「 植草一秀の『知られざる真実』」
2016/10/11
今国会での拙速なTPP批准は絶対に許さない!
第1562号
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米国の大統領選まで1ヵ月を切った。
2度のテレビ討論が実施されたが、世論動向を誘導しているのは「情報戦」で
ある。
クリントンを支援する側が手持ちの情報を大統領選直前にリリースしている。
そして、マスメディアは総力を結集してトランプ氏選出を阻止しようとしてい
る。
通常の大統領選とはまったく様相が異なっている。
その理由は単純である。
トランプ氏が米国の支配者の傘下にはない候補者だからである。
トランプ氏にはこれまでに多くのアプローチがあったはずだ。
そのアプローチを受け入れて「支配者」との「取引」に応じていれば、選挙は
通常の段取りで実施されたと考えられる。
しかし、トランプ氏はそれを拒絶したと見られる。
その結果として、メディアが総力を挙げてトランプ潰しに動いている。
これが米国政治の実態であることを私たちはしっかりと認識しておく必要があ
る。
米国は自由と民主主義を重んじる国であるとの建前は維持されている。
しかし、その「自由と民主主義」は巧妙に構築された箱庭のなかの造作物で
あって、制約のない、普遍的な「自由と民主主義」ではない。
米国の大統領は民主党、共和党の統一候補からしか選出されない。
ここに重要なトリックがある。
民主党と共和党の党内手続きを経て選出された統一候補でなければ、大統領選
の本選で勝利することができない。
そのプロセスのなかで、米国の支配者が容認する候補者がノミネートされて両
党の指名候補者となる。
この手続きが順調に実現すれば、後は「自由投票」に委ねればよい。
しかし、その党内手続きに失敗する事例が生じ得る。
それが今回の大統領選である。
そもそも、共和党の統一指名候補にトランプ氏はノミネートされていなかっ
た。
そのトランプ氏がよもやの大統領候補に指名されたのである。
正規の党内手続きを経てトランプ氏が選出された以上、これを破壊することに
は無理がある。
民主党ではバーニー・サンダース氏が巨大権力の支配下にはない候補だった。
しかし、クリントン氏は大統領候補指名権を有する特別代議員の票を早期にま
とめてしまっていたから、サンダース氏が統一候補に指名される「リスク」は
限定的であった。
クリントン氏は本選で当選を果たすには、サンダース支持票を獲得する必要が
あり、そのために、「TPP推進」の本音を覆い隠して、表面上は「TPP反
対」の旗を掲げたのである。
党の指名選挙に敗れたサンダース氏が、どのような経緯でクリントン候補を支
援するに至ったのかは明らかでないが、クリントン氏をTPP反対に留め置く
ためにサンダースがクリントン候補を支持し、大統領選後のクリントン氏の行
動を監視しようとの判断を保持した可能性が高い。
サンダース氏のこれまでの言動からは、サンダース氏がクリントン氏との「取
引」に応じたと推察することは難しいからだ。
トランプ氏とクリントン氏の主張の相違点のうち、とくに重要なのが次の2点
だ。
第一は、クリントン氏が本音ではTPP推進であるのに対してトランプ氏がT
PP拒絶であること。
第二は、クリントン氏が、世界の警察としての米国の役割を維持しようとして
いるのに対して、トランプ氏が明確に内向き指向を示していることだ。
この二点は、いずれも米国を支配する巨大資本の利害の琴線に触れる事項であ
る。
米国を支配する巨大資本が、目の前の果実として呑み込もうとしているのが
「TPPによる日本完全収奪」
である。
そして、米国を支配する巨大資本にとって、最重要の食材は年間50兆円を超
える米国の軍事支出なのである。
トランプ氏は、目の前にあるご馳走の載ったテーブルをひっくり返そうとして
いる。
その判断から、巨大資本が総力を結集してトランプ大統領誕生阻止に動いてい
ると考えられる。
巨大資本に余裕がなくなっている。
誰の目にも分かり得る「工作」が多様に展開されている。
この傾向は2001年9月11日から極めて顕著になっている。
こうした視点から米国大統領選を眺めておかないと、本質を見誤るのである。
日本にとって喫緊の最重大課題がTPPである。
日本のTPP承認は安倍政権が主導しているものではない。
米国および世界経済を支配する巨大資本が、安倍政権に「命令」して推進され
ているものである。
安倍政権の施策が第3次アーミテージ・ナイレポートに示された政策提言、あ
るいは、ヘリテージ財団のブルース・クリングナー論文に提示された政策提言
と、ほぼ同一であるのは偶然の産物ではない。
