ぴか の観劇(芸術鑑賞)日記

宝塚から始まった観劇人生。ミュージカル、ストレートプレイ、歌舞伎、映画やTVドラマ等も書きます。

07/02/25 歌舞伎座千穐楽夜の部「仮名手本忠臣蔵」六段目

2007-03-08 23:59:02 | 観劇

いよいよ玉三郎お軽登場の六段目!義太夫もご贔屓の葵太夫。
昨年10月の仁左衛門の五・六段目の感想はこちら
【六段目 与市兵衛内勘平腹切の場】
今回の主な配役は以下の通り。
早野勘平=菊五郎 女房お軽=玉三郎 おかや=吉之丞
一文字屋お才=時蔵 判人源六=東蔵
不破数右衛門=左團次 千崎弥五郎=権十郎

玉三郎のお軽は眉なし・お歯黒!昨年10月の菊之助、眉はなかったがお歯黒はどうだったかの記憶が定かでない(どなたか教えてくださいm(_ _)m)。少し開いた口からお歯黒が覗くというのが人妻の色気ということらしい。今回はちょっとそんな印象を持った。
時蔵の一文字屋お才は京都弁を意識しない江戸風の女将。なるほど勘平が菊五郎だからか。要は座頭役者がこういうのも仕切るということかと合点した。東蔵の判人源六。昼の部で原郷右衛門をやってた人と思えないほど女衒に変身していてさすがである。このふたりが迎えに来て後金と引換えにお軽を連れて行こうとするのをおかやと二人でとまどっている。与市兵衛が帰らないからだ。いかにも水商売の人間ふたりと素人ふたりの会話でまず見せる。しゃべるテンポがまず違う。また水商売独特の言葉が素人には理解できないというあたりも面白い。
駕籠に乗せられて行きかかると戻ってきた勘平にとめられる。「狩人の女房が駕籠でもあるめいじゃねぇか」この田舎の暮らしとは違う次元のものがやってきているということがよくわかる。菊五郎の勘平の世話っぽい軽い台詞回しが心地いい。千崎にお金を届けて気分よく帰宅したのだ。

女房や姑が紹介もしない客二人を気にしながらも帰宅報告や世間話や雨漏りを直す約束もしながら紋服に着替える勘平。ここのやりとりも菊五郎の台詞回しが堪能できる。
そして紋服といえば、道行で着ていたのは黒だったはず。ところが着替えたのはいつ買ったのかと不思議に思う水浅葱の紋服。主君の刃傷事件の後、着の身着のまま落人になったはず。文楽では狩人姿のまま切腹し、上方版の歌舞伎もそうらしい。
しかし、お江戸で役者本位の歌舞伎に練り上げられて薄暗い劇場でも一際映える水浅葱の紋服になってしまう(三代目菊五郎の工夫とのこと)。道行の派手な舞台には黒の紋服が目立つが、六段目のあばら家では黒だと埋没してしまうのだろう。それに判官の水裃に対応する水浅葱ということもあるのだそうだ。水浅葱の紋服に着替えると、最後の悲劇までどんどんすすんでいく~。

お軽の身を売って自分のために金をつくってくれたことに感謝する勘平。続くお才と源六の話や証拠の共布の縞柄の財布から、自分が舅を撃ち殺してしまったと早合点。動揺を隠しつつお軽を送り出すことになる。
最後にふたりきりになれるのだが、父母のことを頼むお軽の言葉にまともに反応できない勘平。ついに行きかけるところを「お軽、待ちや」と呼び止めて飛んでくる、その後をチェック!
玉三郎お軽は立っている勘平の前に膝立ちし、両手を勘平の腰に回して抱きついた。品よく決めた~。ここをどうするか、役者によるそれぞれの工夫があるらしい。源六にせかされてお軽は駕籠で行ってしまう。
勘平の様子に不審を抱いたおかやが勘平を問いつめていくところへ、与市兵衛の亡骸が狩人仲間たちに運び込まれる。もうそこからは勘平を叩いたり髪を掴んで引き回したり。その修羅場に千崎と不破数右衛門が金を返しにくる。おかやは二人に言いつけ、3人に追い詰められていく勘平。

