「植草一秀の『知られざる真実』」
2019/07/31
安倍内閣下最低賃金大幅引上げはあり得ない
第2394号
ウェブで読む:https://foomii.com/00050/2019073115474056988 ──────────────────────────────────── 反ジャーナリストの高橋清隆氏が 拙著『25%の人が政治を私物化する国 -消費税ゼロと最低賃金1500円で日本が変わる-』 (詩想社新書) https://amzn.to/2WUhbEK
の書評を掲載くださった。
https://bit.ly/2Oumyvv
記して感謝の意を表したい。
高橋氏は「オールジャパン平和と共生」運営委員を務めておられ、今回の参院 選では「れいわ新選組」の徹底取材を敢行された。
「れいわ新選組」は、「オールジャパン平和と共生」が昨年4月に公開した次 期政治決戦に向けての経済政策提言「シェアノミクス=分かち合う経済政策」 を政権公約として丸呑み採用した。
私たちは、主権者の主権者による主権者のための政権を樹立するためには、主 権者による市民政党樹立が必要不可欠であると訴えてきた。
その訴えを正面から果敢に実行してくれたのが山本太郎氏の「れいわ新選組」 である。
私たちが昨年4月に明示した、新しい経済政策の支柱は
消費税廃止へ
最低賃金全国一律1500円政府補償
奨学金徳政令
一次産業戸別所得補償
最低保障年金確立
の五つである。
「れいわ新選組」はこの公約体系を政党公約に全面的に採用した。
これらの経緯を踏まえて、「オールジャパン平和と共生」では、今回の参院選 に際して「れいわ新選組」を支援することを決定した。
その「れいわ新選組」がメディアによる妨害工作を撥ね除けて2名の当選者を 生み出すとともに、政党要件を確保した。
決戦の場になる次の衆院総選挙に向けて極めて重要な橋頭堡を確保したことに なる。
1992年に日本新党が参院選で議席を確保し、翌93年の衆院選で躍進し、 日本新党の党首である細川護熙氏を首班とする政権が樹立された。
同様の展開が2020年に向けて成立する可能性が高まっている。
重要なことは、主権者の連帯の輪を広げることである。
この点を踏まえて、オールジャパン平和と共生では、今回参院選に際して、
消費税廃止へ
最低賃金全国一律1500円政府補償
原発稼働即時ゼロ
の三つを最重要政策公約として提示した。
この公約の下にすべての政治勢力と主権者が結集することを呼びかけた。
公約を厳選し、公約を共有する連帯を構築することが重要である。
その上で、次の衆院選に向けて、すべての小選挙区にただ一人の候補者を擁立 することが重要になる。
最低賃金は企業が活動をする上での「ルール」である。
自由主義経済体制の下であっても、企業は一定のルールの下での自由な活動を 許される。
そのルールの一つが最低賃金ルールである。
これは、企業が「有害な汚染物質を河川に垂れ流ししてはいけない」という 「ルール」に縛られるのと同じだ。
その「ルール」の変更が、あまりにも唐突で、かつ、あまりにも大幅であれば 企業は対応できない。
企業倒産が多発して急激な経済崩壊が生じてしまう。
したがって、ルール変更においては、ルール変更が円滑に実施されるようにき め細かな政策対応を併用することが重要になる。
逆に言えば、この点に十分な配慮と対応を行うのであれば、「ルール変更」そ のものが全否定されるべきではない。
「オールジャパン平和と共生」が重視しているのは、上記の政策公約を実現す るに際して、現実的な財源論を併記することである。
「れいわ新選組」は新規施策実施に際して、財政赤字拡大=国債増発を容認す る姿勢を強調しているが、「オールジャパン平和と共生」は、この点について 対案を示している。
財政赤字発散によらずに上記政策公約を実現することができる。
このことを丁寧に、分かりやすく明示することが重要であると考える。
広く主権者の賛同を得る上でも、説得力のある財源論を明示することが有用で あると考える。