安倍政権は米国を支配する支配者の命令に沿って動いているのだ。
特定秘密保護法
原発再稼働
TPP交渉への参加
集団的自衛権行使容認
武器輸出三原則の廃棄
のすべてが米国の「命令」に基づく施策である。
安倍晋三氏の祖父である岸信介氏が米国によって「助命」されて以来、この家
系は米国の命令に絶対服従の宿命を背負わされているのだと推察される。
しかし、サンダース氏、トランプ氏の活躍により、米国においても
反TPP
の旋風が巻き起こった。
そのために、米国の先行批准というシナリオが崩れたのである。
クリントン氏でさえ、表向きは「TPP反対」の旗を掲げざるを得ないところ
に追い込まれた。
しかし、米国を支配する巨大資本は、基本方針を微動だにさせていない。
力づくでTPPを発効させ、日本を完全に収奪する予定である。
そのためには、この臨時国会で安倍政権にTPPを
「強行採決」
させる必要がある。
民進党がこれを確実に阻止するのかどうか。
民進党の「正体」に関わる問題になる。
米国でTPP早期批准の目途はまったく立っていない。
オバマ政権下での批准強行については、議会重鎮が拒絶の意思を表明してい
る。
オバマ大統領は行政府の長であって、立法府を直接支配することができない。
大統領選でいずれに候補が選出されるにせよ、直ちにTPP承認には向かわな
い。
トランプ氏のTPP拒絶は筋金入りであり、クリントン氏も表向き、TPP反
対の旗を掲げている。
仮にクリントン氏が大統領に選出されても、直ちにTPP承認には進めない。
クリントン政権が発足すれば、TPP最終合意の内容を「修正」して、その後
に承認というプロセスを踏むことになると考えられる。
したがって、現時点で日本が先行批准する大義名分がない。
TPPが日本国民に幸福をもたらすものであるという点で主権者の合意が形成
されているならいざ知らず、国内世論および国内専門家の見解は、基本的に日
本にとっては、
「百害あって一利なし」
とされている。
関税が撤廃されて、日本が輸出を増やせる可能性があるとして、その筆頭に挙
げられるのは自動車である。
しかし、日米の協議で、日本の米国に対する自動車輸出の関税率については、
乗用車:現行の2.5%の関税率が14年間据え置きされ、15年目から引き
下げが開始し、20年目で半減、25年目に撤廃
トラック:現行25%の関税率が29年間維持され、30年目に撤廃
ということに決められた。
これに対して、例えば米国産肉の輸入については、
牛肉;現行38.5%の関税率が発効と同時に27.5%に引き下げられ、1
0年目に20%、16年目には9%に引き下げられ
豚肉:現行キロ当たり482円の関税が発効と同時に125円に引き下げら
れ、10年目から50円に引き下げられる
まったく対等の交渉をしていないのだ。
米国の要求はすべて呑まされ、日本にメリットのある米国の工業製品関税率の
引下げは14年間も、あるいは29年間も一切手を付けないことで日本が合意
を結んでいるのである。
その後、「睡眠障害」なる事態で、国会審議を逃亡し続けた甘利明氏などは、
徹夜でタフな交渉をしたかのような装いを凝らしていたが、何のとりえのない
三文芝居を打っていただけであったことがよく分かる。
TPPが重大であるのは、TPPが単に関税率の変更をもたらすだけではな
く、日本の諸制度、諸規制を全面的に改変する制度全体の全面的な改変をもた
らすものであるからだ。
その影響は
日本農業
食の安全・安心
共済制度
公的医療保険制度
の全面に及び、しかも、日本の諸制度の決定権が日本から奪われる点に最大の
特徴がある。
だからこそ、2012年12月の総選挙で、安倍晋三自民党は、
「TPP断固反対!」
「TPP交渉への参加に反対!」
と大書きしたポスターを貼り巡らせて選挙を戦った。
その安倍政権が、TPP交渉への参加を決め、日本の国益を全面的に放棄し
て、米国の命令に隷従してTPPのお先棒を担ぐ振る舞いを演じている。
国会審議には黒塗りの資料しか提出せず、交渉内容は4年間も隠し通すという
代物である。
いくら国会の多数議席を占有していようが、このような状況下でTPP承認を
強行することは絶対に許すことができない。
10月5日から、毎週水曜日夕刻の議員会館および議員会館内での共同行動も
始動した。10月12日も実施される。
10月15日には東京芝公園でTPPを批准させない1万人行動も予定されて
いる。
http://nothankstpp.jimdo.com/
日本を守ることは日本の主権者の責務である。
安倍政治の暴走を阻止するために、主権者が連帯して行動しなければならな
い。
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