セピア色の映画手帳 改め キネマ歌日乗

映画の短い感想に歌を添えて  令和3年より

「この世界の片隅に」

2016-11-20 12:33:27 | 邦画
 「この世界の片隅に」(2016年、日本)
   監督 片渕須直
   脚本 片渕須直
   原作 こうの史代
   監督補・画面構成 浦谷千恵
   キャラクターデザイン・作画監督 松原秀典
   音楽 コトリンゴ
   出演(声) のん (北條すず)
          細谷佳正 (北條周作)
          尾身美詞 (黒村径子)
          稲葉葉月 (黒村晴美)
          小野大輔 (水原哲) 

 昭和8年、8歳の浦野すずは広島湾口近くの江波で尋常小学校へ通
いながら家業を手伝い平和に暮らしていた。
 激動の時代が直ぐ目の前に迫ってるのも知らず・・・。 

 この世に人間の数が指の数しか居ないのなら殴り合いで事は済むか
もしれない。
 でも一定数以上居れば戦争は人間の業じゃないかと思っています。
 それは「平和を願う心」と別次元で、人間に欲望が有る限り多分無くな
らない。金銭、土地への執着ばかりが戦争の原因ではない、力による支
配、経済の支配からの自由だって戦争の主因になるし正義として立派な
旗になる。
 この世から戦争を失くしたいのなら、人間から欲望を取り除くロボトミー
手術でもして「猿の惑星」状態にでもしないかぎり無理でしょう、小競り合
いは有っても国同士を滅ぼし合う愚は無くなります。
 普通の人間なら誰だって利害関係や何やらで大嫌いな奴というのは居
る、その人間の集合体である国家が人間に似るのは当たり前で、何十万、
何百万、何千万に火が付けば誰にも止められない。
 前の大戦だって軍部、政府、財閥がそそのかしたとか言ってるけど、正
確な情報を知らない国民が煽ったから始まったんですよ、軍だけがやりた
くても兵になる国民が疑問に思って白けてたら結果は目に見えてますか
ら始めませんよ。
 日清・日露戦争で何十万の国民の戦死、戦傷と引き換えに得た領土、そ
れだけの戦死、戦傷者が出れば町でも村でも誰かが死んだり怪我をしてる、
そうやって得た領土を対価なく手放せと言われたらムラ社会である日本人
が戦没者の家族の手前、反対するのが自然だし、個人の感情だって単純
に反対に傾く、そして2.26の遠因でもある昭和大飢饉が重なり、国民を賄
う米が不足して大陸への移住者が激増、尚更に大陸の領土が必要不可欠
になってしまう。
 そんな国民の欲望と軍、財閥の権益が重なって、あの戦争は起きたと僕
は思っています、決して軍だけが勝手に暴走して始まった訳じゃない、ごく
普通の国民の多くが「そう思って」後押ししたから暴走したんです。

 では反戦は綺麗事の無意味かと聞かれれば、僕はそう思わない。(降伏
主義は他国に資産を持っていかれ、その国の最前線要員になるだけだか
ら、僕は反対だし対話が全てを解決するなんて能天気でもない)
 戦争は無くならないだろうけど、少なくする事だけは出来ると希望は持っ
ています。
 でも反戦を訴えるのは難しい、世に出回る反戦映画の多くは最重要事だ
からと大きな声、ヒステリックに叫ぶか泣き落し、そうすると人間てやつは「そ
んな事、解ってるよ!」と却って聞き流してしまうんですよ、殊勝な顔して。
 大事な事は静かに平凡に語る、その方が僕は人の耳にも心にも自然に入
っていくと感じています。
 戦争中にも日々の暮らしをしていく日常は有ります、そして、その日常が徐
々にどう変わっていくのか、そんな中で、自分ばかりでなく身近な人達が居な
くなるというのがどういう感覚で、どういう事なのか。
 弾が飛んで来たり、爆弾が落ちて爆発するより、より身近な日常を語ったほ
うが自然に沁み込んでいくのでは、と僕は思っています。
 それは反戦映画の傑作と僕が思ってる作品「誓いの休暇」、「二十四の瞳」
が何れも過酷な戦場でなく、銃後を静かに描いてる作品だから。
 そして、この「この世界の片隅に」も似た作品で、昭和8年12月から21年1
月までの時間を主人公すずの目を通して静かに語っていきます、それが一種
の叙事詩的雰囲気をもって人の心に静かに訴えてくる。
 素晴しい作品でした、今の所、今年の邦画最高作になるような気がしていま
す。

※終盤、すずが橋の上で周作に、この映画のタイトルを台詞にして言うので
 すが、タイトルで表明してる訳だから言わなくてもよかった気が・・・。
 タイトルは、人は何が有ろうと何処かで、しぶとく、逞しく、命を継承していくも
 のだと賛歌する意味で、作者の一番言いたい事なのは解るけれど、映画的
 にはその後の台詞「私を見つけてくれて、ありがとう」だけで充分なんじゃな
 いかなァ。(「シムソンズ」にも有ったと余計な事、思い出してしまった(笑))

 2016.11.19
 池袋HUMAXシネマズ

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 「マダム・イン・ニューヨー... | トップ | 映画日記 3 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

邦画」カテゴリの最新記事