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 平成26年8月27日に、厚生労働省健康局結核感染症課から、各都道府県、保健所設置市、特別区の衛生主管部(局)長に向けて、健感発0827第1号「デング熱の国内感染症例について(第一報)」が発出されます。

 日頃から感染症対策への御協力を賜り厚くお礼申し上げます。
 今般、さいたま市内の医療機関から、さいたま市衛生主管部局を通じ、海外渡航歴がないにもかかわらず、デング熱(四類感染症)の感染が疑われる患者(別添1)について情報提供があったことから、国立感染症研究所において確認検査を実施したところ、デング熱の患者であることが確認されました。
 患者には海外渡航歴がないことから、国内でデング熱に感染したと考えられます。現在、さいたま市は、厚生労働省及び関係自治体と協力して、疫学調査(患者の周辺者等における症例探索等)を実施しているところです。
 つきましては、本事例(デング熱の国内感染事例)について、貴管内の医療機関等の関係者へ情報提供するとともに、海外渡航歴がない場合であっても、平成26年度厚生労働科学研究が取りまとめたデング熱診療マニュアル案(別添2)等を参考の上、デング熱が疑われる症例については、検査の実施を検討するよう注意喚起をお願いします。また、デング熱の国内感染が疑われる事例については、速やかに保健所への情報提供を行っていただくよう協力要請をお願いします。


別添1「患者に関する情報」には次のようにあります。

・ 患者は、埼玉県在住の10代女性。東京都内の学校に在学中。
・ 海外渡航歴無し。
・ 8月20日、突然の高熱により、さいたま市内の医療機関を受診。同日入院。
・ 8月25日、デング熱の国内感染疑い事例について医療機関から情報提供を受けたさいま市から、厚生労働省に一報あり。
・ 8月26日、患者の血液検体を国立感染症研究所に搬入し、デング熱について検査を実施したところ、同日、デング熱陽性の結果が得られた。


 伝聞なのですが、このさいたま市の医療機関の医師は、過去にデング熱の患者を診たことがあり、10代の女性の症状を見て、デング熱を疑ったといいます。あるデータによると、日本における現員医師数は16万7千人ほどだといいます(非常勤を含む。届出医師数は30万人ほど)。デング熱輸入症例が急増し始めた2001年から2014年8月15日までの累計が1524例になることから、医師の引退などによる入れ替わりなどを考えずに大雑把にとらえて、医師の100人に1人ほど(0.9%)しかデング熱の患者を直に診たことがないことになります。

 ここでもしもの話しをすることになるのですが、この医師にデング熱の診察の経験がなかったならば、発熱に対して、解熱剤のアセトアミノフェンなどを処方して、終わってしまっていたことになったかも知れません。やがて、どこかの医師によって別の患者がデング熱であることが気づかれることでしょうが、その時は広範にウイルスが拡散してしまっていたことでしょう。そうなれば、国内感染の初発事例の感染地を特定することは難しくなります。または、10月の中頃を迎えて、ヒトスジシマカの成虫が寒さのために死に絶えて、デング熱の流行があったことすら気づかれずに終息していたかも知れません。

 気づかれずに終息するということは、デング熱はそれほど恐れる必要のないウイルス感染症であるとも言えます。インフルエンザウイルスは、接触感染、飛沫感染、飛沫核感染(空気感染)しますから、混んだ通勤電車の中に、インフルエンザの発症者がいて、マスクもせずに咳をしていれば、その周辺の乗客にインフルエンザウイルスを感染させる可能性は大きいと言えます。その発症者が鼻をかんだ手で吊り革をつかめば、そこにウイルスは残ります。実際、そのようにしてインフルエンザは流行していきます。しかし、デング熱の発症者が満員電車に乗っていても、そこに蚊が介在しなければ、デングウイルスをその周辺の乗客に感染させることは皆無です。

 知ることは恐れを少なくします。そこで、国立感染症研究所 病原微生物検出情報 (IASR) 2007年8月号掲載の2つの報告「輸入デング熱62症例の臨床的特徴について」(東京都立駒込病院や国立感染症研究所など)と「国立国際医療センターにおける輸入デング熱症例の臨床的検討」(国立国際医療センター国際疾病センターと国立感染症研究所)を読んでいくことにします。「輸入デング熱62症例の臨床的特徴について」は、1985年から2000年の間に診断された、62例のデング熱患者の症例を調査したものです。

 デング熱の発症は、「突然の発熱」から始まります。しかし、発熱はデング熱発症に特有の症状ではありません。インフルエンザなどでも高熱を経験します。



 TBS系「王様のブランチ」(毎週土曜、9時30分~14時)のレポーター「紗綾」さんは、8月21日の午後、代々木公園でロケをしていて、蚊に刺されたのが原因でデング熱に感染したそうです。紗綾さんのブログでは、9月27日の記事に

お盆の時に風邪を引いて、熱が出て…

昨日からまた熱が。

高熱でフラフラです…

前回の熱が比にならないくらいきつーい。

すぐに喉が渇くし、水分が手放せません。

さぁ!!

みずみずしい梨を食べて、薬飲まなきゃ!!


とあります。これによると、発症したのは8月26日で、潜伏期間は5日。「デング熱国内感染患者 現時点での疫学情報のまとめ(平成26年9月2日)」(PDF)における第23症例に該当します。

 9月5日のブログでは、

報道でご存知の方もいらっしゃると思いますが、私はデング熱になり、入院をしておりました。

やっと退院しました。

今回、突然高熱が出て、初めはただの夏風邪だと思っていました。

しかし、詳しく検査をして貰い、デング熱だと判明しました。

自分がデング熱!?と、初めは信じられませんでしたが、ネットで調べてみると症状が全く同じでビックリしました。

私の症状は、血小板や白血球の数値が下がり、40℃前後の高熱が続き、頭痛、眼痛、倦怠感、腹痛、寒気、発疹、かゆみ、浮腫みと、どれもすごく辛い症状でした。

症状で眠れない日もありました。

病院に入り、日が経つごとに容態も良くなり、少しずつ回復して来ました。


とあり、高熱に頭痛が伴ったと報告しています。「国立国際医療センターにおける輸入デング熱症例の臨床的検討」は、2005年1月から2006年12月までの2年間に国立国際医療センター国際疾病センター渡航者健康管理室を受診した日本人海外渡航者で、病原体診断または血清学的にデング熱・デング出血熱と診断された16例を対象として検討したもので、その報告を読むと、発熱の続く期間は、不明の1例を除く15症例をそれぞれ見ていくと、5、5、8、5、5、5、5、5、5、5、6、6、6、4、6日と、5日から6日ほどになります(平均有熱期間は、5.4日)。発症から受診までの期間は、治癒後検査のために受診した2例を除いて、2、5、5、5、5、6、6、6、3、4、5、2、8、7日と、これも5日から6日ほど。突然の発熱でデング熱は発症するわけですから、最近の海外渡航歴があって、なかなか熱が引かないので専門の医療機関を受診したということなのでしょうか。「16症例」では、半数の症例が発疹の出現を契機に国際疾病センター渡航者健康管理室を受診していたとあります。

 頭痛の出現割合は「62症例」では、90%ですが、「16症例」では、発症時に発熱とともに頭痛が伴った例は16症例中10症例で、63%であり、この場合は3人に2人ほどしか頭痛が出現しなかったことになります。データによっては、必ずしもデング熱の発症で頭痛を伴わないことがあるのです。「16症例」では、渡航者健康管理室での受診時に頭痛が残っていた例は、14症例中6例であり、43%と低くなります。発症から5日ほど経つと頭痛が引いてしまう人もいるわけです。デング熱を起こすデングウイルスには、D1(DEN-1)からD4(DEN-4)まで4つの型があります。「16症例」での、デングウイルスの型は、DEN-1が3例、DEN-2が3例、DEN-3が4例、DEN-4が1例でした。型によって、発熱以外の症状に違いがあるのでしょうか。



 発疹の出現を契機に医療機関での再度の受診を考えるという傾向があるとすれば、「62症例」では発疹は84%であり、「16症例」では50%です。「16症例」では、症状が数日(5日ほど)経っても緩和されないことで、医療機関を変えて再度受診したというケースもあります。8月26日に突然の発熱でデング熱を発症した紗綾さんは、発症3日めの29日に再び発熱し(発熱は2~7日間持続し、二峰性であることが多いと言われている)、「目の奥が痛い」と訴えた(頭痛?眼窩痛?「眼窩痛」は「62症例」では44症例中24症例で55%の割合で起こっている)ため、30日に再度診察を別の病院で受けます。この時にはデング熱の国内感染は報道されていました。医師はデング熱に感染した疑いがあると判断することになります。



 「62症例」では、41例において麻疹や風疹に類似した、主に四肢に分布する発疹がみられ、発熱が出現してから、平均5.7日後に出現したと報告しています。発疹が見られた症例では、ほとんどの例で解熱時に発疹が出現したということです。平均有熱期間は、5.4日というデータがあることから矛盾はありません。

 紗綾さんは、「血小板や白血球の数値が下がり」と述べていますが、10万/μL以下の血小板減少が「62症例」では57%に、「16症例」では、14症例中の86%にみられたと報告しています(PLT。血小板(platelet)の数が減少すると、 出血しやすくなる。基準値は15万~35万個/μL)。白血球減少は、「62症例」で71%(3,500/μL以下)に、「16症例」で79%(3,000/μL以下)にみられたと報告しており、殆どのケースでWBC(白血球数、white blood cell count)が異常値を示すことになります(基準値は3,500~9,800/μL)。「62症例」では、白血球数および血小板数の平均値は、発症後10日以内に正常化したと報告されています。

 アスパラギン酸とα-ケトグルタル酸をグルタミン酸とオキサロ酢酸に相互変換する酵素である「AST(アスパラギン酸アミノ基転移酵素、aspartate aminotransferase)」は、肝臓に多く含まれる酵素で、肝障害を知る手がかりになります。ウイルスの増殖などの何らかの異常で肝細胞が破壊されると、ASTは血液中に漏れ出します。健常者であれば、ASTは血清中には非常にわずかな量しか存在しない(基準値は、30 IU/L以下)のですが、溶血性疾患などの障害で異常値を示すことになります。「16症例」では、発症してから5日ほど経ってからの採血で、14症例の平均で94 IU/Lを示したと報告されています(最低で31、最高で342 IU/L)。「64症例」では、11 IU/L以上であった者は78%いて、平均では 82 IU/L(最低で13、最高で375 IU/L)だったといいます。このAST値の平均値が正常化するには3週間以上を要したと報告されています。

 デング熱の症状が「発熱」(100%。62症例/62症例)、「頭痛」(90%。54症例/60症例)、「筋肉痛」(60%。31症例/49症例)、「寒気」(56%。28症例/50症例)であるとするならば、インフルエンザの症状と大きく変わりません。ヒトスジシマカの成虫が活動する時期(5月頃から10月頃)に、蚊に刺されてから4日ほど(「デング熱国内感染患者 現時点での疫学情報のまとめ(平成26年9月4日)」)(PDF)のデータでは、潜伏期間の最短は第7症例(10代男性)、第22症例(10代男性)、第25症例(20代女性)の4日であり、最長は第13症例(30代女性)の13日。この症例だけが10日以上である。多くは5日~7日)経ってから高熱が出たならば、診察を受ける際に、医師に蚊に刺されたことを告げるのがいいでしょう。デング熱として治療を受けずに、熱が下がる前後に発疹が出たならば、再度受診して、やはり蚊に刺されていることを告げることが必要でしょう。

 デング熱への感染を防ぐには、これからは、私たちは公園などの樹木の多い、蚊に刺されそうなところに出かけるときは、虫よけスプレーをして(肌が露出している部分はもちろん、衣服の上からも。かつ、こまめにかけられるように持って)出かける必要がありそうです。高熱と頭痛などに苦しみたくはないですからね。

 多国籍製薬会社サノフィ(Sanofi S.A.)のワクチン事業部門である「サノフィ・パスツール(Sanofi Pasteur)」は、現在、デング熱のワクチンを開発中だといいます。ウォール・ストリート・ジャーナルの記事によれば、アジアでの研究結果では、開発中ワクチンのデング熱に対する予防効果はデング熱の型(血清型、serotype)によって異なり、DEN-1、DEN-2、DEN-3、DEN-4に対する効果はそれぞれ50%、35%、78%、75%だといいます。今回の日本でのデング熱の国内感染のウイルスの型はDEN-1。50%の予防効果しかないことになります。このデング熱のワクチンは、早ければ2015年に東南アジアで使用できるようになるかも知れないそうです。

(参考) 「デング熱のウイルスは、日本のヒトスジシマカに常在するようになってしまうのか。(1)

(参考) 「デング熱のウイルスは、日本のヒトスジシマカに常在するようになってしまうのか。(2)

                     (この項 健人のパパ) 

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 日本には存在しない(または稀な)感染症で、海外旅行者が渡航先で感染し、自国に帰国するときに持ちこまれたものを「輸入感染症(imported infectious disease)」といいます。海外渡航先での食べ物や水、または蚊に刺されたことなどが原因で感染し、帰国後に発症します。国立感染症研究所感染症情報センターは、輸入感染症を旅行者感染症として、コレラ、細菌性赤痢、腸チフス・パラチフス、デング熱、マラリアなどを例示しています。

 輸入感染症の1つにデング熱があります。2014年のデング熱輸入症例は第33週(8月15日現在)で98症例で、インドネシアからの輸入症例が多いといいます。日本国内でのデング熱とデング出血熱の発生は、2007年…89例、2008年…104例、2009年…92例、2010年…244例、2011年…113例、2012年…220例、2013年…249例あったのですが、今年2014年は8月15日までで98例になっているそうです。



 統計上は、輸入感染症としてのデング熱の最近の年間発症例数は200例強ですが、デング熱に特有の症状はないために、ほかの感染症と考えられて、治療が行われている場合も可能性としてあります。国立感染症研究所のページには、「デング熱を疑う患者の診断指標」が掲載されています。

 Aの2つの所見に加えて、Bの2つ以上の所見を認める場合にデング熱を疑う。
  A)必須所見
   1.突然の発熱(38℃以上) 2.急激な血小板減少(10万/μL以下)
  B)随伴所見
   1.発疹(発病数日後、解熱傾向とともに出現する場合が多い)
   2.悪心・嘔吐
   3.骨関節痛・筋肉痛
   4.頭痛
   5.白血球減少
   6.点状出血(あるいはターニケットテスト陽性)
  C)除外指標;CRPが10mg/dL以上の場合は、まず細菌感染その他の検索を優先してください!!


