『ブルーノ』などのお騒がせ男サシャ・バロン・コーエンが、世界一危険な独裁者を熱演する痛快爆笑ムービー。それまで欲望のままに生きてきた暴君が、ひょんなことからニューヨークに渡り、生まれて初めて庶民の世界を垣間見る様子をブラックな笑いと共に描き出す。将軍の右腕を、『ガンジー』などの名優ベン・キングズレーが好演。観る者を爆笑の渦に巻き込みつつ、時代背景を反映した痛烈な社会批判も込めた力作に脱帽する。

あらすじ:アラジーン将軍(サシャ・バロン・コーエン)は、幼いころから北アフリカにあるワディヤ共和国の独裁者として君臨していた。彼は気に入らない相手を即刻処刑したり、核ミサイルの開発に手を出したりとやりたい放題だったが、ある日、核ミサイルの件で国連から釈明を求められてしまう。
そこで将軍は意気揚々とニューヨークに旅立つが、陰謀により捕らえられ、立派な口ひげをそられてしまい……。(作品資料より)
<感想>モキュメンタリーとドキュメンタリーを隔てるものは何か?・・・その境界線を曖昧にする作品も存在する。さてモキュメンタリーの基本要素である架空の人物を演じながら、現実世界に繰り出してムチャクチャな乱暴ろうぜきをはたらく「笑いの破壊工作者」がいる。
その名は、サーシャ・バロン・コーエン。英国出身のコメディアンである彼は、白人ラッパー「アリ・G」、カザフスタン人ジャアーナリスト「ボラット」、そしてオーストリア出身のファッション・リポーター「ブルーノ」といった別人格を用いて、現実の社会や人々に対してひたすら差別的、挑発的ギャグをかましまくってきた。

大ヒットの「ボラット/栄光ナル国家カザフスタンのためのアメリカ文化学習」(06)に続いて「ブルーノ」(09)で彼が繰り広げた野蛮行為は数々記憶に新しい。架空の人物になりきって、時に命がけですらある挑発的行為を現実に行って見せるコーエンのスタイルは、もはや現実における破壊的行為を、フィクショナルな超くだらないストーリーの中に、混然と織り込む語り口もまた卓越している。
だが、コーエンが北アフリカの独裁者に扮した最新作「ディクテーター/身元不明でニューヨーク」は、シナリオありきの劇映画スタイルで作られた久々の作品となった。しかも、世界の現状に鋭く切り込み、アメリカも中国も北朝鮮も等しく過激に挑発して見せるアナーキズムは健在なり。というわけで、本作はモキュメンタリーじゃなくて劇映画だったわけですが、リアルな社会情勢を鋭く風刺して、あらゆる文化や風習を罵倒し、差別し、コケにしまくるサシャ・バロン・コーエンの圧倒的な冴えは、あきらかに前2作でスキルを磨いた経験の賜物だと思う。

今回はjackass軍団もびっくりのスカトロ版「星の王子様ニューヨークへ行く」と言える下品さも相まって、まさに怖いもんなしの超絶爆笑大作に仕上がってます。だが、すべてにつけて行儀の悪さで笑わせる悪趣味です。独裁者だからと言って、自国でオリンピックを勝手に開催、どの競技も将軍様が金メダルという独裁ぶり。
このマラソンだって、ピストルで自分の前を走るのを許さず撃ってころしてしまう。コーエンという姓はユダヤ系ではないかと思ったが、彼の場合はユダヤもイスラムもすべて一刀両断。
それに、彼の髭の似合わなさはハンパじゃない。独裁者の象徴たる髭の威厳を知らしめたのがチャップリンだったとすれば、影武者との違いも機能していない。もっとも彼は何を着ても様になっていないし、裸が一番自然に見えてしまう。だからというわけではないが、どの作品もバカバカしさ、体制批判、狂気といった喜劇を満足いく喜劇とする要素がどれも不足していると思う。

