はぎわら_m の部屋
社会・時事批評、オピニオン、初等物理の気まぐれ考究、物理教育放談

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原子炉の炉心は、冷却水の循環が止まって温度が異常上昇した時点で、速やかに自己破壊して落下するようなしかけとする、、そしてこの落下に伴って、大きな熱容量の物体中に散り散りにばらまかれる(できれば希釈させる)ようにすればよい旨を、前項で述べた。狙いは、水の循環による熱交換に頼ることなく、炉心(の破片)を永久的に密閉容器内に保持し得る条件の達成だ。

実は、通常の熱化学的反応としての圧力上昇、水蒸気爆発、水素爆発、などを強引に押さえ(抑え)込む容器の強度というのは、そのことだけを考えるならば、大して困難な条件ではない(デリケートな機能構造を切り離すことは必要だが)。問題は、核崩壊熱を出し続ける炉心が、局所高温状態をつくってしまうために、それが、予測のつき難い複雑な固体反応や破壊をもたらすことなのだ。緊急停止後の炉心が入った容器の外壁を、通常の熱伝導による表面冷却の効果だけを頼りに、強度が失われない温度範囲に保持しておくことができれば、原子炉燃料を(水の流れない)密封した状態のまま永久停止にもっていくことが可能となる。

これを実現する仕組みとしてイメージしているのは、素朴至極、図のような形態の容器を用いることである。この図は断面を表す模式図となっているが、立体のイメージとしては、三角フラスコの底面を円錐状に盛り上げた形状であり、最底部はいわゆるドーナツ型になっている。そして、この形状のタイプを(現状の装置で言うところの)「圧力容器」「格納容器」の双方共に適用する(ただし大きさのスケールは両者で異なる)ことを考える。

炉心が破壊・熔融したときに、最も恐れねばならないのは、熔け落ちた核燃料が団子状に集まって’再臨界’条件に突入してしまうことだ。つまり、崩れ落ちた炉心破片が一箇所に集まらないようにする工夫が何としても必要だ。ところが、現状の圧力容器の底は‘お椀の底’型であり、沈降物を集めてしまう恐れのある悪しき形になっている。もちろん、容器の強度も重要であるが、図の‘山底三角フラスコ’は、圧力差に抗するのにも好適である(この形のガラス製器具を使った経験に基づいている)。

そして、分解した炉心の破片を受け止めるべく、図中マゼンタで網をかけたドーナツ型部分には、予め、ホウ素を含む合成ガラス状スラグ等を十分量仕込んでおく。(ウランとのなじみを調べておく必要があるが)落ちてきた核燃料破片が十分高温の場合は、このスラグに固溶して、体積的な希釈の効果をもたらすだろう。温度が下がっていれば、単に、耐熱熱容量部材として振舞えばいい。そして、ここがポイントであるが、このドーナツ部分で温度が十分下がらない場合は、その最下部分は、壊れて底抜けすることを想定に入れておく。

さて、この圧力容器は、「隔離モード」に入った後は、もう一回りか二回り大きい格納容器の下の方に、(ガイドに沿わせて)沈めるという前提である。この格納容器(の下半分)は、やはり図のようなドーナツ型とその中心の円錐凸部をもっており、その円錐の上に、炉心破片の入った今の圧力容器の底の円錐凹部が嵌まり込むように乗る形になる。したがって、底抜けしたスラグ状の炉心物質は、この格納容器の底に抜け落ちることで、さらに直径の大きな円環状に散らばっていく。そして、そのドーナツ型の底部分には、先と同様のガラス状スラグが仕込んであり、熔融部分はさらに希釈されることになる。ただし、今度は底抜けは絶対に許されない。熱熔融したスラグは、金属壁に対して、腐食・固溶効果をもつだろうから、今度の容器壁底部の内側は、マグネシア(MgO)セラミクス(情報サイトの例1, 例2)などで内張りしておくことにする。

このような円錐凹部をもつ容器壁は、外部からの熱交換に有利であることが、次なる重大ポイントとなる。容器外の下方から円錐凹部の壁に向かって流水を当てるような機構をつくっておけば、効率的に冷却が進むだろうし、ドーナツ型のサイズを十分大きくすることで、空冷だけに依っても、容器破壊を起こすことなく永久密封の状況を保つ設計が可能であると推察する根拠をなす。
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今回の福島第一原子力発電所の事故を通して、我々は、これまでの原子力発電装置が、根本的に‘フェイルセーフ’からほど遠い機構であった現実を、いやと言うほど知ることとなった。