(注) ターニケットテスト(tourniquet test、止血帯試験)では、血圧を計る要領で、上腕部に止血帯を使って一定の圧力を加えておき、前腕に点状の出血班が見られるかどうかを判定する。毛細血管透過性亢進の有無(デング熱では毛細血管の透過性が増す)と血小板の機能低下の有無(デング熱では急激な血小板減少がみられる。血小板の基準値は、13万~35万/μLほどで、10万/μL以下で血小板減少症、40万/μL以上で血小板増多症とされる)をみる検査方法である。(注の終わり)

(注) CRP(C-reactive protein、C反応性蛋白)は、体内で炎症反応や組織の破壊が起きているときに血中に現れるタンパク質で、その産生量は炎症反応の強さに相関することから、血清中のCRPを定量して炎症反応の指標とすることができる。細菌感染では上昇しやすく、ウイルス感染では強い発熱を伴って発症するものでも上昇はわずかである(アデノウイルスなど一部のウイルス以外)。一般的な基準値は、~0.3mg/dLで、軽い炎症などが疑われる場合で、0.4~0.9mg/dLである。デング熱は強い発熱を伴うウイルス感染症であるが、CRPのそれほどの上昇はみられない。(注の終わり)

 2014年9日1日配信のNHKニュースからです。

 8月、国内でおよそ70年ぶりに感染が確認されたデング熱に、新たに東京などの19人が感染したことが国立感染症研究所の検査で確認されました。厚生労働省によりますと、全員が8月、東京の代々木公園付近を訪れていたということで、厚生労働省は発熱などの症状が出た場合は医療機関を受診するよう呼びかけています。

 デング熱はアジアや中南米など熱帯や亜熱帯の地域で流行している蚊が媒介する感染症で、ヒトからヒトには感染しません。8月、東京の代々木公園を訪れていた東京や埼玉の男女合わせて3人が、およそ70年ぶりに国内でデング熱に感染したことが確認されています。その後も症状を訴える人が相次ぎ、国立感染症研究所が検査したところ、東京や神奈川など6つの都県の合わせて19人がデング熱に感染したことが確認されたということです。これで今回国内でデング熱への感染が確認されたのは、合わせて22人となりました。いずれも重症ではなく快方に向かっているということです。

 厚生労働省によりますと、感染が確認された人は全員が8月、東京の代々木公園付近を訪れていて、最近1か月以内の海外への渡航歴はないということです。厚生労働省は「いずれも代々木公園付近で蚊に刺されたことが原因とみられる。蚊はあまり移動しないため、今のところ感染が大規模に広がることは考えられない」として、冷静な対応を求めるとともに、発熱などの症状が出た場合は医療機関を受診するよう呼びかけています。

 厚生労働省によりますと、新たにデング熱への感染が確認された19人の内訳は、東京都が13人、神奈川県が2人、埼玉県と千葉県、茨城県と新潟県がそれぞれ1人ずつとなっています。これまでに東京都で1人、埼玉県で2人の合わせて3人の感染が明らかになっていて、感染が確認されたのは合わせて22人となりました。年齢は10歳未満の子どもから50代までの男女となっています。


 国立感染症研究所の報告した「デング熱国内感染患者 現時点での疫学情報のまとめ」(PDF)によると、デング熱の発症日で最も早いのが、8月16日の東京都の20代男性と埼玉県の10代男性の2人。ともに、8月9、10日に代々木公園を訪れています。潜伏期間は6日ないしは7日。最も遅いのが、8月27日の千葉県の50代男性で、代々木公園周辺に8月15~18、21、23~25日と8回訪れ、8月23日に蚊に刺されたと申告しています。潜伏期間は4日。

 10歳未満の子供もデング熱の発症者の中にいます。東京都の男の子です。8月16日に代々木公園に行き、蚊に刺され、その5日後の8月21日に発症しています。子供がデング熱にかかった場合、その症状は一般的に大人の場合よりも軽く、快復も早いと言われていますが、生命を脅かすデング出血熱に発展する可能性が大人の場合よりも高いようです。

 テレビのロケ中にデング熱に感染した女性タレントの2人は、厚生労働省が発表した22人には含まれていないようです。そうだとするならば、24人がすでにデングウイルスに感染したことになります。デングウイルスを持った蚊が1匹だけでは、これだけの感染者が出るというのは考えにくい。ヒトスジシマカは2~3日おきに吸血し、また、集団でヒトを襲います。海外で感染し日本に入国した人をかなりの数の蚊(数十匹?)が刺して(デングウイルスのキャリアとなったその人物は数回、代々木公園の数か所を訪れ、そのたびに蚊に刺されたのかも知れません)、その体内にウイルスを取り込み、その蚊の数匹ずつが日を分けて(例えば、少なくとも8月10日、11日、16日、17日、18日、20日、21日、23日。「デング熱国内感染患者 現時点での疫学情報のまとめ」から推測した)、かなりの数のヒトを襲ったことで、感染がこれほどの広がりを見せていると考えるべきでしょう。

 デング熱を起こすデングウイルスには、D1(DEN-1、DENV 1)からD4(DEN-4、DENV 4)まで4つの型がありますが、今回の国内感染の事例すべてがD1であったようです。8月に入って、デング熱を発症した輸入感染症の患者からは、D1(旅行先はそれぞれインドネシア・ギリ島、インドネシア・スンバ島)とD2(バングラディッシュ、インド)という2つのタイプが確認されています。

(追記‐2014年9月2日) 2014年9月2日配信の時事通信の記事からです。

 厚生労働省などは9月2日、新たに大阪府や青森、愛媛両県などに住む14人のデング熱感染が確認されたと発表した。いずれも最近の海外渡航歴はなく、東京・代々木公園周辺を訪れていた。これまでに22人の感染が確認されており、感染者は10都府県の計36人になった。

 厚生労働省などによると、14人は未就学児から50代までの男女で、東京7人、大阪3人、青森、新潟、山梨、愛媛各1人。訪問日が確定できない3人を除き、8月5日~26日に代々木公園周辺を訪れており、8月14日~9月1日に発症した。

 発熱や頭痛などの症状があったが、重症化した人はおらず、容体は安定しているという。


 国立感染症研究所の報告した「デング熱国内感染患者 現時点での疫学情報のまとめ(平成26年9月2日)」(PDF)(愛媛県と新潟県各1人のデータは未掲載)によると、2日の追加発表分で、デング熱の発症日で最も早いのが、8月14日の東京都の20代女性で、8月10日に代々木公園及びその周辺を訪れています。潜伏期間は4日。最も遅いのが、9月1日の大阪府の10代女性で、代々木公園に8月25、26日に訪れたが、蚊に刺されたかはわからないと答えています。潜伏期間は6日または7日。大阪府高槻市保健所によると、デング熱に感染していたのは、この女性を含めた大阪府高槻市の10代女性3人で(発症はそれぞれ8月30日、8月31日、9月1日)、現在、入院中だが、容体は安定しているといいます。この3人を含むグループ24人は8月25日から代々木公園北側の宿泊施設に滞在し、25日の夜と26日の朝、代々木公園近くで軽い運動をし、26日午前には代々木公園内を歩いたと申告しているようです。24人のうち半数以上が「蚊に刺されたと思う」と話していることから、発症していない人も経過観察しているということです。平均的な潜伏期間(4日から7日)から考えると、感染していたとしてもこのグループからの発症はこれ以上なさそうです(不顕性感染)。

 厚生労働省などが9月2日に発表したところによると、新たに大阪府など6都府県の計14人について、デング熱の感染が確認され、その居住別の内訳は、東京都7人、大阪府3人、青森、山梨、愛媛、新潟県各1人。愛媛県の10代の少年は、高校の合宿で8月5~13日に代々木公園周辺に宿泊し、8月6日は代々木公園内をランニングしたといいます。愛媛県の少年と同じ合宿に参加した29人のうち、10代の少年1人にも発熱や発疹の症状があるため、国立感染症研究所でデング熱への感染の有無を検査するということです。

 新潟市保健所によると、8月16日から18日にかけて、代々木公園周辺の宿泊施設に滞在しながら、100人以上が参加する説明会に参加していた新潟市の10代の女性は、8月24日に発熱の症状を訴えて新潟市内の医療機関に通院したが、熱が下がらなかったため、5日後に入院し、その後、発疹やむくみの症状が出たが、回復したため、9月1日に退院したそうです。新潟市の研究所が検査したところ、デングウイルスの遺伝子が検出され、感染が確認されたということです。新潟県では、8月20日に代々木公園周辺を通った新発田市の10代男性が、8月24日にデング熱を発症しています。

 さらに、岡山県倉敷市保健所によると、8月中旬に代々木公園内を通ったと話している東京都内の大学に通う20代の男性が、帰省先の倉敷市で受けた血液の迅速検査でデング熱陽性と判明し、国立感染症研究所に確認検査を依頼しているそうです。

 デング熱の代々木公園での感染は、まだまだ広がりそうです。しかし、医療水準が高く、衛生環境の良好な日本において、致死率の低いデング熱をそれほど恐れる必要はありません。問題は、蚊が媒介するウイルス感染症がデング熱だけではないということです。蚊媒介感染症(mosquito-borne infection)は、感染症法上、全数届出疾患のうち四類感染症の対象とされています。対象疾患は、ウエストナイル熱、チクングニア熱、デング熱、日本脳炎、マラリアの5疾患があります。日本には、日本脳炎ウイルスが常在しています。日本脳炎(Japanese encephalitis)は、感染しても発症するのは100~1,000人に1人程度で、大多数は感染しても発症しません(不顕性感染)。しかし、発症したときの致死率は20~40%といわれています。日本脳炎ウイルスに感染しているブタなどを吸血したコガタアカイエカがヒトを刺すことによって感染します。

(参考) 「感染患者報告数の少ない日本脳炎の予防接種は受けるべきではないか?

 ウエストナイル熱(West Nile fever)は、2014年8月26日現在、アメリカでは、カリフォルニア州(93人)、ルイジアナ州(43人)、テキサス州(30人)、サウスダコタ州(22人)など34の州と地域から12人の死亡を含む297人の患者(髄膜炎もしくは脳炎のような神経侵襲性疾患(neuroinvasive disease)を起こしたのは、そのうち53%ほど)がCDC(アメリカ疾病対策センター)に報告されているといいます。医療水準の高いアメリカで、このデータからはその致死率は4%ほど。25人に1人は死に至ることになります。日本では、2005年8月24日に出国し、8月28日から9月4日までロサンゼルスに滞在後、9月5日に帰国した30代男性が、ウエストナイル熱を発症しています。帰国時に発熱及び頭痛、その後発疹しました。9月7日に近くの医療機関を受診し、さらに9月10日、川崎市立川崎病院を受診することになります。ELISA試験で、ウエストナイルウイルスに対する特異的IgM抗体陽性となりました。中和試験でも、ウエストナイルウイルスに対する特異的中和抗体を認め、ペア血清で4倍以上の上昇があったようです。その後回復したそうです。ウエストナイル熱の潜伏期間は3〜15日で、感染しても発症しないことが多く、発症する人の割合は5人に1人ほど(約20%)です。

 ウエストナイルウイルスはカラスやスズメなど鳥の体内で増殖し、その血液を吸った蚊に刺されることで、人に感染します。

 デング熱の予後(病気が治った後の経過)は、比較的良好だといわれています。後遺症を伴うことは殆どないのです。それに対して、日本脳炎やウエストナイル脳炎などの脳炎を起こすウイルス感染症は非常に恐ろしい病気です。神経系を標的として感染し、その機能に障害を与えるので、後遺症を伴いやすく、後遺症が残った場合は深刻な状態になります(ウエストナイル熱の発症者の100人に3人ほどがウエストナイル脳炎を起こすと言われている。日本脳炎は発症者の5人に1人は亡くなり、5人に1人は後遺症が残り、完全に治癒するのは5人に3人ほどだという)。(追記の終わり)

(追記‐2014年9月3日) 厚生労働省などは9月3日、新たに北海道や千葉県など4都道県の計12人について、デング熱の感染が確認されたと発表しました。いずれも8月に代々木公園やその周辺を訪れていました。これで、国内の感染者は11都道府県の計48人になりました。

 厚生労働省などによると、12人は10代から70代の男女で、居住別の内訳は東京都9人、北海道、千葉県、山梨県各1人。重症者はなく、入院中の患者を含めて全員快方に向かっているといいます。

 北海道の患者は40代の女性で、8月22日に代々木公園の周辺で蚊に刺され(代々木公園に隣接する明治神宮で、蚊に刺されて感染したものとみられている)、8月29日に発熱や頭痛を発症したといいます。潜伏期間7日。千葉県の患者は70代の男性で、8月に数日間、代々木公園内で土木作業を行い、8月24日に発症したそうです(詳細は、「デング熱国内感染患者 現時点での疫学情報のまとめ(平成26年9月3日)」)(PDF)(9月2日の愛媛県と新潟県各1人のデータは掲載された。また、帰省先の岡山県倉敷市で8月24日に発症した20代の男子学生も感染が確認された。千葉県の人のデータは未掲載)。(追記の終わり)

(追記‐2014年9月4日) 2014年9月4日配信の時事通信の記事からです。

 東京都は9月4日、代々木公園で採集した複数の蚊からデング熱のウイルスが検出されたため、同日午後2時から一部を除き同公園を閉鎖したと発表した。

 東京都によると、立ち入りが禁止されたのは中央広場や噴水池のある公園北側の地区(約44万6000平方メートル)で、道路を挟んで南側の陸上競技場や野外ステージのある地区(約9万4000平方メートル)は含まれない。期間は当分の間で、再開時期は未定。

 採集装置は園内10カ所に設置され、276匹のヒトスジシマカが採集された。このうち北側の地区4カ所
(「日本航空発始之地記念碑」周辺、渋谷門の北の「桜の園」周辺、西門の北のサービスセンター周辺、サイクリングセンター周辺(その北に国立オリンピック記念青少年総合センターがある))で採集した蚊からウイルスを検出。広範囲に及んだため、北側の地区全体を閉鎖することとした。同公園には路上生活者が約30人いるが、希望者には福祉施設などを紹介する方針。

 東京都は9月4日午後、国立感染症研究所の専門家とともに園内を視察。5日以降、生態系への影響を踏まえた上で蚊の駆除を行うほか、蚊の採集場所を20カ所に増やし、ウイルスの保有状況を追加調査する。


 厚生労働省などは9月4日、新たに群馬県などの7人のデング熱感染が確認されたと発表しました。10代から70代の男女で、東京6人、群馬1人。いずれも代々木公園周辺で蚊に刺されたとみられるそうです。これで感染者は、北海道、青森、茨城、群馬、埼玉、千葉、東京、神奈川、新潟、山梨、大阪、愛媛の12都道府県の計56人となりました(詳細は、「デング熱国内感染患者 現時点での疫学情報のまとめ(平成26年9月4日)」)(PDF)(9月3日の千葉県の人のデータは掲載された。群馬県の人のデータは未掲載)。

 群馬県は9月4日、県内の10代の男性がデング熱に感染したと発表しました。男性は8月29日に発熱し、病院を受診しましたが、熱が引かないため、9月に入って入院したといいます。8月に代々木公園を訪れ、蚊に刺されたことがあったということから、9月4日に群馬県衛生環境研究所が検査を行い、デング熱と確定しました。

 今までの発症者のデータで、一番早く発症したのは、東京都の20代の女性で、8月4日に代々木公園を訪れており、8月12日に発症しています。潜伏期間は8日(第52症例)。次は、8月14日の発症の東京都の20代女性で、8月10日に蚊に刺されています。潜伏期間は4日(第25症例)。同じく、8月14日の発症の東京都の20代女性で、8月9日に蚊に刺されています。潜伏期間は5日(第50症例)。第34症例の愛媛県の10代男性も8月14日に発症していますが、蚊に刺されたかは本人に記憶がなく、感染地を特定することは難しかったかも知れません。あくまでもしもの話しですが、デング熱の検査キットが普及していて、デング熱を疑う態勢ができていれば、この後、数日で集団発生事例として、感染地が特定され、蚊の駆除が始まっていたでしょう。そのときは、これだけの発症者が発生することは防げたかも知れません。

 気になるのですが、代々木公園には路上生活者がいるということですから、その路上生活者の中にデング熱に感染したが発症しなかった人がいた(または発症したが病院には行けなかった)とすれば、蚊に刺され続けることで継続的にデングウイルスを蚊に供給していたということが考えられないのでしょうか。そのために、ウイルスを持った蚊が数十匹も存在することになったと、、、路上生活者に対する聞き取りはなされるのでしょうか。路上生活者のデングウイルスへの感染の有無の検査はなされるのでしょうか。路上生活者を代々木公園から外へ出すことでウイルスを拡散させてしまう可能性はないのでしょうか。(追記の終わり)

(追記-2014年9月5日) “The Wall Street Journal”の2014年9月4日の記事によると、マレーシアでデング熱患者の急激な増加(deadly outbreak of dengue)が起こっており、特に首都クアラルンプールを取り囲み、日系企業が数多く進出している、人口密度の高いセランゴール州で深刻だといいます。

 今年は、8月30日までで、マレーシアでのデング熱による死者は131人(131 dengue-related deaths)。これは前年の同じ時期の38人のおよそ3.4倍になります。今年の感染者は6万8千人ほどで、このデータからは致死率はおよそ0.2%(感染者500人に1人が死亡する)。昨年(2013年)の感染者は1万9千人ほどで致死率は約0.2%。

 デング熱感染者の急激な増加の原因を研究者は、DEN-2という伝染性の強いタイプ(more virulent strain of dengue)(デングウイルスにはDEN-1、DEN-2、DEN-3、DEN-4の4タイプがある)のデングウイルスの流行だと指摘しているようです。

 デングウイルスのキャリアのヒトから吸血したメスのネッタイシマカの体内に移動したデングウイルスは、蚊の消化管から中腸(mid gut)(昆虫では胃にあたる)に移動し、その周辺で増殖(replication)を行います。およそ5日後、ウイルスは蚊の唾液腺(salivary glands)にも移動します。これで、ウイルスはヒトへの感染を準備したことになります。

 蚊は、吸血するとき、吸血しやすいように、血が凝固することを防止するための物質(抗凝血作用物質)を含んだ唾液をヒトに注入するのですが、そのときにウイルスもヒトの血管内に移動することになります。すべての種類のウイルスが、蚊の「胃」で増殖できるわけではなく、蚊媒介感染症のウイルスだけがそれをできるから、蚊を媒介としてデングウイルスなどがヒトに感染するのです。(追記の終わり)

