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「公債の中立命題」 の成立条件

2010-01-09 | 日記
 「公債の中立命題」 の続きです。



井堀利宏 『日本の財政改革』 ( p.99 )

 公債の中立命題は、経済環境と経済主体の行動に関して、いくつかの重要な仮定を前提としている。これらの仮定の中で、(1) 流動性制約のない完全な資本市場の存在、(2) 非攪乱的な課税、(3) 将来の財政政策や所得に関する完全な予想が可能、(4) 民間部門と政府の計画期間の一致という仮定が重要である。リカードの中立命題は、(1)-(3) を前提としており、バローの中立命題は、(1)-(4) を前提としている。以下これらの点について、説明しよう。

(1) 借り入れの制約
 貯蓄をする場合の利子率と借金をする場合の利子率とは一致せず、借り入れの利子率の方が高いのが現実であろう。現実には、かなりの人々にとって貯蓄よりは借金の方がやりにくく、借り入れにある程度の制約があるだろう。これを 「流動性制約」 と呼んでいる。もっとも極端な場合には、借り入れをしてまで所得以上の消費をしたいけれども、一切できずに、所得をすべて消費に回している。そうした流動性制約が存在するとき、減税によって可処分所得が増加すると、同額だけ消費が増加する。すなわち、中立命題が想定していたように減税分がそのまま貯蓄されずに、消費に回される。その結果、流動性制約のあるときには、完全な資本市場の場合よりも限界消費性向が大きくなる。借り入れ制約の存在で、公債の中立命題が成立しなくなる。

(2) 攪乱的な税制
 一般的にミクロの経済活動に影響する攪乱的な税制を認めると、公債発行は中立的ではなくなる。攪乱的な課税のタイミングを変更すると、ミクロ的な価格の変化による代替効果を通じて民間の行動に影響を与える。たとえば、所得税を減税すると、課税後の実質的な賃金率が上昇して、勤労意欲が刺激されるかもしれない。利子所得税が減税されると、課税後の実質的な利子率が上昇して、貯蓄意欲が刺激されるかもしれない。こうした代替効果があれば、公債発行による課税のタイミングの変更は、実質的な効果を持つことになる。課税のミクロ的影響を最小化すべく公債発行を考えるのが、第 2 節で説明した公債のクッション政策である。

(3) 将来の課税と所得の不確実性
 公債発行による現在の減税は将来の増税に対応しているが、いつの時点で増税されるか、どのような税が増税の対象になるのか、その結果増税が個人間でどのように負担されるのかは、実際には不確実である。このような不確実性があると、中立命題が成立しない可能性がある。また、所得が不確実ならば、遺産動機が利他的なものであっても、公債発行による減税は、消費を刺激することもある。将来の所得が不確実であると、将来どのくらいの遺産を残せるかも不確実になり、必ずしも遺産での相殺行動が有効に働かない。その結果、いま一円確実に受け取るのと将来子どもの世代が一円の現在価値の金額を受け取るのとが、親の世代にとって必ずしも無差別にならない。

(4) 民間と政府の計画期間の不一致
 バローの中立命題の必要条件の一つは、家計と政府が同じ計画期間を持ち、現在価値を計算する際に、同じ割引率を用いる点である。この条件は、利他的な遺産動機が完全に働いている場合には、成立している。しかし、負の遺産を残すことが現実の世界でできないとすれば、異世代間での自発的な所得の再分配にも限界が生じる。政府による世代間の再分配を完全に相殺するには、ちょうどそれに見合った自発的な遺産の調整が必要である。もし、そのために負の遺産 ( 子から親への贈与 ) が必要とされても、現実には遺産は負になれない ( 非負制約 ) から、それが実現できないケースが考えられる。バロー的な遺産動機を持っていても、その程度があまり強くなければ、すなわち、親が子の世代の効用をあまり自分の効用に置き換えない場合 ( =親が子をそれほど強く愛さない場合 ) 、非負制約の条件が効いて中立命題が成立しない可能性が生じる。すべての世代がプラスの遺産を残し、利他的な遺産動機が有効となる状況について研究した数値計算では、このメカニズムが働くためには、親が子をかなり強く愛する必要があることが示されている。


 公債の中立命題 ( リカードの中立命題、バローの中立命題 ) が成立するために、必要な条件が挙げられています。



 こまかく書かれていますが、要は、

   現実には、公債の中立命題が成立しないこともある、

ということです。したがって、理論はともかく、現実に、どの程度あてはまるのか、それが重要になってきます。

 おそらく、「ある程度は成立するが、完全には成立しない」 というあたりが、現実だろうと思います。



 必要とされる条件の 「数」 からみて、あきらかに、リカードの中立命題よりも、バローの中立命題が成立し難いといえるのですが、

 バローの中立命題の成立条件とされる、「(4) 民間と政府の計画期間の不一致」 については、( 他の条件に比べ ) 疑問があります。そこで、疑問点を記します。



 著者は、「現実には遺産は負になれない ( 非負制約 )」 と述べています。しかし、親が子に債務を残せば、現実に遺産は負になります。

 もちろん、子が相続しなければ ( 相続を放棄すれば ) 、「現実には遺産は負になれない」 というのと、なんら変わりはありません。しかし、相続することが経済的にはマイナスであっても、あえて相続するケースも十分、考えられます。さらに、子が相続を放棄した場合には、負の遺産が相続される場合に比べ、その一族は利益を得ることになると考えられます ( つまり親は、より強く消費しようとする誘因をもつ ) 。

 したがって、著者が、バローの中立命題の成立条件としている非負制約については、それほど考慮する必要がないのではないか、と思います。
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