セピア色の映画手帳 改め キネマ歌日乗

映画の短い感想に歌を添えて  令和3年より

「オーケストラ!」

2016-05-08 00:27:44 | 外国映画
 「オーケストラ!」(「Le concert」、2009年、仏)
   監督 ラデュ・ミヘイレアニュ
   脚本 ラデュ・ミヘイレアニュ  アラン=ミシェル・ブラン  
       マシュー・ロビンス
   原案 ヘクトール・カベッロ・レイエス   ティエリー・デ・グランディ
   撮影 ローラン・ダイアン
   美術 クリスティ・ニクレスク
   音楽 アルマンド・アマール
   編集 ルドヴィック・トロフ
   出演 アレクセイ・グシコフ
       メラニー・ロラン
       ドミトリー・ナザロフ
       ヴァレリー・バリノフ
       ミュウ=ミュウ  

 「砂の器」のように音楽による終章で全てを引っくり返すズルイ作品。(笑)
 この作品「オーケストラ!」ではなく、コンチェルトとの二重の意味を持つ
原題「コンサート」でしょう。
 ロシア人、ユダヤ人、ロマ人、フランス人が音楽の下で一つになるコンチェ
ルトであり、親と子のコンチェルトなのだから。

 この作品で見せたいのは、バラバラだったメンバーが目の前に居るソリス
トを誰であるかに気付き覚醒、そして、30年前中断させられた至高のハー
モニーを皆で作り上げていく、その中でソリストもまた自分が誰であるかに
気付く、その12分なのは誰が見ても明白でしょう、事実、それが素晴らしい
から僕を含め多くの人の支持を受けてる。
 その為にリハーサルが出来ないんですよね、リハやったらバレるというジ
レンマ。(笑)
 「1日、練習を休めば元に戻るのに3日かかる」とよく聞きますが、本当の
プロなら作中でも言ってるように「自転車と同じで直ぐ戻せる」し、それがプ
ロ、という人も僅かですが居るようです。
 でも、まァ、苦しい言い訳で、一応、中断させられたチャイコフスキーも一
発勝負だったなんて言い訳にもならない事も言ってますね。(笑)
 (レベルが日本海溝の底とエベレストの山頂くらい有りますが、ウチの娘
でも散々弾き込んだ曲なら4,5年やらなくても1時間くらいで大体復活しま
す、バッハの初級曲だけど(笑))
 そもそも、この作品、コメディにかなり寄ってますから「お話」として受け入
れられる範囲だと僕は思ってます。

 この作品は「アーティスト」、「タイピスト!」のスタッフが作ってるとか。
 「タイピスト!」はフランス人の自虐ネタかと思ったけど、この作品はフラン
ス中華思想丸出し(ギャグとして?)の印象。
 ロシア人のルーズさ横柄さ(ラテン系のフランスだって日本から見れば50
歩100歩!)、ユダヤ人の守銭奴ぶり、そのトバッチリで日本人まで、よくも
まァ、コケにしてくれる事。
 そう言えば、ガチガチの共産党員イヴァンを神に祈らせるという如何にもフ
ランスらしいシニカルな場面もありましたね、結局、神の存在を知って資本主
義に転向したようで。(笑)
 その辺を笑えるかどうかも、好悪の分れ目になるかもしれません。
 「タイピスト!」って、これの反動だったのかな。(笑)

 役者陣はサーシャを演じたドミトリー・ナザロフ、アンドレイのアレクセイ・グ
シュコブ、妻イリーナのアンナ・カメンコヴァ、ギレーヌのミュウ=ミュウ、みん
な良いけど・・・。
 でも、やっぱり、1にヒロインのメラニー・ロラン、2にメラニー・ロラン、3、4
が無くて5にメラニー・ロランでしょう、特に男子は!
 後半、映画のテンションが落ちそうになると必ずM・ロランが出て来て持ち
直させる、製作陣は実に男心を的確に掴んでます。(爆)

