ムジカの写真帳

世界はキラキラおもちゃ箱・写真館
写真に俳句や短歌を添えてつづります。

てふのひそみ

2016-12-29 04:46:43 | 短歌






月影と てふのひそみで 香を練り 芥子のつぼみの 形にまろめり






*「練り香」というものがあります。沈香や白檀や丁子など各種の香料を粉末にし、それを蜂蜜などで練って、小さく丸めたものです。香炉などで燃やすと、とてもよい香りがする。

香料の種類や調合の割合などで、いろいろと楽しめるものでしょう。

そういう香道の奥ゆかしい仕事を材料に、作者は歌をひねってみたらしい。

月の光と、蝶々のひそみを粉にして、蜂蜜などで練り、芥子のつぼみの形に丸めてみたと。「ひそみ」とは「潜み」ではなく、「顰」です。顔をしかめるという意味です。知っていると思いますが、一応。

「顰に倣う」という言葉がありますが、それは中国の故事に由来しています。美女西施が病を得て、苦し気に顔をしかめている様子が美しいので、醜女がそれを真似てみたところ、あまりに見苦しいことになって、みんな逃げてしまったというのです。

ここまで言うと、作者の意図もわかりますね。

あまり解説すると、きついでしょうか。

蝶の顰とはもちろん、美女の苦し気な顔のことです。誰かということは言わなくてもわかるでしょう。あの人はいつも悲しそうだった。なぜなら、愛しても絶対に伝わらないということが、わかっていたから。それでも愛さねばならないという使命を、微笑みとともに背負うというものが、真の女性というものです。

伝わらなくても、すべてをやらねばならない。その決意が目に見える時、それは女性でありながら、まるで男性の聖者のように清らかに美しく見えるのです。

何も知らない女が、そんな女性の表情を、軽々しく形だけ真似てしまえば、愚かなことになる。

そういう教えを、芥子のつぼみのような形の香にして、君たちにあげよう。

それが作者の意図でしょう。美しいですね。








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