(追記‐2014年9月5日) 2014年9日5日配信の産経新聞の記事からです。

 厚生労働省は9月5日、東京都新宿区の区立新宿中央公園で蚊に刺され、デング熱を発症したとみられる患者が確認されたと発表した。代々木公園周辺以外で感染者が確認されたのは初めて。新宿区は公園の蚊の駆除を始めた。

 厚生労働省によると、患者は埼玉県の30代男性で8月中旬から下旬、5回にわたり新宿中央公園を訪れた。8月30日に発熱や頭痛などの症状を訴えたが、入院はせず、容体は安定している。男性から検出されたウイルスの遺伝子配列は代々木公園で感染した患者と一致しており、同じウイルスが新宿中央公園に広がったとみられる。

 新宿中央公園は代々木公園の北約2kmで、行動範囲が100m以内とされる蚊が移動したとは考えにくいことから、厚労省は代々木公園周辺で蚊に刺された患者が、新宿中央公園周辺で別の蚊に刺されたことで感染が広がった可能性が高いとしている。

 厚労省などによると、岩手県と山口県でも初めて国内感染の患者が確認され、9月5日までに感染が明らかになった患者は14都道府県で71人。いずれも最近の海外渡航歴はなく、新宿中央公園の例を除き、70人は東京の代々木公園周辺を訪れていた。重い症状の患者はいない。


 岩手県は9月5日、県内に住む10代の女性がデング熱に感染したと発表しました。岩手県によると、デング熱への感染が確認された女性は、8月17日から18日の間に代々木公園の周辺で蚊に刺され、8月23日に発熱や頭痛、発疹などの症状が出て、岩手県で医療機関を受診したようです。潜伏期間は5日または6日。検査でデングウイルスが確認され、デング熱と確定したということです。

 2014年9月5日配信の時事通信の記事からです。

 神奈川県横浜市は9月5日、東京・代々木公園で蚊に刺されてデング熱に感染した横浜市南区の20代女性(「デング熱国内感染患者 現時点での疫学情報のまとめ(平成26年9月5日)」)(PDF)の第49症例)が、発症3日後に横浜市金沢区の「海の公園」で蚊に刺されていたと発表した。横浜市は同日、女性が蚊に刺された公園内の「犬の遊び場」2カ所を閉鎖。蚊を捕獲してウイルス検査を行う。

 女性は8月17日と24日に代々木公園で蚊に刺され、8月28日に発熱などの症状が出た。8月31日午後3~4時ごろ、海の公園を訪れ、蚊に4カ所程度を刺された。9月3日になってデング熱と診断された。横浜市は今後、ウイルスを持つ蚊が確認されれば駆除を行う。
(追記の終わり)

 残念ながら、デングウイルスが拡散している可能性が出てきてしまいました。

(参考) 「デング熱のウイルスは、日本のヒトスジシマカに常在するようになってしまうのか。(1)

(参考) 「デング熱のウイルスは、日本のヒトスジシマカに常在するようになってしまうのか。(3)

                   (この項 健人のパパ)

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(参考) 「デング熱のウイルスは、日本のヒトスジシマカに常在するようになってしまうのか。(2)

(参考) 「デング熱のウイルスは、日本のヒトスジシマカに常在するようになってしまうのか。(3)

 2013年9月1日、51歳のドイツ人女性が2週間の日本旅行を終えてフランクフルトの空港に降り立ちました。生来健康でしたが、9月3日より、40度の高熱を発し、吐き気に襲われ、続いて、小さく盛り上がって痒みを伴う発疹が体のあちらこちらにでき始めた(斑状丘疹状皮疹、maculo papular)といいます。9月9日にベルリンの病院を受診し、入院しました。鑑別診断の結果、臨床像より、デング熱(dengue fever、デンギー・フィーヴァ)を疑われることになります。9月10日(発症後7日目)に採取された、血清サンプルにおいて、デングウイルス(Dengue virus)IgM及びIgG抗体(間接蛍光抗体法、迅速試験)とデングウイルスNS1抗原(ELISA法、迅速試験)ともに陽性であったことから、彼女はデングウイルスに感染していることが確認されました。入院1週間後、回復して退院しました。

 長野県上田市(8月19~21日)、山梨県笛吹市(21~24日)、広島県(24~25日)、京都府(25~28日)、東京都(28~31日)という旅程をとった女性は、笛吹市で、複数個所、蚊に刺されたと申告したそうです。デング熱の潜伏期間(感染してから症状が出るまでの期間)は、3日から14日である(ほとんどの場合、4日から7日)ことから、笛吹市で感染した可能性が高いといえそうです。

 日本国内で行われている捕集蚊のサーベイランスにおいて、これまでデングウイルスが検出されたという報告はないことから、海外で感染し日本で発症した急性期の患者(診察を受けていないか、デング熱とは認識されず治療を受けた。デング熱に特有な症状はないので、他の感染症として治療され回復している例がかなりあるのではないかと考えられている。デング熱であれば、感染症法によって医師は診断後直ちに都道府県知事などに届け出る)の血液を吸血したヒトスジシマカに刺されることによりデング熱に感染した可能性が考えられます。


                    「デング熱発生届」の一部

 厚生労働省は、2014年8月27日、海外への渡航歴がない女性がデング熱に感染し、発症したと発表しました。デング熱を発症したのは、埼玉県内に住み東京都内の学校に在学中の10代の女性で、国内で感染したものとみられています。女性は、8月20日ごろに高熱などの症状がみられ、さいたま市内の医療機関を受診しました。国立感染症研究所が血液検体を調べたところ、8月26日にデングウイルスへの感染が確認されました。現在、容体は安定しているようです。東南アジアなどを旅行中に感染し、帰国後に発症する輸入感染症の症例は増えています(2014年は8月17日までに98人で、昨年(2013年)は249人だった)が、国内での感染は1945年に確認されて以来、報告がないということです。つまり、69年ぶりということになります。

(参考) 「輸入感染症 - ウイルス感染症の「デング熱」にバリ島で感染し、日本に

 WHO(世界保健機構)のページによれば、デング熱の発生率は過去50年間で30倍に増加しているといいます(The incidence of dengue has increased 30-fold over the last 50 years.)。1970年以前は、デング熱の深刻な流行のあった国は、9か国に過ぎなかったのが、現在では、アフリカ、南アメリカ、東地中海、東南アジア、西太平洋地域の100か国以上で流行しています。南アメリカ、東南アジア、西太平洋地域は、最も深刻で、2008年には120万人以上、2010年には230万以上が感染し発症したと報告されています。

 台湾では、南部の高雄市などで、デング熱(中国語では、音訳して「登革熱(denggere、1-2-4声)」)が流行しているようです。2014年8月26日配信の中央社の記事からです。

 疾管署公布今年至今本土登革熱病例984例,上週新増226例本土病例,副署長周志浩説,這是自2003年来単週最高,創11年新高。(台湾の衛生福利部疾病管制署は、今年のこれまでの国内でのデング熱感染例が984例となり、また、8月19日から25日までの1週間での国内での感染例は226例に及んだと発表した。1週間の記録としては2003年以来で最多となり、11年ぶりの高水準になったと副所長周志浩氏は語った)

 国内で感染し発症した984例の他に、海外で感染し国内で発症した例は129例あったようです。

 他説、境外移入病例感染来源分別為印尼49例,馬来西亜39例,菲律賓20例,新加坡7例,泰国4例,諾魯及緬甸各2例,柬埔寨、法属玻里尼西亜、沙烏地阿拉伯、印度、中国大陸及吐瓦魯各1例。(感染した場所は、インドネシアで49例、マレーシア39例、フィリピン20例、シンガポール7例、タイ4例、ナウル、ミャンマーがそれぞれ2例、カンボジア、フランス領ポリネシア、サウジアラビア、インド、中国、ツバルがそれぞれ1例だったと周氏は語った。)



 外務省の海外安全ホームページの「感染症(新型インフルエンザ等)関連情報」を読むと、2014年7、8月とも、台湾に関しては「感染症スポット情報」が発出されていません。少なくとも台湾南部において、デング熱のウイルスは常在していて、この感染例の数でも例年と大きく変わらないのでしょうか。2007年8月に台湾におけるデング熱発生状況を現地調査した日本の国立感染症研究所の研究員の報告するところによると、デングウイルスの流行した地区は衛生環境が良いにもかかわらず、狭い範囲で短期間に感染が広がったといい、雨季(高雄市は、6月から8月)においては、デングウイルス媒介蚊に対策を講じることは難しいようです。

 日本にも雨の多く降る時期はあります。梅雨期と秋雨期です。温暖化が進み、デングウイルス媒介蚊の繁殖を大きく許すようになれば(例えば、ヒトスジシマカが成虫のまま冬を越すことができるようになれば)、デング熱への感染のリスクが高くなります。デング熱が日本でも流行する可能性は、近い将来高くなるかも知れません。

 外務省の 海外安全ホームページ の2014年2月14日発出(本情報は2014年8月28日現在有効)の感染症スポット情報「東ティモール:デング熱の流行」からです。

 東ティモールでは、2014年に入ってデング熱の患者が急増しています。
 東ティモール保健省によれば、2013年12月28日~2014年2月7日までの患者数は242名で、同時期の患者数としては2009年以降で最も多くなっています。デング出血熱やデングショック症候群といった重症患者も多く発生しており、患者の約40%がこうした重症患者です。また、患者の約90%は首都のあるディリ県で発生しています。
 また、東ティモール国内の医療設備は十分ではなく、デング出血熱やデングショック症候群の治療を十分に行うことはできないため、このような状態が疑われた場合は、直ちにシンガポールなど、近隣の医療先進国への緊急移送が必要となります。


 オーストラリアの北にティモール海を隔てて小スンダ列島の東端にある島がティモール島です。ティモール島は、独立国である東ティモール(East Timor、Timor-Leste(ティモール・レシュテイ)、インドネシア語では、“timur”は、「東」を意味します)と、インドネシアの東ヌサ・トゥンガラ州の一部である西ティモールとに分かれています。

(追記) 2014年8月28日(木)配信のNNNニュースからです。

 厚生労働省は、国内でデング熱に感染した人が、8月27日に発表した女性に加え、さらに2人確認されたと発表した。3人は同級生で、東京の代々木公園でデングウイルスを保有する蚊に刺されて感染した可能性があるという。

 厚生労働省などによると、新たにデング熱への感染が確認されたのは、東京都に住む20代の男性と埼玉県に住む20代の女性で、いずれも海外渡航歴はないという。2人とも入院しているが、快方に向かっている。

 8月26日、埼玉県に住む10代の女性が、デング熱に感染したことが確認されたが、この3人は、東京都内の同じ学校の同級生で、学園祭の練習のため、今月上旬から中旬
(8月11日、14日、18日)にかけて、一緒に週に3回ほど代々木公園に出かけ、蚊に刺されたという。

 厚生労働省によると、蚊がデング熱に感染した人を刺すと、蚊の中で、1週間ほどかけてウイルスが増殖するという。都は8月26日から27日にかけて、3人が蚊に刺された渋谷門付近で35匹の蚊を調べた結果、デング熱のウイルスを持つ蚊は見つからなかったという。

 しかし、都は、代々木公園でデングウイルスを保有する蚊に刺されて感染した可能性もあるとして、この付近を8月29日朝まで立ち入り禁止にして、蚊の駆除を行うという。


 この3人は今月(8月)中旬まで、東京・渋谷区の代々木公園で、30人ほどでダンスの練習をしていたといいます。その機会にデングウイルスを持った蚊に刺され、感染したとみられています。30人ほどでダンスをしていたならば、ほかにも刺された人はいる可能性があります。感染しても全員が発症するわけではないので、不顕性感染者はいることになります。デングウイルスに対する抗体を持っているかの調査は行われるのでしょう(3人以外に感染が疑われる学生はいないと発表されています)。

 いろいろな可能性が考えられます。8月上旬ころ、デングウイルスを持っているヒトを刺した蚊は1匹だった?それとも数匹だった? ヒトスジシマカのオスもメスも花の蜜や樹液などを主なエサとしていますが、メスは機会を見て吸血するとそれを栄養として卵巣を発達させ卵を産み落とすといいます。成虫は30日ほどの寿命であり、メスはその間に4、5回産卵するといいます。

 デングウイルスを持ったメスのヒトスジシマカが1匹だけだった場合は、すでに寿命が尽きて、死んでしまっている可能性もありますが、数匹だった場合は、いまだデング熱を感染させる可能性があります。代々木公園では、8月28日午後5時から1時間半ほどかけて、デング熱の感染が確認された3人が蚊に刺されたとみられる入り口付近を中心に、蚊の駆除作業が行われたそうです。(追記の終わり)

(追記‐2014年8月31日)

 新潟県は8月31日、海外渡航歴がない県内の10代の男性がデング熱に感染した疑いがあると発表しました。この男性は8月20日に学校行事で代々木公園を訪れていて、蚊に刺された可能性があるといいます。8月24日に発熱や頭痛などの症状を訴えて入院。現在は、快方に向かっているそうです。同じ学校で他に症状が出ている人はいなようです。

 8月30日に新潟県の保健環境科学研究所がスクリーニング検査を行ったところ、デング熱に陽性の結果が出ました。新潟県は男性の検体を国立感染症研究所に送り、研究所はデング熱に感染したものかどうかの確認の検査を行っています。検査の結果は早ければ9月1日に判明するそうです。

 スクリーニング検査においては、発熱、強い頭痛などがあるという患者の検体をELISA法などでできる限り多く検査し、その中から陽性反応を示すものを拾い上げ、それに対して確認検査を行います。(追記の終わり)

(追記-2014年9月1日)

 横浜市は8月31日、神奈川県内の10代の女子高校生と20代の男子大学生の2人が、8月末に39度以上の発熱などを訴え、検査の結果、デング熱の陽性反応が出たと発表しました。2人とも代々木公園を訪れており、女子高校生は8月16日から18日にかけてセミナーの合宿で代々木公園付近に滞在し、男子大学生は8月18日、代々木公園を知人と訪れていたといいます。この日本国内でのデング熱感染はどれほどの広がりを持つようになるのでしょうか。

 この3人とは別に、少なくとも10人以上が、デング熱に感染した疑いがあるとみられており、検査が行われているといいます。9月1日昼ごろに、その結果が判明するようです。(追記の終わり)

(追記 -2014年9月1日)

 東京・代々木公園で民放の情報番組の収録をしたタレントの20代の女性2人がデング熱に感染していたことが9月1日、判明したようです。2人は現在治療中といいます。2人は8月21日午後、リポーターとして代々木公園で収録をしていた際、蚊に刺されて感染したとみられるそうです。収録には2人のほか番組スタッフら5人が参加しており、今後検査を受ける予定といいます。

 この女性タレントの1人は、ロケ翌日の8月22日、「両足を32~33か所蚊に刺された」と話していたといいます。26日に熱が出て、病院では風邪と診断され、解熱剤を飲んだことで、熱が下がったようです。ところが、29日夜に再び発熱し、「目の奥が痛い」と訴えたため、30日に別の病院へ行き、デング熱に感染した疑いがあることがわかったといいます。(追記の終わり)

                         (この項 健人のパパ)

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 台風11号(台風201411号、ハーロン、ベトナム北部にあるユネスコの世界遺産(自然遺産、1994年に登録)の「ハロン湾(Vịnh Hạ Long)」に因む)がゆっくりと(自転車程度の速さ(12~20km/時))本州に近づいています。気象庁発表の予報円(台風や暴風域を伴う低気圧の中心が12時間、24時間、48時間、および72時間後に到達すると予想される範囲を円で表したもので、その確率はおよそ70パーセント)の中心の動きを見てみると、いま(8日12寺30分)からおよそ20時間後の8月9日(土曜日)9時にはまだ九州の南方沖にあって、その24時間後の10日(日曜日)には急速に速度を増して、中国地方を移動していることになります。台風の上陸は、9日の深夜に四国地方(米軍台風情報センター(JTWC、Joint Typhoon Warning Center) の予報円によると、高知県の西部)ということになります(実際は、10日午前6時過ぎ、高知県安芸市付近に上陸)。

 上陸が四国地方であった台風は、2004年には4号(6月11日16時過ぎ、高知県室戸市付近)、6号(21日9時30分頃、高知県室戸市付近)、10号(31日16時過ぎ、高知県西部上陸)、11号(8月4日22時30分頃、徳島県東部上陸)、21号(9月29日15時過ぎ、高知県宿毛市付近)、23号(10月20日13時00分頃、高知県土佐清水市付近)と多発したのですが(四国地方に接近した台風(台風の中心が四国4県のいずれかの気象官署から300km以内に入った場合)の数に範囲を広げると9つ)、2005年から2010年までは生じず、2011年に2つ、6号(7月19日23時頃、徳島県南部上陸 )、12号(9月3日10時頃、高知県東部上陸)があります。



