言語空間+備忘録

メモ (備忘録) をつけながら、私なりの言論を形成すること (言語空間) を目指しています。

「人民幣」 とインフレ

2009-12-10 | 日記
田代秀敏 『中国に人民元はない』 ( p.45 )

 中国には 「人民元」 という通貨はない。
「人民元」 は 「ラーメン」 と同じく完全な和製中国語である。中国では自分達が使っている通貨のことを 「人民幣」 と呼ぶ。
「人民幣」 は北京語で "rénmínbì" と発音するので、国際記号はRMBである。

(中略)

 それでは、「人民幣」 が中国の通貨なのかというと、そうではない。
「人民幣」 が最初に発行されたのは一九四八年一二月一日である。その翌年の一九四九年一〇月一日に中華人民共和国が成立した。だから、人民幣は中華人民共和国よりも古い。したがって、人民幣が中華人民共和国の通貨であるはずがない。
 人民幣を発行しているのは中国人民銀行である。中国人民銀行は一九四八年一二月一日に設立された。同じ日に人民幣がはじめて発行された。だから、中国人民銀行を設立したのは、中華人民共和国ではなく、中国共産党であった。
 したがって、人民幣は中国共産党の通貨である。この歴史的な事実が、人民幣の性質を、現在に至るまで決定してきている。
 そもそも 「人民幣」 という名称は、中国国民党の通貨 「法幣」 に対抗してつけられている。
「法幣」 は中国最初の法定通貨であった。法律で定めた貨幣なので、「法幣」 と名付けられた。中国国民党は財政が破綻しているのに腐敗汚職にまみれ、法幣の天文学的なインフレーションを引き起こし、法幣の対ドル為替レートは暴落し、法幣は信任をまったく失ってしまった。
 それに対し、中国共産党は占領地域でインフレーションを沈静化し、党が経営する銀行に預金を集めた。共産党の秘策は、穀物や肉や卵といった物財本位の通貨の発行であった。共産党がつくった銀行に預金すると、その時の金額で買える豚肉や麦や卵などの数量が通帳に記され、引き出す時にはその数量の商品を受け取れたのである。
 こうして、共産党は国民党との通貨戦争に勝利して、国民党を台湾に追い落とした。
 だから、中国共産党にとって、物価と対ドル為替レートとの安定は国是ならぬ党是なのである。


 「人民元」 は和製中国語であり、正しくは 「人民幣 ( RMB )」 である。なお、「人民幣」 は中国共産党の通貨であり、国民党の発行した法定通貨 「法幣」 に対抗し、「法幣」 のインフレを沈静化するために発行された、と書かれています。



 「人民幣」 は国家ではなく、党の通貨である――。

 これは強烈なインパクトをもっていますが、ここでは、「人民幣」 がインフレ沈静化機能をはたした、という記述に着目します。

 史実として紹介されているのは、

  1. 新しい通貨 「人民幣」 を、
  2. 物財本位の通貨として発行した ( 共産党がつくった銀行に預金すると、その時の金額で買える豚肉や麦や卵などの数量が通帳に記され、引き出す時にはその数量の商品を受け取れた )

です。

 日本は国債を発行しすぎているので、今後、ハイパーインフレになる可能性がある、という予測があります。私はその予測には懐疑的ですが、万一、ハイパーインフレになった場合には、これと同じ対策をとればよいと思います。



 次に、「中国共産党にとって、物価と対ドル為替レートとの安定は国是ならぬ党是なのである。」 についてですが、

 私は 「中国の政策スタンス」 で、中国は 「実質的なドルペッグ制」 をやめたくないのではないか、したがって中国は、「バランスシート不況においては、金融緩和は効かない」 というリチャード・クーの主張を支持しているのではないか、と書きました。

 中国が 「実質的なドルペッグ制」 の継続を望んでいるのは、( リチャード・クーの主張もさることながら ) 歴史的な理由によるところが大きいのかもしれません。



 しかし、「実質的なドルペッグ制」 を続ければ天文学的なインフレになる可能性があります。中国共産党は、それも望んではいないはずです。

 とすると、中国共産党は、いま、

   「物価」 の安定と 「対ドル為替レート」 の安定、どちらを重視するか

を問われている、と考えられます。歴史的に、どちらも重要であったことはたしかだと思いますが、

 究極的には ( 最終的には ) 、「物価」 の安定を重視せざるを得ないのではないかと思います。本来、「物財本位の通貨」 として発行された人民幣は、「物価」 の安定を重視する方向に行くのではないか ( 対ドル為替レートは切り上げられるのではないか ) と思います。

 なお、これについては、「アメリカの本音とアジアの本音」 に、本稿とは異なった視点で同様の予測をしています。よろしければご参照ください。

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