2月25日 キャッチ!
ユーロ圏経済のけん引役を担っているのがドイツだが
かつて自国の債務拡大でハイパーインフレに陥ったという苦い経験がある。
ドイツは今年の予算策定では国債を発行しない
いわば「借金ゼロ」という思い切った決断をした。
去年11月 ベルリンの連邦議会で行われた予算審議。
賛成多数で2015年の政府予算案が可決された。
可決されたのは国の借金にあたる国債を一切発行しない「借金ゼロ」の法案である。
ドイツが借金をせずに予算を組むのは
西ドイツ時代も含めて1969年以来
46年ぶりという大胆な決断だった。
(ドイツ ショイブレ財務相)
「きょう我々が決めた予算案は未来に向けた義務でもある。」
今年のドイツの国家予算は歳入歳出ともに2,991億ユーロ(約44兆円)。
堅調な経済を背景に歳入の9割以上を税収が占める見通しである。
伝統的に財政の均等を重んじてきたドイツ政府。
しかし旧東ドイツ地域の復興に多額の支援を行った1990年代や
世界的な金融危機が広がった2000年代後半には国債の割合が歳入の2割に迫ることもあった。
それが超緊縮財政へと舵を切った最大の要因は
ヨーロッパの信用不安である。
ギリシャなど南ヨーロッパの国々で債務が膨らみ
市場から容赦なく国債を売られ次々に危機に陥ったことがある。
(ドイツ メルケル首相)
「政府は国民や経済に信頼と安心を保証しなければならない。
それは我が国だけでなくEUやユーロ圏に対しても同様です。」
ドイツが抱える累積債務は対GDP比で約77%。
ギリシャの175%やイタリアの128%に比べると小さいものの
EUが定める基準の60%は満たしていない。
国内で少子高齢化が進む中で社会保障費の負担もさらに膨らむ見通しである。
専門家は信用不安の再燃を防ぐためにもドイツはいまこそ財政の健全化に取り組むべきだと主張する。
(ケルン経済研究所 ブリューゲルマン上席研究員)
「ドイツが歳出を増やして借金をする理由はありません。
労働人口の減少と社会保障費の増大が進む中
やるべきことは借金を減らすことです。」
その一方でドイツ国内では緊縮予算の影響が広がっている。
ベルリン市内の幹線道路に架かる橋にひとつは老朽化で車の通行が去年から禁止されている。
ある公立の学校ではあちこちに修理に必要な個所があるが危険性が低いとして修理の費用がなかなか出ないと言う。
(公立学校 校長)
「政府は改築資金を確保すべきです。
子どもたちは国の将来を担うのです。」
世論調査によると政府の「借金ゼロ」予算に賛成と回答した人は54%
反対は43%とほぼ拮抗している。
(賛成派 市民)
「今から少しずつ返済しないと次の世代に返済不可能な借金がのしかかることになる。」
(反対派 市民)
「政府の緊縮策は必要なインフラ整備に配慮しないで進められています。」
「借金ゼロ」の決断で内外に財政再建への強い意志を示したドイツ。
決意を貫き通すことが出来るのか手腕が問われる。
緊縮財政への強いこだわりはドイツの歴史も関係している。
ドイツは第1次大戦 後膨大な借金によりお金の価値が下がる「ハイパーインフレ」を経験した。
これは過去の教訓として現代にも語り継がれている。
借金はできるだけ避けるべきという考え方は他の先進国に比べても非常に強い。
ウクライナ情勢や新興国経済など懸念材料はあるもののドイツ経済は堅調さを保っている。
去年の経済成長率は1,6%
内需がけん引する形で予想を上回る成長率を達成した。
堅調な経済を背景に税収も伸びている。
ドイツ政府は先端技術や教育など日張娜分野には積極的に投資をしつつ
今後も「借金ゼロ」の緊縮予算を続ける方針である。
景気対策よりも財政再建を優先させるドイツの姿勢にEU各国からは反発の声があがっている。
フランスは
ヨーロッパの経済が低迷する中財政に比較的余裕があるドイツはより積極的な景気対策を行うべきだとしている。
(フランス マクロン経済相)
「ドイツはフランスより投資の余地は大きい。
我々はともに投資を増やすことが必要だ。」
ただ今回のドイツの「借金ゼロ」は他のEU諸国の姿勢を見せるという意味合いもある。
ギリシャなどの国々に対して
支援に頼るのではなくまずは構造改革や緊縮策を徹底するよう求める狙いとみられる。
こうしたドイツの姿勢は
かつて痛みを伴う改革によって経済の回復を成し遂げたという自信に裏打ちされている。
10数年前 ドイツは失業率が10%を超え景気停滞が続き
「ヨーロッパの病人」とまで呼ばれていた。
これに対して当時のシュレーダー政権は
手厚い社会保障費の見直しなどの痛みを伴う改革を断行した。
国民の強い反発を受けて政権を失うほどだったが
これが現在の堅調な経済の築く土台となった。
厳しい環境の中でも支援に頼らずに改革を実施し経済を回復させた過去の体験から
ギリシャなどの南ヨーロッパの国々なども苦しくても同じ道をたどることが不可欠だとみている。
ドイツから見た日本は
ギリシャやスペインといった南ヨーロッパの国々と同様の問題を抱えた国と映っている。
経済の専門家は
日本は債務の削減に直ちに取り組むべきだといった意見が目立つ。
構造改革で民間企業の投資やビジネスの立ち上げを活発化させる一方
歳出を削る努力も同時に行うべきだと提言している。
ヨーロッパの中でも財政出動による景気対策か
緊縮策による財政再建か
どちらを優先させるべきかは意見が分かれている。
「借金ゼロ」のドイツの決断が今後どのように推移するのか
先進国の中でも異例といえる方針だけに注視していきたい。