 2011年9月3日、高知県東部に上陸した台風第12号(Talas、タラス)が惹き起こした豪雨は、紀伊半島(和歌山県・奈良県・三重県)において甚大な被害を起こし、「紀伊半島大水害」と呼ばれます。台風による被害は、強風によるものよりも、豪雨によるものの方が圧倒的に大きく広範にわたります。台風の中心から東側に位置した紀伊半島では総降水量は広い範囲で1,000mmを超えたといいます。1,000mmは1mです。それが低地に流れ込んでいくのです。奈良県上北山村にあるアメダスでは72時間雨量(3日間で降った雨の量)が1652.5mm。プールの水を抜いて空にしておいても、3日間で水深1.6mほどに水が溜まるということなのです。雨が止むまででは、1.8mほどになったのです(総降水量は1808.5mmに達した)。

 もちろん、プールは栓が抜かれています。だから、溜まる一方ということはありませんが、短時間にプールの水を増やすと、プールの排水口にあたる「川」が十分に水をはけさせられないということが起こります。雨が続くと、川は増水し、流れ込む水を海へと運ぶ前に低地に溢れさせてしまいます。

 文部科学省が所管する「国立情報学研究所」は、「デジタル台風」というウェブサイトを公開して、台風のデータベースを提供しています。「デジタル台風」には、台風の発生から消滅までをブログで記述する「台風ニュース・ウェブログ」があります。そこからの引用です。2011年09月01日の21時30分の記事です。

 台風12号(TALAS)は日本の南にあって、ゆっくりと北上を続けています。本州から九州にかけての南岸も次第に台風の強風域に入ってきました。この台風は大型であって、ゆっくりと進んでいるため、急速に衰弱することはあまりなさそうです。勢力を保ったまま上陸する可能性があり、十分な警戒が必要です。台風が本州のはるか南方にある本日からすでに大雨は始まっており、本日の大雨地域は関東地方西部の山沿い、そして中国地方西部に広がっています。

 この台風のコースでは、長時間続く湿った東風による大雨に警戒する必要があります。アメダス降水量マップでGPV風向・風速レイヤを表示してみると、台風の周囲を吹く東風が本州に流れ込んでいる様子がわかると思います(ちなみにアメダス風向・風速マップでも同様に風向きを表示できます)。通常であれば東風による大雨警戒地域は四国南部や宮崎県、紀伊半島東側などになるのですが、今回の台風では関東地方西部の山沿いも要警戒地域に加わりそうです。近年では台風200709号による大雨が、関東地方西部の雨量が大きいパターンでしたが、今回の台風でもこのパターンの大雨に警戒が必要かもしれません。

 またここで改めて、台風の中心が接近することと大雨が発生することとは別だ、という事実にも注意喚起しておきたいと思います。例えば、東京で発生した水害としてインパクトが大きくテレビドラマにもなった多摩川水害ですが、この際に関東地方西部で大雨を引き起こした台風197416号の上陸地点は、関東から遠く離れた高知県なのです。気象情報で「台風本体の雲」という表現を聞くことがありますが、これは台風を取り巻く雨雲を指しており、中心からの距離が小さいところに強い雨雲があります(厳密に言えば台風の眼があるので、中心から少し離れたところに最も強い雨雲があります)。ところが「台風本体の雲」による大雨ではなく、台風の周囲を吹く湿った風が山脈などにぶつかって上昇することが原因の大雨もあります。このタイプの大雨には地形や風向き、湿度などが大きく影響し、台風からの距離はあまり関係ありません。


 2014年8月8日のNHKのニュースからです。

 今後の台風の見通しについて、気象庁の佐々木洋主任予報官は午前11時から記者会見を行い、「台風11号は勢力を維持したまま9日には九州や四国に近づき、その後、上陸するおそれがあり、広い範囲で大雨になるおそれがある。特に西日本の太平洋側を中心に雨量が非常に多くなり、ところによっては総雨量が1,000mmを超えるおそれがある。また、東日本や北日本など台風から離れた場所でも前線などの影響で雨が強まるおそれがある」と説明しました。



 日本に上陸することはなく、韓国の西に抜けて行った台風12号(NAKRI、ナクリー、台風201412号)は、中心付近に雲が少なく、雨雲が中心から離れて、著しく南東に偏って分布していました。韓国の西で動きが遅くなった台風12号は、そのエネルギーで、日本に雨雲を送り込む「巨大な送風機」となって、四国地方を中心に豪雨をもたらしました。高知県香美市(かみし)土佐山田町繁藤(しげとう)にある「アメダス繁藤観測所」では、72時間雨量で1184mmを記録し、記録上で多い方から11番めに相当する雨量に達しました。



 高知市では、8月に入って、1週間で900mm近い雨が降ったといいます。高知市の年間降水量は、およそ2,500mmで、その3分の1以上がたった1週間で(1年間は52週ほど)降ったことになります。台風11号の上陸が予想される高知県は、もう土地の保水能力の限界に達しており、これ以上雨が降ると、高知県内では、いつどこで土砂災害などが起きてもおかしくない状況となっています。

 気象庁が発表した24時間の予想雨量は多いところで、8日夕方から9日夕方まで、四国地方では500mm、近畿地方では300mm、9日夕方から10日夕方まで、四国地方では400~600mm(雨量は前日と比べて衰えないという予想です)、近畿地方では600~800mm(雨量が前日の2倍以上になるという予想です)となっています。




 「台風ニュース・ウェブログ」の2014年08月08日の19時の記事からです。

 台風11号(HALONG)は動きが遅く、長時間雨が続くことが心配されています。特に、台風12号で1300mm以上の大雨となった四国南部では、この大雨でさらに最大1000mmの大雨が予想されており、大雨への厳重な警戒が必要です。雨雲レーダーのデータを、特に四国南部を中心に切り取った動画にしてみると、四国南部には太平洋から流れてくる雨雲が次々と押し寄せており、大雨は既に始まっています。また四国南部だけではなく、北陸や東北でも雨量が増えています。

 気象庁は予報用語として雨の強さを5階級に分けています。やや強い雨、強い雨、激しい雨、非常に激しい雨、猛烈な雨の5階級で、1時間雨量で決まります。ザーザーと降る、1時間雨量が10mm以上~20mm未満が予想されるときは、「やや強い雨」、どしゃ降り(20mm以上~30mm未満)が「強い雨」、バケツをひっくり返したように降るとき(30mm以上~50mm未満)が「激しい雨」、滝のように降る(ゴーゴーと降り続く)とき(50mm以上~80mm未満)が、「非常に激しい雨」で、1時間雨量が80mm以上の場合は、「猛烈な雨」となります。猛烈な雨を実際に観測した場合、「記録的短時間大雨情報」が発表されることがあります。

 高知県安芸郡馬路村魚梁瀬(やなせ)にある「アメダス魚梁瀬観測所」の実況を見ることができます。それによると、2014年8月9日の16時から22時のデータでは、16時に33.0mm、17時に34.0、18時に33.0と「激しい雨」が降り、19時には53.0mmを記録して、「非常に激しい雨」となり、20時では45.5、21時に38.5、22時に40.0mmとなっています。「紀伊半島大水害」を惹き起こした2011年9月の台風第12号は、魚梁瀬で、72時間で記録上で多い方から9番めに相当する雨量1199.0mmを降らせています。このとき、三重県多気郡大台町久豆にある「アメダス宮川観測所」では、1517mmという2番目に相当する雨量を記録しています。



 8月9日午後5時20分、三重県の津地方気象台が「大雨特別警報」を発表しました。台風11号の中心から約500km北東に離れた三重県で特別警報を出したことについて、気象庁は「台風の東にレインバンドと呼ばれる強い雨を降らせる帯状の雲が南北に延び、停滞していたため」と説明しています。

 台風の眼の外側は、猛烈な上昇気流によって作られた積乱雲の壁があります(アイ・ウォール、eye wall)。そのアイ・ウォールの外側には、台風に流れ込んでくる空気の流れに沿って積乱雲(Cumulonimbus、Cb)が螺旋状の雲列を形成します(スパイラル・バンド、spiral band)。これが「内側降雨帯」を構成しています。台風本体の雲塊です。これらの雲とは離れた場所に、積乱雲の帯が発生することがあります(外縁部降雨帯、outer rainband、アウター・レインバンド)。この積乱雲の帯はスパイラル・バンドに並行しており、台風11号の東側から流れ込んだ空気が三重県上空に多くの積乱雲を発生させていたわけです。



 台風による災害から身を守るには、台風をよく知ることであると考え、多くのサイトを参考にさせていただきました。ありがとうございました。

                      (この項 健人のパパ)

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 長い間、ブログの更新ができていませんでしたが、そんなブログでも丁寧に読んでくださる方がいて、骨粗鬆症、日本脳炎、インフルエンザなどの記事はページビューが多いようです。次のようなコメントを当ブログの読者の方から頂戴しました。

 テリボンをすすめられ毎週1回打ってもらっています。42回目で骨密度を測りましたら、始めた頃よりあまりupが無く、先生は横ばいだから続けましょうと言われました。その日は数時間後に吐き気が酷く夕飯があんぱん1個というぐらいです。50回でもと言うのですが折角ここまで来たのにとあきらめられませんが吐き気も辛く逡巡しています。71歳です。骨密度は若い人に比べると50%ぐらいで、同年代に比べると83%です。宜しくご指導ください。(2013-09-26 15:05:26)

 骨粗鬆症への対応として、ヒト副甲状腺ホルモン製剤テリパラチド(商品名「テリボン」、「フォルテオ」)を用いていられる方もおり、その投与の副作用として、吐き気などの副作用に苦しんでおられる方も多くいます。「テリボン 副作用」の検索でこのブログに辿り着く方も多く、また「テリボン」の記事にコメントをお寄せくださる方の多く(コメントの掲載は選択させていただいております)がその副作用についてです。

 フォルテオの自己注射を始めて5か月になります。最近、神経痛のような症状が出て悩まされています。他に思い当たる原因もないので、もしやフォルテオの副作用かも? とあちこち検索しててこのブログに行き当たりました。詳しく分かりやすく書いてくださってて助かりました。現在の症状が副作用かどうかは未知数ですが、いろんな情報を参考にして対処していきたいと思っています。有難うございました。(2013-06-14 10:03:07)

 骨粗鬆症の怖いところは、「椎体圧迫骨折」をして、寝たきりになってしまうことです。「寝たきり」の生活は当然辛いものです。少し前から、寝たきりに近い状態になってしまった母は、「早くお迎えが来てほしい」とよく口にするようになりました。ベッドでテレビを見て1日を過ごすだけの生活に苦痛を感じているのです。踊りの先生をしていて、多くの生徒さんを教えて、発表会で「お弟子さん、とても上手に踊られるようになりましたね」という言葉を聞くのをとても楽しんでいた母にとって、人に会わず(自分の弱った姿を見られたくないためにお弟子さんの面会を拒んでいる)、日が暮れて眠くなるのを待つ1日はそれはそれは辛いものでしょう。

 テリボンの副作用に苦しむ皆さん。ここで、その辛さを吐き出してみませんか。辛さを共有できれば、少しは楽になれると思います。コメントに書き込んでください。本文に転載します。

 「テリボン」の販売元「旭化成ファーマ株式会社」が2012年年7月に「市販直後調査期間中の副作用発現状況のご報告(調査期間:平成23年11月25日~平成24年5月24日)」という文書を出しています。そこに記述される骨粗鬆症治療薬『テリボン皮下注用56.5μg』(一般名:テリパラチド酢酸塩)の副作用の発現状況を見てみましょう。



 販売開始から6ヵ月間にテリボンを投与されたと推定される症例数は約28,000例で、調査の対象となった医療機関6,828施設から収集した副作用は、1009例1584件だったようです。これによると、28例に1例は副作用が報告されたことになります。その主な副作用は、「悪心」417件、「嘔吐」147件、「浮動性めまい」114件、「頭痛」112件、「発熱」80件、「動悸」68件、「血圧低下(低血圧を含む)」67件などでした。悪心は、投与により副作用を経験する人の26%(4人に1人)ほどに発現することになり、投与後2時間以内に悪心が発現するのは75.9%と高率になったようです。





 悪心(おしん、nausea(ノーズィア))とは、今にも吐きそうな実に不快な感覚で、車酔いや船酔いで味わうあの感覚です。「吐き気」という言葉にしてしまうと伝わらない不快さがあります。テリボン投与後、2時間以内にこの悪心が発現し(75.9%、4分の1の人は2時間よりも後に発現)、それは4時間以内に消失した(61.5%)という報告があります。このことは長くとも4時間耐えれば(十分に短いということが言える持続時間ではありません)、悪心が消えるということであり、また4時間以上続く人も4割ほどもいるということでもあります。悪心から嘔吐に至るケースもあり、嘔吐に至った場合、86.0%において、投与から3時間以内に嘔吐したとあります。嘔吐は始まってから3時間以内に消失する(63.6%)といいますが、それほどにも続くとも読み取れます。




 テリボンの投与を受けた200人に3人(1.49%)は悪心を経験することになり、悪心を感じた人の中で、投与後30分以内に現れた人は22.6%、30分~1時間以内では18.8%、1~2時間以内では34.6%で、投与後悪心の現れた人の5人に2人(41.4%)は1時間以内であり、3人に1人(34.6%)は1時間を過ぎ2時間以内であったことになります。悪心が続いた時間は、1時間以内であった人は28.6%、1~2時間であった人は15.4%、2~3時間であった人は14.1%だったそうです。



 血中のある種の薬物や毒物などに反応して、嘔吐中枢に刺激を送り、嘔吐を誘発する受容器があります。ドーパミンD2受容体、5-HT3受容体、ムスカリンM1受容体などです。これらの受容器のある領域を「化学受容器引き金帯(chemoreceptor trigger zone、CTZ)」と呼んでいます。テリボンの投与で、悪心や嘔吐が起きることがあるのは、この受容体がテリボンで活性化するためと思われます。

 上部消化管や延髄のCTZに存在するドーパミンD2受容体などが活性化すると吐き気や嘔吐が起こることから、この受容体への拮抗作用により吐き気を抑える薬剤があります。「ドンペリドン(domperidone、商品名はナウゼリン(協和発酵キリン))」は、主に上部消化管のドーパミンD2受容体に作用します。「メトクロプラミド(metoclopramide、商品名はプリンペラン(アステラス製薬))」は、CTZにも移行し、ドーパミンD2受容体に作用します。



 悪心という副作用に際して、テリボンの投与を「継続」した症例は、投与を「中止」した症例の半分以下と少ないですが、悪心、嘔吐の処置薬としてドンペリドンやメトクロプラミドが投与されて、テリボンの投与が継続されたケースが報告されています。

 喩えてみましょう。私たちの体の中には「吐き気スイッチ」がついています。ある種の薬物や毒物が入ってくると、このスイッチが入れられます。すると、吐き気を催すのです。吐くことによって、その薬物や毒物は体外に排出されます。生体の防御作用を担っているのです。しかし、どの薬物・毒物に反応してスイッチが入るかは、個人差があるようです。もちろん、その濃度や体調にもよるのでしょう。データによると、テリボンという薬物に対しては、200人に3人は「吐き気スイッチ」が入ったということになるのでしょう。

 この「吐き気スイッチ」に蓋をしてしまい、スイッチが入らないようにしてしまうのが受容体阻害薬である「ドンペリドン(domperidone)」や「メトクロプラミド(metoclopramide)」という薬剤です。

 メトクロプラミドは、人によっては、腹痛や下痢、めまい感や眠気が現れます。「悪心」というテリボンによる副作用を抑えようとして、メトクロプラミドによる別の副作用を経験することもあるようです。あるブログにこんな記述がありました。午後遅くに病院に行き、テリボンを投与してもらい、夕食を食べたら、吐き気止めにもらったメトクロプラミド(「プリンペラン」、ジェネリック医薬品もある)を服用する。すると、入浴などをしているうちに、やがてメトクロプラミドの副作用で眠気がさしてくるから、就寝。朝まで目が覚めなければ、悪心も感じない。

 メトクロプラミドは、通常成人1日7.67~23.04mg(年齢・症状による)を2~3回に分割し、食前に経口服用します。

(参考) 「注目の新薬「テリボン」は骨粗鬆症の治療に劇的な効果を上げるか。

 匿名さんから次のようなコメントをいただきました(2014-07-06 00:03:47)。同じような経験をなさっておられるご家族は数多くいらっしゃると思われます。皆さんだったらどのようなお返事をなさいますか。コメント欄に書き込んでいただくと有難いです。

