MARU にひかれて ~ ある Violin 弾きの雑感

“まる” は、思い出をたくさん残してくれた駄犬の名です。

ベルクのViolin協奏曲 (1)

2009-01-22 00:09:03 | その他の音楽記事

01/22     ベルク の Violin 協奏曲 (1)




          これまでの 『その他の音楽記事』




 最初に音源です。




 [Violin : Frederieke Saeijs、

   フランス国立管弦楽団、指揮 : Jonathan Darlington]




 ① [第Ⅰ楽章 前半


 ② [第Ⅰ楽章 後半、 (2'30" 頃から) 第Ⅱ楽章 前半


 ③ [第Ⅱ楽章 後半




 曲は二つの楽章から成り、30分ほどかかります。





 1935年、ベルクは二月にヴァイオリン協奏曲を委嘱され
ながらも、取り掛からないでいました。 財政的な事情もあり、
歌劇『ルル』の作曲に没頭していたのです。

 しかし、四月の下旬になり、ある少女の訃報がもたらされる
と、彼は歌劇の執筆を中断し、10週間という異例の速さでこの
協奏曲を作り上げます。

 そしてこの曲は、彼が完成した最後の作品となりました。




 ベルクがわが子、あるいは妹のように可愛がっていたこの
少女マノン (1916/10/5~1935/4/22) は、白血病で亡くなり
(あるいは小児麻痺とも言われています)、その死を悼んで
作曲されたこの協奏曲は、「ある天使の想い出に」と記され、
彼女に捧げられました。





 ベルクは、恋愛関係を含めて、生涯に多くの女性と出会い、
自分の音楽の題材としています。

 それは後年の研究の結果、判明したことです。




 そして、マノンを主題にしたこの曲においてさえ、ほかにも
二人の女性が登場しています。 それぞれは、特徴的な
音の並び方によるテーマから出来ています。




 そのうちの一人は、『叙情組曲』の直接の内容ともなって
いる、不倫相手のハンナ・フックスです。

 さっそく第Ⅰ楽章の冒頭に現れる、上昇、下降する音形
がそれです。 完全五度音程なので、まるで Violin の調弦
そのものです。




 ソロ・ヴァイオリンがいったん口をつぐみ、曲の開始から
1分ほどして再び歌い出すのが、"マノン" のテーマで、
全曲に亘って重要な形です [音源① の 1'53"]。

 先ほどの "五度" の代わりに、抒情的な "三度" 音程
の積み重なりが特徴的で、最後は、全音の開きを持つ
四つの音の音階で終わります。

 曲が進行するにつれ、この "三度" や "全音階" は
上下し、さらに "六度" や "七度" の上下に形を変えます。
さらに、音符は十二音音列の約束に従って扱われ、一見
複雑になりますが、よく見ると、それはいつもマノンそのもの
なのです。





 二拍子系の前半が終わると、第Ⅰ楽章の後半は、
6/8、3/8などの三拍子系に変わります
音源① の 5'22"]。

 前半がマノンの優美なたたずまいを表わしていた
とすれば、後半は、軽やかに踊るマノンでしょうか。




 ハンナの "五度" は、曲の重要な節目に現れるほか、
踊るマノンを、まるで監視するかのように、伴奏形にも
潜んでいます。





 もう一人の女性は、彼が17歳のときに関係を持ち、
隠し子まで設けた、女中のマリー (愛称ミッツィ) です。

 その音楽は、彼女とゆかりのある、ケルンテン地方
の民謡そのままの形なので、前後の音楽との違いが
歴然としており、すぐ聞き取れるはずです
音源② の 1'06"]。




 しかし、素朴な民謡とは言うものの、その歌詞は、

「小鳥が起こしてくれなけりゃ、今もベッドでミッツィと一緒」

という、露骨であっけらかんとしたものです。




 この音楽は、純真なマノンを見ているうちに思い出された
かのように、自然に現れます。 しかし、長続きはせず、
すぐ現実に引き戻されます。




 マノンは再び踊り始めますが、これに絡むかのように
"五度" 音程が何度か介入し、矛盾は解決しないまま、
第Ⅰ楽章はすぐ終わってしまいます。

 この後に悲劇が続くことも、何となく予感させます。




 この楽章は主にマノンを描写するもので、

最初に登場するその音形は、

ハンナの五度音程も含んでいます。



 十二音音列でありながら、調性感や抒情性を感じさせる、
ベルク独特のものであることが、よく指摘されています。




 (続く)