申し開きをしようとしても取り合わずに帰ろうとする二人をとめて、身の潔白を示すために脇差を腹につきたてる。そこではじめて話をまともにきいてもらえる。苦しい息の中で事情を説明する中で、ようやく千崎が亡骸の傷をあらためて勘平の無実が明かされた。死んでも魂魄とどまって敵討ちに加わると言う勘平に不破は連判状を見せて連判させる。血判は腹をかき切った上で臓腑を掴んだその指でさせるのだ。敵討ちの徒党に加われた満足を得て息を引き取る勘平に縋って泣くおかや。ここの台詞は台本にないそうで吉之丞のおかやは「成仏してくだされ、勘平殿」と言っていたと思う。
吉之丞のおかやが実によかった。百姓の女房とはいいながら息子は足軽、娘は御殿づとめに出していたほどの家である。ある程度の品が欲しい。そして枯れた風貌の上に玉三郎お軽をいとしみ、婿にも気遣う情の深さがしみじみと滲み出ていた。このおかやとのやりとりで菊五郎の勘平の芝居も濃くなったような気がした。
今回の菊五郎の勘平は思った以上によかった。玉三郎とのコンビも少々危惧していたのだが大丈夫だった。まさに人間国宝の芸を見せていただいた気がした。

前半の判官の切腹と後半の勘平の切腹は、主題と変奏として作劇されているという(丸谷才一氏の『忠臣蔵とは何か』にあったと関容子さんが書いていた)。この二役を菊五郎がやってくれたことでそこがきちっと伝わってきた。『忠臣蔵とは何か』も買ってあるのでちゃんと読みたいと思う。

写真は、二月歌舞伎座名物の「地口行灯」のひとつを撮影。「地口行灯」という名前をてぬぐい・・・さんのこちらの記事で初めて知った。多謝!
以下、この公演の別の段の感想
2/18歌舞伎座昼の部「仮名手本忠臣蔵」大序
2/18歌舞伎座昼の部「仮名手本忠臣蔵」三・四段目
2/18歌舞伎座昼の部「仮名手本忠臣蔵」道行旅路の花聟
2/25歌舞伎座千穐楽夜の部「仮名手本忠臣蔵」五段目
2/25歌舞伎座千穐楽夜の部「仮名手本忠臣蔵」11段目


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3 コメント

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♪♪♪ (かしまし娘)
2007-03-09 11:39:18
ぴかちゅう様、まいど!
”VIVA!菊五郎!”なのは、「調和」のなせる技だと思います。以前、菊五郎版で観た時は何も感じなかったのに、今回ググッと来たのは、足を引っ張る演者もおらず、己の役に集中出来た結果だと!思い込んでいる私です。「調和」が取れた舞台は、本当に、眩しいほどステキです。
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地口行灯 (てぬぐい…)
2007-03-09 20:08:52
歌舞伎座に数多く灯った地口行灯のなかでも、ぴかちゅうさんが撮影されたものが一番好きです。
リンクTBありがとうございます。
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皆様TB、コメント有難うm(_ _)m (ぴかちゅう)
2007-03-10 00:38:38
★かしまし娘さま
”VIVA!菊五郎!”なのは、「調和」のなせる技
......確かにそうだと思います。菊五郎さんは役によってはあっさりしすぎて物足りないのですが、相手役の芝居がいいとそれにノッて大きくはじけて凄い芝居を見せてくれます。昨年の仁左衛門の八汐と組んだ政岡がそうでした。今回も前半の判官は切腹のところ、幸四郎の由良之介がよくないから今ひとつよくないと渡辺保氏の劇評にもあり、やっぱりそういうことがあるのだと思っていたところです。
七段目、一回で書けるかどうか・・・頑張りま~す(^O^)/
★てぬぐい・・・さま
「地口」についても検索したらウィキペディアにありました。お稲荷さんの初午の日に「地口行灯」を飾るんですね。昨年2月に気づきながら1年後にようやく意味がわかりました。手がかりをいただけたおかげです。有難うございますm(_ _)m
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9C%B0%E5%8F%A3
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