 今年の元旦に80歳を迎えた私の母親は、昨年末辺りに腰の骨を圧迫骨折してしまい、テリボン注射を毎週一回打ちに行っています。が、今年の3月に階段から足を踏み外して左脚の踵を骨折し、二ヶ月に及ぶ入院生活を余儀無くさせられておりました。元々母親は高血圧なので、その薬を飲んでいましたが、低血圧のせいで何度か意識がなくなり大変な状態になりました。退院をしても1度キッチンの入り口で倒れてしまい、顔を叩いて名前を呼んだのですが、中々意識が戻らなくて焦りました。

 今では、ふらつきとかは無くなったものの、毎週の注射は連れて行く方も大変です。何故なら母親は左目の視力が殆んど無く、右目も微かにしか見えていない状態なので、車椅子で病院に連れて行っています。晴れた日は何とかなりますが、雨の日は大変です。テリボンよりも良くて飲むことが出来る薬は無いのでしょうか?母親よりも先に私の方が倒れそうです。


(参考) 起立性低血圧(orthostatic hypotension)という症状があります。寝ていた状態や座っていた状態から急に立ち上がったときに、血圧が急激に下がり、ふらつきやめまいなどを感じ、時には心神してしまうことです。起立性低血圧という症状が現れる原因の一つに薬剤があります。
 テリボンの添付文書には、「(1)一過性の血圧低下、意識消失(投与直後から数時間後にかけて)があらわれることがあるので、投与後に血圧低下、めまい、立ちくらみ、動悸等が生じた場合には、症状がおさまるまで座るか横になるように患者に指導すること。(2)一過性の血圧低下に基づくめまいや立ちくらみ、意識消失等があらわれることがあるので、高所での作業、自動車の運転等危険を伴う作業に従事する場合には注意させること」という記述があります。(参考の終わり)

 オレンジさんから次のようなコメントがありました(2014-07-18 11:56:31)。投稿者の経験した事柄について、掲載してあります。

 ワタシの母は81歳です。昨年5月の連休に圧迫骨折をし、連休中に診療している整形外科でテリボンを毎週注射するようになりました。今年の2月に一度、一瞬の意識消失があり、血圧の低下が見られました。同じクリニックの内科で診ていただき、朝晩血圧を測るように言われ、様子を見ていました。

 5月初旬に眼科の緑内障の視野検査後にまた一瞬の意識消失がありました。掛かりつけの内科に相談したところ、すぐに脳神経外科に行くように言われ、CTやMRIの検査をして頂きましたが、問題はありませんでした。

 5月15日に整形外科でテリボン注射後、お会計等のころにまた意識消失があり、血圧の低下が認められたようです。すぐに向かったところ、すでに救急車が到着し、ワタシもすぐに乗り込み、クリニックのスタッフとは何があったのか話を聞いておりませんが、救急車の中では血圧の急上昇があり、200近くになっていました。本人、意識は戻っていましたが、意識障害、パニック状態、ずっと排尿してるような状態で、ワタシのこともわかりませんでした。

 病院に到着し、CTを撮り出血がないので、脳梗塞の疑いがあるのでそちらの治療をしてくださいました。本人動いてしまって、MRIは撮れる状態ではありませんでした。翌日病院に行き少し回復し、ワタシのことはわかるようになりましたが、失語症のような症状がありました。

 3日目はまた更に回復し、MRIも撮り、脳梗塞もないことが確認され、治療は中断されました、飲んでいた薬が体から抜け、どんどん回復していました。首のエコーや脳波も異常はなく、先生も原因はわからない状態ですが、投薬していた薬の中に、サインバルタという抗鬱剤もあったようで、その副作用も気になりますが、いつも注射のあとに倒れていたので、テリボンが体に蓄積されて限界を超えてしまったのかなと身内では考えています。




 次のようなコメントを当ブログの読者、70歳主婦の方から頂戴しました。(2015-01-05 12:28:44)

 昨年9月、風邪の咳から胸椎椎体圧迫骨折で(テリボンの)注射を週一しております。痛みは取れつつありますが、(骨密度の検査値の)数値が上がりませんので、現在も継続しています。
 副作用は吐き気です。注射してから2~3時間後に出ます。でも、ひと寝入りしますと治まります。当日はやはり無理しないことですね。リハビリもがんばっています。もう少し人生を楽しみたいですね。

 前向きに考えて暮らしていらしゃるのはうれしいですね。これからも楽しい人生でありますように。

 次のようなコメントを当ブログの読者から頂戴しました。(2015-02-16 17:35:45)

 デリボン注射を骨粗鬆症治療目的で投与し、意識喪失し、救急車で入院。高Ca血症を起こし、腎不全となりました。大変思いがけない出来事で現在もまだ以前どおりの生活は不可能です。

 高カルシウム血症(hypercalcaemia)とは、血漿中のカルシウム濃度が10mg/dLほどという正常域の高値を大きく逸脱し、異常に高値を示す状態です。血漿カルシウム濃度が12mg/dLを上回ると、嗜眠、意識混濁、昏迷(激しい物理的な刺激によってのみ覚醒させることができる状態)、昏睡(激しい物理的な刺激でも覚醒させることができない状態)といった意識障害を引き起こします。

(参考) 「骨粗鬆症治療薬「フォルテオ」の副作用にはどのようなものがあるか。

  ----- この記事は、徐々に記述していきます -----

                      (この項 健人のパパ)



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 北海道札幌市手稲区にある「手稲渓仁会病院」が「国立病院機構仙台医療センター臨床研究部ウイルスセンター」とともに2013年12月24日に「今インフルエンザシーズンの初めに経験したA(H1)pdm09亜型ウイルスによる健康成人の重症インフルエンザ肺炎症例について」という報告をしています。

 それによると、「インフルエンザ流行期のごく初期である11月中旬に、本邦ではここ2インフルエンザシーズンほど影を潜めていたA(H1)pdm09亜型ウイルスが原因と思われる健康成人の重症インフルエンザ症例を経験した」といいます。そして、2009~2010年にかけて大流行したインフルエンザA(H1)pdm09亜型ウイルスが、世界的に見ると、「一昨年あたりから分離ウイルスの中で大きな割合を占めるようになってきており、今後わが国でも再び警戒しておく必要があろう」と警告を発します。



 国立感染症研究所 が報告している「週別インフルエンザウイルス分離・検出報告数」(2014年2月6日現在)を見てみると、2014年に入ってから、AH1pdm09(AH1N1)が、AH3(A香港型)と比べて、非常に多くなって多くなっていることがわかります。



 また、「インフルエンザウイルス分離・検出例の年齢群(2013年第36週~2014年第6週)」を見ると、AH1pdm09の患者数の割合がAH3などと比べて、0歳から6歳にかけて多いことが見てとれます。



 報告されている患者は38歳の女性で、免疫不全はないとのことです。患者は社員が海外と行き来のある旅行関連の会社に勤務しており、今回の原因ウイルスが海外から持ち込まれた可能性もあるといいます。しかし、原因ウイルスがすでに水面下で地域流行していて感染した可能性も否定できないともいいます。経過を見ていきます。

11月上旬…37℃台の微熱を伴う「乾性咳漱(空咳(からせき)、痰(たん)を伴わない乾いた咳)」があった。
11月16日…38.0℃の発熱と呼吸困難のために札幌のA病院を訪れた。当初、「咳喘息(気管支の慢性的な炎症が主な原因で、空咳が続く)」が疑われ入院した。
11月19日…胸部レントゲンとCT検査で両側の「間質性肺炎(絡み合っている肺胞と毛細血管を取り囲んで支持している組織である「間質」が炎症を起こす」)像が認められ、鼻腔ぬぐい液を用いた迅速検査でA型インフルエンザ抗原が陽性となった。
11月19日…ウイルスに対する特異的治療としてラピアクタ300mg/日、タミフル150mg/日がそれぞれ11月28、30日まで投与されたが、症状の改善には至らなかった。
11月19日…その後、低酸素血症が確認され、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の状態に陥り、ICUで挿管管理下に置かれた。
12月…喀痰からメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)が検出されたため、細菌性肺炎としての治療も開始されている。
12月13日(報告日)…現在、多臓器不全の傾向にある。

 11月20日とその2週間後の12月2日に採取されたペア血清について、赤血球凝集抑制(HI)試験を行ったところ、A/California/07/2009(H1N1pdm09)ウイルス抗原に対して、急性期(11月20日)HI価が1:10であったところ、2週間後(12月2日)の血清では1:320と大きな上昇が認められたと言います。その一方で、A/Texas/50/2012 (H3N2)、B/Massachusetts/2/2012(山形系統)、B/Brisbane/60/2008(Victoria系統)に対しては、HI価の上昇は見られず、すべて1:20 となったそうです。A(H1)pdm09ウイルスによる感染があったことになります。

 感染症の診断、ワクチンの効果の判定に使用される「ペア血清(paired serum)」という手法があります。ペア血清は、同一被験者から期間をおいて採取された1組の血清です。例えば、感染初期の血清(「急性期血清」)と病気が回復した後の血清(「回復期血清」)とを1組とします。急性期血清と回復期血清とでどの程度の抗体価の上昇がみられるかを検査します。例えば、ペア血清の抗体価が4倍以上上昇した場合に、そのウイルスの感染を推定します。

 インフルエンザを発症した患者においては、症状が出てから4日以内の「急性期」には、その系統のインフルエンザウイルスに対する「抗体」はまだできていないのですが、症状が出てから2週間~4週間経った「回復期」には、「抗体」ができています。このため、血清中の抗体価をHI試験によって比較すると、インフルエンザウイルスに感染していれば、大きな差となって現れてくるのです。

(参考) 「ワクチンが充分には効かない「抗原性変異」と「赤血球凝集抑制試験」と、、、

 「長野県立こども病院小児集中治療科」が「長野県環境保全研究所感染症部」とともに2014年2月10日に「インフルエンザA(H1N1)pdm09による生来健康小児の急性インフルエンザ脳症死亡例」という報告をしています。

 その報告には、「今シーズン流行初期である2014年1月中旬に、生来健康な9歳児がインフルエンザ脳症を発症し、発症から2日目に死亡した」こと、「A(H1N1)pdm09による急性脳症を発症し、集中治療にもかかわらず死亡」したこと、「救急要請から2時間半後の集中治療室入室時にはすでにショック、DIC状態と病勢が強く救命しえなかった」ことに、強い無念さがにじんでいます。

 DIC(disseminated intravascular coagulation)とは、播種性血管内凝固症候群または汎発性血管内凝固症候群のことで、血液凝固反応は本来は出血箇所のみで生じるはずなのですが、それが全身の血管内で無秩序に起こる状態を言います。

 正常であれば、血管内では、血管内皮の抗血栓性や血液中の抗凝固因子の働きにより、必要な箇所以外では血液は凝固しません。ところが、何らかの原因で凝固促進物質が大量に血管内に流入することが起これば、抗血栓性の制御能を失うことになり、全身の細小血管内で微小血栓が多発して、臓器不全へと進行することになります。

 経過をこの報告から辿ってみます。

1月9日…咳嗽、鼻汁出現。
1月10日…朝6時、38.5℃の発熱出現。
1月10日…総合病院小児科を受診、鎮咳去痰薬と解熱剤(アセトアミノフェン)が処方された。抗インフルエンザ薬は投与されず。
1月11日…咳嗽、鼻汁が増悪したが、お昼に少量食事摂取(プリン)。
1月11日…「ドスン」というベッドから落ちるような音が聞こえ、うなり声、尿便失禁、開眼しているも視線合わず、顔色不良という状況で発見された。
1月11日…13時50分に救急要請、総合病院小児科へ搬送された。搬送中に嘔吐あり、呼びかけには反応なし。同医で迅速診断キットにてインフルエンザA陽性。
1月11日…集中治療目的で長野県立こども病院にドクターヘリ搬送となった。
1月11日…長野県立こども病院到着時、Glasgow Coma Scale(GCS); E4V1M1で、眼球左方偏位、左上肢屈曲位で硬直していた。痙攣持続していると判断され、気道確保など集中治療を開始したが、ショック状態は続いていたため、人工心肺装置を装着し循環管理を開始した。また出血傾向ありDICも合併していた。
1月11日…抗インフルエンザ薬(点滴注射薬ペラミビル。商品名は「ラピアクタ」)に加えて、ステロイドパルス(炎症を早急に抑える必要があるときに、ステロイド薬を大量に点滴する治療方法)、シクロスポリン(サイトカインの産生と遊離を抑制する抗生物質)などインフルエンザ脳症に対する特異療法を開始した。しかし、脳波は平坦となった。
1月12日…瞳孔散大と対光反射の消失を認めたため、人工心肺を中止。

 意識障害の程度を記録する「グラスゴー・コーマ・スケール(Glasgow Coma Scale、GCS)」が、E4V1M1だったことから、開眼機能(Eye opening)は、「自発的に、または普通の呼びかけで開眼」、言語機能(Verbal response)は、「発語みられず」、運動機能(Motor response)は、「運動みられず」という状態であったようです。

 白血球が分泌し免疫系の調節に機能するインターロイキン (interleukin)、ウイルスの増殖阻止や細胞の増殖抑制で機能するインターフェロン(interferon)、細胞にアポトーシスを誘発する腫瘍壊死因子(TNF-α)やリンフォトキシン(TNF-β)など、細胞から分泌されるタンパク質で、特定の細胞に情報伝達をするものをサイトカイン (cytokine)と言います。

 サイトカインは免疫系による感染症への防御反応として産生されることもあり、それが過剰なレベルになる(サイトカイン・ストーム)と、多臓器不全などを引き起こします。インフルエンザウイルスは、例えば肺細胞に対して影響を及ぼすと、肺組織においてサイトカインが過剰に分泌され免疫系を刺激します。肺に移動した白血球は肺の細胞を破壊し、肺胞炎、肺胞浮腫が起こり、患者は呼吸困難に陥ることになります。このようなサイトカイン・ストームは、健康で免疫系が正常な若年の患者に起こりやすいと言われています。

(参考) 「ウイルス感染が誘発する「サイトカイン・ストーム」と「多臓器不全」

 「札幌市衛生研究所」や「国立感染症研究所インフルエンザウイルス研究センター」などが2014年1月6日に報告した「2013/14シーズンに札幌市で検出された抗インフルエンザ薬耐性A(H1N1)pdm09ウイルス」によると、「A(H1N1)pdm09ウイルスの抗インフルエンザ薬耐性株サーベイランスにおいて、札幌市で検出されたA(H1N1)pdm09ウイルスがいずれもNA蛋白にH275Y耐性変異をもち、オセルタミビル(商品名タミフル)およびペラミビル(商品名ラピアクタ)に耐性を示すことが確認された」といいます。

 「2013/14シーズンに札幌市の患者から分離されたA(H1N1)pdm09ウイルス5株について、札幌市衛生研究所において遺伝子解析による薬剤耐性マーカーの1次スクリーニングを行ったところ、5株すべてがH275Y変異をもつことが明らかになった」のだそうです。11月中旬に札幌市内の病院で、健康成人の重症インフルエンザ症例の発生があり、国立病院機構仙台医療センターでの患者臨床検体の検査によって検出されたA(H1N1)pdm09ウイルスのRNAについて、「国立感染症研究所において遺伝子塩基配列の解析を行った結果、札幌市衛生研究所で分離された5株と同様にH275Y変異をもつことが明らかになった」ようです。

 オセルタミビルおよびペラミビルに対して耐性を示すことが確認されたH275Y変異をもつ5株は、一方、ザナミビルおよびラニナミビルに対しては感受性を保持しているようです。つまり、ザナミビル (専用の吸入器によって吸入投与。商品名「リレンザ」)やラニナミビル (吸入投与。商品名「イナビル」)はH275Y変異をもつウイルスに対しても、増殖を防ぐ効果があることになります。

 インフルエンザウイルスは、ノイラミニダーゼ(Neuraminidase)という酵素をその表面に持っています。この酵素には、宿主細胞で複製されたウイルスを宿主細胞から遊離させするという働きがあります。オセルタミビル (商品名「タミフル」)やペラミビル(点滴注射薬、商品名「ラピアクタ」)という抗インフルエンザ薬は、このノイラミニダーゼの働きを阻害します。遊離できなくなるのですから、ウイルスは増殖できなくなります。

 ノイラミニダーゼは糖タンパク質であり、アミノ酸をその構造に持ちます。インフルエンザウイルスの中には、ノイラミニダーゼの275番目のヒスチジン (histidine、略号はHis、H) というアミノ酸がチロシン(tyrosine、略号はTyr、Y)というアミノ酸に変わっているものがあります。これを「H275Y変異」といいます。これが起こっていると、「タミフル」や「リレンザ」は、ウイルスのノイラミニダーゼを認識できなくなります。ウイルスの増殖を許してしまうのです。しかし、この変異はザナミビル (とラニナミビルという抗インフルエンザ薬には通用しないようです。

