アパート販売
退潮が決定的
アパート販売、退潮が決定的
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「新築一棟」特化がアダに回復は茨の道
シノケングループ(東京都港区)とTATERU(同渋谷区の)中間決算(1~6月)が8月上旬に発表され、新
築アパート販売の退潮が鮮明になった。融資厳格化を背景に前年同期と比べた減収率は二桁に及ぶ。同じ
サラリーマン向けでも、銀行の貸し出し需要が底堅い「都心・区分販売」で増収したFJネクスト(同新宿
区)などとは業績が対照的。2社は収益構造の抜本的改革を急ぐも、別の事業で減収を吸収するには遠く
及ばない。大規模金融緩和に支えられてきた急成長モデルが大きなアダとなっている。
シノケングループとTATERUの2019年1~6月中間決算では、サラリーマン向け新築一棟アパート販売の減収
が顕著となった。
シノケン全体の売上高は約507億円と前年同期と比べて13.2%減収。中でも全体の6割を占める「不動産
セールス事業」(サラリーマン向け新築一棟販売)は、前年同期より30%ほど少ない約314億円。融資厳
格化の逆風が、業績の足を大きく引っ張っている。
一方、18年8月に不適切営業が明るみに出たTATERUに至っては、前年同期より60%以上少ない約142億円。
うち9割を占める「TATERU Apartment事業」(サラリーマン向け新築一棟販売)が前年同期より約63%少
ない約135億円と大幅減。もっとも同社の場合、不適切営業問題に伴う営業活動自粛、風評被害なども大
きく響いている。
2社に共通する減収理由は、アパートローン融資の厳格化だ。その実態は日銀の統計にも表れている。国
内銀行の「個人による貸家業」の新規貸し出し金額は、19年6月が4668億円と、データが残る14年3月以来
過去最低を更新。最も金額の高かった16年9月の半分以下(左図)だ。
このような融資環境のもと、2社は収益構造を抜本的に変えたい構えを見せるが、別の事業で減収分を吸
収するまでには育っていない。
シノケンではアパート販売事業以外にも「不動産サービス事業」(賃貸管理など)、「ゼネコン事業」、
その他LPガス事業などをを展開しており、いずれの事業も前年同期を上回ったものの、通期予想売り上げ
は前年より20%少ない900億円となる見通し。7月よりアパート用地の仕入れを再強化し、競争環境の改善
を見据えて本業の立て直しも視野に入れる。
TATERUは、ホテルやIoTの開発・販売などを伸ばしたいが、1~6月の売上高は約7億円と全体の1割にも満
たない。詳しい戦略は未公開のため、現段階では先の見えない状況が続く。
FJネクスト「区分好調」と対照
ところが、融資厳格化が業績に直撃した2社とは対照的に、同じ「サラリーマン向け」でも、投資用ワン
ルームマンション(区分販売)が主力のFJネクストやプロパティエージェント(東京都新宿区)は好調
だ。マンション販売は前年同期と比べて二桁以上も増収している。
「ガーラマンションシリーズ」で知られるFJネクストの4~6月期は、不動産開発事業の売上高は約203億
円と前年同期より約29%増えた。「クレイシアシリーズ」を展開するプロパティエージェントも、不動産
開発販売事業の売上高が約45億円(4~6月期)と前年同期より130%伸びている。
増収要因はさまざまだが、足元の融資環境について、プロパティエージェントの決算資料には「サラリー
マン向け投資用アパートや一棟収益物件での販売は低迷(中略)都心部の物件やマンション投資に対する
金融機関の融資姿勢は積極性を維持している」と区分の優位性が強調されている。
“投資用不動産ローンの雄”であるオリックス銀行ですら、対比が顕著に表れている。
同行の19年3月期の「アパートローン実行高」は337億円と2年前より40%少ない。反対に、マンション
ローン(区分)は商品力を強化し、2年前より40%多い3087億円で推移している。
一連の差はなぜ生まれるのか。金融機関で長らく融資担当を務め、今は借り換えローンの支援を行う
WhatzMone(y東京都目黒区)の前田一人社長は「あくまで経験則だが」と前置きした上で、「一棟木造の
サラリーマン向け融資は、好立地の区分と比べれば、一般心理として不利になりやすい」と説明した。考
えられる理由のひとつが、資産価値の下落ペースの違いにある。
経年劣化の損傷が生じやすい木造アパートは、家賃収入も同様に下がりやすい。銀行としては、RC造の都
心ワンルームマンションと比べると、ローンの回収リスクが高まる上、万が一の売却価格も想定より低く
なる。もっとも、スルガ銀行の不正融資問題によって双方のマインドが低下した可能性も考えられる。
ここ5年、不動産融資が増える起爆剤となった日銀の大規模金融緩和とともに、シノケンとTATERUは、自
己資金が少ないサラリーマンでも大家になれるアパート販売で急成長を遂げてきた。
だがスルガ銀行の不正融資問題を引き金に資金の蛇口が引き締められた今では、そのビジネスモデルが、
かえって経営基盤を揺るがしている。先行き不透明な状況は、もうしばらく続きそうだ。