波風立男氏の生活と意見

老人暮らしのトキドキ絵日記

親友  №17

2012年12月05日 | 新聞掲載

  交際歴43年の親友がいる。ご飯も作ってくれるし、身体の心配もしてくれる。17 戸籍上は妻だが、人間関係では親友だ。1年前の今頃、無事に定年退職を迎えられそうな安堵感で、何気なく私たちの関係を話題にしたらそう断言された。そのどこが悪いという毅然とした態度で通告された。

 この親友は、生まれ変わったら樹になりたいと言う。あなたも好きにしたら、なんて言う。目立たず静かに暮らしたいそうだ。ふん、何てつまらない奴だ、苦労して美味しい実をつけても、自分は口にできないじゃないか。そう思った拍子に、私はその樹の樹液や実で生かされてきた虫か獣みたいな気がしてきた。ひしと樹にへばりついて雨露をしのぐ小さな姿が浮かんだ。
    先日、親友が、「飼っていたウナギが死んで家族で泣いたんだって。蒲焼きなんか食べられない家だね」と新聞を読みながら真面目な顔で言う。私はというと、退職記念でいただいたレトロな雰囲気の小さなラジオを、「ロケットラジオだってさ。ネーミングも昭和だ」なんて喜んでいた。よく見直すと、ウナギでなくウサギ、ロケットでなくポケットだった。なるほど、老後は目の衰えと早とちりから始まる。

 昔話は、「そして、お爺さんとお婆さんは仲良く暮らしましたとさ」で終わる。この2人が親友だと思うと何だか若々しく感じる。良いかもしれない、親友も。(12/4北海道新聞「朝の食卓」)

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この12月で2年目になるこのブログ、生活の一部になってきた。3日更新しないと少し気になり、5日ぐらいで落ち着かない。 そんな時、凡師さんが埋めてくれる(笑)

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