言語空間+備忘録

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政府が紙幣を印刷しすぎると、物価が上昇する

2011-06-15 | 日記
N・グレゴリー・マンキュー 『マンキュー入門経済学』 ( p.19 )

 第9原理:政府が紙幣を印刷しすぎると、物価が上昇する

 ドイツでは、1921年1月における新聞の値段は0・3マルクであった。しかし2年もたたない1922年11月には、同じ新聞の値段が7000万マルクになっていた。経済の他の価格もすべて同じぐらい上昇していた。このエピソードは、インフレーション(インフレ)という経済の全般的な価格上昇の史上最も劇的な例の一つである。
 アメリカは1920年代のドイツに匹敵するようなインフレーションを経験したことはないが、インフレーションが経済問題になることはたびたびあった。たとえば、1970年代には、一般物価水準が2倍以上に上昇し、ジェラルド・フォード大統領をしてインフレーションこそが「国民の最大の敵」であると言わしめた。対照的に、1990年代になると、インフレ率はほぼ年率3%となった。この上昇率であれば、物価水準が倍になるには20年以上必要である。高率のインフレーションは社会にさまざまな費用を払わせるので、インフレ率を低く保つことは、世界中の経済政策立案者にとって共通の目標の一つである。
 インフレーションは何によって引き起こされるのだろうか。大幅で持続的なインフレーションについては、そのほとんどが同じ原因によって発生することが明らかになっている。それは貨幣供給量の増大である。政府がその国の貨幣供給量を大幅に増やすと、貨幣の価値は下落する。1920年代初期のドイツにおいて、物価が1ヵ月ごとに3倍になっていたころ、貨幣供給量もやはり毎月3倍に増えていた。それほど劇的ではないにせよ、アメリカ経済の歴史も同様な結論を示している。1970年代の高インフレは貨幣供給量の急激な増大とともに起こっており、1990年代の低インフレは貨幣供給量のゆるやかな増大に伴っている。


 政府が紙幣を印刷しすぎると、物価が上昇する。貨幣供給量の増加率が大きいほど、インフレ率も大きくなる、と書かれています。



 「貨幣の量が増えれば、インフレになる」という理解は一般的に広く(社会に)いきわたっています。これは常識であるといってよいと思います。

 しかし、ここにはひとつ、問題があります。その問題とは、

   貨幣の量を増やせば、インフレになるといえるか
  =貨幣の量が増えれば「つねに」インフレになるといえるか

です。



 上記、経済学者のインフレ研究が「インフレーションが発生している経済のみを研究し、インフレのときには貨幣供給量も(ほぼ比例的に)増えていた」というものであれば、

   (大幅で持続的な)インフレーションの原因は、
    貨幣の量が増えたからである…………………(a)

とはいえます。しかしその逆、すなわち

   貨幣の量を増やせば(原因)、
    インフレーションが発生する…………………(b)

とは「いえない」はずです。



 「貨幣の量を増やせば、インフレーションが発生する」というためには、「貨幣の量を増やしたけれども、インフレーションが発生しなかった」例が「ひとつもない」ことを示さなければなりません。しかし、歴史上、このような例がひとつもなかった(と示された)場合であっても、それは「たまたま」そのような状況が発生しなかった、ということかもしれません。

 したがってこの証明は難しいと思いますが、

 (a) と (b) が「異なる」ことは「きわめて重要」です。



 (a) と (b) のちがいは、「(緩やかな)インフレを発生させたい」ときに重要になります。

 現在、デフレの脱出策として、日銀(日本銀行)に対し「紙幣をもっと発行しろ」という要求が(一部で)なされています。このような要求は、

   「紙幣の量を増やせばインフレになる」ので
   「デフレが終わる」ことを理論的前提としています。

 しかし、もし「紙幣の量を増やせば、インフレーションが発生する」とは「いえない」のであれば、このような要求は「おかしい」と考える余地が生じます。デフレを終わらせるために、デフレを終わらせる効果のない紙幣供給量の増大を要求している、ということになりかねないからです。

 日本銀行は「紙幣の量を増やしたところで、デフレ(デフレーション)は終わらない」という考えかたをとっているのではないかとも思われますが、日銀の主張の是非を考えるうえでも、これは重要です。

 そこで、この教科書が上記「第9原理」の詳細を論じている部分で「紙幣の量を増やせば、インフレーションが発生する」といえるか否かを検討したいと思います。

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