 「もう彼は音楽の中でしか父親と会えないのだ」という丹波哲郎の台詞が
甦ってくるラスト12分、その魔法とメラニー・ロランの気品ある美しさ、それ
に酔ってしまえば全て許せる作品でした。

※OPが大好きなモーツァルトのピアノ・コンチェルト第21番第2楽章、途中、
 マーラーの「巨人」、〆がチャイコン、好きな曲ばかり。(笑)
 演奏曲リスト見るとバッハの「2つのヴァイオリンのための協奏曲ニ長調」
 も入ってるけど、何処!(笑)
 もしかしてギレーヌが仏大使館へ入る所の音楽?あの曲、何時も第1楽章
 しか聞いてないから第2楽章の変奏なのかな。
 エンドロールは、有名な第1楽章をレアとアンヌ=マリーの共演で観たかった、
 弦楽器の曲だけどサーシャもコンマスも入れるし。
 https://www.youtube.com/watch?v=leTVfMb2uME
※偽ボリショイというのは実際に15年前、香港で有ったようで。
※他の方の記事読むとオケの連中は遊びに夢中でと言ってる人が多いけど、
 あれはオリンピックで脱走、行方不明になる選手達と一緒、ロシアへ帰る積
 りの人間が何人居たか。(笑)
※このスタッフ(プロデューサー?)、ヒロイン見つけるのが上手い!(笑)

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 この作品、重要な点で解らない所が有るんです。(汗)
 それはアンヌ=マリーの父親は誰なのか、僕の中で解決が付いてない。
・サーシャもギレーヌも「演奏の終わりに両親が解るかもしれない」と言ってま
 す。
 確かに母親は理解出来るのですが(彼女はレアが手を入れた楽譜を見てる
 し)、「両親」と二人とも言ってる、イツハクが父親なら、あれで何故解るのだ
 ろう」
・イツハクとレアが両親なら、ソ連が崩壊した現在、サーシャもギレーヌも必死
 に「喋るな」と口止めする意味が余りピンと来ない。
 彼女は両親の事を知りたがってるし、例え自分がユダヤ人だったと知っても
 昔のような危険が有る訳ではないしユダヤ教を強制される訳でもない(偏見
 が有ったとしても芸能、芸術の世界にユダヤ人は一杯居る)。
 収容所送りの末、亡くなった事はショックだろうけど、何も知らず何時までも
 モヤモヤしてるより、ずっといいと思う。
 とすれば、二人が口止めする他の訳があるのではないか。
・レアとイツハクの収容所生活に被さるモノローグが「レアが君の母親だ」で終
 わってるのは何故。
 その後に「そして、レアを最後まで見守り後を追うように死んでいったイツハ
 クが君の父親なのだ」と続くのが普通なのに。
・アンドレイが当時を振り返って言う台詞「あの頃、私は狂気に取り憑かれて
 いた」の意味が、レアを巻き込み、ユダヤ人排斥の動きに構わず究極のハ
 ーモニーを求めてコンサートを強行し、レアとイツハクを死に追いやり赤ん
 坊を一人国外の荒波に放り出した事だけを指してるのか。
 これは最後の台詞「アンヌ=マリー、許してくれ」に重なるのですが、「狂気」
 も「贖罪」も、その意味だけなのだろうか。
 (当時、KGBの監視下に置かれただろうアンドレイが曰く付きのユダヤ人
 の赤ん坊を養子申請しても、当局が受け入れる筈もないし経済的余裕もな
 い、収容所送りの両親の赤ん坊(母親がユダヤ人なら自動的に赤ん坊もユ
 ダヤ人)が生きていく道は当時のソ連には殆ど無かったのだから、国外へ出
 られるならベスト)

 下衆な考え方ですが、どうも僕にはイツハクが真の父親とは思えない。
 当時のイリーナの行動、結婚前なら、どうにか説明がつく気もするけど、何
 にせよイリーナが出来た奥さんなのは間違いないです。
 アンドレイは「イリーナは知らない」と言ってるけど、明らかに知ってる様子だ
 し。
 誰か、僕の思い違いを訂正してくれませんか。(汗)