このことに関して、はぎわら_m 流の整理と、今後とるべき指針について記してみたい。

まず、原子力発電装置の、他の動力機関とは根本的に異なる性格は次の3つにまとめられるだろう。

(1) (長期間分の)燃料を最初にいっぺんに仕込んでしまうこと。

(2) 出力の一部を戻して為される動作(今の場合は熱交換)が、安全維持には絶対必要である一方で、エネルギー発生の動作そのものには寄与していないこと。

(3) 燃料およびその反応生成物の有害性が極めて高いこと。

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 簡単に補っておこう。(1)は(2)と関係している。核燃料は、他の燃料に比べて異常にエネルギー密度が高く、そのために、その製造に巨額なコストがかかったとしても、得られるエネルギーは他の燃料機関にくらべて安価になるという仕組みである。ただし、核反応の臨界条件を満たすためには、ある程度まとまった分量を狭い空間に集中させておく必要があって、少しずつ供給するという方式は(原理的)に採れない。そこで、一端連鎖反応が始まり、エネルギーを放出するようになったら、後は、過熱を防ぐべく熱を取り出し続けることだけが必要な操作となる。この点を、例えばガソリンエンジンと比べてみよう。ガソリンエンジンの動作を持続させるには、燃料を外部タンクから吸い出し、それを霧にして空気と混合し、続いてシリンダ内に噴射し、さらにそこにスパークをとばし、、という操作が必要である。これらの操作は、エンジンで発生したエネルギーの一部を戻し使って実現させることになる。したがって、故障などによってこのエネルギー帰還系のどこか一部でも止まれば、そこで、エンジンの動作停止、エネルギー発生中止となって、一切が終了するだけである。ところが、原子力発電装置においては、エネルギー帰還の機構に不具合が生じても、エネルギー発生は止まらない。むしろ、エネルギーを取り去ることができなくなるのみだから、まさに、暴走・破壊への道を辿る運命しかない。今回の事故では、臨界条件を外すための制御棒挿入はなされたようだが(電力無しで動くようなフェイルセーフがあったのだろう)、これとて、ガソリンエンジンの電気系統ストップによる絶対停止条件に比べれば、危うい事だったと思っている。そして、こうした特異な状況の上に、最後に、(3)の重い条件が乗っかっているのである。まさに冒頭に書いたとおり、『原子力発電装置は根本的に‘フェイルセーフ’からほど遠い機構』なのだ。
 
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上のように整理してみることで、実は、原子力発電および原子力発電装置に対して求められる今後の方針というものも見えてくる。

 先ず言わなければならないのは、これまでの原子力発電装置は、根本的に不完全・未完成の技術であることを素直に認めて、新たな基礎開発の段階に踏み出すべきである。その開発が達成されるまで、原子力発電の推進はストップし、古くてリスクの高い既存装置から停止していくべきだ。そして、その原子力発電用のタービンを火力ボイラーで動かす施策を速やかに進めればよい。
 
 新しい原子力発電装置の開発は、(航空・宇宙やIT技術などの轍を踏んで)他国からの技術導入に頼ることをせず、日本のオリジナル技術を骨格とすべきである。この震災を機に、世界のトップを走る安全な原子力発電技術を築きあげればよい。

 さて、そのような新たな改善の指針は、(本稿を綴ってきた我々にとっては)もはや明確になっている。大枠の考え方を一言で述べるならば、要するに、上で明らかにしたフェールセーフに反する状況を、できるだけ根本的に転換してしまうことなのだ。ただし、燃料を少しずつ送り込むということだけはどうしても叶わない。そうとなれば、残るは、『仕込んだ燃料と装置の全てを廃棄することになってもいいから、何もしないで放置したときに、燃料(とその反応生成物質)を外部に出すことがなく、自然に永久停止する.』という条件を満たすようにするしかない。言い方を変えれば、これが実現できない限り、原子力発電装置は未完成・欠陥品なのであって、運用してはならないということだ。

 そのために必然的に求められる(従来と全く異なる)視点は次の2つである。

(I) 燃料が狭い空間に詰まり固定されている という状況を保つために、何らかのアクティブな動作を必要とすること.
〔この動作が止まれば、燃料はなるべく広い水中空間に散り散りになるようにする〕

(II) 事故の際には、炉心の熱を、なるべく広い(熱容量の大きい)領域で受け止めて対処する。
〔大きな熱量を狭いところに閉じ込めるのは無理(つまり"5重の壁"は発想がとんちんかん)である. 広い部分で密閉系を構成せよ.〕

これを実現することは、実はそう難しくない。高度な原理を利用した仕組みもいろいろ考えられるが、ここではあえて、ローテクノロジーに基づく私なりのアイディアを示してみたい。(ただし、私は、プラント工学の知識をもっているわけではないので、素朴な段階の着想に留まるものである。)

(a) 異常事態の重大性閾値を定め、それを越えたら非可逆的に「隔離モード」に移行させる.このモードへの突入は、全く自動的に、センシティブになされねばならない。この突入による営利的損失を避けるべく、事業者は、全力を傾けて冷却装置系の安全設計・運用をする、、こういう形にする必要がある.

(b) 隔離モードでは、炉心は(むしろ)速やかに壊れ、圧力容器内に分散・拡散するようにする.そのためには、構造を支える部材にある程度熱に弱い材料を使って、その耐熱限界を越えた時点で、重力とくさび型の受け具の効果で、炉心を分解させる.(化学的溶解までできればなお完璧だが、これは難しいかも知れない.)

(c) 隔離モードでは、圧力容器につながる水や蒸気配管は、すべて切り離し、格納容器中に沈めてしまう.

(d)格納容器は、堅牢なチャンバー型の中に構成する。再凝縮や圧力調整バルブなどは、すべてその内側の機構として納め、隔離モードでは(物質移動的に)孤立・密閉系として振る舞うようにする.

(e) 格納容器の下半分は、脱落した炉心・圧力容器を受け止める、大きな嵩と熱容量を伴った、予備機構とする.(このアイディアは後述する予定.)

(f) 格納容器全体を(密閉状態のまま)外部から冷やす熱交換機構を備えておく.

次稿で補説する。
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