セピア色の映画手帳 改め キネマ歌日乗

映画の短い感想に歌を添えて  令和3年より

「小さいおうち」

2016-08-14 15:13:41 | 邦画
 「小さいおうち」(2013年、日本)
   監督 山田洋次
   原作 中島京子
   脚色 山田洋次  平松恵美子
   撮影 近森眞史
   美術 出川三男  須江大輔
   音楽 久石譲
   出演 松たか子
       黒木華
       片岡孝太郎
       吉岡秀隆
       倍賞千恵子  妻夫木聡
       室井滋  中嶋朋子

 昭和10年、「口減らし」の為、山形の農家から東京へ女中として働きに出
た布宮タキ。
 そのタキが亡くなり彼女の書いた自叙伝を現代っ子の代表として甥の健史
が読み進めるというスタイルで映画は進行していきます。
 彼女の落ち着いた先は玩具メーカーの重役の赤い屋根の小さな家。
 夫の平井雅樹・時子の夫婦に6才の恭一の家族に仕え、平凡ながらも穏や
かな日々を送っていた。
 しかし夫の会社に入社したデザイナー板倉が家に来た時から、穏やかだっ
た時子とタキの心に小さな波紋が広がり、やがて・・・。

 執筆中のノートをみて健史が面白そうに、
 「へぇ、これ三角関係なのかな」
 「あんた、馬鹿ね。想像力ってものがないわ」

 時子と女学校以来の友人、睦子が訪ねてきた時、彼女がタキに掛けた言葉、
 「あなた、好きになってはいけない人を好きになったのね」

 考えてみれば、この二つの台詞が重要だったんだけど、健史と同じで想像
力が貧困でした。
 監督も、どっちとも取れるように作ってるから、見事に男一人に女二人が想
いを寄せた話と単純に思ってしまいました。
 観終わって「想像力がない」の意味を知り、汗が噴き出ましたよ。(笑)
 色事に疎いのを再認識。(笑)

 健史がタキに言う台詞が、いちいち「戦前は、こうでなければならない」とい
う前提で教え込まれた紋切り型なのが可笑しい、実際に酷くなったのは昭和
19年からで、それまでは物が不自由になったり出征の別れが度々有っても、
町の様子は普段と変わらなかった(特に都市部)と故・山本夏彦氏は書いて
いて、この作品でも山本氏の言うようにタキが平井家を辞すまでは、あんな
もんだったのではないでしょうか。
 しかし見えないけれど、段々、悪い方へ下り坂を降りていってるのは皮膚感
覚で多くの人が感じていたでしょう。
 そんな中、三人の関係も戦争に飲み込まれていきます。

 僕の持つ山田洋二監督のイメージは「語り口のリズムの良さ」と思っている
のですが、本作も、その特徴を如何なく発揮、不倫モノながら停滞する事無く
語りきってくれます。
 役者はベルリンで賞を獲っただけあって黒木華が素晴らしい、戦前の地方
から上京してきた田舎娘を素朴にしっかりと演じています。
 松たか子も、昔、女学校一の美貌と聡明さでカリスマ的存在だったというの
を一目で納得させてくれる演技、でも貧乏クジな役回りでもある気が。
 実質的主役タキに上手い人が来たら必ず喰われる役、脚本読んだ段階で
解ったと思うけど、喰われっぱなしじゃないのは流石でした。
 夫役の片岡孝太郎 、てっきり大泉洋だと思ってた、顔も似てるし演技も似
てる、コピーみたい。

 原作では夫婦円満なれど夫が性的不能者という設定らしい、監督がそれを
好まなかったのか、それを描けば子供が連れ子で時子の死別、再婚まで描
かなければならず、煩雑さを避けたのか。
 殊更、問題ではないけど、それが無いと只のヨロメキになって時子の葛藤
の深刻さが出ない気がします。
 その辺りが少し気になりますが、立派な作品である事は間違いないでしょう。
 今年の「当たり」の1本でした。

※ラスト近くに出てくるバージニア・リー・バートンの絵本「ちいさいおうち」
 我が家にも有ります、読んだ時、泣いたなぁ。(笑)
※僕は長年、山田洋次監督を忌み嫌ってました。
 20代初期まで「男はつらいよ」は大好きだったし、それ以前のTVシリーズ
 「泣いてたまるか」も好きでした。
 でも「同胞」で彼の目線に気付いた時(迂闊にも感動してしまった、それを一
 瞬で醒めさせてくれたのは僕の生涯の親友だけど、思想的には正反対の人
 間)、山田洋次監督の作品全てに嫌悪感を感じるようになり、現在に至るま
 で避けていました。
 だから僕の山田洋次史は「男はつらいよ」の半分辺りで止まったまま。
 今回、黒木さんが出てるので頑張って(笑)観てみましたが、意外にも「寅次
 郎夕焼け小焼け」と並ぶ好きな作品になってしまいました。
 黒木さん、そしてしずくさんに感謝します。

 2016.8.13
 DVD

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 朝菊の 我摘むひとは 消え果てて ただ枯れる日を ひとり待ちけり
 
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2 コメント

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空襲のシーン (ケフコタカハシ)
2016-08-16 20:25:36
こんにちは。

私はこの作品、松たか子目当てで観ました。
階段を上がる後ろ姿が妙にエロチックに思えたのが印象的でした。

ところで終盤に模型のような小さいおうちの空襲のシーンがありますけど。
おもちゃのようなあの映像にあてられている音声が怖くて怖くて。
松たか子の悲鳴がまるでホラー映画のそれのように感じたんです。
さらには、空耳かもしれませんが、赤ちゃんの泣き声みたいなのも聞こえたような気がしたんですよ。
返信する
いらっしゃいませ! (鉦鼓亭)
2016-08-16 23:42:27
 ケフコタカハシさん、こんばんは
 コメントありがとうございます!

松たか子目当てで観ました
>松たか子さん、良かったですよ。
梨園育ちだから着物の馴染み具合が違う感じ。
Wヒロインの場合、「サンダカン八番娼館~」のように両方上手いと凄く印象が良くなるんじゃないでしょうか。

エロチック
>僕も感じました!
山田監督って品行方正なインテリ臭がして嫌なんだけど、ちゃんと和装のエロい所、小股の切れあがったいい女感は共有してたんだと安心しました。
いわゆる「むっつり助平」の類だったと。(笑)

赤ちゃんの泣き声みたいなのも聞こえたような気がしたんですよ
>「退避~!」の後、聞こえました、その後、最初の焼夷弾が落ちて来ました。
(DVDで確認しました)

松たか子の悲鳴>確かに初見の時も聞いてはいたのですが、
「二人は防空壕の中で抱き合って亡くなっていた」の台詞で、前の悲鳴を忘れてしまいました。(汗)
あの山の手大空襲で我が家も全焼したと母に聞いてます。
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