MARU にひかれて ~ ある Violin 弾きの雑感

“まる” は、思い出をたくさん残してくれた駄犬の名です。

甘いエサには罠がある

2009-01-08 01:21:09 | 私の室内楽仲間たち

01/08  私の音楽仲間 (10)



            甘いエサには罠がある


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                ドクソウ的じゃろうが…
                 流用とは何事じゃ!
                  お前は黙っておれ
                 お前は馬鹿じゃのう

 

 

 クリスマス・ケーキをおいしくいただき、いよいよ後半です。

 曲は、Dvořák の 弦楽六重奏曲イ長調、作品48です。




 メンバーは、Violin が私とSaさん、Viola がEさん、Bさん、
チェロがSIさん、Michikoさんです。


 Michikoさんと書いたのは、ご夫婦で共にチェロが達者な
方々なので、お二方を区別するために、こう呼ばせていただいて
います。 このブログでは初めてご紹介しますが、何度か私も
ご一緒しており、特に Haydnの四重奏曲に詳しい方です。

 聞くところによれば、以前大病を患っておられましたが、
奇跡的なカムバックを遂げられたとのことです。 ひょっとして
音楽の力、とりわけアンサンブルの妙味が回復に役立った…
のでしょうか。





 この曲ですが、Dvořák が六重奏曲を書いていたのは、
恥ずかしながら知りませんでした。 私の手元にはパート譜が
無く、Saさんたちに調達をお願いすることになりました。

 スコアだけでも事前に入手しようとしたのですが、残念ながら
国内には無いようなので諦めました。

 音源も今回は見つからず、申しわけありません。




 音を出してみると、なるほど、いかにもこの作曲家らしく、
歌心満載の曲でした。




 第Ⅰ楽章はイ長調 4/4拍子、Allegro moderato。
いきなり私のパートに、歌のメロディーが出てきます。

 楽章が進むにつれ、幾分テンポが変化する様は、
ちょうど交響曲第八番の第一楽章に似ています。




 第Ⅱ楽章は Dumka (Elegie) と題された、ニ短調の
ゆっくりな二拍子。 あのピアノ三重奏曲 "Dumky"
の第Ⅳ楽章
と、やはり共通する気分です。

 Dumka と名付けられた楽章は、他にもピアノ五重奏曲
などに見られます。




 第Ⅲ楽章は Furiant、イ長調 3/4拍子の Presto です。
あのスラブ舞曲の、速い三拍子をご想像ください。
二拍子が混ざっているような、民俗舞曲です。

 その自由奔放な動きは、聞いているととても楽しい
のですが、こちらは大変です。 速いし、音符の数は
滅茶苦茶に多いし、音域も高く、上下運動が激しい。
自宅でさらっていても、一番苦労した楽章です。





 さて、曲は無事に終わりました。 渡された譜面は
ここまで。 全部終わりです。


 「やれやれ…」と、ホッとしていた、そのとき、

 「じゃあ、次、行きましょう!」

の一言が、Saさんからありました。




 「エッ、何なの? これで終わりでしょ?」

 そう思っているのは、どうも私だけのようです。

 どうも次の楽章があるようなんです。


 「変だな…??」





 そう言えば、思い当たる節 (ふし) があります。

 一、二か月前のことでした。 譜面をコピーして送って
もらったのですが、見たところ、楽章が三つしか無く、
しかも Furiant で終わっているのです。


 「これは中途半端だ、どうもおかしい…。」

 私ならずとも、疑問に感じるところです。




 そこでさっそく訊いてみました。

 ひょっとして、まだ他にも楽章があるのではないか…?


 しかし返ってきた答えは、
 「これで全部です、間違いありません」というものでした。

 きっと、原譜をコピーに回す際に、何かの拍子に欠落して
しまったのでしょう。




 受け取った私の方も曲を知らなかったので、"変だな"
とは思いながらも、"さらう楽章は少ないに越したことはない"
とばかりに安心してしまい、以後は調べなかったのです。





 それが、ここに至って大変なことになりました。
私のパートだけ、譜面が無いのです。

 でも、こうなった以上、続行は不可能ですよね!?

 「ああ、よかった!」




 そこで私は頭を下げ、「残念ですが…」と言いながら、
譜面が無い事情を皆さんに説明し、ひと安心したときの
ことでした。

 「駐車している車に行けば、原譜があります!」

 なんと、血も凍るような、鬼の一言が…。





 それがどなたの発言だったか、まったく覚えていません。

 なぜなら、それを聞いた途端に、一瞬、私の心の中で、
恐怖が身をもたげ、頭が真っ白になったからです。

 「まさか、初見で弾くことになるわけじゃないだろうな…。」 




 そして、そのとおりになりました。 結果は悲惨でした。

 渡された終楽章、最初の方はゆっくりで、何とかボロを
出さずに済みました。 しかし右のページ、二ページ目に
入ると、さっそく "読めない音符" が…。

高い音域で早く動き回るパッセジが延々と続きます。

 私は "加線" が大の苦手。 三本以上になると、
それこそ、「1、2、3、無限大…」のクチです。

 弾けないので、手を休めて数えるのみ。 やっと手を
出せるところまで待ち、皆さんに合流した次第です。




 とりあえず、いったん全部終わりました。

 そこで、今弾けなかった箇所をちょっとさらってみます。

 「よし!」

 完璧に弾けるようにはなりませんでしたが、今度は
何とかなりそうです。




 「すみませんでした、じゃあ、もう一度…」

と言おうとしたときでした。 見ると、みんな、もう楽器を
片づけているではありませんか。

 そう、時間が来てしまったのです。





 何という日、そして、一体どんな終楽章だったのでしょうか。

 お蔭で、どんなメロディーが出てきたのか、まったく覚えて
いません。 イ長調、2/2拍子だったということのほかは。





 「おいしいケーキもいただいたし、今日はハッピーで
終わりそうだ。

 先ほどまでそう思っていたのは、甘かったようです。




 今度は知らない曲に遭遇したら、もう少し下調べを
することにしようっと。



 甘いエサには罠があるんですね(笑)。





 余談ですが、ついに今日、自宅のパソコンがダウンしました。

 ファンの不具合で、冬でも温度が下がらず、
断末魔の異音とともに、起動しなくなったものです。

 バック・アップが間に合ったのは幸いでした。




 夕方に家族と新品を購入に行き、苦心惨澹の末、なんとか
設定にまで漕ぎ着け、今こうして書くことができました。

 白いパソコンです。

 あの、クリスマス・ケーキそっくりの色をした…。