テレビに映る菅義偉総理の痛々しい姿。

 何を答えても、野党から思い切りダメ出しを食らい、しおらしく謝罪したりもする。時折、感情が高ぶり、むきになって反論を試みるが、それも力がなく、かえって弱々しさを際立たせる。

 安倍晋三政権の官房長官時代、常に相手を見下し、「ご指摘は当たらない」「全く問題ない」などと切って捨てる答弁を繰り返していた頃との落差はあまりに大きい。

 昨年の臨時国会でも、その答弁ぶりには与党内から、「大丈夫か」という懸念の声が聞かれたが、何より私が驚いたのは、年明けのテレビ朝日「報道ステーション」のインタビューだ。言葉につまり、自分の政策の柱さえ出てこない。富川氏が難問を連発した訳ではない。「報道ステーション」は、私が見るところ、今や政権忖度に徹する番組に成り下がった。番組スタッフさえ「忖度ステーション」と呼ぶ番組だ。現に、このインタビュー放送後には、菅氏に肩入れした富川氏の進行ぶりがネット上で大炎上した。

 しかし、私が驚いたのは全く別のことだ。それは、富川氏のよいしょ進行にもかかわらず、菅総理の受け答えがあまりにピント外れで、覇気がなく、「この人大丈夫か?」という印象が膨らむばかりだったこと。「録画」映像なのに、編集で繕うこともできなかったのか。アウェー状態の国会とは違う。完全なホームで、しかもインチキ審判の下での大惨敗。全く救いようがない。

 そして、通常国会でも、菅総理の答弁は、見る者を不快にさせ、怒りを呼び、さらには、不安を掻き立てる。

 緊急事態で最も重要な能力。それは、国民に訴えかけ、共感を得て一致協力する体制を作る能力だ。だが、この人には、それが決定的に欠けている。つまり、今日の日本に最もふさわしくない人が首相になっているのだ。

 しかし、翻って考えると、誰がこんな人を総理にしたのか。そう思って昨年9月のことを思い返す。あれよあれよという間に菅氏が自民党総裁に選ばれ、総理大臣になった。その間、マスコミが垂れ流した「令和おじさん」「パンケーキ大好き」「雪国から出た苦労人」「安倍長期政権を支えた実力派官房長官」といったイメージの大キャンペーンで、「菅総理」誕生の流れが決まった。支持率7割のニュースもあり、国民も立派な総理が誕生したと騙された。このニュースを流したのは大手メディアの政治部記者、なかんずく官邸記者クラブの無能な記者たちだ。7年8カ月の安倍政権時代、菅官房長官の意向を忖度した記事を書き続けたのも彼ら。おかげで菅氏が「すごい人」だと思った人も多いだろう。

 つい先日、自民党議員が菅総理を訪れ、SNSの使い方を指南した。どうでもいい話だが、某大手紙の官邸記者クラブはツイッターでわざわざ「速報」した。直ちに「官邸クラブってアホなの?」とネット上で大炎上していたが、これが、日本の政治を報じる官邸記者クラブの実態だ。

 日本は民主主義の国だ。そう信じたい。しかし、メディアの堕落と機能不全で正しい情報を得られない国民に正しい選択はできない。日本の民主主義を危機から救うには、少なくとも、官邸や与党の記者クラブを即刻廃止し、政治部を解体することが必須なのではないか。

※週刊朝日  2021年2月12日号