと切り離して作品を鑑賞することが困難な作家も、珍しいのではないか。挑むような表情から受ける印象と、作風に対しての感想とが、どうしても頭の中で渾然一体となってしまう…。それらすべてをひっくるめ、この稀有な作家の作品であるということかも知れない。

コメント ( 2 ) | Trackback ( 0 )
« 『幾度目かの... 中島たい子さ... »
 
コメント
 
 
 
Unknown (ましろ)
2008-07-23 22:42:33
りなっこさん、こんばんは。
わたしはすぐに買ったのですが、いまだにこの本、寝かせてあるんですよー。
なんだか読むタイミングが合わないらしくて。
他にもたくさん出ているので欲しいのですが、
さらに寝かしつけてしまいそうで、そのままです(苦笑)
わたしも読まないとなー。
りなっこさんのレビューを拝見して、うずうずしちゃいました。
 
 
 
Unknown (りなっこ)
2008-07-25 07:59:44
そうそう、ましろさんのお気に入りの作家に入っていますよね。 私は今回初めて読んだのですが、ましろさんがお好きなのもわかるなぁ、と思いました。
エッセイも入っているのだけれど、小説よりももっと剥きだしで凄かったので、感想に書けませんでしたよ。
私も他の作品を読んでいきたいです。
 
コメントを投稿する
 
現在、コメントを受け取らないよう設定されております。
※ブログ管理者のみ、編集画面で設定の変更が可能です。