 長野県の小児から2014年1月11日に採取した咽頭と鼻腔ぬぐい液を長野県環境保全研究所に送付し、RT-PCR法を用いて遺伝子検査を実施したところA(H1N1)pdm09が検出されたそうです。MDCK細胞で分離されたA(H1N1)pdm09株に対し、TaqMan RT-PCR法を用いてNA(ノイラミニダーゼ)遺伝子を解析したところ、オセルタミビルおよびペラミビルの臨床効果の低下に関与しているといわれている耐性変異(H275Y変異)は検出されなかったといいます。

 この小児の発症と同時期に父、弟2人(5歳、2歳)にも迅速検査が行われていますが、迅速診断キットでインフルエンザA陽性であったといいます。なぜ、この小児だけが重篤化し死に至ったのでしょうか。亡くなった小児はワクチンの接種を受けていなかったといいます。しかし、想像するに2人の弟も接種を受けていなかったことでしょう。なぜ、この小児だけが重篤化し死に至ったのでしょうか。インフルエンザワクチンには、感染予防(罹患予防)、重篤化予防、死亡回避の効果があるといわれています。ワクチンの接種は受けた方がいいのかも知れません。

(参考) 「ワクチンって効くの? インフルエンザワクチンの有効率を考える

(参考) 「我が子の命を守るために親として「インフルエンザ脳症」を知る

 2014年2月10日(月)配信の毎日新聞の記事からです。

 国立感染症研究所は2月10日、長野県内の男児(9歳)がインフルエンザ脳症で死亡したと発表した。男児から検出したインフルエンザウイルスのタイプは、今季流行しているA型のH1N1型だった。このタイプは、2009年に新型インフルエンザとして流行し、その際に脳症を発症する患者が多かったため、同研究所は今後も脳症の患者が増える恐れがあるとして関係者に注意を呼びかけている。長野県立こども病院によると、男児は1月10日に発熱などの症状が出た。翌日に症状が悪化。県内の病院に救急搬送され、インフルエンザと診断された。その後も顔色が悪いなど症状が悪化し、1月12日に脳症で死亡した。

                  (この項 健人のパパ)

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 夫と二人で軽井沢の「丸山珈琲」の東京進出2店舗目(丸山珈琲は20数年前(1991年)に軽井沢で創業された珈琲店です)、西麻布店の「プレオープン」に行って来ました。その前日、尾山台店(2012年開店)に友人とコーヒーを買いに行った際に、「是非プレオープンに行かれては」と、スタッフの方々に勧められたのです。

 もう最高でした。フルーツジュースのような爽やかな酸味を持ったコーヒーをおいしくいただけて大変に満足しています。

 いろいろなコーヒーの試飲をさせていただきました。フレンチプレスで淹れたもの、ゴールドドリップで淹れたもの、日本に2台しかないというサイフォンを半自動化したような「Alpha Dominche(アルファ・ドミンチェ社)」のコーヒー抽出装置「スチームパンク(steampunk brewing system)」で淹れたもの(スチームパンクの日本最初の導入は、「村澤智之」氏がディレクターを務めるTHE COFFEESHOP ROAST WORKS でした)、といろいろと試飲し、最後にエスプレッソ、カプチーノで締めくくりました。




 このスチームパンクというコーヒー抽出装置は、“A $15,000 American-made machine is the latest entrant to the craft-coffee world”という記事が見つかることから、150万円程度するようです。

 抽出方法それぞれに特徴があります。私の舌が敏感過ぎるのか、フレンチプレスとゴールドフィルターで淹れたコーヒーには雑味を感じてしまいました。夫も私も一番気にいったコーヒーは、フルーツの酸味を感じる、2013年ブラジルレイトハーベストCOE(2013 Brazil Late Harvest Cup of Excellence)3位の「ファゼンダJR(Fazenda Junqueira Reis、ジュンケイラ・ヘイス農園)」でした。

 カップ・オブ・エクセレンス(COE)とは、各生産国において、その年の最高のコーヒーを選出するために開催される、国際的なコーヒー品評会(competition and auction program)です。「カップ・オブ・エクセレンス(COE)」ブラジルは、ブラジルにおける品評会です。

 その中に「レイトハーベスト(late harvest。early harvestに対する言葉)」という部門があります。コーヒーチェリー(コーヒーの木の実のこと。赤く熟したコーヒーの実がサクランボに似ていることから)を生豆に加工処理する方法のひとつに「ナチュラル精製」があり、他に水洗式(ウォッシュト)、セミウォッシュトなどがあります。ナチュラル精製は、収穫したコーヒーチェリーをそのまま自然乾燥し精製する方法で、果肉に含まれる成分がコーヒー生豆に凝縮すると言われているようです。

 水洗式精製と非水洗式精製とでは、コーヒー豆となる種子(生豆)を「乾燥させる→貯蔵庫で寝かせる→脱穀機にかける→生豆」という最終工程は同じなのですが、収穫したコーヒーチェリーをそのまま乾燥させるのが非水洗式(ナチュラル)で、果肉除去機で外皮と果肉を取り除いて、発酵漕に漬け、水洗いするのが水洗式(washed、ウオッシュト)のようです。果肉除去機で外皮を取り除いて、内果皮のぬめりを残したまま乾燥させる、「パルプトナチュラル精製」という精製方法もあるようです。

 レイトハーベストは、ナチュラル精製によって生産されたコーヒー豆だけを集めた品評会です。ナチュラル精製のコーヒーは、コーヒーが持つ自然な「コク」や「甘み」に、フルーツのような甘い香りが加わり、バランスのとれた上質な味わいが特長となります。2013年ブラジルレイトハーベストCOE第1位は、「サン・ジョアキン農園」のコーヒーでした。

 UCCは、ブラジルレイトハーベストCOE第1位「サン・ジョアキン農園」を2013年9月4日から、1杯800円で「珈琲館」などで提供していました。品質や希少性にこだわると、単一の産地(豆の生産地域と生産処理方法が明確で、ブレンドされていない)のコーヒー豆(シングルオリジン、single origin)に嗜好が向くようです。世界最高峰のコーヒーをこだわりの抽出方法で飲んでみたいという欲求が私たちにはあるのです。

(参考) 「この世で最高のコーヒーの行方」(食べログ)

 その順位は、第1位、農園“Sítio São Joaquim”(サン・ジョアキム)」、第2位、“São José”(サン・ジョゼ)、第3位、“JR (Junqueira Reis) ”(ジュンケイラ・ヘイス)でした。第3位のコーヒー豆を入手した丸山珈琲の創業者「丸山健太郎」氏は、日本スペシャルティコーヒー協会の理事であるとともに、カップ・オブ・エクセレンスの国際審査員なのだそうです(Kentaro has been a part of many of the Cup of Excellence juries over the years.)。



 コーヒーの美味しさは「焙煎で全て決まる」と思っていた丸山健太郎氏は、海外で急速に普及していた「スペシャルティコーヒー」という全く新しいコーヒーの存在を知ることになります。カップ・オブ・エクセレンス(COE)のプログラムで産地に行く機会を得て、「本当のコーヒーの品質は生産現場で決まること」を痛感した丸山健太郎氏は、2008年(3店舗目の小諸店開店の年)にグラテマラCOE第1位(スコア93.68。第2位と4ポイント近い差があった)の「エル・インヘルト(El Injerto Ⅰ)農園」のコーヒー豆を当時の史上最高価格で落札することになります。

 大手ではなく、日本の一地方のコーヒー屋が、一番高値をつけたということで、当時海外でもちょっとしたニュースになったようです。コーヒー豆の生産者からは、正当な値段をつけてくれた、という評価を受ける一方、商社などからは、素人が買い付けに手を出すから、市場価格を無視して恥をさらした、と思われたようです。2012年に始まったメキシコCOEでは、2012年の第1位「ラス・フィンカス・デル・ススピロ(Las Fincas Del Suspiro)」を落札します。

 この脈絡で、大手「UCC」のブラジルレイトハーベストCOE第1位「サン・ジョアキン農園」の独占を理解すべきなのでしょうか。業界に丸山健太郎氏の敵多し、と理解すべきなのでしょうか。生産者、商社などの中間業者、消費者、それぞれに主張があり、フェアトレード(fair trade、発展途上国の物品を適正な価格で継続的に購入することで、途上国の生産者や労働者の生活改善と自立を目指す活動)との折り合いが難しいところです。

 日本のバリスタチャンピオンの方やオーナーの「丸山健太郎」さんとお話しもして来ました。最高に楽しく、おいしい珈琲時間でした。「軽井沢本店」や星野ハルニレテラス内の「ハルニレテラス店」にも行ってみたい。こんなにおいしいのに「雨が降っているから」と出かけるのを渋った夫をまた説得しなくては!

 「ピーツ・コーヒー&ティー (Peet's Coffee & Tea)」、「ジム・レイノルズ (Jim Reynolds) 」 、「スターバックス(Starbucks)」、さかもとこーひーの「坂本孝文」氏など、丸山健太郎氏の周辺には面白い話しがありそうです。またの機会にそれに触れてみたいと思います。

       スチームパンクと鈴木 樹さん

(参考) テレビ東京の2013年10月3日放送のWBS(ワールドビジネスサテライト)特集「広がる地方発カフェ」から

  先週、東京で開かれたコーヒーの展示会。大手から中小まで、高品質なスペシャルティコーヒーをアピールする。会場の一角にたくさんの人が集まっていた。コーヒーを淹れる職人、バリスタの全国大会。地方から腕利きのバリスタが集まった。審査は2人の技術審判がコーヒーマシンを扱う手際や正確さを採点する。バリスタはこの日のために選んだ最高のコーヒー豆で勝負をかける。4人の審査員が香りや味、見た目などを採点する。
 (審査を受けているバリスタ)「チョコレートがコーティングされたような素晴らしい甘さをお楽しみいただけると思います。」
 プレゼンテーションや気配りも評価のポイントだ。
 「第1位は、有限会社丸山珈琲の井崎英典バリスタ」
 1位と2位を丸山珈琲が獲得。優勝した井崎バリスタは大会2連破を達成した。

 丸山珈琲とは長野県軽井沢にある評判のコーヒー店。ペンションの食堂だったという店内。20席ほどの小さな店だ。こちらの客、東京からわざわざ訪ねて来たという。
 (東京から来た客)「おいしいコーヒーが飲めるっていうのを聞いて。ちょっと感動してます。」

 大会で優勝したこのコーヒー店の秘密は、、、丸山珈琲の焙煎工場。社長に案内された倉庫には、世界各地の上質なコーヒー豆が積まれていた。これが生の豆。これを焙煎する。
 「これはコスタリカですね。これは、まあ、あの、トップロットっていうことで、彼らの中でも一番選りすぐりのいいロットだったみたいですね。」
 丸山社長は良質の豆を自分の目と足で探す。カフェ経営者と共同の組織を作り、中小企業でも産地からコーヒー豆を直接購入できる組織を自ら作り上げた。焙煎はもちろん自社で行う。社員が付きっ切りで豆の状態をチェックし、火の強さや温度を調整する。焙煎時間は15分から20分ほど。お湯を注ぎ、出来栄えを確かめる。勢いよく吸い込むと口の中で霧状に拡がり、香りや味がわかるという。
 (丸山社長)「焙煎が上手くいっているかどうかのチェックですかね。まあ、あの、何か異臭がしないかとか。深煎りなんで結構チョコレートみたいな濃い目の味が出ています。」

 焙煎工場の隣りは売店で、豆を買いに来る固定客も多い。
 (静岡県から来た客)「軽井沢に年に1度くらい宿泊に来ていて、必ずここに寄ってっていう、、、」
 (レポーター)「静岡に帰ってからも結構買われるんですか。」
 「そうですね。静岡でインターネットで注文して、、、」
 スペシャルティコーヒーと呼ばれる高品質コーヒーは、産地や生産者ごとに袋詰めされて、店頭に並ぶ。自慢のコーヒー豆はインターネットでも販売し、全国に配送。個人向け販売の3割を通販が占める。
 (丸山社長)「軽井沢は日本でも有数の観光地ということで、日本全国からお客さんがいらっしゃって、豆を買われて帰られて、で、飲まれて、家でもおいしいコーヒーが飲めるということで、じゃ、通販で取ってみようか。」

 去年秋、東京、世田谷区に進出した。この場所を選んだわけは、通信販売の客がもっとも多く住んでいるからだ。通販の客が2番目に多い港区。12月に東京2号店を出す予定だ。その物件の視察に来た。2号店は席数40席の大型店舗。コーヒーに関する講習会を開くイベントルームも備える。
 (丸山珈琲鈴木樹さん)「柱からカウンターになっていまして、そのままコの字形にカウンターができます。バリスタのコーヒーが淹れてる姿をしっかりとお客さまに見て楽しんで頂けるような、、、」
 (丸山社長)「大手の方もそうですし、中規模もそうですし、いろんな方が市場に入って来ている中で、だんだん細分化が進んでいて、スペシャルティの中でも、非常に高品質なものと、ま、あの、スタンダードなものと分かれてきています。スペシャルティコーヒーの中でも、ま、あの、一番上のトップ・オブ・トップといわれている部分を進んで行きたいなと思っています。」

 地方発のコーヒー店の新しい波。私たちの選択肢はますます広がりそうだ。


(参考) バリスタ「鈴木 樹(すずき みき)」さんは、「日本スペシャルティコーヒー協会」が主催する「ジャパン・バリスタ・チャンピオンシップ(JBC)」 で、2010年、2011年と連続優勝し、2011年の「ワールド・バリスタ・チャンピオンシップ(WBC)」で世界5位、2012年のワールド・バリスタ・チャンピオンシップでは、世界4位でした。



(参考)  SBC信越放送「情報わんさか GO!GO!ワイド らじ☆カン」(月~金曜15:00~18:15)の中の毎週金曜日15時20分からのコーナー「珈琲アラウンド・ザ・ワールド」の「2013年12月20日放送分」から 

(MC 久保正彰)「丸山社長が新しいお店を出す何かきっかけと言うか、今度はこういう店、どこにとか、いろいろ考えられるでしょう。」

(丸山珈琲 丸山健太郎社長)「そうですね、まあ、あの、まず何でお店を増やすかということで言うと、何もその、チェーン店みたいにたくさんわーと作りたいというわけではなくて、実は、その、いいコーヒーが、ま、ま、直接買い付けに行っていますよね、そうすると、やっぱりいいコーヒーがたくさんあるんですよ。で、ついついたくさん買って来てしまうんですんね。お腹空いた状態でスーパーマーケットに行くみたいな感じなんですよ、そういう喩えがいいかどうかわかんないですけど、いいものがあるとちょっともう買わないわけにいかなくなるんですよ。そうすると、常に買い過ぎなんですよ。」

(MC 岸田奈緒美)「ああ、ちょっと豆の量がお店のキャパより多め、、、」

(丸山)「で、まだまだあるんです。私はいいと思う、私が高品質だと思うコーヒーはまだまだたくさんあって、しかもまだ手を付けていない産地もあるし、いずれね、って言われているところもあるんでね。いっぱいある。で、それを売るためにはお店を作んなきゃいけない、っていう感じですね。」

(久保)「それだけおいしいコーヒーを飲んでいただきたい、ということなんですね。何かわかりますね。産地に直接行ってらっしゃるから、あ、これも、これも、ってなっちゃうんですね。」

(丸山)「で、本当はね、通販で売ればいいんじゃないか、もっと売ればいいんじゃないか、例えば、もっと大々的に販売網を作ってやればいいんじゃないか、って言うんですけど。そうは言っても、農家が本当に顔を知っている、非常に小さなマイクロな商品ですので、もちろんそういう流通に流して売るんでもいいんですけど、やっぱりちゃんとわかる形で販売するとなると、直営店ということになるんですね。で、ま、実は、丸山珈琲ってカフェと思われることもあるんですけど、事実上、豆売り店というか、豆屋さんなんで、ま、どこにお店を出すんですかと言われたら、豆が売れるところというか、そのような豆を買ってくださる方がいるところというのが答えで、西麻布も、実は港区のあの辺にはもともとうちのお客さまがたくさんいるということで、そう意味で言うと、丸山珈琲の豆を望んでいる方のいるところはどこでも、というような言い方はある意味できるかも知れないですね。」


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 集団における疾病の発生状況や原因、対策などを研究する「疫学(epidemiology)」で扱う指標の1つに「相対リスク(relative risk、RR)」というものがあります。曝露群と非曝露群、発症群と非発症群で「四分表(分割表、contingency table)」を作り、発症率を2つの群で比較して示すものです。

