一人で公務員試験の塾をやっている。
教養試験の主要教科と、専門試験の経済、あと2次試験対策もやっている。
様々な科目をやっているのだが、自分に課していることが一つある。
それは、
「たくさんの科目を教えていることを、それぞれの科目において内容が薄くなることの言い訳にしない」
ということだ。
私は大学時代は社会学の専攻であり、それ以外の科目において専門教育を受けたわけではない。
それでも、一つ一つの科目、じっくり研究すれば、高校レベルの知識を教えるのに十分な知見を得ることはできる。
手間はかかるが、バームクーヘンの薄い生地を1枚1枚丁寧に重ねていくようなものだと思ってる。(←バームクーヘンを作ったことがあるわけではないが)
子供のころ読んだ童話に、こんなのがあった。
ある村に陶器作りの名人がいた。その秘法を知ろうと、多くの若者が弟子入りを願ったが、聞き入れられることはなかった。
ある時、お金持ちが所有している、非常に美しい陶器を壊してしまった若者がいた。その金持ちは「完全に修復するか、対価となるお金を払え」と若者に命じた。若者にはむろんお金はなく、直そうにも、非常に複雑な模様のちりばめられた陶器を修理するすべを知らなかった。
その若者は困り果て、名人のもとに赴いて、懇願した。「直してください」
名人は断ったが、困り果てている若者に押されて最後は願いを聞き入れた「3か月したらまた来なさい。」
3か月たって若者が名人のもとを訪れると、あの美しい陶器が完全に復元されているではないか。
若者は感謝するとともに、名人がどんな技を使ったのか、知りたくなった。あれほど複雑な模様の入った、粉々になった陶器を修復するには何か特殊な秘法があるに違いない。名人に教えてくれと迫った。
しかし、名人は首を縦に振るばかりだった。それでも若者がしつこく粘ると、奥の方から袋を持ってきた。
若者がそれを開けてみると、それは自分が持ち込んだ、壊れた陶器の破片だった。
名人は静かに語った。
「特別な方法なんてない。みなと同じように、土をこね、ろくろを回し、色を塗って窯で焼く。それを繰り返しただけだ。」
こんな話だったと思う。
子供のころはこの話、地味すぎて好きではなかった。
しかし、今、この話は、最も強く自分を支えてくれる話となっている。