 2016.5.5
 DVD
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4 コメント

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ストーリーは忘れかけているけど (宵乃)
2016-05-08 12:02:30
ラスト12分は本当に素晴らしいですよね。これなら毎日見てもいい!
クラシックに興味がない人間でも、音楽の素晴らしさを感じられる映画って大好きです。

メラニー・ロランも美しかったです。ギリシャ彫刻のように彫が深く、繊細な顔立ちでした。
私も彼らのドタバタ劇には少し苛立つこともあったんですが、鉦鼓亭さんのおっしゃるように彼女が登場すると許せてしまう(笑)
こう思ったのは男性だけじゃないと思いますよ。

残念ながら彼女の親にまつわる描写はほとんど覚えてないです。もし再見することがあったら、よく見てみますね~。
いらっしゃいませ! (鉦鼓亭)
2016-05-08 13:19:03
 宵乃さん、こんにちは
 コメントありがとうございます!

記事をUPしたら伺おうと思ってたのですが、文章直してるうちに1時になってしまい、そのままベットへ・・・。
遅くなてしまいスイマセン。(汗)

これなら毎日見てもいい!
>5日に観たのですが、その部分なら、もう10回は観ました。(笑)
今月は予定外の出費が既に2回有りピーピーに近づいてるのですが無理してDVD購入します。(爆)

(M・ロラン)繊細な顔立ちでした>僕の女優遍歴(笑)の主流派タイプ(J・フォンダ、L・ワグナー)でした。
「グランド・イリュージョン」で1度観てるのですが、その時は単に綺麗なヒトぐらいでしたが、今回は輝いていました。
顔立ちもそうですが、舞台での立ち姿が美しかったです。

私も彼らのドタバタ劇には少し苛立つこともあったんですが
>20歳前後に見てたら、僕も腹立ててたかもしれません。
今は他民族をコケにして嗤ってるなら、こっちも(製作側を)嗤えば、それでアイコという感じで、余り、気にしません。(限度は有りますが、これくらいなら何でもない)
半分は一緒になって笑ってますし。(汗)
Unknown (take51)
2016-05-14 10:37:01
こんにちは!
僕もこの映画が大好きでBDが
欲しいのですが・・、高いんです(笑)

久しぶりにamazonで確認をすると、
今田に3000円オーバー。僕の小遣いでは・・(^▽^;)

この映画のメラニー・ロランは完璧ですよね(笑)
ラストの演奏をするシーンが頭から離れません!!
内容はかなり曖昧ですけど・・(^▽^;)

あの指揮者の方がお父さんだったかな?
という記憶しかありません・・

再見する時は注意しときます!!(^^♪
Unknown (鉦鼓亭)
2016-05-14 15:52:48
 take51さん、こんにちは
 コメントありがとうございます!

DVD買っちゃいました!と思ったらメインの再生機が壊れた・・・。(涙)
今月、まだ半月残ってるのに財布の中身は「どうすんべ」。(再生機は、お金貯まるまでポータブルでやり過ごす)
あと一週間で頭下げて女房に前借り確定です。
(勿論、来月、返しますよ。その辺は(女房)当然シビアですから)

メラニー・ロランは完璧ですよね(笑)
>美しさは、もう完璧!完璧!!
久々に目の保養となりました。
演奏シーンの立ち姿がドレスを含め、ひたすら美しい。
で、目に涙まで溜めちゃって・・・。(悶絶)
只、立ち姿が美しいのはいいけど、ヴァイオリン・ソリストって、けっこう上体をクネクネさせるものじゃないかと。(笑)
貼ったyoutubeと比較しても、何だか肩から上だけで弾いてる気がしないでもない。
でも、いいんです!美しければ、それが正義!!
(娘に聞いたら、昔(多分、そうとう昔)は余りクネクネしなかったと言ってましたが)

自律神経失調症>持病のせいでコレなのか、コレのせいで持病を発症したのか解りませんが、僕もそうですよ。
人の倍、汗かくし、そのクセ、急に寒くなって真夏に冬布団掛けたり、まァ、大変です(慣れたけど)。

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