 例えば、喫煙習慣と肺ガンの発症との関係について疫学的に調査するとします。喫煙習慣のあるグループが「曝露群(exposed group)」であり、喫煙習慣のないグループが「非曝露群(non-exposed group)」になります。タバコを吸うことを「曝露」と考えるのです。そして、将来どのくらいの人が肺ガンになるのかを観察します。肺ガンを発症したグループが「発症群」であり、肺ガンを発症していないグループが「非発症群」になります。



 四分表から、曝露群の発症率を A /(A+B)で、非曝露群の発症率を C /(C+D)で求めることができます。この曝露群の発症率を非曝露群の発症群で割ったものが相対リスクになります。例えば、曝露群の発症率が0.3で、非曝露群の発症率が0.1だとします。0.3/0.1=3 で、相対リスク(RR)は、3 ということになります。



 相対リスクが 1 であれば、曝露群と非曝露群で発症率に違いがないことを意味し、1 より小さければ、曝露群よりも非曝露群で発症率が高く、1 より大きければ、非曝露群よりも曝露群で発症率が高いことを意味します。上記の例で言うと、肺ガンの発症率は喫煙者群で高いことを意味するわけです。

 もう少し具体的に述べてみます。例えば、次のような調査をしたとします。A市の小学校在籍者をインフルエンザワクチン接種群と非接種群に分けます。ワクチンの接種状況は、本人や保護者への聞き取り調査で把握します。インフルエンザの罹患状況は、学校から報告されるインフルエンザ様疾患による出席停止者をインフルエンザ罹患者とします。その結果、小学校在籍者が2036名のところ、接種者は937名(接種率46.0%)であり、インフルエンザ罹患者は627名(罹患率30.8%)だったとします。

 さらに接種群での罹患者数(251名とする)と非接種群での罹患者数(376名)を把握します。ここでは、インフルエンザワクチンの接種を「曝露」と考えています。「曝露(exposure)」には、「風雨に直接曝される(さらされる)こと」から派生した、「細菌やウイルスなどの病原菌や薬品などの物質(通常は有害物質)に曝されること」という意味があります。



 上記の表のインフルエンザ罹患率は、インフルエンザワクチン接種者群で、251÷937=0.2678...から 26.8%であり、非接種者群で、376÷1099=0.3421...から 34.2%になります。26.8÷34.2=0.7638...で、相対リスクは 0.764 になります。1 より小さい数ですから、接種者群よりも非接種者群で罹患率が高いということになります(それぞれの罹患率を比べれば、相対リスクを求めなくてもどちらの群で罹患率が高いかは一目瞭然ではある。その差は 34.2-26.8=7.4)。

 インフルエンザワクチンの有効率をこの相対リスクから求めます。1 から相対リスクを差し引いた値に100を乗じた値(%)がワクチンによる発症予防の有効率となります。(1-0.764)×100=23.6で、有効率は 23.6%ということになります。

 老人福祉施設や病院に入所または入院している65歳以上の高齢者を対象として、インフルエンザワクチンの有効率を調べた研究があります。それによると、罹患の予防には有効率が34~55%であり、死亡を回避するには有効率が80%ほどであったようです。アメリカの65歳未満の健常な成人では、その有効率は70~90%という報告もあるようです。

(参考) 「今年(2011/12年シーズン)のインフルエンザワクチンは効く?効かない?

 ウイルスによる感染症は、最悪の場合、感染する⇒発症する⇒重症化する⇒死亡する、という経過を辿ります。感染しても発症しないこともあります。これを「不顕性感染(inapparent infection)」といいます。免疫機構がその機能を充分に発揮して、身体症状を示すまでには病原体の活動を許さないのです。不顕性感染の臨床上での応用が「弱毒生ワクチン(attenuated vaccine)」です。

 「予防」には各段階に応じて、発症予防(罹患予防)、重症化予防、死亡回避が考えられます。感染しても発症させない、発症しても重症化させない、重症化しても死亡に至らせない、という働きをワクチンに求めることになります。有効率と言っても、罹患予防では40%だが、重症化予防には80%であるということもありえます。

 そもそも「有効率40%」とはどんなことを意味するのでしょうか。これは「相対リスク」が0.6であるということであり、インフルエンザワクチンの接種者の発症率(罹患率)は、非接種者の発症率(罹患率)の6割だということです。ワクチンを接種したことで発症しないで済んだ人が、接種者×(非接種者の発症率-接種者の発症率)/100 人いることに理論上はなります。

(この記事は、未完成です。)

 

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 生物が異なった環境に移されて、次第にその環境に適応するような性質に変わることを「馴化(じゅんか、順化)」といいます。ウイルスを生物と呼ぶには疑問のあるところですが、インフルエンザウイルスは発育鶏卵(孵化鶏卵)内での増殖能力が低いため、ワクチン株に使用するには長期間にわたって、発育鶏卵での継代培養を続けて、「馴化」させなければなりません。

 日本での現在のインフルエンザワクチンは、ワクチン製造用のインフルエンザウイルスを「発育鶏卵(孵化鶏卵、有精卵が孵化するまでの発育過程の鶏卵)」に接種して増殖させ、漿尿液から精製・濃縮したウイルスをエーテルなどの脂溶性溶剤を加えて、免疫防御に関与する部分を取り出し(「成分ワクチン」)、更にホルマリンで不活化したものです(死滅させた病原体を含む「不活化ワクチン」で、弱毒化してあるが生存している病原体を含む「生ワクチン」とは異なる)。



(参考) 「人獣共通感染症と「豚インフルエンザ」、「鳥インフルエンザ」」

 ワクチン株を卵に馴化させる過程で抗原性が変異するということが起こります。ワクチンの元となった株(野生株)と、そのシーズンの流行株が一致したとしても、抗原性変異が起こってしまった製造株でワクチンが作られたとすると、ワクチンの効果が期待通りにはいかないことになります。2012/2013シーズンの季節性インフルエンザワクチンでは、A/Victoria/361/2011(H3N2)という株が製造株に使われていました。しかし、この株は「卵馴化(たまごじゅんか)」による抗原性の変異が大きかったため、このワクチンでの防御効果は低下していたようで、この結果、このシーズンのワクチンは効かなかったという評価が出てくることになりました。

 国立感染症研究所の「病原微生物検出情報 (IASR)2013年11月号」 の「平成25年度(2013/14シーズン)インフルエンザワクチン株の選定経過」という記事では、「2012/13インフルエンザシーズンは、A(H3N2)ウイルスが国内や多くの諸外国で流行の主流であった。このシーズンは、ワクチン効果が低かったと国内外から批判が出ているが、これはウイルス流行予測に基づくワクチン株の選定の問題ではなく、ワクチン株の卵馴化による抗原変異がワクチン効果を低下させていることが原因となっている。」と述べられています。

 流行株が抗原性変異を起こす。 ⇒ インフルエンザワクチンの効果が期待できない。

 製造株が抗原性変異を起こしていた。 ⇒ インフルエンザワクチンの効果が期待できない。


(参考) 「ワクチンが充分には効かない「抗原性変異」と「赤血球凝集抑制試験」と、、、

 生体内に「抗原(antigen(アンチゲン)、例えばウイルス)」が侵入したとき、それに対応して生成され、その抗原に対してのみ反応する蛋白質を「抗体(antibody(アンチボディ))」といいます。抗体が抗原に結合すると、白血球やマクロファージといった食細胞がその抗原と抗体の複合体を認識できるようになり、貪食して体内から除去することになります。

(参考) 「季節性インフルエンザの免疫を持っていれば、重篤化しないのか?

 抗原が姿を少し変えると、生体がそれを抗原と認識し、抗体を生成するようになるのに時間がかかって、その増殖を許してしまうということが起こります。ウイルスが増殖のために細胞を破壊していくのを阻止できない状態が一定期間続くのです。抗原と認識できないほどに変化が起こっていることを、「抗原性変異」といいます。

 喩えてみましょう。町があります。多くの人が流入し、そして流出して行きます。その中には町に損害を与える犯罪者も混じっています。町の治安は警察組織が守っています。その町での犯罪歴がある人物は、警察官はたちどころに認識できます。また他所の町で犯罪歴のある人物は指名手配写真が配られています。指名手配犯が整形手術を受けて町へ入ってきます。警察官は認識できません。町に損害が出始めて初めて犯罪者と認識することになります。

 警察官が犯罪者をそれと認識できないのには、警察官に配られる指名手配写真の作成に失敗してしまって、本人とかなり違ってしまっている場合もあります。卵馴化が原因となります。例えば、インフルエンザA型(H3N2)ウイルスのHA遺伝子のアミノ酸配列の156位で、「ヒスチジン (histidine、His、H)」が「アルギニン (arginine、Arg、R)」に置換されたり、194位で「ロイシン (leucine、Leu、L)」が「プロリン(proline、Pro、P)」に置換されるといったことが卵馴化で起こるようです。その人物の印象を決定する要素が異なっていると、同一の人物だとは認識されません。



 平成25年4月19日の健発0419第3号、国立感染症研究所長が厚生労働省健康局長に宛てた「平成25年度インフルエンザHAワクチン製造株の決定について」では、

 生物学的製剤基準(平成16年3月30日厚生労働省告示第155号)の規定に係る平成25年度のインフルエンザHAワクチン製造株を下記のとおり決定したので通知する。

                      記

 A型株
・・・・・A/カリフォルニア/7/2009(X-179A)(H1N1)pdm09
・・・・・A/テキサス/50/2012(X-223)(H3N2)
 B型株
・・・・・B/マサチュセッツ/2/2012(BX-51B)


とあります。今年度からは、ワクチン株の表記が元株の野生株と区別できるようにするために製造株番号も明記されています。例えば、A(H3N2)亜型ウイルスのワクチン株は、A/Texus/50/2012という元株から増殖されたX-223という製造株に決定されたということになります。

 2012/13シーズンでインフルエンザの流行の主流は、A(H3N2)亜型インフルエンザウイルスで、国内外でインフルエンザ患者から採取され、分離された株の大半は、A/Victoria/361/2011と抗原性が類似していたようで、それならばこれを元株とした製造株(IVR-165)を2013/14シーズンのワクチン株とすればよいはずなのですが、この株は「卵馴化」の影響を強く受け、抗原性が大きく変異してしまうのだそうです。そこで、A/Victoria/361/2011に類似していて、卵馴化の影響を受けにくく抗原性が変異しにくかったA/Texus/50/2012を元株とするX-223という製造株からインフルエンザワクチンを製造することにしたわけです。

 ワクチン株をA/Texus/50/2012(X-223)に変更しても、依然として卵馴化の影響が存在するようですが、その影響はIVR-165血清では96%、X-223血清では9%(赤血球凝集抑制(HI)試験で、HI価16倍を指標にして、それ以上に変化した割合)で、抗原性変異の程度が小さかったようです。

 「平成25年度(2013/14シーズン)インフルエンザワクチン株の選定経過」では、「現行のインフルエンザワクチンが卵で製造される限り、この問題の根本的な解決は極めて困難であり、ワクチンの製造基剤を変えるしかない。現在、国内および諸外国では培養細胞を用いたインフルエンザワクチンの製造に切り替えつつあり、これら細胞培養インフルエンザワクチンに期待したい。」と述べられています。

(参考) 「「卵アレルギー」と「細胞培養法」の新型インフルエンザワクチン

                         (この項 健人のパパ)

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 気候変動がもたらすさまざまな悪影響を防止するための取り組みの原則や措置などを定めている国家間の取り決めに「気候変動枠組条約(United Nations Framework Convention on Climate Change、UNFCCC、FCCC)」があります。この条約の交渉会議である「気候変動枠組条約締約国会議 (Conference of the Parties、COP) は、1995年から毎年開催されており、第19回締約国会議 (COP19)はポーランドのワルシャワで、11月11日から22日までの期間で開かれています。

(参考) 日本政府の代表団で外務省国際協力局の南博参事官は、COP19の開幕を前に、NHKの取材に応じ、温室効果ガスの削減に向けた2020年以降の新たな枠組みについて、「すべての国に適用される実効的で公正な枠組みであることが重要で、政府としては各国と協調して働きかけを強めていきたい」と述べました。(2012年11月11日配信のNHKニュースより)(注の終わり)

 この会議において、観測史上最大規模の超大型台風30号「ハイエン(海燕)、フィリピン名はYolanda(ヨランダ)」の直撃を受け、死者1万人と推定される被害を出したレイテ島(Leyte)のあるフィリピンの「サニョ交渉官(Naderev "Yeb" Saño(ナデレフ・サニョ))」は涙を浮かべながら、3分の予定時間を大幅に超えて、およそ17分に至る演説を行いました。

(注) 台風ヨランダは、2013年11月8日早朝にフィリピン中部に上陸しました。上陸しても勢力をほとんど弱めることなく、900hPaという激烈な勢力を1日半ほど維持しました。フィリピン中部の島々は風力が60m/s以上という竜巻に匹敵するような強風に晒されることとなりました。レイテ島のタクロバン(Tacloban)という町は、レイテ湾の最奥部に位置し、また台風の進行方向右側の危険半円内に入ったため、台風による局地的な低圧部による高潮に長時間襲われることとなります。

 「デジタル台風」(国立情報学研究所が公開している、台風のデータベースを提供するウェブサイト)は、次のように述べます。

 高潮の高さを説明する二つの要因に「吸い上げ効果」と「吹き寄せ効果」があります。まず吸い上げ効果は、台風の中心気圧が低いことにより海面が上昇する効果で、気圧が1hPa低下すると1cm上昇すると言われています。今回の台風は上陸台風の中では史上最強とも言われるほど中心気圧が低い台風であるため、当然ながら吸い上げ効果も過去最大級と言えます。一方、吹き寄せ効果は風速の2乗に比例して海水が吹き寄せられて湾の奥にたまっていく効果ですが、今回の台風はコンパクトなために中心付近の風速はより強めとなっており、最大風速125kt(64.3m/s)と、まるで竜巻のような強風となっていました。(注の終わり)

(注) フィリピンのアキノ大統領は11月12日、地元当局者らが示してきた「死者1万人」という数字に疑いを示し、「2,000~2,500人ぐらいとなるだろう」との見方を示したといいます。しかし、「気象津波」に襲われた地域が広範で、自治体も十分機能していないため、正確な犠牲者数を把握するには時間がかかる見通しのようです。フィリピンの国家災害対策本部は11月13日、死者数が2,344人に上ったと発表しました。(注の終わり)

(追記)  フィリピン中部を襲った台風30号の死者・行方不明者数が、救援活動の進展に伴い急増し、5,000人規模に迫ってきた。アキノ大統領の被害予想を早くも上回っており、被害の甚大さを読み誤っていたことが裏付けられた格好だ。国家災害対策本部は16日、死者は3,637人に上り、1,186人が行方不明になっていると発表した。最大被災地タクロバンの警察幹部らが当初から「死者は1万人を超える」と警告したのに対し、大統領は「恐らく2,500人ぐらい」と反論。被害の過小評価が、初動や救援活動の遅れにつながったとの批判がある。(2013年11月16日配信の時事通信の記事より)(追記の終わり)

(追記)  フィリピンの国家災害対策本部は11月18日、同日午後6時(日本時間同7時)現在で、台風30号による被害で400万人以上が住居を失ったと明らかにした。死者数は3,976人、行方不明者は1,602人。被災者は1,000万人を超える。対策本部によると、被害が大きかったレイテ島やサマール島の死者の大半は身元の確認ができておらず、死因も分かっていない。(2013年11月19日配信の共同通信の記事より)(追記の終わり)

 サニョ氏は、2012年11月26日から12月07日にわたってカタールのドーハで開催された「第18回締約国会議 (COP18)」でも、“The outcome of our work is not about what our political masters want. It is about what is demanded of us by seven billion people. I appeal to all: Please, no more delays, no more excuses. Please, let Doha be remembered as the place where we found the political will to turn things around, and let 2012 be remembered as the year the world found the courage to do so, to find the courage to take responsibility for the future we want. ...”(皆さんに訴えたい。これ以上引き延ばさないでもらいたい。これ以上言い訳はしないでもらいたい。ドーハを、政治が気候変動という状況を大きく改善させた都市として記憶しましょう。2012年を、世界が望ましい未来を求めて責任を取る勇気を見出した年として記憶しましょう。)と訴えています。しかし、世界の指導者らは地球の将来に責任を取ることなく、無策の1年が過ぎることになります。