それでも、要するに全世界のあらゆる秩序をひっくり返してしまう映画であり、それが痛快でもあり、反良識のでたらめさが解放感をもたらしている。ハナからおバカ映画だと思って楽しめばいいのだ。
劇中でニューヨーカーたちが集まる自然食品店のゾーイに扮した、アンナ・ファリスの文字通りの天然ぶりがこの映画のもう一つのポイントで、コーエンの言動をすべて善意に解釈しているのもいい。彼女の天然ゆえに、独裁者として迷惑千万な主人公も、実は天真爛漫なだけで悪意はない、というように見えた。
ともあれこの映画は天然大いに歓迎して、それに全裸と下ネタ満載の無礼講な映画になっている。そして、対照的なのが側近、ベン・キングスレーの企む陰謀が、ごくありきたりの平凡なものに見えるのはしょうがない。ラストで将軍に戻ったアラジーンが記者会見で、独裁国を支援したり潰したりするアメリカの矛盾を痛烈に皮肉っているのもすっきりしますが、何しろおバカ、下ネタで下品映画なのであまり意味がない。
2012年劇場鑑賞作品116
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あらすじ:アラジーン将軍(サシャ・バロン・コーエン)は、幼いころから北アフリカにあるワディヤ共和国の独裁者として君臨していた。彼は気に入らない相手を即刻処刑したり、核ミサイルの開発に手を出したりとやりたい放題だったが、ある日、核ミサイルの件で国連から釈明を求められてしまう。
そこで将軍は意気揚々とニューヨークに旅立つが、陰謀により捕らえられ、立派な口ひげをそられてしまい……。(作品資料より)
<感想>モキュメンタリーとドキュメンタリーを隔てるものは何か?・・・その境界線を曖昧にする作品も存在する。さてモキュメンタリーの基本要素である架空の人物を演じながら、現実世界に繰り出してムチャクチャな乱暴ろうぜきをはたらく「笑いの破壊工作者」がいる。
その名は、サーシャ・バロン・コーエン。英国出身のコメディアンである彼は、白人ラッパー「アリ・G」、カザフスタン人ジャアーナリスト「ボラット」、そしてオーストリア出身のファッション・リポーター「ブルーノ」といった別人格を用いて、現実の社会や人々に対してひたすら差別的、挑発的ギャグをかましまくってきた。

大ヒットの「ボラット/栄光ナル国家カザフスタンのためのアメリカ文化学習」(06)に続いて「ブルーノ」(09)で彼が繰り広げた野蛮行為は数々記憶に新しい。架空の人物になりきって、時に命がけですらある挑発的行為を現実に行って見せるコーエンのスタイルは、もはや現実における破壊的行為を、フィクショナルな超くだらないストーリーの中に、混然と織り込む語り口もまた卓越している。
だが、コーエンが北アフリカの独裁者に扮した最新作「ディクテーター/身元不明でニューヨーク」は、シナリオありきの劇映画スタイルで作られた久々の作品となった。しかも、世界の現状に鋭く切り込み、アメリカも中国も北朝鮮も等しく過激に挑発して見せるアナーキズムは健在なり。というわけで、本作はモキュメンタリーじゃなくて劇映画だったわけですが、リアルな社会情勢を鋭く風刺して、あらゆる文化や風習を罵倒し、差別し、コケにしまくるサシャ・バロン・コーエンの圧倒的な冴えは、あきらかに前2作でスキルを磨いた経験の賜物だと思う。

今回はjackass軍団もびっくりのスカトロ版「星の王子様ニューヨークへ行く」と言える下品さも相まって、まさに怖いもんなしの超絶爆笑大作に仕上がってます。だが、すべてにつけて行儀の悪さで笑わせる悪趣味です。独裁者だからと言って、自国でオリンピックを勝手に開催、どの競技も将軍様が金メダルという独裁ぶり。
このマラソンだって、ピストルで自分の前を走るのを許さず撃ってころしてしまう。コーエンという姓はユダヤ系ではないかと思ったが、彼の場合はユダヤもイスラムもすべて一刀両断。
それに、彼の髭の似合わなさはハンパじゃない。独裁者の象徴たる髭の威厳を知らしめたのがチャップリンだったとすれば、影武者との違いも機能していない。もっとも彼は何を着ても様になっていないし、裸が一番自然に見えてしまう。だからというわけではないが、どの作品もバカバカしさ、体制批判、狂気といった喜劇を満足いく喜劇とする要素がどれも不足していると思う。

それでも、要するに全世界のあらゆる秩序をひっくり返してしまう映画であり、それが痛快でもあり、反良識のでたらめさが解放感をもたらしている。ハナからおバカ映画だと思って楽しめばいいのだ。
劇中でニューヨーカーたちが集まる自然食品店のゾーイに扮した、アンナ・ファリスの文字通りの天然ぶりがこの映画のもう一つのポイントで、コーエンの言動をすべて善意に解釈しているのもいい。彼女の天然ゆえに、独裁者として迷惑千万な主人公も、実は天真爛漫なだけで悪意はない、というように見えた。

2012年劇場鑑賞作品116