この点については、上記拙著『25%の人が政治を私物化する国』の232頁以 降に要約して記述しているのでご参照賜れればありがたい。(7月29日付メ ルマガ記事に「240頁以降」と記述したのは、「232頁以降」の誤りでし た。お詫びして訂正いたします。)
最低賃金の引き上げ提案に対して反論が存在する。
理由は単純明快である。
「最低賃金の大幅引き上げ」が、アベノミクスの基本方針と正面からぶつかる ものだからだ。
アベノミクスの根幹は第三の矢「成長戦略」にある。
「成長」という言葉は響きがいいが、アベノミクス「成長戦略」における「成 長」とは、「大資本利益の」成長である。
言葉の響きに騙されてはいけない。
グローバルに活動を拡大する巨大資本。
この巨大資本の利益、巨大資本の幸福を極大化するのがアベノミクスの究極の 目的なのだ。
TPPに代表されるメガFTAへの参加、
農業・漁業・林業自由化、企業による種子資源の独占私物化
医薬品、医療機器の価格自由化、
法人税減税
特区創設
などの施策は、すべてが巨大資本の利益極大化を目的とする施策である。
こうした施策の中核に位置付けられるのが、労働費用最小化のための一連の政 策対応だ。
正規から非正規へのシフト加速
定額残業させ放題プラン拡大
長時間残業合法化
解雇条件緩和
外国人労働力輸入拡大
などの施策は、すべてが軌を一にしている。
大資本が労働力を最小の費用で使い捨てにするための施策なのだ。
企業利益を拡大させる上で最重要の施策が労働コストの圧縮になる。
介護、飲食・宿泊、建設労働、農業などの分野への外国人労働力投入を推進し ているのも単純な理由による。
日本の労働者が求職するに値する正当な賃金を支払いたくないからなのだ。
したがって、安倍内閣の下では、最低賃金の大幅引き上げは絶対に実現しな い。
安倍内閣が、最低賃金が民主党政権時代よりも上がるようになったとアピール するが、これこそ「目くそ鼻くそ」の類いの主張である。
最低賃金を引き上げることは、同時に、生活保護の保障水準を引き上げること でもある。
2012年度から2018年度にかけての6年間に企業収益は倍増した。
その一方で、労働者一人当たりの実質賃金は約5%も減少した。
企業収益は史上空前の規模に拡大する一方で、労働者の実質賃金は減った。
非正規労働の比率も上昇の一途を辿っている。
賃金労働者の半分以上は年収400万円以下である。
所得税なら、夫婦子二人で片働きの場合、年収350万円までは無税であるの に、消費税の場合は、収入がゼロの人からまでも税金をむしり取る。
その消費税負担は月給1ヵ月分を大きく上回る。
すべての施策は、巨大資本と、その経営に携わる1%未満の超富裕層の利益の ためのものなのだ。
企業の内部留保は450兆円に達し、大資本の経営者は法外な報酬を獲得す る。
史上空前の利益、法外な役員報酬、450兆円の内部留保資金の積み上がりを 踏まえれば、企業が労働者に支払う賃金の最低水準を大幅に引き上げることが 適正ではないのか。
時給1000円は、フルタイム労働者の場合、年収200万円を意味する。
最低賃金を1500円に引き上げることは、フルタイム労働者の年収を300 万円に引き上げることを意味する。
フルタイムで働いて年収が300万円という姿を、「あり得ない状況」、「お とぎ話の世界」の一言で切り捨てるべきでない。
私たちが目指すべき「良い社会」とは、まじめに一生懸命に働く人々が、皆そ れなりに豊かさを感じられる社会なのではないか。
日本は曲がりなりにも世界第3位の経済大国だ。
私は、「良い社会」というのは「誰もが笑顔で生きてゆける社会」のことだと 考える。
最低賃金の大幅引き上げは、国家がすべての主権者に保障する最低水準の引き 上げをも同時に意味する。
その最低賃金という「ルール」を変える際には、そのことによって零細中小企 業が倒産してしまわぬよう、国家が万全の政策対応を取ることが必要不可欠 だ。
「政府補償」と明記しているのは、このことを意味している。
「消費税ゼロ」、「最低賃金全国一律1500円」で日本が変わる。
そのための政権樹立を次の衆院総選挙で目指すべきだ。