(注) 第18回締約国会議の開催中の2012年12月4日、フィリピンを直撃した大型台風24号(Bopha、フィリピン名はPablo(パブロ))はミンダナオ島(Mindanao)で洪水と地滑りの被害を起こし、フィリピン国家災害対策本部は2012年12月16日、この台風による死者が1,020人に達したと発表しました。行方不明者は844人で、そのうちおよそ半数は台風直撃前に出港した漁船に乗っていた漁師で、生存が絶望視されました。(注の終わり)

 フィリピンの「メトロ・マニラ (Metro Manila)」 内の都市である「ケソンシティ (Quezon City)」の南部中心に位置する「ディリマン (Diliman) 」地区には、フィリピンにおける最高ランクの大学である「フィリピン大学(Unibersidad ng Pilipinas、University of the Philippines )」のメインキャンパスがあります。

 「Quezon City Science High School(ケソン市科学技術高校)」に入学した(1991年期生)「Naderev Madla Saño(ナデレフ・マドラ・サニョ)」氏は、さらにフィリピン大学へと進み、気候変動における災害管理を中心としたコミュニティ開発を学ぶことになります。1997年から気候変動問題と関わりを持ち続け、“Perfect Storms: What the Philippines Can Do About Climate Change”という著書(共著)もあるといいます。

(注) ノーイースター(Nor'easter、強い北東風を巻き込んで発達した温帯低気圧による嵐)とハリケーンが融合した巨大な嵐を「パーフェクト・ストーム(Perfect Storm)」といいます。1991年に 発生したこのパーフェクト・ストーム(1991 Halloween Nor'easter、ハローウィン・ノーイースター。1991年10月28日に発生、11月4日に消滅。ハロウィーン(Halloween)は、毎年10月31日に行われる)に、「アンドレア・ゲイル号(Andrea Gail)」という漁船が遭遇し、乗員全員が帰らぬ身となった実話を元に、1997年にセバスチャン・ユンガー(Sebastian Junger)がノンフィクション「パーフェクトストーム」(The Perfect Storm)を執筆しており、映画化もされています。この語は意味を拡張されて、「複数の厄災が同時に起こり、破滅的な事態に至ること」をも指すようになりました。(注の終わり)

 フィリピンは、大小合わせて7,000以上の島々から構成される国家です。そのために、海と上手に付き合っていく必要があります。海は恵みをもたらしてくれる存在であると同時に、災厄をもたらす存在でもあるのです。フィリピンは大きく、北部のルソン島(Luzon)とその周辺の島々、中部のビサヤ諸島(Visayas)、南部のミンダナオ島(Mindanao)とその周辺の島々の3つに分類することができます。

 中部のビサヤ(Visaya)諸島は、パナイ島(Panay)、ネグロス島(Negros)、セブ島(Cebu)、ボホール島(Bohol)、レイテ島(Leyte)、サマール島(Samar)の6島で大半が構成されています。サニョ氏は、中部ビサヤ地方(Central Visayas)に属するセブ島、ボホール島などで、持続可能な(sustainable)海洋観光(marine tourism)を提唱して、沿岸資源管理(coastal resources management)、漁場保全(fisheries conservation)、環境教育(environmental education)に関するプロジェクトに4年間従事していたといいます。

 北部のルソン島最南端部にあるソルソゴン州(Sorsogon)ドンソール(Donsol)の周辺の海は、世界で最もジンベイザメが生息しているとみなされており、2月~5月の乾期を最盛期として、ジンベイザメ見学ツアーが開催されています。ボホール島の近くパミラカン島(Pamilacan)では、ホエール・ウォッチング(3月~6月)やドルフィン・ウォッチングを観光資源としています。サニョ氏は、これらのエコツーリズム(wildlife eco-tourism)を開発したプロジェクトにも関わっていたそうです。



 「ジンベエザメ(whale shark、中国語:鲸鯊、鯨鮫、豆腐鯊)」は、「フカヒレ、中国語:魚翅」、「肝油」、「肉」をとるために発展途上国の漁師による乱獲が行われて、大きく生息数を減らしています。フィリピンでは1998年にジンベイザメなどの捕獲が禁止になりました(Fisheries Administrative Order 193)。
 
 ジンベイザメのフカヒレは、高級品とされ、国際市場で1kgで500ドル(およそ5万円)ほどもしたといいます。パミラカン島の漁民たちは大きな収入の減少に苦しむことになります。“WWF-Philippines”の“Coastal Resources and Fisheries Conservation Project Cebu and Bohol”を運営したproject managerの“Yeb Saño”氏は、海洋動物のの生態に習熟した漁民をエコツーリズムの案内人へと変身させていきました。

 パミラカン島には、年間3,000人ほどがイルカを見にやって来るといいます。島民はその手助けをする仕事にやりがいを徐々に持つようになったといいます。海洋天然資源の保護に進んで取り組むようになったといいます。

(注) WWF(World Wide Fund for Nature、世界自然保護基金)は、世界最大規模の自然環境保護団体です。WWFは、各国の環境保護団体と連携しながら、絶滅が心配される野生動物の保護に関する全般的な活動を主に行っています。WWFは、地球温暖化が生物多様性に及ぼす影響が大きいことから、温室効果ガスの排出を抑え、地球の平均気温の上昇を抑えることを目標にした活動も行っています。(注の終わり)

 サニョ氏は、2010年2月15日に「Climate Change Commissioner」(気候変動枠組条約締約国会議代表)に任命され、2月25日に就任しています。

 サニョ氏は、2013年11月11日の「第19回締約国会議 (COP19)」の開会式でこう訴えます。

 Mr. President, it was barely 11 months ago in Doha when my delegation made an appeal, an appeal to the world to open our eyes to the stark realities that we face, as then we confronted a catastrophic storm that resulted in the costliest disaster in Philippine history. Less than a year hence, we cannot imagine that a disaster much bigger would come.(ほんの11か月前、私たちフィリピンの代表団はドーハで開かれたCOP18で、私たちが直面している過酷な現実を直視してほしいと訴えました。フィリピンは、ちょうどその頃、すべてのものを破壊してしまうような台風に襲われ、その台風はフィリピンの歴史上、最も多くの犠牲を払った災厄となったのです。それから1年も経たないうちに、それを大きく上回る災厄がまた襲ってくるとは想像だにしませんでした。)



 サニョ氏は、語気を強めて次のように言います。

 To anyone outside who continues to deny and ignore the reality that is climate change, I dare them—I dare them to get off their ivory towers and away from the comfort of their armchairs. I dare them to go to the islands of the Pacific, the Caribbean, the Indian Ocean, and see the impacts of rising sea levels; to the mountainous regions of the Himalayas and the Andes, to see communities confronting glacial floods; to the Arctic, where communities grapple with the fast-dwindling sea ice sheets; to the large deltas of the Mekong, the Ganges, the Amazon, the Nile, where lives and livelihoods are drowned; to the hills of Central America, that confront similar monstrous hurricanes; to the vast savannas of Africa, where climate change has likewise become a matter of life and death as food and water becomes scarce—not to forget the monstrous storms in the Gulf of Mexico and the Eastern Seaboard of North America, as well as the fires that have raged Down Under. And if that is not enough, they may want to see what has happened to the Philippines now.

 「気候変動の影響から逃避して(outside)、象牙の塔の安楽椅子にのうのうと座って、気候変動の現実を否定し、無視し続けている学者を、そこから引きずり出し、太平洋、カリブ海、インド洋の島々に連れて行って、海面上昇の影響をその目で確認させたい。」

 1999年10月29日、インドの南東部にあるオリッサ州(Odisha)に巨大な「オリッサ・サイクロン」が上陸し、10,000人以上が死亡しています。オリッサ・サイクロンはベンガル湾で記録された最も強力なサイクロンで、上陸時の風速は約70メートルを記録し、被害額は20億ドル(約2000億円)以上に上ったといいます。2013年10月12日、ベンガル湾内で勢力を強めていた巨大サイクロン「Phailin(ファイリン)」は、風速約70メートル、最大瞬間風速は約85メートルに達したことから、沿岸部では高潮が発生し、内陸部でも進路上の地域では大雨が予想されました。アンドラ・プラデーシュ州(Andhra Pradesh)とオリッサ州の境界付近に上陸すると見られ、洪水が発生しやすい人口密集地域を直撃する恐れがあることから、大規模な避難が行われ、およそ55万人が沿岸部から避難したといいます。

 「ヒマラヤ山脈とアンデス山脈の山岳地帯にも連れて行って、氷河湖決壊洪水に直面している地域社会を見せてやりたい。」

 氷河(glacier)は、巨大な氷の塊です。万年雪が圧縮されて、氷となり、低い方へと移動して(流れて)いきます。「氷」の「河」ですから、流域を侵食していきます。氷河が削り取った岩などが土手のように堆積している地形があります。「モレーン(moraine、堆石)」と呼ばれます。

 氷河の後退などによりモレーンが氷河と切り離され、氷河とモレーンとの間に水が溜まって「氷河湖(glacial lake)」が形成されることがあります。ヒマラヤ山脈のネパール側だけでも、3,000㎡以上の面積の湖だけに限定しても2,300以上もの氷河湖があるといわれています。

 「イムジャ氷河湖(Imja Glacier)」は、最も有名な氷河湖です。イムジャ氷河湖は,1950年代には小さな氷河池に過ぎなかったのですが、それがわずか半世紀ほどで幅約650m、長さ約2,000m、面積約1k㎡にも達する巨大な氷河湖になったといいます(水面の標高はおよそ5,000m)。氷河湖はダム状の湖です。ダムは決壊すると下流地域に甚大な被害を及ぼします。

 ダムは貯水池の水量を徐々に放流することで貯水量を一定に保っています。ダムの堤体は多くがコンクリートですが、氷河湖は堤体がモレーンです。貯水量を調節することもできません(氷河湖に水門を作り貯水量を調整する努力がされていることもある)。気候変動で氷河湖の貯水量が増加することになれば、氷河湖は決壊することになります。その結果として起こるのが「氷河湖決壊洪水(glacial lake outburst flood)」です。

(参考) サニョ氏の演説の全部が見られるサイト“Philippines delegate Naderev Saño COP19 Warsaw

(参考) サニョ氏の演説の全文 “Mr. President, it was barely 11 months ago in Doha when my delegation made an appeal, an appeal to the world to open our eyes to the stark realities that we face, as then we confronted a catastrophic storm that resulted in the costliest disaster in Philippine history. Less than a year hence, we cannot imagine that a disaster much bigger would come. With an apparent cruel twist of fate, my country is being tested by this hellstorm called Supertyphoon Haiyan. It was so strong that if there was a Category 6, it would have fallen squarely in that box. And up to this hour, Mr. President, we remain uncertain as to the full extent of the damage and devastation, as information trickles in agonizingly slow manner because power lines and communication lines have been cut off and may take a while before they are restored.

 The initial assessment showed that Haiyan left a wake of massive destruction that is unprecedented, unthinkable and horrific. According to the Joint Typhoon Warning Center, Haiyan was estimated to have attained sustained winds of 315 kilometers per hour—that’s equivalent to 195 miles per hour—and gusts up to 370 kilometers per hour, making it the strongest typhoon in modern recorded history. And despite the massive efforts that my country had exerted in preparing for the onset of this storm, it was just a force too powerful. And even as a nation familiar with storms, Haiyan was nothing we have ever experienced before.

 Mr. President, the picture in the aftermath is ever slowly coming into clearer focus. The devastation is colossal. And as if this is not enough, another storm is brewing again in the warm waters of the western Pacific. I shudder at the thought of another typhoon hitting the same places where people have not yet even managed to begin standing up.

 To anyone outside who continues to deny and ignore the reality that is climate change, I dare them—I dare them to get off their ivory towers and away from the comfort of their armchairs. I dare them to go to the islands of the Pacific, the Caribbean, the Indian Ocean, and see the impacts of rising sea levels; to the mountainous regions of the Himalayas and the Andes, to see communities confronting glacial floods; to the Arctic, where communities grapple with the fast-dwindling sea ice sheets; to the large deltas of the Mekong, the Ganges, the Amazon, the Nile, where lives and livelihoods are drowned; to the hills of Central America, that confront similar monstrous hurricanes; to the vast savannas of Africa, where climate change has likewise become a matter of life and death as food and water becomes scarce—not to forget the monstrous storms in the Gulf of Mexico and the Eastern Seaboard of North America, as well as the fires that have raged Down Under. And if that is not enough, they may want to see what has happened to the Philippines now.

 Mr. President, I need not elaborate on the science, as Dr. Pachauri has done that already for us. But it tells us simply that climate change will mean increased potential for more intense tropical storms. And this will have profound implications on many of our communities, especially those who struggle against the twin challenges of the development crisis and the climate crisis. And typhoons such as Haiyan and its impacts represent a sobering reminder to the international community that we cannot afford to delay climate action. Warsaw must deliver on enhancing ambition and should muster the political will to address climate change and build that important bridge towards Peru and Paris. It might be said that it must be poetic justice that the Typhoon Haiyan was so big that its diameter spanned the distance between Warsaw and Paris.

 Mr. President, in Doha we asked: "If not us, then who? If not now, then when? If not here, then where?" But here in Warsaw, we may very well ask these same forthright questions. What my country is going through as a result of this extreme climate event is madness. The climate crisis is madness. Mr. President, we can stop this madness right here in Warsaw. We cannot sit and stay helpless staring at this international climate stalemate. It is now time to raise ambition and take action. We need an emergency climate pathway.

 Mr. President, I speak for my delegation, but I—I speak—speak for the countless people who will no longer be able to speak for themselves after perishing from the storm. I speak also for those who have been orphaned by the storm. I speak for those of—the people now racing against time to save survivors and alleviate the suffering of the people affected. We can take drastic action now to ensure that we prevent a future where supertyphoons become a way of life, because we refuse, as a nation, to accept a future where supertyphoons like Haiyan become a way of life. We refuse to accept that running away from storms, evacuating our families, suffering the devastation and misery, counting our dead become a way of life. We simply refuse to.

 Now, Mr. President, if you will allow me, I wish to speak on a more personal note. Supertyphoon Haiyan, perhaps unknown to many here, made landfall in my own family’s hometown. And the devastation is staggering. I struggle to find words even for the images that we see on the news coverage. And I struggle to find words to describe how I feel about the losses. Up to this hour, I agonize, waiting for word to the fate of my very own relatives. What gives me renewed strength and great relief is that my own brother has communicated to us, and he had survived the onslaught. In the last two days, he has been gathering bodies of the dead with his own two hands. He is very hungry and weary, as food supplies find it difficult to arrive in that hardest-hit area.

 Mr. President, these last two days, there are moments when I feel that I should rally behind climate advocates who peacefully confront those historically responsible for the current state of our climate, these selfless people who fight coal, expose themselves to freezing temperatures or block oil pipelines. In fact, we are seeing increasing frustration, and thus more increased civil disobedience. The next two weeks, these people and many around the world who serve as our conscience will again remind us of this enormous responsibility. To the youth here who constantly remind us that their future is in peril, to the climate heroes who risk their life, reputation and personal liberties to stop drilling in polar regions and to those communities standing up to unsustainable and climate-disrupting sources of energy, we stand with them. We cannot solve problems at the same level of awareness that created them, as Dr. Pachauri alluded to Einstein earlier. We cannot solve climate change when we seek to spew more emissions.

 Mr. President—and I express this with all sincerity, in solidarity with my countrymen who are struggling to find food back home and with my brother who has not had food for the last three days, with all due respect, Mr. President, and I mean no disrespect for your kind hospitality, I will now commence a voluntary fasting for the climate. This means I will voluntarily refrain from eating food during this COP, until a meaningful outcome is in sight; until concrete pledges have been made to ensure mobilization of resources for the Green Climate Fund—we cannot afford a fourth COP with an empty GCF; until the promise of the operationalization of a loss-and-damage mechanism has been fulfilled; until there is assurance on finance for adaptation; until we see real ambition on climate action in accordance with the principles we have so upheld.

 Mr. President, this process under the UNFCCC has been called many, many names. It has been called a farce. It has been called an annual carbon-intensive gathering of useless frequent flyers. It has been called many names. And this hurts. But we can prove them wrong. The UNFCCC can also be called the project to save the planet. It has also been called "saving tomorrow today" a couple of years ago. And today, we say, "I care."

 We can fix this. We can stop this madness, right now, right here, in the middle of this football field, and stop moving the goalposts. Mr. President, Your Excellency, Honorable Minister, my delegation calls on you, most respectfully, to lead us and let Poland and Warsaw be remembered forever as the place where we truly cared to stop this madness. If this is our imperative here in Warsaw, you can rely on my delegation. Now can humanity rise to this occasion? Mr. President, I still believe we can. Thank you, Mr. President. Thank you.”

                   (この項 健人のパパ)

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